第二十四話:感傷
さて、一段落着いた所で…
「キアン、そろそろ起きなよ」
俺は気軽な口調でそれとなくキアンに語り掛ける。しかし反応は無い。
これはおかしな話だ。まさか俺が、キアンの事を忘れてこの話に興じていたとでも?…いや、割とありそうで怖いけど、今回みたく重要度の高い場面において下らないヘマをしでかす程、俺は生半可な人生を送っていないのである。
第一、俺はキアンと戦った事でかなり詳細な情報を獲得するに至っていた。これに拠れば、もう既に目を覚ましていても全くおかしくない、寧ろ戦闘時のダメージを合わせても本来目を覚ましていなければおかしい頃合いなのである。
となると考えられるのは…
「ほら、いい加減寝たふりは止めて王女様に忠誠を誓いなさーい!」
「…全くさ。何で僕の知らない所で、そんな大層な話になってるんだよ?」
そう言って、徐に自分の身体を起こすキアン。ほらやっぱり、そしてこの言い草からして俺達の話をきちんと聞いていたようで何よりである。
それと見た感じ、後遺症のようなものは残っていないようだった。それはもう、戦闘が苦手な俺が細心の注意を払って戦ったんだから、そうでもしてくれないと逆に困ると言うものである。
対してフラウとルナーシャ王女殿下の両名だが、どうやらキアンの寝たふりに気が付いていなかったようで、このやり取りを経て目を大きく見開いたまま固まってしまっている。
と言うのもコイツ、割と本気で寝たふりの演技をしていたみたいで、傍から見て寝返りの一つも打たないのは流石だと思ったね。最も、俺の目は欺けなかったようだが…
そんな事より、今確認しておかなければいけないのは、キアンが何処まで事と次第を理解出来ているかの一点に尽きる。
「これから俺達がどうなるのか、理解出来てる?」
「うん、これでも最初から聞いてたから大丈夫。この後そこのルナーシャ王女殿下?と徒党を組むんでしょ?」
聞けばキアン、俺達が戻って来た時には既に目を覚ましていたらしく、その後もずっと寝たふりを続けながら話の一部始終を聞き入れていたようだ。俺は途中で気付いたが、これは正確では無かったらしい。
序に言うと、今回も戦闘中の記憶は一切残っていないとの事。以前は「多重人格のよう」と表現したものだが、厳密には「夢遊病」に近い症状みたいである。却って危険なので、以降キアンからは目を離さない方が良いかもしれない。俺は密かに決意を固めたのであった。
それにしても何だろう、これら衝撃の事実を聞いて、背筋がゾッとしたのは俺だけだろうか?最低限の分別はあると信じたいキアンだったから良かったものの、普通に考えて恐怖体験だよねこれ。
しかしそんな、恐怖に悶える俺とは異なり、最早怖いもの知らずのキアンがとんでもない事を口走る。
「一つ思ったんだけどさ、「ルナーシャ王女殿下」って長くない?略称を考えた方が良いと思うんだ」
「「馬鹿!いきなりどんなふざけた事を⁉」」
びっくりした、思わずフラウと一緒に反応してしまったでは無いか。いきなりどんな事を言うのかと思えば、まさか王女殿下に対するいちゃもんだとは…
本来であれば首・即・斬となっても文句は言えない醜態であったが、対するルナーシャ王女殿下は懐の大きな御方であるらしく、これを聞いても満面の笑顔を崩さない。
いや、多分違う。内心では腸が煮えくり返りそうになってるんじゃないかな?その笑顔の奥に、何かドス黒いものを感じ取った俺である。
フラウも同じことを察知したみたいだな。思わず「心の友よ」…って目配せしたら首を横に振られた、違うと申すか。
そんな俺達の懸念とは別に、ルナーシャ王女殿下にも思う所はあるようで、キアンの意見に付け加えるように自分の意見を述べて下さった。
「でも確かに、キアンさんの言い分も、解らないではありません」
「だよね?純粋に長いってのもあるけど、街の界隈で軽々しく吹聴出来る名前じゃないもんね」
「キアン…お前が大馬鹿者なのか、大物なのか分からなくなってきたよ…」
キアンの、案外理に適った理由を聞いて下らない感想を述べてしまう俺だが、その言い分は確かに納得の行くものであった。
街中で王女殿下なんて大層な呼び名を使おうものなら、余計なトラブルに巻き込まれ兼ねないものな…だからキアンの意見には俺も賛同するんだけど、せめてタイミングと言うものを考えて貰いたかったよ。
「でしたらこれまで通り、ルーナとお呼びください、私的な場でも無礼講で構いませんよ」
「だってさ、良かったねルディ」
「なんで俺?しれっと俺に責任擦り付けようとするのやめてくれない?」
「そうですね、おめでとうございますルディ」
「ちょっと、何で俺が悪いみたいな流れになってんの?」
フラウまでキアンに便乗する始末。この場に俺の味方は居ないようだ。
そんな俺達を見やってか、口を押さえながらも穏やかな表情を浮かべるのがルナーシャ王女殿下…じゃなくてルーナさん。その視線だけは、まるで台所のGを見るような非常に冷たい物であった事は言うまでもない。
え?何?俺ってこれからそう言う立ち位置にされちゃう訳?
