第二話:天啓
~クロス・ウォール連合王国、某所~
デネレイトと王都クロッサスを繋ぐ街道、ここを複数の護送車両が進む。その中の一台は特に頑強な造りとなっており、窓には鉄格子が掛けられている特別製である。その内部には今回国内に人知れず混乱を招く事となった「三人の捕虜」が乗せられていた。
三人が護送車両に乗せられた理由は一つ、第一王女ヴィオラからの召喚命令を受けたからである。
「しかし驚きました…本当に関心さんの予見した通りになりましたね…」
「驚いたのは寧ろこっちだって、まさか二人が関係者だったとは」
「それでも結局、身元が判明しない僕って一体何なんだろう…」
それほど時間は経っていないが、三人はそれなりに打ち解けていた。それもこれも、先の監獄内でのやり取りがあってのことである。
~時は遡る~
この国の将軍からの呼び出しを受けた後、三人は揃って同じ監獄内に放り投げられた。デネレイトに存在する収容所の最奥、最も厳重な壁と扉で閉ざされた「対特級囚人用」の監獄である。
本来であれば死刑囚相当の重犯罪者を収容する事を目的とした監獄なのだが、三人は殺害も尋問も出来なかった事から例外的に連れて来られる事となったのだ。
それは王国側が三人を脅威と見なしている事の裏返しでもある。しかし、その中の一人…子供は納得の表情でうんうんと頷いている。その様子は全く以て意に介していないと言わんがばかりで、状況を鑑みるに不自然と言わざるを得なかった。
「あの凄そうな魔術師を昏睡させたことも幸いしたかな?」
「あれ、態とだったの⁉」
青年の問いかけに、またもやうんうんと頷く子供。青年と修道女の二人は呆れる他なかった。
そんな二人を意に介すでもなく、子供は無邪気に事を進めようとする。
「でもここは、秘密の話し合いをするには打って付けだよな」
そう言って子供は何かしらの働きかけをしようとしたが…失敗した。
全てが子供の認識範囲内で完結してしまい、周囲に余波や兆候の一切が漏れ出さなかった為、他二人は何が起こったのか理解出来ていないようだ。子供は只一人、不自然極まりないタイミングで苦笑いを浮かべるのであった。
「(この世界のルールって、もしや…)」
何かを悟った子供は、何処からか手甲のようなものを取り出し装着する。それを操作すると瞬く間に部屋全体を包む障壁が展開されたのである。
この障壁には遮音の効果が含まれており、耐久性はあまり無いが、この部屋の内部の音を外に漏らさないようになっている。これの意図する意味とは…
「何をしたのさ?」
「音漏れ防止のおまじない。さてと…」
「え?私ですか?」
そう言って子供は懐に片手を懐に納め、立ち上がるとそのまま修道女の方を見やる。修道女は一瞬身構えるが、それは刹那の内に行われた。その瞬間、一瞬だけ子供の目の奥に微かな光が灯る。
直後「パァン!」と言う大きな破裂音が響き渡り、直後には目を瞑った修道女と青年、そして修道女に煙が立ち上る銃口を向ける子供の姿が映し出される。しかし修道女には傷一つ存在しない、唯一の変化は赤かった瞳の色が青に変わっただけである。
これを見た子供は非常に満足そうな表情を見せ、青年は何が何だか判らず困惑しているようだ。その時、修道女は何処からか響き渡る男性?の絶叫音だけをその耳に捉え、ただただ呆然と座り込んでいたのであった。
「な…何を撃ったんですか?」
「銃弾だよ、名前は「今後の布石」。全く、不埒な輩が居たもんだ」
これを聞いた修道女は、何か心当たりがあるようで、大きく目を見開きつつも眉をしかめている。そして全てを諦めたかのように穏やかな表情に戻るのであった。
「さて、これで込み入った話が出来る。多分だけど、二人も『天啓』を受けたんじゃない?」
「それってここで話しても…ああ、そういう事だったんですね。やはり、貴方も…」
「『天啓』…ああ、もしかしてあれの事?」
子供の想像通り、青年と修道女は『天啓』について何かを知っているような反応を見せた。それを見た子供は満足そうに頷く。
