第二十三話:代償
ク〇リ、ダメ、絶対!
~?~
男は薄暗い部屋の中でひっそりと目を覚ます。その寝覚めは最悪で、彼の額からは大粒の汗が滲み出していた。
「アカンわ…早よ逃げな」
つい先程、男は仕込みを上手く活用し事を為したばかり。第一の目的でもある、裏切者の排除は確実に上手く行った。その序に憎き「関心」に嫌がらせをすると言う、第二の目標もある意味クリアしたと言って良い。
しかしその過程の中で墓穴を掘ってしまった事だけが悔やまれる。ほんの些細な見逃し、これが原因で男…「カルテル:プレッシーヴォ」の首領こと「放心」は窮地に立たされていた。
「(まさか、あの女が瞬間移動を使えるとは…)」
そう、それこそが放心にとって一番の誤算だった。一目見ただけで、「取るに足らない引き立て役」等と邪推したのが間違いだった…とんだ失態、赤っ恥も良い所である。
適う事ならば、奇しくも煮え湯を飲まされたこの女にも仕返しをしてやりたい所だが…かと言って、女の傍に控える関心をこれ以上刺激したくないのも真理。厄介な事になったと、放心は一人頭を抱えていた。
放心は勿論、同士の一人である関心の性格は熟知しているつもりだ。
アイツは普段、世間体を気にする立ち回りを行う事が多く、仮に自分の仲間としている者を殺めようものなら全力で追撃してくる。勿論、仲間の死に際して怒り狂う訳では無い。場の空気を読んだ末に「そうした方が良い」と言う、第三者目線での判断を下す…そう言う奴なのだ。
しかしアイツは基本的に、他者に対しては無頓着で、特別な大義名分でも無い限り進んで深入りする事は無い。また関係性を問わず、その生死に対しても淡泊に事を受け止める傾向がある…が、時と場合によってはこれ幸いと牙を剥くのも奴の性。正当な理由があれば、奴は喜んで加害者を責め立てる事だろう。
その為アイツのパーティメンバーには危害を加えないようにしつつ、その仕事仲間である冒険者パーティを狙うよう事を運んだのである。
放心はこの選択に間違いは無かったと判断している。
仮に四人全員を仕留める事に成功すれば、今回のように地雷を踏む事は無かっただろう。あの場にあの女が生きて傍に居なければ、関心は得てして放心の事を糾弾して来なかったと踏んでいる。
しかしあの女が関心と合流した事で、全てが裏目に回ってしまった。裏でどういうやり取りがあったのかは知らないが、最悪な事に、関心があの女の肩を持つシチュエーションが出来上がってしまったのである。
こうなっては良い訳も出来ないし、関心は嬉々として己の罪を追求する事だろう。いや、本人の感覚では単純作業にしか過ぎないかもしれない。
ただ何であれ、放心は大義名分の下制裁を加えられる立場になってしまった。最初から関心とは正面切って敵対したくないと言う魂胆があった中で、割と最悪に近い失態であった。
本来ならば、あの女に逃げられた時点で引き下がるべきだ。それが最も安全な策。
しかしあの女が関心に告げ口しようものなら、自分の全ての凶行が明るみになってしまう。質の悪い事に、仮に逃げたとて奴は自分と言う犯人像に辿り着く事も容易だろう。そうなれば関心が何をしでかすか…想像するだけでも恐ろしい。故に逃げられなかったのである。
そこで最後の悪足搔きとばかりに、蒼炎魂の四人をアイツに始末させてやったのだ。元から秘密裏に始末する想定の連中だったが、これを関心に差し向ける事で、幾らかの憂さ晴らしをさせるよう仕向けたのである。
最も、自分が四人の身体を乗っ取って居なければ、関心はその刃を矛に収めただろう。なのでどの道、自分が身体を乗っ取るのは大前提として必須事項だったと言える。
せめてもの忖度として最後の最後まで抵抗せず、為すがままに攻撃を受け続けてやったが、これが良い方向に働いたかどうかは判らない。奴は何かに勘付いたかのような仕草を見せていたが、上手い事こちらの真意が伝わってくれる事をいのるばかりであった。
…否。放心の希望は瞬く間に打ち砕かれた。
その原因は、何の前兆も無く部屋の中に舞い降りた一人の少女…では無く少年。髪の色が桃色でしかも長髪なので、誰もが初対面では性別を間違えるであろう人物。
そしてこの世で一番会いたくない人は誰か?と聞かれて真っ先にその名が浮かぶ、総勢二十一人にも及ぶ「同士」達の中で最もトチ狂った人物。
それは…
「やぁ放心、久しぶり!」
「お前は「期待」…いや「喜悦」か」
「正解!「関心」からお誘いが来てね、遠路はるばる遊びに来ちゃった」
来んな!そう内心で叫ぶしかない放心である。
と言うのもこれは放心にとって、考えられる中でも最悪のシチュエーションだからだ。よりにもよって、一番関わり合いになりたくない奴を送り付けられてしまった。
しかしこれを甘んじて受け入れる程、放心は諦めが早くない。必要に応じて己の失敗は認めるが、何があっても敗北は認めない…放心とはそう言う男なのだ。
そこで少しばかり、話を逸らしてみる事にする。会話の中で隙が無いか探るのだ。
「しっかし妙やな?自他ともに認める「期待の犬」が、どないして「関心」に加担すんねん?」
「もう一回言って」
「…はぁ?」
「自他ともに認める何だって?もう一度、言って聞かせてくれないか?」
喜悦は何時に増して真面目な表情を作り、放心に意味の解らぬ要求をして来ている。
幾許かの苛立ちを覚えながらも、ここは事を荒立てるべきタイミングでは無いと判断した放心は、仕方なくその言葉を口にしてやる。
