第十二話:便乗
殆ど閑話です。本編には…やや関係して来ます。
~翌日~
今日は予定通りであれば、冒険者になった記念…では無いけど、試しに手ごろな依頼を一つ受けてみようと言う話になっていた。
…しかし昨晩宿に戻ってから天候が急変。一夜明けた今も外は土砂降りである。
残念ながら、この天気では依頼等と言っていられない。視界が霧立って危うい程の大雨が降っており、土地勘のない俺達三人では最悪街の外で遭難する危険性もある。
リスクが大きいし、そもそも大雨で気が乗らない事もあり、今日中の冒険者デビューは敢え無く中止となった。
そうなると急に暇になってしまうのだが、かと言って他にやるべき事が今のところ特に無かった。これからほぼ休みなく多忙を極める毎日を想定していた中で、突如として降って湧いたモラトリアムである。
このまま部屋でゴロゴロするのも悪くないが、個人的に今後の事を考えてやっておきたい事があった。折角なのでこれに取り掛かろうと思い立ったのである。
と言う事で、俺達三人は一度宿を出た。これから目的の場所に向かおうと思う。
当初は一人で行こうと思っていたのだが、二人も俺に同行すると言い出したので連れていく事にした。単純に暇つぶしのつもりなんだろうな、恐らく深い意味は無いと思われる。
「こんな大雨の中お出かけなんて、正気?」
「俺は正気だよ。それより、別に二人は付いて来なくても良かったのに」
キアンが唐突に噛み付いて来るが、俺の意見は後に発した返答に集約されている。
文句を言うくらいなら留守番していれば良かったのに…しかし想定通りと言うか、フラウによる何の変哲も無い物言いと共にキアンは庇われる事になる。
「どうせ部屋に居た所で暇なだけですし、別に付いてくる分には差し支えないのでしょう?」
「別にいいけどさ」
因みに俺達は傘を持っていない。代わりに俺の所有する羅神器を使い、断水効果を持つ「障壁」を張って雨風を凌ぐ事にした。「障壁」は俺を中心に半径三メートルの球状で固定し、その中に二人が入れば三人全員が雨に濡れず外を歩ける。
効果は断水効果だけなので非常に低コストで使えるのだが、それ以外の効果を持たせていない為簡単に解けてしまうのがネックである。万が一事故にでも遭うと、障壁は跡形も無く粉砕されてしまうだろう。
そんな事はさて置き、俺みたく戦闘における絶対的な切り札となり得る羅神器を、こんなどうでも良いような事で活用するような物好きも他に居ないと思うけどね。
…とまぁ、そんな俺達が辿り着いたのは、一目見て直ぐに判る中古の車屋さん。
主に型式の古い車両を自社で修理して販売しているお店で、聞けばガレージや工房の短期レンタルも可能なのだそう。俺は昨晩、宿に帰る直前にこのお店に寄り、工房のレンタルを予約してあったのだ。その時、序とばかりに中古車も一台購入を済ませていたのである。
元はと言えば今日は三人で依頼を受け、その翌日からこの工房にお世話になる予定だった。しかし雨が降っては戦は出来ない、店主にも許可を頂いた挙句、こうして予定変更をするに至ったのである。
そんなこんなで店の扉をこじ開けると、その奥で新聞を読み漁っていたのであろう店主が俺達に気付き、軽く片手を上げて挨拶してくれた。
「お客さん、お待ちしてましたぜ」
「こちらこそ、急な予定変更に応じて頂き、ありがとうございます」
「いいって事ですぜ!それはそうと、直ぐに始められるんで?」
「ええ。ですが絶好の改造日和…とはなりませんでしたね」
「ですなぁ!こんな大雨の中来るだけでも大変だったでしょう、一休みしたら早速案内しますぜ」
見た目は少し厳ついが、案外気のいい店主である。
彼は店員の一人にお茶を入れるよう催促するが、今は兎に角時間が惜しい。俺としては速やかに作業を始めたい気分なのである。
「気持ちはありがたいんですけど、このまま案内して下さい。出来るだけ早く終わらせたいので」
「ほいさ!では着いて来てくんなせぇ!お茶は後で運ばせますんで」