「おっと、その前に自己紹介をしておこう。俺の名前は…今は訳あって無いんだけど、一応偽名と言うか通り名があるからそれを。俺の事は『関心』と呼んでくれ」
「やっぱあれ、名前だったんですね…」
修道女はぼそりと呟く。
修道女と青年の二人には、その名前に聞き覚え…では無く見覚えがあったのだ。
「渾名のようなものだけどな。間違えても「カン=シン」とか「せき=こころ」とか呼ばないでくれよ。単語の方の『かんしん』だからな?」
割とどうでも良さそうなことを強調する関心、それに青年と修道女は反応出来ないでいた。
しかし直ぐに再起動を果たし、修道女が口を開く。
「私の方も…私は『イヴ=テトラ』。七聖教「正義派」所属の巫女です…」
「確か「第参神祖の巫女」とか言ったっけ?」
「はい…あまり人前で吹聴して欲しくはないですが」
「おっと、悪い」
関心の不用意な捕捉に不満げな顔を見せるイヴ。しかしそれも仕方のない事であろう、今の彼女の現状を鑑みるならば。
そんな修道女に続くように、青年も自己紹介を行おうとするのだが…
「最後は僕か…申し訳ないんだけど、僕は本当に自分の名前が分からないんだ。でも二人の名前は『名簿』で見た覚えがある」
「記憶喪失…なんですか?」
「多分…ね」
イヴの問いかけに、恐る恐る答える青年。しかしここでも関心は冷静で、意に介す様子を見せない。
「ふむふむ。でも『名簿』で俺達の名前を目撃したのなら、恐らくあの名簿の中に名前があるんだろうな。数が多すぎて、到底絞り込めないけど」
今回、第弐拾参神祖「新星」より下された『天啓』であるが、これに付随して幾つかの機密情報も各人に伝えられている。これらは関係者以外には話せないが、奇しくもこの場に居る三人は全員が関係者であった。しかもお互いの名前を『名簿』で確認できる間柄ならば、話しても何の問題もない。
この『名簿』も機密情報の一つだったのだが、そこに記載されている名前は千にぎりぎり達しない数が載せられており、この中から名前を特定するのは現状困難であった。
これを受けて、関心は青年に対し言葉を続ける。
「だとして、何も呼び名が無いのは不便…仮名を名乗ったら?」
「そうだね、何にしようか」
一度三人で考えてみたが、しっくりくるアイデアは思い浮かばなかった。
「まぁそれはおいおいでいいや、それよりも現状の確認をしないか?」
関心の提案に二人は同意する。なんせ今回の『天啓』について、判らない点が多すぎるからだ。
何はともあれ、関心は話を続ける。
「まず大前提として、今回『天啓』を下したのは第弐拾参神祖「新星」で間違いないだろう」
「確か「天上神祖」なんて呼ばれているんだっけ?でも僕らからしたら、その「天上神祖」が何なのか、さっぱりだよね」
「私は…七聖教の巫女になってから大まかな事を教わりました。しかし詳しい事までは…」
「俺も全部を知ってる訳じゃないけどな」
生憎と、青年とイヴの二人には十分な情報が行き渡っていないようである。しかし関心は幾つかの情報を持っているようであった。
まず、神祖とはその名の通り「神の祖」或いは「神々を生み出す者」と言う意味を持つ。「神種」と呼ばれる種族を生み出す事の出来る存在で、「超醒」と呼ばれるシステムにおける種族階級は「天種」に該当し、その天種における最上位種とやらであるらしい。
そして、複数存在する神祖らの中から『神話』と呼ばれるシステムを用いて『天上神祖』が選定される。『天上神祖』は全存在の頂点に君臨する全知全能の絶対君主だそうで、世界全体に対し最高位の権能を行使出来る正しくチートの権化なのだそう。
しかしここまで聞いても、青年とイヴの二人にはちんぷんかんぷんと言った所。
しかしイヴだけは何とか言葉を紡ぎだす。現状はなるだけ多くの情報を獲得しておく事こそが、今度の身の振り方を考える上で重要なファクターとなるからである。
果たして、それを知る事で自分の身に何が起こるのか…未知数故に恐怖が拭えないでいたのだが。