そんな軽口飛び交う穏やかな空間とは裏腹に、現状かなり危うい立場にある事は再認識せねばなるまい。
俺は「オホン」と一息ついてから、態々キアンを起こしてまで相談せねばならないと考えていた最重要課題について、先の空気間とは一転して厳かに述べ始めた。
「全員承知の上だと思うが、今回俺達は依頼を完遂する事が出来なかった。組合に釈明はするとして、今後の身の振り方を考えていきたい」
「え?盗賊団なら壊滅したよね?」
「あのなぁ…キアン、もう一度今回の依頼内容を見返してみ?」
そう俺が勧めると、キアンも何だったっけ?とばかりに依頼の要綱を再確認し始める。
確かに大筋で言えば遂行できたとも取れるのだが、その中にある『「ボルグ=ベルシュタイン」討伐の証拠として首を組合に提出する』と言う一点において、取り返しのつかない事になっていたのである。
しかし当の元凶たるキアンは、その意味が理解出来ないようで頭を傾げている。元はと言えば、お前がボルグの肉体を消滅させた事が発端なんだけどな…
俺も後から聞いて絶句したものである。本人が目覚めたら絶対に文句を言ってやろうと、その胸に固く誓ったのは記憶に新しい。
しかし当のキアンは呑気なもので…
「ボルグ?そんな人居たっけ?」
「居ましたよ。キアンが一瞬で塵に変えてましたけど…」
「え?何それ、空想上の怪物じゃん⁉」
「そうですね、あの時のキアンさんは、正しく空想上の怪物でしたよ」
「そうなんだ…凄いね!皆良く生きてたね!」
「ああ。俺が粉骨砕身、それはもう頑張ったからな…」
「成程、それは大変だったね!」
お前のせいだ!
この時俺とフラウとルーナさんの意思は見事にシンクロし、一つの潮流となってキアンに襲い掛かろうとしていた。
しかし対するキアンは「十大天魔」、そんな生半可な荒波など片手で振り退けてしまいそうな怪物である。俺達の訴えも空しく、実に飄々とした様子で、荒ぶる俺達を眺めていたのであった。
これが理不尽と言うものか、俺も内心項垂れるしかない。
それはそうと、現実として「ボルグの首」の確保は絶望的な訳で…
「せめてボルグの身体情報さえあればなぁ…同士の一人に頼んで、情報を人造人間にでも移し替えて培養すれば、ワンチャン首の復元が出来たんだけど…」
もし仮に俺がボルグに情報爆弾さえぶつける事が出来ていれば、そこで得た情報を基に幾らでもやり様があったのだ。
しかし肝心なタイミングで俺は席を外しており、そのボルグとやらも視認することが無いまま塵に変えられてしまっている。我ながらあの時の判断は間違いだったかな、と一人反省の念に駆られる俺である。
しかしそんな俺を見て、傍にいたフラウに対し、実に常識的な質問をするルーナさんがおり…
「あの、どうしてルディさんは、いきなり狂気的な言動を?」
「ルーナ。この阿保共含め、私達にもさん付けは不要ですよ。いや、ほら…ルディとキアンはある種同類ですから」
「…成程!、でなければ暴走したキアンさん…では無くキアンを止められませんものね、納得です!」
「納得しなくていいよー」
一応断り文句は入れてみたが、それが二人に聞き入れられているようには見えない。最も、自分の発言が原因で説得力が無くなっているので、自業自得と言うのは紛れも無い事実であったが…
そんな俺を余所に、「友よ」と言いたげなキアンがしれっと肩を組んでくるのを振り払いながら、俺は話を無理矢理本題に戻すよう軌道修正を図る。
「何はともあれ、このバカのせいで俺達のペナルティは確約されたようなものだ」
俺はキアンを指差しながら断言してやった。
「酷い!僕だって頑張ったのに…」
「限度ってものがあるだろ⁉第一お前が暴走したのだって、怪我の直後に下らない事を考えたのが原因だろ?何であの状況で喜んでるんだよ、自虐趣味でもあるのか⁉」
「何でそれを…ルディって、一体何者⁉」
「知っての通りだよ!」
このままだと堂々巡りになりそうなので、何とか強引に一蹴して見せる。これを受けてキアンが泣き真似を始めたが、完全無視である。
「さてと…ここで一つルーナさんに聞きたいんだけど、組合が定めるペナルティについてどれだけ知ってる?」
「さん付けもしなくて構いませんよ、そうですね…、生憎と依頼を完遂出来なかったのは今回が初めてなので何とも…」
「そうですか、優等生発言ありがとうございます。そして俺達も今回が初めてだ。故にこれは、実に由々しき事態であると言える」
「今のルディ、物凄く嫌な奴でしたよ…」
「別にペナルティ位、サクッと受けちゃえばいいじゃん?そこまで気にする必要無いって」
フラウの真っ当な発言と、キアンの能天気な発言に、俺は思わずここには無い卓袱台をひっくり返したい衝動に襲われる。
確かに罰金とか、降格とか…内容が内容だけに、いきなりそんな大層なペナルティにはならない可能性もあるけど…そう言う問題でもないでしょうが!