そうして店主に案内されたのは、店の傍に併設された車両の修理工房。こじんまりとした古い工房だが、必要な道具はしっかりと揃えられており、小奇麗に片されている。
設備含めてメンテナンスも万全に済ませてあるらしく、工房内の機械類は何時でも使用可能な状態にしてあった。
そんな工房の中央に停められているのは、小型バスのような形状をした車両。使用者の魔力と電力、石油の三つの燃料で動かせるハイブリットカーで、型式は今売られている最新式の一つ前の物になる。
製造されて五年程経った物で、大きめの車両と言う事もあってそこそこいいお値段がした。流石に現金で払いにくいお値段で、今回はマグノリア商会が運営するクレジットカードを用いてお支払いを済ませてある。これも含めて必要経費とは言え、ここの所大きな出費が多くて胃が痛い…
そして俺がここにやって来た理由は只一つ、この車両を改造する為である。
と言うのも、今後俺達は世界各地を縦横無尽に移動する必要がある訳だが、移動と言うものは想像以上に時間を食ってしまう。
俺の職務を見ても明らかなのだが、移動手段が徒歩ではとても期限に間に合わない。仮に地上を車両で進んでも、期限に間に合わない可能性は依然残る。と言うか、あまりにも職務の内容が多過ぎる為、現実的に間に合わないと俺は確信していた。
一応、複数の世界を跨ぐ鉄道「大陸共同鉄道網」を走る魔導列車や、空路「大陸共同航空路」を進む魔導飛行船等と言った公共交通機関も無くは無いが、鉄道は安い代わりに時間を食うし、空路の方はコストが相当高くつく。
それに万が一の場合、便そのものに影響が出たり、果てには欠便欠航に至る可能性も少なくない。利用するべき時はするが、これららに依存する状況は危ういと踏んでいた。
それ故俺は考えた、今の俺達には単独で空を移動できる手段が必要であると。
しかし飛行機は値段が高い上、空以外での移動に滅法向いておらず、駐車にも数々の困難を伴う。故に地上をメインとしつつ、空中の移動にも対応した乗り物を用意し用途考えたのである。
勿論そんなもの、店頭で買い求めようと思っても早々見つからないし、見つかってもそのお値段が尋常でない代物である可能性が高い。
だったら、初めから陸上に対応した車両を自分の手で改造した方が早い…俺はそう考えたのである。
残念ながら完成した所で、言うまでも無く違法車両になってしまうのだが、そこは外見を工夫して陸上用の車両に上手い事偽装しようと考えている。
実は『天啓』に道具作成の職務があった事からもお解りだと思うが、俺は物造りにはそれ相応の自信と技術、それと一番大事な矜持があるのである。
余談だが、俺が使っている戸籍の人物「ルディ」は普通自動車免許を取得しているし、「マスティファ」に限っては現存する全ての乗り物の免許を保有している。一見、交通法に関して障害は存在しない。
そんな感じで今から始める気満々の俺は、親愛なる野次馬たるキアンとフラウの二人に、俺唯一の要望を投げかける。
「って事で、今から爆速で作業するんだけど…工房内は危険だから二人には外で待っていて欲しい」
「待つって…どれくらいかかりそうなの?」
「分からない。ただ今日中に終わらす」
必要な道具、材料は全て揃っている。後は上手い事組み込むだけなのだが、普通にやるとすると…設計や試作、塗装や接着剤の待ち時間等もコミコミで考えて、最低でも一週間は欲しい所。
だがそんな長い時間はかけていられない、故にほんの少しズルをして時間短縮に努めようと思う。無理矢理今日中に終わらせます。
これを受けて、怪訝そうな視線を向けてくるのがフラウである。解せぬ。
「まさか、手抜きをするって訳では?」
「するのは手抜きじゃなくてズルだ。俺は疲れるが、仕上がりに然したる影響は出さない」
「おお、何かカッコいいかも!」
今の俺は、嘗てない程に目が座っていた。キアンのさり気ないヨイショも相まって、俺の威厳と自信が殊更磨き上げられていくのが感じる。
やっぱり俺は物作りが何だかんだで好きなんだろうな。
「と言う事で早速始めるから。完成を楽しみにしていたまえ」
「は、はい」