「天種、ですか?」
「二人は『超醒』と言うシステムを知っているか?」
「ちょう、せい?」
「そこからだな」
二人の疑問を受けて、関心は説明を始めた。
この世界に存在する全ての意志ある存在は、己の「格」を上げる事で自身の種族を改変し、上位種へと至る事が出来る。これら一連のシステムが『超醒』である、と関心は語る。
簡単に言うが、勿論「格」を上げるのは只ならぬ努力と条件整理が必要であり、おいそれと成し遂げられる事ではない。しかしそれは全ての存在に等しく与えられた可能性であり、全ての存在が一連の流れに則り己が格を上げる事を許されている。そんなこんなで各々は特定の格を上げる行いをする事により、『種族階級』と呼ばれるものを上げていく事が出来るのだが、その中でも頂点に位置する階級が『天種』となるのだそう。
「ここでは難しい説明は省くが、要するに神祖ってのは全ての生物の中で一番上の階級である「天種」…この「天種」の中にも細かな差異があるんだが、その中でも最上位の種族。要するに階級だけ見れば全世界を見ても最上位に位置する種族って訳だ」
「ふーん、想像出来るような出来ないような」
「気持ちは分かる。そして神祖は直属の眷属として、「神種」と呼ばれる特別な種族を生み出す事が出来る。これが人々が崇め奉る「神様」に該当する。階級で言えば天種の一つ下、「星種」の最上位種に該当するな」
「ちょっと待って…どういう事でしょう?七聖教では、「神様」が至高の存在だって教わりましたけど?」
関心曰く、それは七聖教が「宗教」であるからに他ならないと言う。何も知らない人々が「天種」なんて言われても、それは容易に想像可能な代物ではないようだ。簡潔に言えば、「天種」とは即ち「特定の意思を有した世界」と同義である。今三人が住まう世界から独立した存在として、独自の「世界」を展開する事が可能なのだそう。
そして大半の天種は、「天使」と呼ばれる直属の眷属を通じて世界全体の管理統制を行っているようだ。これが神祖だと、「神種」と呼ばれる固有の種族になるようである。この眷属もまた想像を絶する力を有し、何と自分達の主である天種(神祖)の力の一端を流用する事が出来るそうだ。
そんなもの、下々の有象無象が正確に姿形を思い浮かべられる訳も無かった。寧ろ、知る事で後悔する可能性さえ浮上する。それ程までに途方も無い話なのである、それを軽々しく口にする関心を青年とイヴは恐ろしく感じていたのであった。
そんな二人を他所目に、関心の話は続く。これを受けて、人々から見て上位存在であり、且つ天種と比べ比較的身近な存在である「神様」を崇拝対象に設定する事で対処しているのだそう。
そもそも「神様」とは「天種(神祖)直属の眷属」である「星種(神種)」を指し、天種と下民を繋ぐ中間管理職のような役割を与えられた存在である。下々から見れば全知全能に見える「神種」だが、その実態は大いに異なる。先にも軽く話に出たが、世界こと天種が有する力の一端を間借りしているだけのようだ。
これを聞いて、特にイヴが大きな動揺を見せていた。
実は知らないだけで、神だと思って崇拝している対象が必ずしも「神様」とも限らないようである。
「ぶっちゃけここはどうでもいいんだわ。大事なのは『天啓』の発信主が「神様にとっての一番の親玉」って事だ。しかも「天上神祖」ってのは、複数存在する神祖の中で一番の権力者でもある。つまり俺ら如きじゃ抗う事さえままならない、大人しく従うしかないって事だな」
「それはつまり…あの『天啓』で指示された「命令」からは逃げられないって事、でしょうか?」
「そゆこと。もう妥協するしかないな」
三人は揃って項垂れる羽目となった。実は今回、『天啓』を受けた者は総じて何かしらの「職務」もとい「命令」を受けていたのである。各自の意思を確認するでもなく、強引にそこに至る経緯の説明と、付随する役割が各々に与えられる事となったのである。