俺達は知らないのだ、そのペナルティの恐るべき内容を…
「何はともあれ、警戒するに越した事は無い。だからこれに対する入念な対策を…」
故に俺はそう切り出したのだが、他三名は案外気にしていないようで…
「別に良くないですか?こうなった以上仕方ないでしょうよ、素直に甘んじて受け止めましょう」
「そうだよ!どうせ僕ってば、今後全ての責任をルディに押し付けるつもりだし」
「それはそれでどうかと思いますが…、ルディもルディです、組合に踊らされ過ぎだと思いますよ」
ぐぬぬぬ、でも最後のルーナの一言が全てかもしれない。
ああ言う脅しにも似た謳い文句を振りかざす事で、俺のような真面目で純粋無垢な冒険者を、権力と恐怖で支配するのが組合のやり方かもしれないからな。
俺の場合は癖で警戒心を強めてしまうのだが、確かに警戒し過ぎても却って健康に悪いと言うもの。ここは割り切って、堂々とペナルティを受けに行くのが正解かも知れないな…
言われてみれば、危惧の手によって「幹部」とやらに任命されてから、知らず知らずの内に気を張っていたのかもしれない。今思えば、仮に失敗したとして、その組合のトップはあの危惧なのだ。
そう考えると何も怖くないな。アイツは変人だけど仲は良いし、そもそもこの程度の失態がアイツの耳に届くとも考えにくい。
「ありがとう、お陰で俺の心は漂白された…」
「漂白…、それは良かった、のでしょうか?」
「ルーナは真面目だね。ルディの言う事なんて大半がつまらない妄言なんだから、適当に聞き流していればいいんだよ」
「そういうキアンの言う事も、大半が突拍子もない軽口なので注意してください。こうして聞いていれば、私の苦労が解るってものでしょう?」
「ええ?、ああ、そうですね…」
俺の発言に続いて各々が言いたい事を口走っているが、俺としてはもうどうにでもなれ、と言った心境であった。自重の欠片も無いキアン?一人だけ漁夫の利を得ようとしてるフラウ?キャラが濃い俺達を前に困惑しているルーナ?
知らん知らん!もう俺の管轄では無いから、そう言う事で。
結局「十大天魔」の正体についてだけは伏せつつ、出来るだけ正直に事の次第を話すと言う話で落ち着いたのはここだけの話。
仲間が殺された当日だと言うのに、こんな俺達でごめんな。
~?~
ルナーシャ王女は、この日大切な仲間を失い、確かにその心に深い傷を負っていた。
しかしそんな彼女と同時期に、同じく仲間を失い心の傷を負った存在が居た。何を隠そう、魔王ジュラキュリオンその人である。
「(嘘…キョンシーの反応が、消えたですって⁉)」
ジュラキュリオンの配下、四天王の一角「東方のキョンシー」の反応がつい先程、一瞬にして消滅してしまった。普通に考えて有り得ない、何せ「王種」に相当し、魔王直下の四天王ともあろう高位の魔族を殺める事の出来る存在など、魔王が知る限りほんの数例しか存在しないからである。
勇者、高位の英種、「帝王種」や「星種」と言った高位存在、十界の上位幹部…
キョンシーを仕留めたのがこれらの内どれに該当する存在なのかは知り得なかったが、何れであれ警戒を要する相手が現れた事は事実。
ジュラキュリオンはこれを受けて、これでもかと頭を痛めていたのである。
「(こんな大変な時に、予想外の強敵が現れるなんて…)」
ジュラキュリオンは先に下された『天啓』の件と合わせて、完全に限界を迎えつつあった。自分が魔王に就任してからまだ数年。迷宮の舵取りだけでも精いっぱいだった所に、幾重にも押しかける無理難題の数々。この時点で魔王は参ってしまっていた。
しかしかと言って、ここには他に頼れるような存在は居ない。相談しようにも内容が内容だけに軽々しく話せない。その事が余計に魔王を苦しめるのだ。
何とか、自分の部下たる魔族達の前では堂々たる振る舞いを見せる事は出来ていたが、その内心は摩耗し、激しく揺れ動いていた。このままでは気を強く持つどころか、正気すら保てなくなるかもしれない…そんな不安が頭の中を過る。
「(いや、まだ救いはある…ただし)」
つい先日確認された、自分と同様の勢力に属する星職者の存在。しかし今では生死すら不明であり、勿論その行方を追う事も出来ていない。
一応向こうからの返事は届いていたが、これが履行される確証は無い。名簿からあの名前が消えていない事から健在だとは思われるが…当の本人が何処で何を思って行動しているのかは不明だし、現状その足取りを追う事が出来ておらず、確認のしようも無いのであった。
そう…魔王本人は無自覚だったが、彼女は心のどこかで「関心」に縋りつつあった。本来彼女はそこまで貧弱な精神の持ち主では無いのだが、ありとあらゆる圧力が彼女を苦しめ続けた結果、知らず知らずの内に心の内を蝕んで行ったのである。