何時になくやる気に満ち溢れる俺は、一人引き気味のフラウを差し置いて一人、工房に籠って作業を始めるのであった。
周囲にけたたましい音を響かせながら、時に一転変わって静かになりながら…朝から始めた作業は日が暮れた直後位まで続けられた。
そうして無事に完成したのである。
…
その間、二人は店主にお世話になり、店内で地上波の番組を見ながら時間を潰したそうである。
凄く暇だったと文句を言われたが、俺が悪い訳では無いと思う。第一、野次馬にそれを言われたくなないね。
そんな文句は胸の内で黙殺し、俺はいつも以上に鼻を高くしながら二人と店主を呼び寄せた。
「しかと刮目するが良い!これが陸空両用の改造車両『オムニバス=エアライン』だ!」
「「お、おぉ…」」
「ほー、こりゃ原形が無くなるまでとことん改造してやがんなぁ!」
付き添いの二人と店主相手に披露したのは、今回苦心の末に完成させた至極の作品『オムニバス=エアライン』。
ここだけの話、これの原形となった車両が「オムニバス」と言う車種で、そのまま何の捻りも無く名称を決めている。
「聞いて驚け!この『オムニバス=エアライン』はな…」
俺は声高々に、自慢の作品の説明を行う。
外見はちょっと装飾が派手なだけで、通常の小型バスと何の遜色も無い陸上用の車両。装飾は別の機種と言って良い程に変更が加えられており、まっ平らな正面部分は新幹線を彷彿とさせる先端が尖った形状になり、全体的に見てスタイリッシュでシャープなデザインに仕上がっている。
その内部機構もまた、全くの別機種と言って良い程に一新されていた。
元々は十二人乗りの小型バスだったのが、現在では約半分の七人乗りにまで縮小されている。
それは前方の形状を変更し、後部座席付近に風力式推進器兼火力式推進器を搭載した為である。
その為車両後部はゴテゴテとしており、今にも火を噴きそうな筒状の推進器の先端が顔を覗かせて厳つい様相を呈している。
一見して派手な装飾の車両ではあるが、似たような形状の車両もごく稀に見られる為、精々痛いデザイン位にしか思われないだろうと俺は想定していた。
そして空を進むことを想定し、外装フレームをより軽く頑丈に、陸上用の車両とは全く別の形式に一新してある。
例えば窓や扉の形状や、運転座席の計器や操縦機器等にも大幅な改良を施してある。運転時は陸上と空中で、それぞれ別の推進器や操縦機器に切り替えて用いる事を想定して設計してみた。乗用車のハンドルとフットペダル、これと飛行機の操縦桿がセットになった運転席は、何処か男心を擽るモノがあった。
実際、これを見てフラウ以外の面々は総じてその目を輝かせている。
そんな中、一人冷静なフラウが質問を投げかけてくる。これにキアンも乗じた。
「この車両、空を飛べるのに機翼は無いんですね…?」
「これ、本当に空を飛べるの?」
「いい質問だが、答えはYESだ!」
「ルディ、何時になくご機嫌だね…」
キアンの言う通り、俺は何時に増してご機嫌である。
と言うのも、この車両のキモは「反重力装置を利用した空中移動手段」にあるのだ。
車両の下部、潜り込まないと見えない部分に反重力装置と小型の火力式推進器を搭載し、これを起動させる事で地面から車を浮かせる事が可能。
更に車両の車輪は変形機構を有しており、底面と水平に展開して反重力力場を発生させる装置を展開。これを車両内部に搭載した特別製の高性能コンピュータによって操作し、安定した姿勢制御を行う事が出来るのだから。
その上で後方の火力式推進器を用いて前方へのスムーズな加速を実現、方向変換は後方の火力式推進器そのものの向きを一部だけ変えたり、車輪に搭載された反重力力場による姿勢制御の応用で転換。
ブレーキは車両前方と車両側面に設置してあり、小型のジェットエンジンを噴射しつつ、機翼に搭載されているような返しを用いる手法と、一部装甲を変化させて空気抵抗を生み出す事で実現した。地上と比べて性能は落ちるが、距離の計算さえ怠らなければ確実に空中で制止する事も可能になる。