ハッキリ言って、迷惑千万…どころか、そこに至るまで頭が回らないのが当事者たちの本音であった。まず自分達が何をどうするべきなのか、指示を受けているとは言え纏める事すら出来ないでいるのである。
勿論、青年とイヴの二人も例外では無く、混乱する脳を頑張って回転させながら記憶を辿っていた。
「確か今回、『神話』が語られるとかどうとか?」
「ええ…『神話』を語るにあたって、舞台となる各方面での下準備をするよう指示されたんですよね…」
ここで一度、先日降されたばかりの内容を再度確認する三人。
それらはかなり情報量が多かったのだが、『天啓』の内容を要約するとこうなる。
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・五年後の一月一日、『神話』が語られる。(『神話』が語られると言う事は、簡潔に言えば「天上神祖の代替わり」に該当する。)
・この度の『神話』において、第弐拾参神祖の生まれ故郷の神話や伝承、童話等を再現する。また第弐拾参神祖の生まれ故郷に対し、世界全体をRPGの舞台として開放し、これに応じて世界各所は整備される。
・今『天啓』が届けられている各個を、天上神祖の権限において『星職者』として認知する。そして「星職者」らは星職者に纏わる各種権限を行使する権利を獲得し、各神話や伝承、童話の再現における舞台準備、前準備を行う義務を強制される。
・星職者らには各個に合わせた『職務一覧』、『百科事典』、『関係者名簿』の使用権限を開放する。「職務一覧」は自身に与えられた各職務の進捗状況を確認するためのツールである。「百科事典」は星職者専用のQ&Aに該当するツールである。「関係者名簿」は同一勢力内に限り、所属する星職者の各種パーソナルデータを閲覧、検索できるツールである。各ツールは星職者の裁量によって限度を超えない範囲内でのカスタマイズが可能である。
・全星職者を、天上神祖の権限において「文明サイド」と「自然サイド」に振り分ける。そして「文明サイド」には『文明勢力』、「自然サイド」には『自然勢力』の枠組みを設立し、星職者は必然的に何れかに所属する事となる。また星職者の任意で「第三勢力」に該当する『独立勢力』を設立しても良い。(格勢力の所属及び移籍については、各星職者の自由意思によって定められる。尚全勢力からの脱退は実現しない。)
・また星職者の任意で、同一勢力内に限り『派閥』を結成したり、複数の派閥によって合同で『連合』を結成しても良い。こちらも同様、所属及び移籍、或いは脱退においていも各星職者の自由意思によって定められる。
・格集団の単位に応じて、各集団内に必ず最低一人は『星職統括者』を天上神祖の権限によって設定、配置する。「星職統括者」は「星職者」と並行して適用され、所属する集団内における監視任務、職務の進捗状況の把握を任務とする。職務怠慢や職務放棄に際しても対応し、「星職統括者」にはこれに制裁を加える権限を与える。尚、詳細な内容については「星職統括者」にのみ通知され、各種使用権限を解放される『任務一覧』にて確認する事が出来る。
・星職者には、職務の進捗状況に応じて適宜『天啓』を下す。
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改めてみても、途方も無い内容の数々であった。しかし何もせずにいられないのも事実、これを踏まえて関心は正直な想いを吐き出した。
「色々書かれているが、結論逃げる術は無いって事だ。逃げ道を完全に潰してやがる、ふざけやがって」
「言い方は悪いけど、その「天上神祖」を殺しでもしない限り、逃げ道は無いんだね…」
「でも、枠組みの中で出来る事は多い気がします…逃げ道こそ潰されていますが、ルールの穴自体は少なくないのではないでしょうか」
「確かに、出来る事自体は多そうだ…意外と「逃避」以外の面では制限が緩い印象を受けるよ」
イヴと青年の意見を受けて、関心は思案に耽る。