「(あまり待って居られないかもしれない…こちらでも動き出すとしましょうか)」
彼女は焦る気持ちに引っ張られながら、部下を「関心」の捜索に派遣する事を選択した。見つけ次第、速やかに「血契迷宮」に連れてくるよう手配したのである。
これが果たして吉と出るか、凶と出るか…その真相は『天啓』のみぞ知る事だろう。
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翌日。ルーナの希望もあって、俺達は聖鳥衆の他三名が殺害された事件現場に足を運んでいた。そうして見つけたのである。
まだ事件から一夜明けた所で、割ときれいな状態で遺体が残されていた。またしても吐き気を催しているフラウを他所目に、俺は現場の分析を始める。
それにしても、これはまた…手酷く殺られたものだ。
グラッドさんに関しては銃で脳天を、アロンさんは心臓を貫かれてお亡くなりになったようだ。ソールさんに至っては、胴体と手足、首がそれぞれバラバラに切断された状態で放置されている。
三人がそれぞれ異なる殺され方をしており、これを単独で成し遂げたのが放心と聞けば納得が行く。奴は戦闘のスペシャリスト、人の殺し方位何パターンでも心得ている事だろうから…
何はともあれ、こうなってしまっては俺達に出来る事などない。俺は黙って黙祷を捧げるのであった。これに続いてルーナさん、それとフラウとキアンの二人も続く。こうして、その場には一瞬の沈黙が流れたのである。
それはそうと、この遺体を放置しておくのも忍びない。どの道この後組合から調査団が送られてくるので、このまま…とはならないだろうけども。
念のため、ルーナさんにどうしたいか尋ねてみる事にした。流石に仲間の埋葬方法位、組合側も当事者にその権限を委ねる事はやぶさかでない筈だ。
「…三人の遺体は火葬で弔っては貰えませんか?、同備品は土に埋めて、そこに簡単な石碑を用意したいと思います」
「それでいいの?」
「はい…、ソフィアは元より、グラッドとアロンの二人も帰る場所は無いと語っていましたので」
詳しい事情を聴く気にはなれなかったが、本人がそれでいいと言うのだからこれを尊重すべきだ。
俺達は三人の遺体を一か所に集め、商会で購入しておいたマッチを使い、これに火をつけた。
火は瞬く間に燃え上がり、三メートルを超すであろう高い火柱を立てて最後の輝きを見せる。俺達四人は黙ってその様を眺め続けていた。
そうして凡そ十分後。火柱は殆ど鎮火に至り、その亡骸もすっかり鎧と骨だけとなっている。肉片を含めた他の残滓は、今となってはすっかり跡形もなく消え去っているように感じた。
その後俺とルーナさんが、近辺の土を羅神器を形態変化させたシャベルで掘り起こし、残った骨と鎧を纏めて埋める事とした。その後周辺を散策し、それなりに立派な岩を一つ見繕って、その上に置く事で石碑としたのである。
「今後墓参りに来れるかどうかは判りませんが、少なくともこれで忘れられる事は無いでしょう、どうか安らかに…」
そう言って一分間に渡り、掌を合わせて祈祷を捧げるルーナ。これに合わせてフラウが七聖教に則った祈りの言葉を捧げてくれた事で、形式上は彼らの埋葬、供養が為される事となった。
これら一連をやり遂げると、ルーナは決意を新たにその言葉を発する。
「用事は済みました、それでは、今を生きる私達のすべき事を為し遂げましょう」
その物言いに準じる程大袈裟な事でも無いのだが、今の空気間が彼女の言葉を後押しする。俺達は彼女の宣言を受けて、静かに、そして速やかに、事を為し遂げるべく「オムニバス=エアライン」に乗り込んだのであった。
~冒険者連合組合、ロックス支部~
あの後、俺達四人は「オムニバス=エアライン」を走らせた後、一度ロックスの街に戻って来ていた。どっちみち、説明の為に組合に顔を出す必要があったのである。
本来なら数人が現場に残り、第三者の介入や野生動物の侵入に警戒すべきなのだろうが、既に現場は地形が変わる程に破壊し尽くされており、盗賊の死体も全て塵となって消えてしまった。特に荒らされて困るものなど現場に残されていないのである。
最も、郊外で活動している構成員が居るかもしれないが、それでも一度四人で街に戻るべきだと判断した。
俺は「オムニバス=エアライン」の運転要員として、ルーナは聖鳥衆の唯一の生き残りとして事情説明を行う必要がある。フラウとキアンは残っても良さそうだが、キアンを一人には出来ないし、フラウにキアンを止めるのはどうしても荷が重い。故に仕方なく四人全員で戻る事にしたのである。
その報告内容は多岐に渡る。その上で絶対に漏らしてはいけないような情報も含まれるので、そこはきっちりと絞らねばならない。