結果的に、航空機と言うよりかは、ヘリコプターのような乗り物に仕上がった。その上でジェット機並みのスピードも出そうと思えば出せると言う、ちょっと危険な代物になっている。
まぁ、無茶な運転さえしなければ早々事故は起こさないと思う。シュミレーション上は大した問題は出ていないので、大丈夫なはず…基本的にはヘリコプター並みの速度で運転するのが良いとは思うけどね。
無論これだけでは無い。他にも様々なギミックを仕込んであるからして…正直に言って、これ以上に便利な車両などこの世に現存していないと確信している俺である。
「真面に動く代物かは知りませんが、これを一日で造ったとなると驚きです」
「もー、勿体ぶらなくていいのに。あまりの偉業に感涙して、遠回しに称える言葉も見つからないんでしょ」
フラウの若干の呆れを含むであろう誉め言葉を、俺は馬鹿正直に受け取ってデレる。周囲の事なんかお構いなしに絆されて見せたのである。
これに待ったをかけたのが、人の心を持たぬ哀しき破壊生物、キアンその人なのであった。
「何だろう、ルディが何時に増してノリノリで気持ち悪い…」
「んだとゴラァ⁉」
…否定はしないが、俺だって何も考えずにこれを造った訳じゃないんだぞ?
世の中には俺の事を単細胞だとかほざく輩も実際に居ない事は無いのだが、今回に限ってはその戯言を鼻で笑い飛ばせるとさえ思っている。
その証拠にほら!この車両、等級が神話級にまで高められているのだ。
何故に神話級?と思う者も少なく無いかもしれないが、よくよく思い出して欲しい。
物のついでとばかりに下された、『天啓』の職務の一枠を。
終了条件が定められていない、また内容がふざけにふざけ過ぎている、まるで呪詛のような役割の一端を。
勿論忘れてはいない。本音を言うなら放り出してしまいたいのだが、それを実行するとなると却って死路に繋がってしまう。なので、せめて真面目にやってる風だけは醸し出しておこうと思った次第である。
俺の事をチキンだとか、軟弱者だとか、笑いたい奴は笑えばいいさ。それでも俺は屈しないけどね!
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③「RPG、アイテム」⇒未
基本路線:RPGで用いるアイテムの作成、及び設置。
概要:RPGで用いるアイテムの内、幻想級及び神話級のアイテムを作成する。この職務は完了期間が定められない。
職務①幻想級のアイテムを作成する。
職務②神話級のアイテムを作成する。
詳細情報
・神話にて実施されるRPGの舞台において使用、配布、販売、習得可能な道具またはアイテムを作成する事を原則とする。尚幻想級及び神話級の等級のアイテムを担当する事。
・必ず何れかの等級である事を条件とし、これをRPGの舞台にて使用可能な状態に仕上げておく事。
・持たせる性能や権能は既定の範囲内であれば自由とする。また道具の種類や用途等も、各自で判断の上作成して良い。
・一定期間内に、一定数の個数を作成する事を義務付ける。これを満たさない場合、星職統括者による制裁の対象となる。
必要条項
〇「道具の等級」について。
・RPGにおいては、原則道具の質や性能に応じて、以下の等級に分けて判断するものとする。
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・羅神器
→計366振存在する究極の宝剣。内包する天使徒の階級に応じて、武器としての等級も変化する(最低神代級、最高で創世級以上)。ここでは最高位の羅神器を同等の等級として判定し、必ず「世界系」の権能を有する。羅神器に宿る天使徒に認められた者のみが獲得出来る道具であり、原則価値を推し量れない類の道具に当たる。
・創世級
→単体で世界に対し、干渉する権限や手段を有する道具に付けられる等級。道具と言う概念に収まらず、世界の規則や根幹に足を踏み入れる為の「トリガー」としての役割を持つようになる。必ず「領域系」の権能を有する。世界各地の王億貴族や屈指の実力者が所有する事がごく稀にある道具だが、実例が極めて少ない。