要綱全体を見た所、「何してもいいけど、最低限お仕事だけはやってもらうよ」と言った所か。逃がしこそしないものの、下々のアドリブや工夫自体には直接手を下すつもりはない、と言う意思が垣間見えるように思える。
しかし同時に不可解な点も多く存在する。そもそもRPGとやらが何なのか解らないし、再現される神話、伝承、童話についてもその全容が見えない。現天上神祖のルーツに関係があるものらしいが、二人には馴染みのない物で想像が追い付かない。
勿論三人は各々で百科事典を閲覧したのだが、これらについては記述が一切存在しなかった。
どうやら現状RPGについては星職者らに一切の説明をするつもりが無いらしく、神話、伝承、童話に関しては各星職者らの職務一覧を一人一人各個確認する他無いようだ。不親切な仕様である。
イヴと青年の二人も同じような事を感じたらしい。
「お仕事を強制しておいて、不親切ですよね…」
「あまり大声で言わない方が…聞かれてるかもしれないし」
「結局、僕たちに出来る事は続報を待つことくらい、だろうね」
青年の呟きに、イヴと関心の二人も渋々頷く。
そして続報が聞きたければ仕事しろ、と言う事である。三人に留まらず、この内容に不満や憤りを抱いている者も少なくない筈だ。しかしそれも、不満を口に出すだけなら兎も角、ストライキを起こす事は叶わないと言う、どうしようもない理不尽がそこにある。
下手すると、これらが同じく巻き込まれたはずの「星職統括者」に飛び火するかもしれない。彼らに罪は無いのだが、ここで口にしても焼け石に水としか形容出来ないだろう。
ここで何かを思い当たった関心が、唐突に宣言する。
「悪いけど、俺は星職統括者じゃないからな、残念ながら」
「私もです…残念ながら」
「僕も…かな?うん、任務一覧なんてどこにも無いね」
関心に続いて二人も同様の内容を告げるが、確証を得る事は出来ない。
勿論嘘をついている可能性もあるが、それも含めて三人は互いに牽制を強いられるだけであった。一応、三人全員を見るに不審な反応は見られないので、ここに星職統括者が居ない可能性は高い、と関心は仮定する。
そして関心がこの話題を出したことで、三人全員が確実に星職統括者の危険な立場を理解したようである。それ以降、暗黙の了解とでも言わんがばかりに、この事を滅多に話題に出さなくなるのはここだけの話。
「本当、この職務をこなす為だけに故郷を離れた人だって少なくないのに…」
「その言い方、イヴも『天啓』に呼応して飛び出して来た口か」
「その言い方だと、関心さんもですか…」
「僕なんて『天啓』に関する事以外の記憶が無いんだけど…酷くない?」
それはそうと、三人は互いの職務について気になり始めていた。
正直職務については無理に秘匿する必要が無く、何なら情報が少ない今、貴重な手掛かりを得られる唯一の手段である可能性が高かった。
関心は思う、ここは情報共有の為に開示するべきであろう。
「確かに、職務については共有した方がいいかもね」
青年も関心と同じ意見のようだ。
「でもこれも含めて、天上神祖の思惑通り…なんて事は?」
「どっちみち、今の俺達には何も出来ないさ…てかイヴさん、鋭い視点持ってるな」
「そ、そうですか?」
イヴは拍子抜けと言った様子だが、関心には何か思い当たる節がある様子。
そもそも『天啓』において、職務の遂行は必ず単独で行わなければならないという記述は無かった。必ずしも、与えられた職務は星職者が単独でこなせる職務であるとも限らない。場合によっては、他者からの協力を得られる事もあるだろう。
そして現状、職務を同業者に話して、目に見えるリスクが少ないのもこれを後押しした。
「あと勢力も多分同じだよね?僕達、互いの名前を名簿で確認出来たから」
「現状は、味方と思って良いんでしょうか?」
二人の発言に、関心も静かに頷いた。
確認してみた感じ、三人全員が同一の勢力に所属しているらしい事も確認している。所属する勢力は三人とも「自然勢力」、これの意味する所は未だ不明である。