その上、依頼の一部を履行する事が出来なかった訳で…報告だけでも想定以上の内容の濃さになってしまったが、どの道俺達のやるべき事も変わらない。
俺達は組合の建物の門をたたくや否や、速やかに組合の職員…今回の依頼の担当者を呼び出した上で、事の発端とそこに至る経緯を恙なく説明するのであった。
その職員は出立前にも話をした受付嬢で、ルーナが一人でやって来ていた事を受け、勝手に事と次第を察知したらしい。特に事情を尋ねるでもなく、俺達四人を奥に案内してくれた。
そして案内された応接室に到着するや否や、受付嬢の許可を得て着席する俺達四人。そして受付嬢の準備が済むのを待ってから、即座に事情説明を行ったのである。
長くなるので簡単に纏めるが、話した内容は以下の通り。
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・盗賊団「三頭狼」の掃討は大方完了した。残党に関しては未だ確認するに至っておらず、且つ発見し次第即座に対応する準備がある。
・盗賊団「三頭狼」の首領「ボルグ=ベルシュタイン」が「血契迷宮」の四天王「東方のキョンシー」と言う魔族とグルだった。彼らが協力した結果、新たに六体程の魔族が誕生した。
・その際、予期せぬ第三者(暴走したキアンの事)が介入。敵の魔族を遥かに上回る実力の持ち主で、周囲の環境を瞬く間に破壊し、あっという間にボルグ含む魔族全員を塵に変えてしまった。これを受け、自分達は「ボルグの首の確保」に失敗した。
・その第三者は、魔族達を全滅させた直後にその姿を確認出来なくなった。現在の消息は不明。しかし現状、その第三者が再び現れる前兆は確認出来ていない。
・これとは別に、聖鳥衆の三名が乱入者に殺害された。その乱入者は「カルテル:プレッシーヴォ」の首領で、名を「放心」と名乗っていた。こちらはルディウスが撃退に成功している。
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言い回しは工夫したのだが、その甲斐あってかなり嘘とも取れる物言いになってしまった。それでも反論できないような嘘はついていない。故にボロは出ないと信じたい所である。
勿論これらの報告内容は事前に擦り合わせを行っており、報告は俺とルーナが担当、他二人は俺達に合わせると言う事で話は着いていた。その甲斐あって実に淡々と報告をし終える事が出来たのだが、案の定受付嬢は疑問の表情を浮かべている。
それと同時に、一人では判断出来ないと結論付けたようで、その後はこの依頼に関する最高責任者を呼びつけた上で、再度聞き取り調査が行われた。その責任者とは、まさかの組合支部長に該当するお偉いさんであった。
その支部長は到着するや否や、眉をしかめながらも落ち着いた様子でその口を開く。
「先ず、この報告内容に虚偽は無いかね?」
「無論です、と同時に今回の依頼では、私達の手に負えない第三者の介入が相次ぎました」
「信じられないとは思いますが、事実です。ここだけの話、我々が生き残れた事すら奇跡だと感じています」
「むむ…」
支部長の問いかけに対しルーナが答え、俺がそれに続く。支部長はそんな俺達を疑っている…訳では無く、別の事で頭を悩ませていたようであった。
「第三者、か…後者のギャングの首領に至っては、まだ良い…いや、良くは無いのだが、今はそう言う問題では無いだろう。それよりも「魔族」と「その魔族を圧倒せし謎の実力者」が問題であろうよ」
冷静に考えれば納得である。俺達へのペナルティなんかより、そちらの方がよっぽど問題視すべき対象だよな…しかし俺達は知っている、これらの脅威は暫定的であるとは言え撃退しているし、これを対処する事だって俺やキアンなら難しくはない。
しかしこれを素直に話すとなると「十大天魔」がひょっこりと顔を覗かせる訳で、今この事を話して聞かせるのは流石に気が引けた。魔族相手に警戒心を最大にさせている組合に対し、「十大天魔」なんて物騒な物を吹き込もうものなら…想像すらしたくない、間違いなく組合全体…下手したら街や国単位で大きな混乱を招く。
なので俺達には、これらの情報を隠匿しつつ、なるだけ自然な物言いでこれに答える必要があると言えたのである。
ここはルーナさんでは無く、俺の出番だろう。そう判断した俺は深呼吸をすると同時に、慎重な言葉選びを意識しながらも、それを察しさせない軽快な物言いで言葉を紡いでいく。
「確かに両者とも警戒を要する相手ですが、現時点では然したる問題は無いと認識しています」
「ほう、その心は?」
ここで支部長の眼光が鋭くなる。一瞬怯んでしまいそうになるが、無理矢理平静を保って話を続ける。
「先ず目先の脅威「魔族」について。これは私達の推測でしかありませんが、今回の事態は魔族にとっても予想だにしない事態だったと思われます」