「せやから!こちとら「期待の犬」が、「関心」の言いなりになってんのはどう言う心境の変化や?て聞いてんねん」
「…あぁん!も…もう一回!」
放心にとっては何気ない一言、ところがこの直後に喜悦の口から漏れ出たのは、まさかの喘ぎ声であった。
何より喜悦にとって聞き逃せない一言だったそれは、一周回って喜悦のスイッチに火をつけるに至ってしまったのだ。
「…何やねん?えーと、「期待の犬」がどうかしたんか?」
「ああっ!何て甘美な響き…不詳喜悦、人生で一番甲高い「わん!」が飛び出しそう…もっと、もっと頂戴!この衝動が抑えきれないっ!」
「ちょっ、何一人で喘いでんねん⁉キモいわ!」
「良いから!もう一度、その素敵な言葉を…」
「せーやーかーらー!なしてワシがお前の言う事聞かなあかんねん…ッ⁉」
その時、突如として喜悦が豹変する。放心が反応出来ないまま、喜悦が片手で放心の首を鷲掴みにし、そのまま床に叩きつけたのである。そのまま放心に覆いかぶさるようにして、喜悦が完璧な寝技を決めてしまったではないか。
対する放心は、そもそも何があったのか理解出来ていない。抵抗する事は愚か、反応すら許されなかった。その刹那の間に引き起こされた些細な行動に、放心の反応速度が全く追いついていなかったのである。
しかし一つだけ解るのは、放心がここから逃れられないと言う一点だけである。
そんな屈辱に悶える放心を余所に、喜悦が実に狂気的な表情を浮かべながら、放心の耳元で囁いた。
「俺が言ってる事が聞こえないの?こっちはね、「言え」って命令してんだよ」
「な、何を偉そうにッ、ワシがその命令を聞く義理は無いやんけッ…」
「そっか、じゃあ無理矢理言わせるしかないか」
喜悦がそう呟いた瞬間、放心の首元をチクリと刺すような痛みが襲う。
これを機に、放心の意識をぼうっとするような感覚が襲い始めるのだが、不思議と気分は悪くなく…
「何したんやッ…自分ッ…⁉」
「あ、これ?新作の『五倍濃縮コ〇〇ン水溶液』、美味しいでしょ?」
「(アホんだらーーー!)」
さり気なく恐ろしい事をして来るものだが、こう言う事を平然とするのがこの「喜悦」と言う男である。
実際放心は焦りつつも、驚いてはいない。と言うより思いの外『五倍濃縮コ〇〇ン水溶液』の効き目が早く、次第に放心の正常な判断力を奪いつつあるのであった。
「さぁ、言ってごらん?言ったらご褒美として一本、お代わりをあげよう」
「アホ…そんな事して、無事で済むと…」
「そっかぁ、じゃあお仕置きとしてもう一本」
「ああああ!」
喜悦がそう告げた直後に、放心を襲うのはチクリと言う痛みと底知れぬ快感。放心は為す術も無く、喜悦の思うが儘にされるしかなかった。
そうしてこれを何度か繰り返される事数十分…
暫くして放心は意識も無く、その場で痙攣を繰り返すだけの人形と化してしまったのである。
そんな放心を、まるでウジを見るような目で見降す喜悦。しかしその直後に浮かぶのは笑顔であった。
「何て言うか「関心に唆された」ってのが気に食わないけど、結果的には良い材料をゲット出来て何よりだよねぇ♪」
そう…実はこの「喜悦」もまた、独自に職務を担わされた星職者の一人なのである。そんな彼からすれば、上場の成果だと言えた。
事前にその事は既に同士達の間でも共有しており、その甲斐あってこうして「関心」から素材の提供をしてもらえたのだから。若干の不満はありつつも、「関心」には感謝をせねばなるまい。
対する「放心」の事はちょっぴり哀れだと思いつつ、折角頂いた素材なのだから有効活用しようと決意する喜悦であった。
「まぁ…どうせ君ってば、その気になれば身体を乗り換えて復活出来るんでしょ?だったらせめて、一つくらいは俺の『合成獣作成』に使わせてよね」
そう呟くと、喜悦はつい先程まで放心だったモノを担ぎ上げ、そのまま姿を消した。
直後、「カルテル:プレッシーヴォ」内で「首領が神隠しに逢った」等と言う噂が回るようになるのだが、それはここだけの話…
~盗賊団「三頭狼」、アジト近辺~
放心の魔の手から逃れた俺達三人は、再び『オムニバス=エアライン』の車内に戻って来ていた。丁度日が沈む頃合いで、気が付けば大分辺りが暗くなって来ている。
それでも何とか日が沈み切る前に戻る事は出来たのだが、正直言って今の時点でゲッソリと疲れている俺である。フラウも同様みたいだし、ルーナさん本人も底知れない感傷に見舞われている事だろうし…と言う配慮の気持ちも込めて、俺は「話が長くなるなら明日にしない?」と言う提案をそれとなく打診してみた。
ところが、ルーナさんによってあっさりと却下されてしまう。聞けば「事は緊急を要するから」との事。
…奇しくも、今夜は夜通しルーナさんの話を聞かされることになりそうであった。
一応、車内に最低限の寝具は備えてあるので車内泊に問題は無い。しかしポッドは兎も角、コンロ等の調理器具は流石に完備しておらず、シャワーも無いので非常に億劫な夜を強要される事になりそうである。
最も、話が終わり次第仮設住宅に逃げ込むと言う選択肢もあるが…昨日の今日なので若干気は退けるよね。願わくば、最後の手段に取っておきたいと思っている俺であった。
そんな話を聞く気があまり無い俺だが、これを察したのかルーナさんからハイライトの消えた視線を向けられてしまう。これは拙いと、俺は咄嗟に気を引き締め直した。
そしてお茶の一杯も無いまま、ルーナさんによる大切な話が語られ始める。一応、まだキアンが後部座席で寝たまんまなのだが、彼の事は放って置いて良いのだろうか?