「イヴって自然勢力なんだね…」
「何か問題でも?」
「いやいや、七聖教の巫女なら文明サイドの方が似合ってる気が…イタイイタイ!」
イヴが口災った青年のわき腹を抓っている。関心は「二人共思ったより呑気…いや、大物なのか?」と空気を読まない事を内心考えるに至っていた。
こんな感じで話は時折脱線するも、本筋からは大幅に逸れる事なく進んでいく。
「まずは僕から行こうか」
そう言って、名も判らない青年は自分の機密情報を開示する。因みに与えられた職務は以下の通り。
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〇「〇〇〇〇」⇒未
基本路線:詳細不明。記憶を取り戻す事で開放される。
概要:詳細不明。記憶を取り戻す事で開放される。
職務①失われた記憶を取り戻す。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
…
「本当、役に立たないな」
「全くだよ、本当」
「手抜きにも程がありますね…」
三人の意見は一致した。
結局、青年の職務からは一切の手掛かりが掴めなかった。まさかまさかの事態、青年の職務はその内容の全てが詳細不明なままだったのである。
その代わりとしてか、現在は最低限の条件を満たす事がそのまま職務として設定されているらしい。何の慰めにもならなかった。
「あ、ただ一つだけ解った。ズバリ「君が記憶喪失である」と言う事が!」
「確定はしたけど嬉しくない!何の解決にもなってないんだよ!」
「身元判明の手掛かりになれば…とは思いましたけど、最後の希望が絶たれましたね」
青年は何の解決にもなっていない関心の自信満々な発言に、思わず逆ギレしてしまう。そしてそのままイヴの追撃を受けて意気消沈してしまうのであった。
ただ、ここで一つ言えるのは「記憶を取り戻す」事が青年にとって最重要課題である事だ。何れ記憶を取り戻した際、もしかすると事態は大きな進展を見せるかもしれない。
とか言いながら、現状出来る事は…無さそうである。詳細な方法や道筋は示されていないし、『順路案内』もロクに仕事をしていないようであるし。
一気に場の空気が沈むが、これを見やってかイヴが恐る恐る切り出した。
「次は、私が…」
因みに、イヴが与えられた職務は以下の通り。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〇「シビュラ:〇〇〇〇」⇒未
基本路線:シビュラとして来るべき日来るべき時に大予言を行う。
概要:複数存在するシビュラの内、どれを担当するかは秘匿される。
職務①自身の真名を知り、シビュラとして覚醒を果たす。
職務②キーパーソンと会遇し、合同職務を発生させる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
…
「具体的な事が何も分からないな」
「何だ、イヴも僕と似たような感じなんだね…」
関心の意見は最もで、これを受けて他でもない青年が落ち込んでいる。こんなはずでは無いと慌てるイヴだったが、もう手遅れな気がしないでも無かった。
一応念のため、詳細情報を確認してみたのだが、肝心な部分が暈されていて具体的な事が殆ど判らない。こちらも青年と同様、直ぐに出来る事は無さそうである。
余談だが、星職者は「順路案内」と言うものを確認する事が出来る。先にも軽く出ていたが、これは常時確認出来る訳では無いものの、適したタイミングにて「どのように行動したら良いか」をある程度把握可能となっているのだ。
そして聞いた所、イヴは教会に居た際、「教会を脱出する」と言う案内を受け取ったが故にこうして外に出て来たらしい。それはまぁ、「第参神祖の巫女」の件を吹聴して欲しくは無いよね、と関心は一人納得するのであった。
でも不思議なのが、イヴの真名についてであろう。単純に「第参神祖の巫女」ではダメなのだろうか?