・神代級
→単体の道具としては最高性能の物に付けられる等級。道具の枠に収まる範囲内では至高の性能を誇り、必ず「領域系」には及ばない何かしらの権能を有する。道具の練度を挙げる事で権能は発展するものの、原則、創世級には到達し得ない道具に付けられる等級となっている。世界各地の王侯貴族や世界屈指の実力者が有する事が稀にある道具で、獲得自体が極めて困難。
・幻想級
→単体の道具としては神代級に準ずる性能の物に付けられる等級。初期段階の次点で必ず、「領域系」には遠く及ばない何かしらの権能を有する。道具の練度を挙げる事で、権能が発展する可能性を有する道具に付けられる等級となっている。世界各地の王侯貴族や世界屈指の実力者が有する事がある道具で、希少価値が著しく高い。
・伝説級
→単体の道具としては幻想級に準ずる性能の物に付けられる等級。「領域系」には遠く及ばない何かしらの権能を獲得する可能性のある等級。初期段階では権能を有さないものの、道具の練度を上げる事により、獲得する可能性を有する道具に付けられる等級となっている。世界各地の有力者や実力者が家宝にする事が多い道具で、希少価値が高い。
・秘宝級
→単体の道具としては伝説級に準ずる性能の物に付けられる等級。「領域系」には遠く及ばない何かしらの権能を僅かながらに獲得する可能性のある等級。初期段階では権能を有さないものの、道具の練度を最大まで上げる事により、獲得する可能性が生まれる道具に付けられる等級となっている。世界各地の有力者や実力者が有する事が多い道具で、希少価値がやや高い。
・特殊級
→単体の道具としては秘宝級に準ずる性能の物に付けられる等級。原則権能は獲得しない。当初想定された目的通りの運用にこの上ないレベルの道具に付けられる等級で、商品価値は著しく高い。
・希少級
→単体の道具としては特殊級に準ずる性能の物に付けられる等級。原則権能は獲得しない。当初想定された目的通りの運用に支障が出ないレベルの道具に付けられる等級で、商品価値はやや高い。
・通常級
→単体の道具としては希少級に準ずる性能の物に付けられる等級。原則権能は獲得しない。当初想定された目的通りの運用が問題無く出来るレベルの道具に付けられる等級で、商品価値は普通。
・量産級
→単体の道具としては通常級に準ずる性能の物に付けられる等級。原則権能は獲得しない。当初想定された目的通りの運用が最低限出来るレベルの道具に付けられる等級で、商品価値はやや低い。
・粗悪級
→単体の道具としては量産級に準ずる性能の物に付けられる等級。原則権能は獲得しない。当初想定された目的通りの運用が出来るかどうか怪しいレベルの道具に付けられる等級で、商品価値は著しく低い。
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・道具の鑑定は各自に配布する「鑑定モジュール」にて行い、条件を満たした道具を作成する毎にカウントされていく。作成した道具は後日回収するので、それまで各自で厳正に保管しておく事。
・上記のリストに従い、特定の要素を確実に盛り込み、不具合や誤作動が起きないように作成する事。
・必ずRPGの使用用途に則った道具を作成し、必ず担当する等級に合わせた性能で作成する事。その条件に合わない道具は原則カウントされないが、場合によっては回収する事がある為、何れも保管しておく事。
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道具を作成するだけ作成し、それが天上神祖に接収…もとい強奪される事が確定している、無慈悲で身勝手、しかも作成者に一切のリスペクト感じられない職務となっているコレ。
その上注文が多く、その割にRPGとやらの詳細な情報が明かされておらず、しかも作成時に満たすべき規定などが曖昧で、最早職務として成り立っているのかどうかすら不明の雑な内容となっていた。本当にやる気あるのかコレ?