「さて…、まず最初に、正式な自己紹介をしておかねばなりません」
「自己紹介、ですか?」
「はい、お二方も薄々勘付いていらっしゃるでしょうが、私の名前「ルーナ」は本名ではありません」
全く勘付いていませんでした、とは口が裂けても言えない俺である。フラウも同様であるらしく、「これはどうしたものか?」と言う困惑の視線を俺に向けて来た。それに対し俺は「知らねーよ!」と言う意味合いで、首を小刻みに横に振って見せた。
しかしルーナさんの話は、そんな俺達を他所に、既に俺達が勘付いていた前提で進められる。
「改めまして、私の本名は「ルナーシャ=エストワール」、実はこの国の第二王女なのです」
意を決して発せられた衝撃の事実を知らされるも、唯々口を紡ぐしかない俺達。
こちら側としては「いきなりそんな暴露されても…」と言う心境なのだが、当のルーナさん…改めルナーシャ王女殿下は、そんな俺達の態度が何処か腑に落ちない様子。
「おや?私が第二王女だと知って、お二方は驚かれないのですか?」
「え?いや、それは…」
いや、驚くと言うより「いきなり何言ってんだこの人?」と言う困惑の方が強いのだ。その言葉を疑うつもりは無いが、だとしても唐突過ぎて何をどうすれば良いか判らないのが今の心境である。
これはフラウも同じようで…
「えーと?こ、こういう時は…お、「王女殿下のお目にかかれました事、大変光栄に存じます」…でしたっけ?」
「え?いやいや!確か…「王女殿下に置かれましては、この度拝謁を賜りまして恐悦至極に存じます」…だったような?あれ?」
「それは王城等の公的な場での礼儀作法では?このような私的な場にはそぐわないでしょう?」
「ええ?でも公的と私的の判断は王女殿下が下す事であって、俺達に決定権は無い訳で…でもあれ?俺達って別にこの国の国民じゃないし、何なら人外居るし、そもそも王女殿下との関係性ってどうなってるんだ?」
「…ああ、細かい作法については今は目を瞑ります、楽にして下さって構いません」
支離滅裂な問答を繰り返す俺達を見て呆れたのだろうか。そうルナーシャ王女殿下直々に御許しを頂いて、正直に言って助かった俺達である。
何せ、俺もフラウも王宮とは縁遠い場所で育っただけに、宮廷作法には詳しくないのである。場合によっては、俺がこの事で糾弾される可能性は無きにしも非ずのだが…そこはお門違いと言う事で突っぱねる所存である。だって俺の担当じゃないし…
それはそうと、他でも無い王女殿下本人から「無礼講で結構」と許しを与えて下さっているのだから、ここは甘んじて受け入れるが吉だろう。最も、その口調の崩し方次第で足元を掬われる可能性はあるので、油断は禁物だが…ここで一呼吸、断り文句を入れておくか。
「…これは失礼、見苦しい所をお見せしました。続けて頂いて構いません」
「何なら敬語も不要です、城内等の公の場内なら兎も角、今の状況で礼節を強要するような真似は望みませんので」
「そう言って頂けると幸いです…」
本来なら安心しきって油断する所。肩をなでおろしているフラウは兎も角、俺は却って警戒を強めていた。
先程までの一連の流れと照らし合わせると、王女殿下の言い草は一見俺達に対する恩赦とも受け取れるが、その実俺達に対する施しとも受け取れる。後者の場合、一体その対価に何を要求する気だ…と、俺は気が気でなかったのである。
いや、邪推するのは止しておこう。これで余計な死路を作る方が危険だ。
そんな俺を余所に、実にキリッとした表情で王女殿下が口を開く。
「さて、話を続けようと思うのですが、宜しいですか?」
「「はい」」
「それでは、僭越ながら、大前提となる話から始めさせていただきましょう」
そう言ってルナーシャ王女殿下が口にし始めたのは、彼女本人の身の上話であった。
俺達は常日頃のような茶々を入れられないまま、ピシッと姿勢を正しつつ、黙ってその話に耳を傾ける。
先にも語っていた通り、ルナーシャ王女殿下は紛れも無く「クロス・ウォール連合王国」の第二王女である。俺達ではその真偽を判定出来ないが、その証拠品まで見せてくれたので間違いないだろう。
また彼女…俺達と既に因縁が生まれてしまった、第一王女ことヴィオラ王女殿下とは同腹の姉妹に当たるようだ。兼ねてより姉とはそれなりに仲が良かったのだと、その口から話して頂けたのだ。
「含みのある言い方…今はそうではない、みたいなニュアンスですね」
「その認識で間違いありません、実はつい一週間程前に、突然城を追い遣られてしまったのです」
聞けば約一週間程前に、姉直属の憲兵を名乗る複数の兵士が殿下の前に現れたのだそう。その時に持参していた姉直筆の書状に、何やら奇妙な物言いで殿下を排除する謳い文句が書き連ねてあったそうである。