「何故そう思ったのかね?」
「先ず前提として、魔族の行った行動から紐解きました」
魔族は話を聞く限り、「虫型魔族」の生産を目的として活動しているようだった。これはボルグとキョンシーの会話からも容易に想像が着く。そしてその目的通り、実際に虫型魔族が六体も生み出されるに至った訳である。
その後両名は、虫型魔族をキアンとフラウにぶつけ、二人の力を取り込む事を目論んだらしい。どうにも虫型魔族には倒した者を捕食し、その能力を我が物とする特殊能力の類を有していたらしい。この事もボルグとキョンシーが語っており、二人の力を取り込むを狙っている事さえ、堂々と豪語していたとの事である。
この時点で、ボルグとキョンシーに対する俺の評価は下がりつつあった。それ、大事な事だろ?軽々しく吹聴するなよ。
そして…ここから先はルーナとフラウの証言による推測だが、虫型魔族との戦闘中にキアンが負傷し、これをきっかけに暴走を始めた。
この時に「突然現れた」と表現したのが「予期せぬ第三者(暴走したキアン)」であり、これを目の当たりにしたボルグとキョンシーが、明らかに動揺していたそうである。
最も、俺達はそのからくりある程度を知ってしまっているのだが、ここは知らない体で間に合わせの憶測を語っていく。
「件の予期せぬ第三者を前にした際、ボルグとキョンシーは見るからに動揺していたそうです。これを受け、両者にはその第三者の出現が完全に想定外の事態だったのではないと推測したのです」
「ふむ、それで?」
「まず魔族ですが、為す術も無く第三者に全滅させられたと聞いています。この時点で、魔族はこの第三者に対し最大級の警戒を擁している事でしょう。その煽りを受けて、我々が危害を被らない…とは断言できませんが、少なくともその矛先が我々に向かう事は無いと思っています。(暴走した)その第三者は見るからに人間ではありませんでした、(キアンの正体を知っていない場合)彼らも第三者と我々を同一視出来ない筈です」
俺はちょっとだけグレーゾーンに片足を突っ込む。最後の一言とか、最初に(暴走した)を付け加えないと嘘になっちゃうし、その後に続けた言葉に関しては、大前提を知っている者からすれば(キアンの正体を知っていない場合)を付け加えない限り、嘘も同然だからね。
またこうは言うが、魔族が暴走したキアンの事を的確に認識していた場合には成り立たない希望的観測だし、そもそも両者の戦闘の余波で人間サイドが被害を被る可能性も無きにしも非ず。これは俺目線からしても、かなりガバガバな推論であった。
最も「十大天魔」たるキアン相手に生き残れる魔族など居ないだろうし、仮に事と次第が正確に伝わっていた場合には、報復をするのではなく、キアンを刺激すること自体を避ける筈。もし伝わっていない場合、キアンに言い含めた通り、しっかりと存在の偽装を行っていればバレる事は無いと踏んでいた。
依然安心は出来ないのだが、かと言って今すぐに全面戦争になる可能性はかなり低いと言えた。後は、魔族が愚かでない事を祈る限りである。
これを受けて、若干怪しみつつも依然思案に耽る支部長。俺はこれに畳みかけるように続ける。
「そして第三者に関してですが、こちらは気にするだけ無駄です」
「それはどう言う事かね?」
「そのままの意味です。あれを止められる者など、私(以外で)は他に知りません。なので万が一その第三者が出現した場合、そもそもとして此方側に為す術が無いのです。何をするでもなく、瞬く間に全滅させられるでしょうね」
「待て待て、一体何を言っている?」
これは俺達が生き残れた事を上手く説明できない限り、返って自らを死路に追い遣る諸刃の剣だ。下手すると、国家反逆罪として見なされかねない程に危うい論法。
なので俺以外の三人もこれを受けて咄嗟にその顔を青ざめさせていたが、これは見方によっては別の受け取り方をしてもらえる可能性があった。三人には悪いが、有難く利用させて頂く。
取り敢えず、言葉を間違えないように気を付けつつ、俺はたじろぐ支部長の質問?に答えを投げかける。
「第三者は魔族を全滅させるや否や、(俺が対処した事で暴走した)その姿をいきなり焼失させてしまった為に事なきを得ましたが…ハッキリ言って、我々が生き残れた事そのものが今でも信じられない思いで居ます。今思い出しても、現実として受け止め難い光景で…」
「意味が解らんな。その第三者とは?一体何が起こったと言うのだ?」
「僭越ながら、我々であってもその質問に的確な返答を用意する事は出来ません。その第三者は自分から名乗りを上げた訳ではありませんし、(俺を除く)当事者の知識の中にも該当する存在に心当たりがありませんでした。ただ一つだけ言える事があるとするならば、魔族とは比べる事すら烏滸がましい位の脅威である…と言う事位でしょうか?」