「で、その結果が捕虜…と。散々だったよね」
「でも実は渡りに船でした…教会内って、皆さんが思う以上に闇が深いんです…」
青年の同情に対し、イヴは然程落胆する様子を見せない。
イヴ曰く、現状の方が教会内に居た時より遥かに快適なのだそうだ。青年と関心は密かに戦慄した。
「でもこの職務、本当に何をすればいいか全く判らなくて…取り敢えず案内に従いつつ、只管動き続けるしか無さそうです」
「この際、効率云々も何も無いからな」
「はい…なのでこれからは、旅をしなければなりませんね。はぁ…」
関心の指摘に、ここでイヴはがっくりと小さな肩を落とした。
見た目通りの年齢かどうかは知らないが、ティーンの少女には少々過酷過ぎる運命かもしれない。関心と青年はほんの少し彼女を哀れに思うのだった。
「最後に俺だな。職務の内容は主に三つだ」
「「三つ⁉」」
関心は唐突に切り出すが、
尚、関心が与えられた職務は以下の通り。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
①「ソロモン王の伝説」⇒未
基本路線:ソロモン王の伝説を再現する。
概要:この職務は、敬愛、関心、恐怖、呆然の四名合同で行う。
職務①魔導書「グリモワール」を作成し、「悪魔」の使役を可能とする。
職務②「ソロモン72柱の悪魔」を再現する。尚、担当を均等に区分する。
容認と関心→白羊宮、双魚宮、宝瓶宮、天蠍宮、磨羯宮、巨蟹宮
不安と呆然→金牛宮、双子宮、処女宮、獅子宮、天秤宮、人馬宮
②「ソロモン王の伝説:異伝」⇒未
基本路線:ソロモン王の伝説の異伝を再現する。この異伝は原典が存在しない創作話に該当する。
概要:この職務は、敬愛、関心、恐怖、呆然の四名合同で行う。
職務①魔導書「ハルマゲドン」を作成し、「天使」の使役を可能とする。
職務②「ソロモン72柱の悪魔」と対になる存在として「ソロモン72柱の天使」を再現する。尚、担当を均等に区分する。
容認と関心→白羊宮、双魚宮、宝瓶宮、天蠍宮、磨羯宮、巨蟹宮
不安と呆然→金牛宮、双子宮、処女宮、獅子宮、天秤宮、人馬宮
③「仏教世界」⇒済
基本路線:仏教の世界観を再現する。
概要:期待は、自身の世界系、領域系の権能に「四聖」「六道」「十界」の要素を盛り込む。
職務①「四聖」の権能を獲得する。
職務②「六道」の権能を獲得する。
職務③「十界」の権能を獲得する。
④「RPG、アイテム」⇒未
基本路線:RPGで用いるアイテムの作成、及び設置。
概要:RPGで用いるアイテムの内、幻想級及び神話級のアイテムを作成する。この職務は完了期間が定められない。
職務①幻想級のアイテムを作成する。
職務②神話級のアイテムを作成する。
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これを見た際、関心以外の二人は驚愕した。
「凄いねこの難易度…僕の職務がばかばかしく見えてくるよ。てか関心さ、三つじゃなくて四つあるよねこれ?」
「あ、あー、そうだったね。まぁ…誤差でしょ」
青年の指摘に対して若干慌てる様子を見せる感心だが、イヴと青年の二人にとってはそれどころでは無かった。
イヴは青年に続く。
「それを言うなら私よりも…と言うか突っ込みどころも多いですね。関心って一体何者なのですか?」
「それは、ひーみーつ!」
調子に乗り出した関心はさて置き、驚くべき点は幾つもある。
まず一つ目、名前の表記が偽名になっている。名前を失っていると言っていたが、裏で何を行ったのか偽名で指示が為されている。
本来であれば、どれだけ厳重に秘匿しても必ずここには本名が記載される。
それが関心含め、既に最低四人は存在しているようだ。ハッキリ言って異常事態であった。