これを受けて、ルナーシャ王女殿下は侍女の一人を連れだって、幾らかの貴重品と金銭を持ち出した上で王城を脱出したのだと言っていた。最も、着の身着のままで外に出た為、大した備えは出来なかったようだが…
「政権奪取の為、要事に際し反乱分子となり得る「第二王女ルナーシャ」を始末せよ、とありました」
「妙ですね…」
「私もそう思います、何せ姉は双子の兄である「ガイゼル第一王子」と結託し、数年前の時点で内政を殆ど掌握していらっしゃいましたから」
やはりと言うべきか、ヴィオラ王女殿下は国政に加担しているようである。あの手配書を出す際にも、彼女が何らかの形で関わっている可能性がグンと高まった。
この時点で俺目線ヴィオラ王女殿下の評価は下がる一方なのだが、それとは別にルナーシャ王女殿下から奇妙な証言を聞き入れるに至る。どうにも姉達が国政に携わる間、特にこれと言って両者の仲が悪化するような事は無く…そんな中突如として降って湧いた今回の事態に、殿下本人も困惑の中にあると言う。
これを聞いて俺とフラウは得心が行ったね、間違いなく『天啓』が原因だと。
しかし哀しきかな。ルナーシャ王女殿下は星職者では無いらしく、その理由に心当たりを得る事が出来ないようだ。
「実は私達以外に、異母兄弟が何人かいます、しかしこうして城を追い遣られたのは私だけなんです」
「あれ?異母兄弟達はまだ城内に残っていると?」
「はい、よりにもよって追い出されたのが私だけなんです、これがどうにも不自然で…」
何か話を聞いていく内に、ルナーシャ王女殿下が邪魔になった…と言うよりは、『天啓』のいざこざからどうにかして遠ざけようとしている印象さえ受けた。ある意味異母兄弟とは違って、ルナーシャ王女殿下に限っては二人からも大切に思われているように感じる。
これを受けて、不謹慎にもヴィオラ王女殿下の事を見直した俺である。ルナーシャ王女殿下が身内だからってのもあるかもしれないが、少なくとも俺が勝手に抱いていた悪人像とは似ても似つかない証言であった事に間違いはない。
俺は内心驚きつつも、平静を装って話に耳を傾ける事に注力した。
「何はともあれ、私は城から脱出せねばならなくなりました、そこで私の幼馴染にして専属の侍女であるソフィアを伴って城下に繰り出したのです」
「ソフィアさんですか?そう言えば、さっきチラッと聞き入れましたね」
「はい、私と共に冒険者として活動する傍ら、ソールを名乗っていました」
「ああ、彼女ね。成程」
二人は表向き姉妹と言う設定だったが、その実主従関係にあったと言う事だな。
そして二人は簡単な変装を施しつつ、数日間は城下で物資を買いあさりながら安宿を転々としていたようだが…その過程で、偶然立ち上がったばかりの「冒険者連合組合:デネレイト支部」に顔を出すに至ったようである。
因みにグラッドとアロンの両名とはそこで知り合い、流れでパーティを結成するに至ったのだとか。
「そして一度依頼を受注し、その直後に王都を脱出して辿り着いたのが、このロックスの街なんです」
四人には俺達も街に入る際にお世話になったが、まさかその背景にこんな裏事情が存在していたとは…あの時は俺達も必死だったけど、何と言うか、改めて顔向け出来ないと思う俺である。
そんな俺を他所目に、ルナーシャ王女殿下の話は続く。
「グラッドとアロンの両名はご存じで無いでしょうけど、ソールは私の侍女兼護衛として帯同してくれていました、そんな彼女の亡き今…」
「自分の立場と合わせて、危険極まりない状況が出来上がっていると」
「ご明察です、そこで御三方には相談があるのです」
全てを言わずとも、彼女の言いたい事は完全に理解した。恐らく、今は亡きソフィアの代わりに、俺達を護衛にスカウトしようと考えているのだろう。いざ確認してみたら、案の定その認識で間違いないとの事だ。
だが是非を明らかにする前に落ち着いて考えてみて欲しい、何処の馬の骨とも知らない俺達をそこまで過信して良いものなのか?こう言っては何だけど、現時点で大分怪しいと思うぞ、俺達…
しかし、王女殿下の考えは違うらしい。
「貴方方の実力は確かにこの目で拝見させて頂きました、貴方方なら護衛として不足は無いでしょうし、第一私が盾着いた所で手も足も出ないでしょう」
実に消極的な理由だが、彼女の実力では俺達を禄に相手取る事は出来ない。それならばと、敵対する前に自陣営に引き込む事を画策しているようだ。最も、そんな俺達が護衛してくれれば安心…と言う思いもあるかもしれないが。
しかし提案するのは良しとして、残念ながら放置出来ない障害が幾つか存在しているのも事実。その提案を現実とする為には、彼女自身がこれらを如何に払拭出来るかどうかが鍵となりそうである。
そんな中、突如としてフラウが爆弾を落として来やがった。俺を指差して、とんでもない言いがかりを付けて来たのである。