俺は先の光景を脳裏に思い浮かべながら、所以こそ違えど三人と同様、顔を青ざめさせながら言葉を紡いでいく。ここは何とか、濁し切りたい所。
どっちみち、暴走キアンの事に関しては元より知らぬ存ぜぬを貫く所存だった。余計な事を口走らないように気を付けながら、俺はなるだけ自然にしらばっくれてみせるのだ。
ここで念のため、保険の意味も兼ねてもう一押し。
「失礼ながら、アレの詮索はお勧めしません。先ずあれを相手にすれば、それだけで自滅を意味します。想像以上の化け物なので、抵抗なんて愚かな事を考える前に瞬殺されます。また今の所、その第三者の行方は判らず、同時に今後何時相対するかも判らない状況です。それならば、余計な事を考えず下手に刺激しない事を終始徹底すべきだと申し上げましょう」
「好奇心は猫をも殺す…と」
「はい、アレは関わらない事こそが吉、そんな理不尽な存在だと思われます。確かな事は言えませんが、少なくとも私は「アレの詮索は避けるべきだ」と勘で判断しました」
勘で、と言うと一見ふざけているようにも聞こえるが、その実「強者の勘」程いざと言う時に信用出来るモノも無い。
そこで俺はこの状況下で生き残ったと言う事実と、試験での結果を向こうが知っていると言う前提を、照らし合わせつつ向こうが判断する事を前提とした上で、敢えてこういう物言いをしてみた。
すると俺の狙い通り、支部長が増々表情を曇らせながら唸り始めたでは無いか。事前に「支部長が戦いに心得のある人物」と聞いており、故にこの論法が通じると判断したのである。
その情報源は、先に支部長を目の当たりにした事があるルーナさん。聞けば支部長も、若いころにはマグノリア商会専属で、優秀な傭兵として名を馳せた腕自慢なのだとか…
それはさて置き、少なくともこの話の信憑性に関しては、向こうも疑いの余地なしと判断してくれそうである。
最も、支部長としては他に気になる点があるのだろうが…
「それは何とやら…本当に良く生き残ってくれたとしか」
「運が良かったのでしょうね。我々であっても、アレに狙われでもしたら生き残る事は出来ないですから…」
「それは重畳、但しその後に更なる乱入者と」
「はい、それに関しては当事者たるルーナさんにお聞きするのが良いかと」
そう言って俺は、横に座っていたルーナさんに話を振る。
ルーナさんは一瞬戸惑っていたが、これは元より示し合わせていた手順に則ったものだ。本人は俺程交渉事に理解が無いと不安げに語っていたが、それでも俺も出来るだけフォローするとは約束してある。
さぁ、頑張れ。手順は事前に申し伝えた通り…そう控えめな合図を送ると、彼女も覚悟を決めたのかその口を開いてくれた。
「私達は核弾頭の三人と別れ、別方向に逃走を図りました、その先で乱入者もとい「放心」を名乗る男と遭遇したのです」
態々別れたのは、どちらか片方があわよくば生き残り、街に危険を知らせられるようにする為…とルーナさんが続け、この理由に対しては支部長も納得の表情を見せる。
実際のシチュエーションや思惑とは異なるが、現実としてそうなったのだからあながち間違いではない。実際、先の言い分が正しいかどうかはさて置き、見方によっては整合性の取れた理由と言うのもあるが…
これで勘違いを誘えたなら、今後の話の展開にも活きてくるだろう。
「その「放心」と言う男が現れた理由を確認する事は出来ませんでしたが、その男は異常に強かったのです、抵抗こそしましたが、仲間は為す術も無く餌食になってしまいました…」
「ふむ、但し貴女だけは生き残る事が出来たのだな?」
「はい、私の仲間が命を張って逃がしてくれたのです、そのお陰で…」
またこの時、ルーナは自分が羅神器を使える事、その能力が「瞬間移動」に関連するものであると付け加えている。
支部長にも羅神器に関する知識があったようで驚いていたが、だからこそ生き残る事が出来たのだと納得もして貰えたようである。
…この感じからして、ルーナは自分の羅神器の事を組合に明かしていなかったようだな。
「その後私は核弾頭の三人と合流し、助けを求めました、その後は三人に対処をお願いしたのです」
「確かに、試験結果を踏まえ、実力だけなら我々も把握しているが…」
それでもイマイチ、俺達三人の実力に確信が持てなかったようである。それもその筈、支部長は聖鳥衆の四名の実力も同時に把握していたのだから。
しかし、その直後にルーナが続けた言葉を皮切りに、話の流れが一変する。
「後の事は隣に居るルディウスさんに任せました、聞けば「放心」とも顔見知りだそうで、その方が手っ取り早いと判断したのです」
「何と⁉それは誠か⁉」
