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WILD DOWN  作者: plzY.A.
無幻世界編
12/73

第十一話:結論

 ~冒険者連合組合、会議室~



 俺達三人は会議室で一度、フラウとキアンの両名と合流した。と言うのも、事前に組合側から「筆記試験の会場で待機するように」と言われていたからである。

 俺が部屋に入って時点で二人は既に席についていたのだが、見れば二人とも表情は軽やかだ。試験結果についても、それなりに自信がありそうである。


 余談だが、俺の手は何とか無事だった。もう少し時間が延びれば危なかったが、何とか凍傷になる一歩手前で食い止める事が出来て一安心である。

 あれ、正攻法では防げないから地味と厄介なんだよね…

 

「お疲れ、どうだった?俺は多分パスしてる」

「私も手応えはあります、悪い結果にはならないと思います」

「僕も同じだね。それに自分の得意、不得意についても少し解った気がするよ」


 そう言って胸を張る…と思いきや肩を落として若干落ち込むキアン…どうした?


 聞けばキアン…試験官から手痛いお墨付きを頂いたようで、どうにも武器全般の才能が皆無であったらしい。近接武器から遠距離武器まで、ありとあらゆる武器に適性無しと判断されたそうである。

 それも納得出来なくは無いか。キアンの右手は癒着しており、元々こちらでは武器を握る事すらままならない。この時点で俺は、最低でも両手で持つような武器が使えない事は重々承知していた。だがその想定では不十分だったようだ。


「でも肉弾戦闘なら他の誰にも負けなかったよ。身のこなしも褒められたし」


 しかし代わりと言って良いか、他を寄せ付けない才能も見つかったそう。

 キアンはどうやら前衛特化、肉弾戦特化のパワーファイターであったらしい。しかも純粋なパワーが桁違いであるにも拘らず、その動きも無駄が無く洗練されており、武術においては達人と言って差し支えない技量も有していたらしい。

 現状確かめようは無いが、記憶を失う前に何かしらの武術を嗜んでいた可能性も高そうだ。そして記憶を失って尚、身体がそれを覚えていたのも実に興味深い。

 しかし型を見る限りでは、何の流派かまでは判らなかったようだ。ここでも手掛かりは得られなかったと…呪われてるな、本当。


 それとは別に、俺は一人勝手に後悔の念に抱かされていた。何の因果か、俺はキアンの外見を華奢な青年にしてしまったのである。それによりギャップが半端では無く、行き過ぎて萌える要素も微塵も見当たらない…いや、キアンは野郎なので萌えを求める必要自体が感じられない。別にこれでもいいか、と俺は開き直った。

 そんな中ふと周りを見渡すと、幾許(いくばく)か此方を見て怯える受験者の姿が見受けられた。その視線の先にある物を見るに、これはキアンが相当暴れたと見た。果てさて、一体何をしでかしたのやら。


 またフラウの方も同様に暴れようで、中衛の試験で存分に実力を発揮出来たようである。俺も以前共闘して、フラウの戦闘能力の一端は刮目している、正直、それだけ見てもここに居る面子の中では頭一つ飛び抜けているとさえ思っていた。それもあながち間違い無かったようである。