「でもコイツ、ギャングとグルですよ?」
「えっ?」
「こらフラウ、在らぬ疑いをかけるんじゃない!確かにギャングに顔見知りが居るのは紛れも無い事実だけど、間違えても奴らと徒党を組むような真似はしない!」
ほら、先の戦闘でも容赦しなかったでしょ?と実例を挙げて説得に応じる。
しかしこれに対抗するように、フラウが先日に戸籍を購入した案件の一切を暴露しやがった。
…お前、マジで何しやがる⁉
このフラウの愚行によって、今の俺達が姿形や名前を偽っている事がバレてしまい、ルナーシャ王女殿下からも「裏切ったな⁉」と言うニュアンスを含んでいるであろう、含みのある視線を向けられてしまったでは無いか。
こうなれば白状する他無い、下手に誤魔化そうとする方が却って悪い方向に転じてしまう事だろう。
相手が第二王女殿下と言う事もあり相応のリスクは伴うが、先の戦闘の件と合わせて脅しをかける事も出来るだろう、と邪推した俺は決意を決めた。
念のためにフラウにも確認を執るが、こちらはやれやれとばかりに首を振っている。お前、自分が何をしでかしたのか、自覚していない訳はあるまいな?
「こうなれば仕方ない…今日に至るまで貴女様を騙していた事、この場を借りて謝罪させて頂きたく」
そう言うなり、俺は羅神器を操作し、一時的に三人の変装を解いて見せる。その身形は、恐らくルナーシャ王女殿下にとっても見覚えのあるもので…
俺は久方ぶりに、その甲高く透き通る美声を響かせるべく、口を開いた。
「先日はお世話になりましたね、覚えておいでですか?」
「貴方達は、確か、街の外で出会った…」
「当時は自己紹介も出来ず、尚且つ無理を言ってご足労を頂いた事、改めてここにお詫び申し上げます。せめてもの償いとして、我々の事情もお話ししましょう」
そう言って俺は、普通であれば第二王女に話していい事では無い、自分達の身の上について詳らかに説明した。尚『天啓』については余計な混乱を生むだけと判断し、情報を絞る事にした。
まず俺が「関心」と言う通り名を名乗っており、先に交戦した「放心」とは同士の関係である事。「十大天魔の第一席」に相当する者であり、現在国から指名手配を受けている身である事も明らかにした。
フラウに関しては、本名が「イヴ=テトラ」と言い、七聖教の教会に所属する「第参神祖の巫女」である事。七聖教から追われる身であり、また俺と同様に指名手配を受けている身である事も明かしておく。
キアンに関しては記憶喪失で自身の正体がまだ明確に判っていないが、「十大天魔の第二席」に相当する者である事だけは判明していると伝えた。こちらも同様、指名手配を受けている。
さて、一度にこれを聞き入れてしまった王女殿下だが…案の定心ここに在らずと言った様子で、今にも倒れてしまいそうな位にふら付いていた。どの情報が該当するかは不明だが、彼女にとって衝撃的な情報が含まれていたようである。
それからルナーシャ王女殿下が再起動を果たすまで、数分の時を擁した。放心状態の王女殿下の傍で俺とフラウが口喧嘩を繰り広げながらも、何とか王女殿下は再復帰を果たすに至った。
そしてそのまま、俺達に向かって諦めにも似た文句を吐き捨てる。
「そうだったのですか、道理で皆さん、お強い事で…」
「いや、別に此方にも悪気があった訳では無いと言うか…」
「ルディ、もうこうなった以上罪を重ねるのは控えて下さい。ほら、王女殿下に失礼でしょう?」
「お前が言うなよ!第一お前が余計な事を口走らなければ、こんな事には!」
俺とフラウは何時ものテンションで口喧嘩に移行していたのだが、肝心のルナーシャ王女殿下がそれどころではなさそうだった。
その眼からはハイライトが完全に消滅し、視線は泳ぎ、視点もまるで合っていない。
「もういいです、私の事は煮るなり焼くなり好きになさってください、それで報復とばかりに貴方方に牙を剥いた王国が滅ぶのでしょうね…」
「しないしない!俺達そんなに野蛮じゃないんで!」
「そうですよ!他の二人は兎も角、私にそんな大層な真似出来ませんっ!」
項垂れる第二王女を前に、俺達がそれぞれあの手この手で誤魔化そうとするが、当の本人に届いているようには思えない。
確かに現状王国とは確執がある状態ではあるが、かと言って王国をどうこうしようなんて大逸れた事は考えていないし、まして出来るとも考えていないのだ。
…実際に単独で大国を滅ぼしてしまった「激怒」とか言う同士のせいで信憑性が無くなってきているが、それでも安易にそのような凶行に走る程俺はどうにかしていないし、何ならそこまでして王国を恨んでいる訳でも無かった。
それでもキアンならば「暴走したら何か国が滅んじゃいました」…なんて事が普通に在り得そうで怖いのだが、そんなキアンも俺ならば止められるし、キアンだって普段は良い子!