先にも言った通り、正直やる気が微塵も出ないのだが…やらなければやらないで酷い目に遭わされる事が通告されている為、現状は泣く泣くやるしかない。
ガバガバな仕事を強制してくる癖して、向こうも逃がすつもりだけは無いそうなので、それならと少し試してみる事にしたのだ。
現状は私物にする気満々の逸品だが、一周回ってそのRPGとやらで使える可能性もゼロでは無い、等級だけは「神話級」の道具。これを造った後で、周囲で何か変化や反応があるか見てみて、判断基準を探ろうとしたのである。
上手く行けば、雑な作業をしてサボる事も出来るだろうし、何なら思わぬ抜け道を探し当てる事も出来るかもしれない。
実はそんな情報収集の一環も兼ねて作成してみたのが、この「オムニバス=エアライン」なのである。
うん。頼まれても居ないのに、しれっと条件をクリアした俺って偉い。
俺はそんな感じで悦に浸っていたのだが、現実…と言うより、フラウが厳しかった。
「ルディ、あまり調子に乗り過ぎると罰が当たりますよ」
「んなもん知るか!礼儀の欠片も無い、第弐拾参のクソ野郎なんかpiー自主規制ーii!」
「調子に乗ってる…と言うよりヤケクソだよねこれ」
キアンも同様に冷静なのは良い事だが、それでも俺の不満は燻る所を知らなかった。
ちゃんと第弐拾参の要望に従って仕事してますよ、俺は。
まだ文句がありますか?まだお気に召しませんか?
そんな自暴自棄の境地に至ろうとしている俺が尚、気になっている例の反応なのだが…皆無。
カウントされないのは元より、労い…は兎も角、状況説明も釈明の言葉も何も無く、無言。
短時間で巻きの作業ではあったとは言え、ちゃんと丁寧な作業は心掛けたし、ズルも第弐拾参神祖の気を損ねるようなものでは無かった筈だ。
なのにそんな俺の渾身の作品は、残念ながらお上のお眼鏡に適わなかったようである。
クソが。
あー、クソが!
…
「piー自主規制ーii!!」
「だめだこの人、もう今日は休んだ方がいいね」
「本当、ご迷惑をおかけしてもうしわけございません…」
「いや、それはいいんだがよぅ。あんちゃん、急にどうしちまったんだ?」
何てことは無い、大好きな物造りに勤しんだ事によりアドレナリンがドバドバ出ており、そこに『天啓』に纏わる心的外傷とストレスが爆発的に反応した結果、理性が飛びかけているだけの話である。
俗に言う、キマッてる状況だな。
しかしそんな俺とは別に、フラウとキアンは依然冷静沈着そのもので羨ましい限りなのだが、そんな二人がどう言う訳か店主に対し釈明をしていると言う、訳の分からない展開が繰り広げられていたのであった。
その場でのたうち回るだけの哀しい怪物と化した俺はさて置き、今回は悔しくも不発に終わってしまったようである。
言いたいことが無い訳では無いが、徒労の末、このやり方では職務として見なされない事が判っただけでも収穫と言えよう。
念願?のマイカーも手に入った事だしね。取り上げられなかっただけ、見方によっては結果上々とも言えよう。
まだ判断材料が少ないので確実な事は言えないが、多分「初めからRPGで使う事を想定して造れ」って事なんだろうね。
とは言えそもそもこの車両、RPGとやらで全く使い道の無い代物なのかな?せめてRPGとやらの情報だけでも寄こして欲しいよなぁ。
何だろう。もう、第弐拾参神祖のアホに馬鹿にされている感じがして本当に嫌になる。その内バチが当たるぞ…って言ってやりたいが、もう言っても言わなくても大差ないだろうしなぁ。理不尽とはまさにこの事だな。
俺はそんな投げやりな心情を誤魔化すかの如く、言い訳がましい謳い文句を頑張って絞り出す。
「いやぁー、雑な割に条件が厳しいねぇ。お兄さん参っちゃうよ、本当」
「ルディ…本当に情緒不安定だね。調子に乗ったり、怒ったり、黄昏たり…忙しいね」
「まぁいいさ、存分に後悔すると良い…」
「まだ何か?」
キアン、お前いい加減五月蠅いぞ。
まぁでも、吐き出す物は吐き出したし、案外すっきりしたかな。さぁ、現実に戻ろう。