「この偽名の四人、知り合いなんですか?」
「うん、今度会ったら紹介する」
「軽いね…」
青年の問いかけにあっさりと答える関心。青年は呆れる他なかった。
そして二つ目、既に「済」となった職務が存在する。これ即ち「既に該当する職務が完了した」事を示している、そうマニュアルに書いてあった。
念のために補足しておくと、『天啓』が下ったのはつい先日の事なのだが…
「へぇ…職務が完了するとこうなるんですね」
「なんかよく分かんないけど済になってら。これでちょっとはサボっても怒られないんじゃね?」
「サボるのはいいですけど、無事で済めばいいですね…」
「待って、不穏な事言わないで!」
関心とイヴがじゃれ合っていたが、青年は未だに呆れた状態を続行中である。
そして三つ目、そもそも職務を複数任されている。他二人が一つずつだった事を鑑みると、これも普通ではないように感じる。
但し根拠も比較対象も他に無い為、判断が着かない所ではあるのだが。
「これ…到底一人では出来ないですよね?」
「だからかもな?合同でやるようになってるし」
イヴの指摘に関心も同意する。
しかも職務の詳細情報を確認した所、一つ一つの難易度が極めて高く設定されている。そんな職務を同時に三つも任せられ、そのうち一つに関しては知らない間に終わらせている。
見た所、一から百まで理解不能な内容の数々ではあったが、故になんとなく難易度が高い事を半ば本能で悟る二人であった。
そんなイヴと青年は改めて、関心と言う謎に包まれた人物の底知れなさに恐れ戦くのであった。
「うーん…でも見た感じ、本人の力量に合った職務が割り当てられている気がする」
しかし二人の想いとは裏腹に、突然関心がそのような事を呟いた。
「関心はこれを見てそう思うんだ?」
「まぁ…正直難しくはあるけど、死ぬ気で頑張れば出来ない事もなさそうに思える。でも世の中何でもイレギュラーが付き物、断定はできないな」
「既に一つ職務を完了しているからでしょうか…ほんの少し、説得力が垣間見える気がします」
「これが出来ちゃうんだ…やっぱり只者じゃないよね?関心って」
イヴと青年は、関心の堂々たる指摘に慄いた。
人は徒党を組んだ際、知らず知らずの内に格付けを行っているらしい。そして今この時、この三人の中で関心が一番の上位者であると言う共通認識が完成してしまったようである。
どうも、関心にとっては不本意であるらしく、これを明確に肯定しようとはしないのだが。
「ただもう少し情報が欲しいな…例の伝言がきちんと伝わればいいけど」
この関心の呟きに対し、既にイヴと青年の二人も同様に得心が行っているようであった。
何を隠そう、関心があの伝言を用意できたのは他でもない。この国の第一王女ヴィオラもまた、「自然勢力」に所属する星職者の内の一人だったのである。
最初に気づいたのは関心だったが、他二人も後でこの事実を確認してある。
あの時の伝言では関心の名前だけ出したのだが、確証を得た今この二人にも同行してもらった方がいいかもしれない。そんな事を考えながら、関心は只只管に報せを待ち続けていたのであった。
今初めて、読者視点から私のユーザーネームが確認出来ない事を知りました。
ま、いいいや。人類皆変態、これが真理でしょ?
誰が何と言おうと、私は「身長140㎝の世界」と言う曲が大好きなのです。
もっと言うなら、皆さんにはこの駄文を眺めるよりも、かの神の如き曲を聞いてみて欲しい。男なら誰しも感動する事間違いなしの神曲です!これを作り出した人は天才だと常々思います。
ズバリ「身長140㎝の世界」は、私が一番好きな曲なんです。
最☆高。もう愛してる。
これは永久不変、そんな私の深く果てしない愛はきっと地球を救う事でしょう…なんちって。