…って、繰り返すだけ虚しくなって来た。もう何から何まで否定材料が見当たらない。
仕方ないので、俺達がそんなヤバい奴と言う認識の上で話を進めよう。
「…悪いけど話を進めようか。俺達はつい先日ひょんな事で国の軍隊に捕らえられてしまってさ。それから訳あって、殿下の姉君であるヴィオラ王女殿下から召喚命令を受けたんだよ。それで護衛兼監視役を伴って王都まで向かってたんだけど、その最中で七聖教やら魔族やらの襲撃を受けちゃってさ。果てに俺達だけが生き残ってしまったから、仕方なくこうして逃亡生活を送ってる、って次第なんだよ。指名手配も、恐らく俺達が脱走犯みたいな立場になった事でされてしまったんだろう」
「もう止めてあげてください、王女殿下が可哀そうな事に…」
ここまで息継ぎもせず言い放ったのだが、対するルナーシャ殿下は既に限界を迎えていた。参ったとばかりに天を仰いでいる。またこれを受けて、フラウも彼女に同情するかのような仕草を見せる。
フラウに至ってはこっち側の人間だと思っているんだけど…いや、何でも無いです。
フラウの射殺すような視線に日和る俺を差し置いて、ルナーシャ王女殿下はまるで呪詛のようにその言葉を吐き捨てる。
「あはははは、既に賽は投げられたていたのですね、我が国はもう終わりです…」
ダメだ、ルナーシャ王女殿下の表情が、イッちゃってる人のそれだ。ある種18禁と言って差し仕えないような妙に艶やかな御姿で、とても人前に出していい姿じゃないのは明らか。
この状態では話をしようにも会話を成立させる事すら困難かもしれない、そんな非常に危険な状態であったのである。
仕方が無いので、王女殿下が復活するまで俺達は只管に待ち続ける事にした。もう大分夜も更けて来たので、彼女がこのまま眠落ちしてしまうのではないかと不安になってしまうこの頃である。
~~~~~
あれから一時間程経っただろうか、漸く王女殿下が復活を遂げた。未だ疲労の色が抜けていないように見受けられるが、それでも何とか気を持ち直したようである。
そして復活するや否や、彼女からの怒涛の質問攻めに逢う俺達である。
「もう何から尋ねて良いか判りませんが…、まず貴方方があの指名手配犯だと言う話、本当なのですか?」
「多分、手配書を見ただけだから確信は無いけど、その内容と俺達の特徴は一致している筈だよ」
これは確定では無いが、凡そ間違いないだろうと言う憶測の下で話をしていた。
最も、その時期と場所に加えて、他に例を見ないような外見の記載…逆に俺達以外の人物だと言い張る方が無理があると言うものだ。
「本当なのですね…、因みにさっきの殺人鬼とルディウス様が、「同士」と言う近いしい関係でいらっしゃると言うのも?」
「…何故に様付けなのかは疑問が残るけど、本当だとも。認めたくはないけどさ…」
「では、フラウメル様が、七聖教の中でも上位の立場である「第参神祖の巫女」と言うのも?」
「事実です…」
不思議と、先程から立場の変動が起きたのではないかと錯覚し始める俺である。一応俺も人間社会に潜む身として、目の前の王女殿下に対しては頭が上がらないのが定石だと思うのだが…
「では最後に、ルディウス様とキアン様のご両名が、「十大天魔」のそれぞれ「第一席」と「第二席」でいらっしゃるのも?」
「それに関しては…」
正直な所、俺もキアンも詳しい事を知っている訳では無い。生憎とフラウも噂程度に聞いただけで、詳しい事情を知り得た訳では無いようだった。
それでも一応、第三者からお墨付きのようなものを頂いた事、「第一席」と「第二席」に纏わる数少ない伝承を照らし合わせるに、その可能性がある事をそれとなく伝えておいた。
但し最後に念押しするのは忘れない、確定事項じゃないからね?と。
しかしそこまでして、ルナーシャ王女殿下の表情は優れない。心ここに在らずの状態が依然継続されているようだった。
「そうですか、それも、本当なのですね…」
「あの、俺の話聞いてた?」
「ええ、だからこそ得心が行きました…、間違いなく本物なのだろなと」
聞けば王女殿下、嘗て城内に保管されている歴史書を呼んだことがあるらしく、そこで「十大天魔」に纏わる文章を目の当たりにした事があるようだ。
そんな彼女の口から語られた情報は、明らかに俺達の知識とはかけ離れた詳細な物であったのだ。
~~~~~
◎十大天魔とは…歴史上で十例しか確認されていない、「魔物」を起点とし、これらの特性を有したまま「天種」の種族階級に至った十柱の最上位魔物を指す。
現在その存在が確認されているのは「第一席」と「第二席」を除く八柱だが、歴史の証言者に拠れば確実にこの二柱も存在していると言う。
従来の天種と異なり、単独で複数柱分の天種の特性を有する規格外の存在で、今では主に現存する八柱の「配下に相当する世界」が各地に展開されており、その苗床の下で下々の生活が営まれているのだと言う。
〇第一席:神樹
〇第二席:世界樹
〇第三席:理想郷
〇第四席:大陸
〇第五席:楽園
〇第六席:秘境
〇第七席:空想郷