 そんな二人に負けじと、一応俺も納得の行く頑張りは出来た。二人程際立った成績では無いかもしれないが、少なくとも後悔はこれっぽちも無い。



 ~~~~~



 そうして(かじか)んだ両手を温めながら待つ事十五分程、部屋に入室して来た組合の職員…メルリアさんを含む数人によって結果が発表された。と言っても、張り紙で大々的に張り出される訳では無く、個別に結果を記したプリントが配布される。のぞき見や裏取引でもしない限り、自分の結果だけ確認出来る仕様だ。

 内容は各試験のスコアと総合スコア、それに面接の結果を合わせた総合結果…それを踏まえて判定された合否が大々的に表示されている。


 その結果は合格。


 これは良かった。


 …ただ気になるのが、面接なんて何時したっけ?と言う一点である。

 覚えが無いが、これまで組合の職員と会話ややり取りをする場面はちらほら…あれが面接かと言われれば微妙所だが、まぁどこかのタイミングで秘密裏に行われていたのだろう。


 まぁいい。何であれ高い評価を頂けていたので、一先ずは良しとしておこう。


 尚試験結果は大方予想通り。

 筆記試験は100点満点中、二問を落としての98点。

 そして実技試験においては、何と各項目で最高評価を頂いていた。要するに実技試験においては、所謂パーフェクトを叩き出す事に成功した訳である。こうなると最早、それなりに吟味した「受験した順番」が関係無くなってしまっているのはご愛敬か。

 

 また恐るべき事に、他二人も合格しており、また実技試験で同様にパーフェクトを叩き出している。

 しかもフラウに至っては筆記試験含め、全試験を通じてのパーフェクト達成である。これには俺も思わず両手を叩いて感嘆するしかなかった。二人とも相当な実力者であったようだ、凄いね!


 何はともあれ、結果的に三人全員が合格を頂けた訳だ。三人の中で一人だけ不合格…なんて悲劇が起こる事は無く、微妙に気まずくなる未来はこうして無事回避された訳である。めでたしめでたし。


 しかしその直後、キアンとフラウが漏らした感想に俺は正気を疑う羽目となる。


「でも、試験の内容自体はそこまで難しく無かったよね」

「はい、基本さえ出来ていれば問題なく最高評価が貰える程度のレベルでしたね」

「え?」

「「え?」」


 俺の唯一異なる反応を受けて、二人から「何言ってるんだコイツ」と言わんがばかりにジト目を向けられる俺。


「バカ、な…あ、あの試験が簡単だった…だと?」


 他二人の実技試験の内容が判らないので確かな事は言えないが、少なくとも俺の試験はかなりハードだったように感じた。

 もしかして俺がおかしいのか?それとも単純に、この三人の中で俺だけが劣っているって寸法か?


「そう言いながらパーフェクト出してるなんて、嫌みですか?」

「そうだよ、下手な謙遜はある意味煽りだよ」

「いやいや、本当に難しかったんだって。天に誓って嘘は言ってない!いやぁ、二人は凄いな…」


 フラウとキアンからちょっぴり厳しい指摘を受けて、思わず現実逃避。

 元々戦闘が苦手だという自負はあったけど、まさかここまで差があるとは…今後は足を引っ張らないよう、気を付けないといけないかも。

 そんな俺達を横目に、試験官の一人が今試験の総評を述べ始めた。


「今回の試験ではとある受験者により、史上初めて全科目100点…または全試験項目で最高評価と言う、当試験における理論上最高の成績が叩き出されました。それ以外の受験者の中にも、これまでの試験に比べ軒並み優秀な新人さんが多かった印象です。我々組合と致しましても実に喜ばしい限りです!本当におめでとうございます」


 試験官は嬉しそうに言うが、反面部屋中で上がったのは歓声では無くどよめきだった。

 無理も無い、今回の試験内容の難しさ…特に実技試験の内容を鑑みれば、その反応は理解出来なくもない。こうもあっさり「簡単」と言い捨てた二人がおかしいのであって、本来あるべき反応はこうだと思うのだ。

 そして件のとある受験者はフラウに違いないだろうが…史上初なんだね、初めて知ったよ。


「また今回はそれ以外にも、全受験者の中で組合の定める合格基準を下回る者が()()()()()()という史上初の快挙も達成されました。今回の皆さんの頑張りは本当に素晴らしいものがありました、誇って然るべき内容だったと当組合も認識しております」


 どうやら、今回は受験した全員が合格判定を下されたらしい。

 何と…母数が少なかったとは言え、全員が合格とは驚いた。妥協や忖度は考えづらいし、今回組合は上振れを引いたようだな。そしてこれも史上初なのか。


 但し、同時に今回の三組、計十二人と言う受験人数も過去最少ではあったようだ。

 最も、今回の試験は個人単位で受験した者がおらず、全員が既に徒党(パーティ)のような小規模の集団に所属していたのもこれまでと大きく異なる。事戦闘においても、全くの素人が居なかったのも幸いしたかもしれない。


「本日の試験では、結果的に全員に合格判定をさせて頂きました。既にライセンスも発行してありますので、各自お受け取り下さい」


 すると奥から現れた従業員の一人が、俺たち一人一人に新たなライセンスを手渡してくれた。見た目は一見何処にでもあるようなカードだが、そこに注ぎ込まれた技術は圧巻の一言だった。やはりこの冒険者連合組合、相当な技術者がバックに控えているようである。

 ラミネート加工の影響か、テッカテカに輝く新品のライセンスを受け取った俺達。俺が一人その技術力に感銘を受ける中、これを見た反応は十人十色だった。そんな中、俺は汲まなく眺めるうちに若干顔色が悪くなってしまった。


 それもその筈、取得したばかりなので総合評価がGランクなのは当然として、戦闘面に付けられたランクが似つかない物になっていた。

 これ、下手に他人に見せたくないな…



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 名前:ウディウス・クォーラ

 ランク:G

 性別:男

 適性:後衛

 専門:銃使い(ガンナー)