何時になく怪訝そうな表情で俺に矛先を向ける支部長だが、実はこれも想定の範囲内。そもそも俺は、「放心」が自分の知り合いであると言う事だけは話しても構わない、と先に言い伝えてあったのである。
ここで俺とバトンタッチ、ここからは俺が話を進める事とする。
「事実です。しかし間違っても仲間だなんて表現はお控えください。奴とは多少の因縁がありまして、ハッキリ言って私の敵です!」
「…ふむ。だが話を聞く限り、とても話の通じる男とは思えんな。因縁とは言ったが、一体何の因縁があるのやら」
「端的に言えば、何度か襲われたことがあるのです…が、それはそこまで重要ではありませんでした」
「む?」
「同士」である事はしっかりと伏せつつ、同士達の間に存在する二つの大きな派閥を引っ張り出し、これらの枠で考えると敵同士…と言う事実を脳裏に浮かべつつ断言する俺。
有無を言わせぬ物言いで、支部長に口撃の隙を与えないように努めつつ、何食わぬ顔で話の続きを語り始める。その後に続ける話で、支部長の着眼点を完全に逸らす事を狙って言い放つ。
「一番重要なのは、奴のした行いにあります。目的までは聞き出せませんでしたが、奴はどう言う訳か蒼炎魂の四名を殺害し、その遺骸を傀儡として操作する禁術を使用して来たのです」
「何だそれは?眉唾では無いのか?」
「残念ながら事実です。我々が遭遇したのもこの四名で、その時には既に「放心」がその身体を乗っ取った状態でした。蒼炎魂の四名に関しては、残念ながら遭遇時点で手遅れとしか判断せざるを得ませんでした…」
そう言って軽く俯いて見せる俺。本当は作業のように淡々と消滅させて行ったのだが、それを感じさせない為の演技である。
俺の事をあざといと言いたい奴は言えばいい。しかし効果自体は覿面であるようだ。嘘を話していない事も幸いしていると思うが、支部長も俺の言葉をある程度は信用してくれているようである。
「異論反論は認めますが、どのみち彼らを放置しておいても、本来の彼らが帰って来る訳ではありません。そこで彼らと私が交戦し、その全てを無力化する事に決めたのです」
「…ん?しかし聞き及んでいた話では、核弾頭と蒼炎魂の間でいざこざがあったようだが?」
否、まだ完全に信用を得ているとは言い難いか。ならもう少し言い含める必要がありそうだ。
等と冷静に思考しつつも、「そんな些細な事まで聞き入れているのか」と俺は内心やり切れなさを覚える。しかし、ここで下手に引き下がる必要など無い訳で…
「はい。ですが決して彼らを恨んだり、確執があったりと言った事態までは発展していません。彼らにも彼らにしか分からない事情があるのでしょうし…我々も一社会人として、最低限の分別は弁える所存です!」
「そ、そうか…それは失礼」
ここは強引に押し切って見せる。そして一瞬怯んだ支部長に畳みかける…では無く、今度は逆に一歩引いた状態で言葉を続ける。
「ですが、死せる傀儡となった彼らを放置もしておけません。故に殺害…とは異なりますが、この手で無力化する事にしました。ただ…何とも悔しい事に、四人を無力化した所で、事の元凶である「放心」には何ら影響がありません。それは奴が、次々と別の身体に乗り移る様を見る限りでも明らか。本当にそれだけが心残りですね…」
「同感です、私としても、奴が未だに健在と言うのは実に許し難い」
俺は「奴には上手い事逃げられてしまいました」と続けつつ、同時に拳を強く握りしめた。ルーナもこれに続いて自分の素直な想いを述べる。
しかし俺としても、実際奴の行いには強い苛立ちを覚えたし、そのやり口も卑劣以外の言葉が見当たらない。故に演技とか関係なく、案外自然に一連の行動を取る事が出来たのは僥倖であった。
そしてこれを踏まえて、支部長は再度考え込むようになってしまう。
それも無理はなく、今回の一連の依頼では不幸やイレギュラーが重なり過ぎて、最早俺達でもどう収集を着けるか判らない程に混沌とした状況が出来上がってしまっているからだろう。
最もすべての判断は組合に委ねられる訳だが、それに対する此方の状況説明の義務と遠回しな釈明も万全に済ませたつもりだ。意図的に絞った部分はあるし、言い回しを工夫して濁した部分はあるが、それでも一切の嘘は着いていないし、この件に対して無用な隠し立ても行っていない。
と言う訳で大方必要な情報は伝え終えているので、組合側の判断に必要な情報も出揃った筈ではある。後はもう、組合の最終決定を待つのみ。
…
だが結局、支部長を以てしてもその場で結論を出すことは叶わず、俺達は「急遽会議を開いて処遇を決定する」と言うお達しを受ける事となった。
結局その時点で事情聴取はお開きとなり、そのまま受付嬢の案内に従ってロビーへと戻る事となる。
そうして始まる緊張の時間…それぞれが異なった思惑を胸に秘めつつも、俺達は四人全員で静かにその結果を待ち続けるのであった。