〇第八席:幻想郷
〇第九席:混沌
〇第十席:箱庭
正確には「席次=実力」と言う訳では無く、「席次=勢力規模」と置き換えられるらしい。上の席次になればなる程、全世界において強い影響力と総合勢力を有すると言う。
この中で「第一席:神樹」と「第二席:世界樹」のみ、その詳細な情報が判明していない。
~~~~~
これを聞いて、真っ先に浮かんだのは疑問。
何故、世界的に見ても影響力が大きい「第一席」と「第二席」のみ、その正体が判明していないのか…明らかに異常事態であると言えた。ま、その本人達がこの場に居るんだけども。
それはそうと、この話を見聞きしたルナーシャ王女殿下からすれば信じられない話なのも仕方なく…いや、本人は俺達の事を疑っている訳では無さそうだ。単純に事と次第を受け止め切れずにいるのだろう。
にしても俺、十大天魔としては「神樹」なんて大層な渾名で認識されてるんだな。俺やペットの能力を見る限りでは、神樹に関連しそうな要素なんて微塵も思い当たらないのだけど…一体どこの誰が、何を思ってそんな仰々しい名前を吹聴し始めたのやら。
それと同時に、キアンの渾名は「世界樹」と。同じ樹に纏わる渾名となっていて、何処かシンパシーのようなものを感じる。キアンってば案外、実は俺達に憧れてたりとかするのかな?ま、多分気の所為だろう。
何なら、未だ俺やペットが人違いならぬ魔物違いを受けている可能性だってある訳だし、自分の事を第一席だと自覚する必要は無いようにも思う。言ってしまった以上撤回出来ないかもだけど、これで勘違いだったら物凄く恥ずかしい奴だよね。コレ。
まぁ何にせよだ。本人でもない限り、十大天魔を名乗ると言う危険極まりない行いは出来ないと言う事だけは明らか。
個人的には、自分以外で「十大天魔」を名乗る馬鹿が居たら、遠慮なくお譲りするのにな…なんて下らない事を考える始末。ハッキリ言って、こんな面倒臭そうな肩書は要らないのである。とか言いながら、使えそうな時にはこうして遠慮なく使っちゃう訳だけどさ。勿論リスクは承知の上で、だけどね。
そんな楽観的な俺の心情を察したのかジト目を向けてくるフラウと、一見泰然自若にも見える俺の態度を受けて納得するルナーシャ王女殿下とのコントラストが気持ち悪い。どう言う訳か、俺は只一人居た堪れない気持ちに襲われていたのである。
だがここで、俺達の想定していない事態が引き起こされてしまった。それを証明するかの如く、ルナーシャ王女殿下が徐に笑みを浮かべ、語り始める。
「しかしある意味、私も幸運なのかもしれません」
「「はい?」」
「何と言っても、この状況下で生き残る事が出来た事こそが奇跡、これもある意味天の思し召しなのかもしれません」
「「⁉」」
これだけで俺は理解したね。追い込まれていたルナーシャ王女殿下が遂に、無敵状態へと突入したのだと。
「確かに御三方が私以上の御方である事は言うまでもありません、しかしそれとこれとは別、と言うものですよね」
「えーと殿下?いきなり何を…?」
「私は思うのです、私の命運がお三方の手に委ねられているように、お三方の命運も私の手に委ねられているのでないかと」
「?」
「成程、言わんとする事は解った」
王女殿下の言葉の意味を要約すると、俺達三人が何時でも物理的にルナーシャ王女殿下を葬れるのに対し、ルナーシャ殿下は何時でも社会的に俺達を葬れる、と言う事だろうか。
でもこの言い分は確かに、ある種の説得力を有しているように感じる。正面切って戦えば俺達が負ける事は無いが、それとは別にルナーシャ王女殿下は俺達の致命的な弱みを握ってしまった。まぁ俺やキアンに関しては然程でも無いのだが、少なくともフラウに関しては絶対にバラされたくないのも事実。
これに加えて、王女殿下の知らない所で俺達に『天啓』の影響が差し迫っている以上、案外無視する事は出来なかった。それもその筈…仮にフラウが余計な面倒事に巻き込まれようものなら、必然と俺達も巻き添えを食らうからな。
また俺達の弱みに関しても、ばらされ方次第では、以降人間社会で生きていけなくなる可能性が高かった。要はフラウを人質に取って、俺達にも同様に揺さぶりを加えつつ、非力な王女殿下が上位者たる俺達に交渉を吹っ掛けようとしてきているのである。
俺は内心感動していた。
この土壇場で、この絶体絶命の窮地で、そこまで思い切った行動が取れる勇気ある者が、果たしてどれだけ居る事かと。それに向こう見ずで投げやりな対応を行うでもない、ちゃんと状況を汲まなく加味した上で、自分の中で整合性と勝算を得た上で行動を起こしていたのだ。
それによく見てみれば、この少女もフラウやキアンと同様、ちゃんと『王の器』を有しているでは無いか。
この時点で俺は、大分愉快な気持ちになっていた。王女殿下がどのような無茶を言い出すかは分からないが、これに乗ってみるのも一興かと思い始めていたのだ。
最も、今後の行動次第で変わる可能性があるとは付け加えておくけどね。
「其方の要望をお聞かせいただきたい、此方も前向きに検討する所存だ」