「そんな事より、こいつのお陰で移動はかなり楽になった。燃料の調達や定期的なメンテナンスは欠かせなくなるが、それでも利便性は向上したと思う」
ただ懸念事項は俺以外にはあまり関係のない事なんだよな。基本的には運転手の魔力を燃料にする想定だし、メンテナンスも俺が定期的にやるから二人には関係しない。
運転も大抵は俺の担当になると思うし、その場合はエネルギー切れに対しても独自に対処が可能だ。既に対処法は確立されている。
それはそうと、二人が運転する際には…そうだな。基本的に燃費の良い地上での走行に限定して、燃費の悪い空路は俺以外は運転しない、でもいいかもしれないしな。
「公共交通機関を利用するのも悪くないけど、自分達で独自に移動できる手段を用意しておいた方が安心でしょ」
「確かに、あれば越したことは無いですけど」
「そもそもそんな物、用意出来ないのが普通であって…」
キアンとフラウの言い分はごもっとも…普通だったらな。
だが俺は、『天啓』で神話級の作成を依頼される程の技術者なのだ。
「でも見ての通り、俺達は普通じゃなかった、だから用意出来てしまったって事だな!」
「な、成程」
「キアン、何に関心してるんですか…」
「何ってほら、『関心』だから」
「…」
キアンが上手い事を言った気分になったのか、ドヤ顔を決めていた。
あー、そう言えばそうだったね。でもツッコミし辛いよそれ…
そんな二人はさて置き…お披露目も終わったし、もう外に出しておかなくても良いだろう。
俺はこの車両に仕込んだギミックの一つ、「ガレージリング」による収納機構を使用した。
実はこの車両、俺達が絶賛使用中の「チェンジリング」の亜種に当たる「ガレージリング」と呼ばれる魔道具に対応しており、「ガレージリング」にプログラミングされた特定の異空間に車両を丸ごと収納、隔離する事が出来るのだ。勿論、この指輪を付けた者の意思に従って取り出す事だって出来る。
一応鍵は付いているが、それだけだと防犯上不安が残る。また持ち運びも便利にしたいよね、と言う事でこの機能を付けておいたのだ。
俺はそんな「ガレージリング」を右手薬指に嵌め、機能を使用する事で車両をすっぽりと収納してしまった。これで持ち運びもコンパクト、想定通り利便性は抜群である。
もっと言うと、この「ガレージリング」は俺の端末と同期させ、端末から操作が出来るように改造してある。一先ずリングは有っても邪魔かな、と思ったので不可視化の機能を使用し透明にしておいた。
今後は、俺の端末からいつどこでも車両を取り出す事も出来るようになっている。これで駐車料金は浮かせられるよな、節約節約っと。
「あれ、このまま乗って帰らないんですか?」
「え?いや、だって…新品の車両を雨に濡らしたくないし、てか宿歩いて直ぐだし」
フラウの素朴な疑問を、俺は意図も簡単に一蹴してしまう。
実は羅神器の「障壁」があるお陰で、歩いた方が濡れないんだよね。
俺が「障壁」を張るのが得では無いのは言うまでも無い事実だが、それでも全く使えない訳では無いし…敵の攻撃ならまだしも、何の変哲も無い雨粒を防ぐ位は余裕のよっちゃんなのだから。
それに車両だとほら、乗り降りのタイミングで多少は濡れちゃうじゃん?車両も雨位でどうこうはならないけど、新品の物を汚したくないって感情は人類共通の絶対不変の在り方だと思うんだ。
ま、何はともあれ、これ以上このお店に長居する必要も無い訳で…俺達は店主に礼を入れつつ店を後にする事にした。
「ありがとう、世話になったよ」
「こちらこそあんがとな、今後とも宜しく頼むぜ」
ご機嫌そうな店主にしっかりと礼を言った後、店を出た後は三人揃って徒歩で宿に戻る事にした。割とどうでもいい理由を振りかざしてしまったが、初運転はもう少しお預けにしようと思います。
余談だが、今回かかった費用は車両代と工房のレンタル料金合わせて、高級車両が楽々買える位のお値段になった。
厳密には小金貨十枚程度、日本円にして1000万円に相当するお値段だ。
高かった、暫く倹約を心がけようと思います。