「ルディ、本気ですか?」
「なら遠慮なく…、以降私と冒険者パーティを組み、私直属の護衛として任を果たして頂きたい」
その物言いは明らかに、自分の部下として召し仕えようとしている者相手に対するものでは無かったが…前向きに検討するとは言ったが、これは本当によくよく考えねばなるまい。
何せ俺達が徒党を組んでいるのは、他でも無い『天啓』が大きく関わって来るからだ。そこに無関係な人員を巻き込むのは単純に気が引けるし、そうなるとどうしても隠し通せる物ではなくなってしまう。
一応最後の手段として「第二世代」のようなやり方も無くは無いが、これを使えるのは俺だけだし、俺の場合は人間を辞める事を強要せねばならない。まだその段階に至っていないのが救いか、はたまた不都合を生んでいるのかは不明だが、どの道彼女と『天啓』との付き合い方について今一度確認しておく必要があるのだ。
しかしここで、俺の中で実に性格の悪い考えが浮かぶ。
「承った、その申し出を受け入れよう」
「ルディ⁉」
「気にするな、俺にも考えがある」
「そうですか?それなら良い…んでしょうか?」
フラウが訊ねてくるが、それは俺にも判らない。なので黙るしかなかった。
しかしこれは、俺達目線で見てもメリッがもそれなりに多い提案だ。
この国の第二王女と言う絶妙な権力者との繋がりが出来たもの僥倖だし、何より俺達の指名手配の件を知りながら、この提案をしてくれていると言うのが何よりも大きい。これは第二王女を共犯に巻き込むと言う事の裏返しでもあるが、どうやら本人もこの可能性に思い至った上で提案して来ている模様。
「ただ幾つか聞かせてくれ、それは…」
一つ気になったのは、王女の理解がどの程度まで及んでいるかと言う事。諸刃の剣としての側面を有する危険な提案である以上、もし王女殿下の理解量が規定を満たしていないならば、話にならないと手の平を返す必要があるだろう。
そこで試しに聞いてみたのだが…
「無論です、この際身分の話は置いておいて、互いに有意義な関係を結ぶのが先決でしょう」
「ほう?俺達にどんなメリットがあるのかな?」
「先ずお三方の指名手配の件、そして隠していらっしゃった秘密の件…、私ならば表沙汰にせずとも独自に対処のしようがあると断言出来ましょう」
「…良かったら、殿下の具体的な考えをお聞かせいただいても?」
そう俺が問い返すと、ルナーシャ王女殿下は自分なりの展望と考えを割と素直に話してくれた。どうやら王女殿下の方も、俺達に対して意外にも好意的な見方をしてくれているようだな。
下手したら先の一連の反応も、俺達から情報を引き出すための手段としてやっていた可能性さえある。そうなるとかなりの傑物、しかも見た目の年齢ではまだ成人するかどうかと言った所。この年齢でここまで判っているのなら、俺としては下手に憂う方が野暮と言うものだった。
そして粗方の話を聞き終えた上で、俺は最終判断を下す。
それは、そこまで判っているなら大丈夫そうかなと言った所。まだまだ完全に信用が置ける相手では無いが、少なくともこの時点で利害の不一致が生じる間柄では無いと見た。
さすればここは、状況が状況だけに手を取り合うべきだろう。また上手い事この関係性の調整、或いは見せ方の工夫を行えば大分取れる手段が広がると言うものだ。
隠すまでも無く、俺達が王女殿下を利用する事を意味するが、これは王女殿下本人にとっても有利に働く事が多いだろう。俺達がそこらの一般人ならまだしも、三人全員がそれぞれ規格外の何かを持った特殊な人員なのだ。殿下の方でも俺と同様の事を考えているに違いない、そうであれば今後の展望にもかなりの期待が持てると言うもの。
逆にここで断る方が、お俺達にとって都合の悪い展開に発展する可能性さえあった。少なくとも、第二王女の才覚は意外にも本物だ。第一王女や第一王子の陰に隠れていたのかもしれないが、仮に第二王女が国政を担ったとしても、割と差し障りなく国を治められるんじゃないかと言うのが俺の見解だ。
そんな相手なら、敵に回す方がよっぽど危険だ。ここまで織り込んだ上でこの交渉に臨んでいるのかは定かでは無いが、それらを総合的に加味しても、この提案を受け入れる以外の選択肢は無いように感じられたのである。
と言う事で、以上の事を踏まえた上で、俺は王女殿下の提案を承諾する事とした。フラウにもそれとなく説明を行い、その甲斐あって何とか納得して貰えたようである。
「それでは、今後とも、宜しくお願いします」
「はい…これから宜しくお願いします(何か組合のメルリアさんを思い出しますね)」
「ああ、こちらこそ(確かに、言われてみれば似てるとこあるかも)」
俺達は密かに軽口を叩きながらも、ルナーシャ王女殿下の申し出に賛同し、これに応じる旨を示す。お仲間が死んだ当日に不謹慎だとは思うが、他でも無い殿下本人が良しとするのだから、俺達としてはそんな彼女の意思を尊重するのが先決だろう。
こうして薄暗い森の中で行われた密談を経て、俺達の間で新たな協定が結ばれたのである。