 戦闘評価:攻撃A、防御A、技術A、知略A、特殊A

 実績:なし

 所属:無所属


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 俺のライセンスに記載されている内容を一部抜粋した。パーソナルデータの大半に関しては、基本的に最初に記入した内容がそのまま反映されているようだ。


 しかしまぁ、言いたい事は多々ある。第一俺如きの実力で戦闘面の評価がオールAとか、イカサマも良い所だろう。

 確かに俺は射撃こそ得意かもしれないが、本当に戦闘に関しては苦手意識が拭えないのだ。自他ともに認める器用さはある為、小手先で出来る事は多少あれど…現実的に見て真の強者に勝てるスペックは有していない、これもまた一部の界隈では周知の事実。

 なのにこの評価…他の人がどのような感じか解らないので断定出来ないが、もしこれが軒並み高い評価なのなら妙な誤解を招きかねない。そうなると、これはある意味で特級呪物となり得る危険性がある。


 でも逆に、これはある意味でいい教訓にもなった。

 一応このライセンスを一目見るだけで数値上相手を推し量る事が出来るように思えるが、それは必ずしも実態を示したものでは無い。なので自分のライセンスを提示する時に注意が必要なのは勿論、逆に相手のライセンスを拝見する時にも疑ってかかった方がいいかもしれない。もし余裕があれば、此方の見せた情報を逆手に取る戦略も使えるようにしておいた方がいいかもしれないな。


 …ってのは流石にひねくれ過ぎか。少なからず参考になる情報ではある、扱い方を十分に考えておこう。


 そんな中、俺以外の新人冒険者達も同様に自身のライセンスを確認している。しかしやはりと言うか、俺と同様腑に落ちない様子を見せる者も少なくない。

 そんな彼らを見兼ねてか、初めからそのつもりだったのか、ライセンスを渡してくれた従業員が説明を続ける。


「ライセンスに記載されている内容はご覧の通りです。しかし飽くまでもこれは「試験の結果」に基づいて記載された物です。これは飽くまでも現時点での規定に従った表記であり、今後の査定方法や基準の変化によって表記が変更される可能性は否めません。なので以降、記述内容や査定内容の変更が為される可能性はありますし、組合に申請すれば一部の表記を変更したり、表示する内容を増やしたり減らしたりする事も可能となります。尚名前や性別などの個人情報は、仮に変わる事があれば直ちに組合に申し出て下さい」


 飽くまでもこれは現時点で基準に則ったデフォルト、と言う事か。そして表示を変えたい場合は、追って変える事もやぶさかでは無いと。但し条件は存在し、組合の判断でその条件を満たしていると判断される必要はあるそうだ。

 ふむ…あわよくば、戦闘面の評価を軒並みD程度に下げてもらえたりもするのかな?


 …何故だ、何故珍獣を見るような目で俺を見る?


 少し話が変わるが…もし戦闘面の評価など、不服な評価がある場合には「判定試験」を受験する事も出来、結果次第ではランクを上昇させて表示する事も可能との事。

 つまり現時点で戦闘面の評価が「E」のように低くても、判定試験を受ければ「D」等より上のランクに上昇させる事も出来るようだ。ハッキリ言って自己満足の域だな。しかしモチベーションの一つにはなり得るだろう。


 またこの「判定試験」だが、他にも適性や職業等のレパートリーを増やしたい場合にも適用可能だそう。仮に俺が「剣士」になりたい場合でも、この判定試験を受けて合格すればライセンスに追記されるようだ。

 現在は根回しをしている段階だそうだが、今後この職業の有無によって各方面での優遇や特典を用意する想定であるらしい。


 現状は有っても無くても大差は無いが、今後も組合と冒険者の頑張り次第では分からないと言った所か。まだまだ出来たばかりで未知数な部分の多い職業だ、組合側も手探りの状態なのだろうな。


「ライセンスについては以上となります。続いて初期講習に移ります」

 

 職員がそう言うと同時に、間髪入れず、試験直後の段階で予告されていた座学の時間が始まる。

 これは簡潔に言えば、新人冒険者となった期待の精鋭達に、組合の求める「冒険者のイロハ」を叩き込むための物である。

 冒険者にはその仕事柄、やはり血の気の荒い者が集まりやすいようで、組合も念押しするように重要事項を連呼している。内容自体はそこまで難解なものでは無かったが、この念押しによって時間が少々長引いたので要点だけを纏めておこうと思う。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


・組合が「冒険者の手引き」と言う、冒険者の規則や約束等を纏めた冊子を配るので、良く目を通しておく事。ここに書かれた内容は、くれぐれも順守する事。

・組合所属の冒険者、組合の広告塔としての自覚を持ち、常日頃の行いに気を配る事。冒険者は組合に所属する形式をとるものの、その実態は個人事業主であるからして、くれぐれも相応の責任感を強く持って行動する事。

・冒険者連合組合の定める規定を順守する事。但しそれ以外の場面においては各々の意思を尊重するが、くれぐれも節度は守る事。

・組合に届いた依頼は積極的に受注する事。そして依頼内容をしっかりと確認し、確実に遂行するよう心がける事。

・常日頃から自己管理含め、必要な道具類の調達、メンテナンス等は怠らない事。依頼前にも十分な準備を済ませた上で臨むようにする事。

・原則冒険者が関与したトラブルに対し、組合は責任を負わないものとする。また内容によってはペナルティも発生するので、心しておく事。

・以降組合からも適宜アナウンスを行う可能性がある。各自携帯端末に組合のIDを登録し、通知を常に受け取れる状態にしておく事。そして通知の内容は対外秘とし、届いた通知は各々で必ず確認するようにする事。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ざっと並べてみても、凄く解り易いと言うか、組合側の言いたい事があからさまと言うか。

 余程俺達に信用が無いようで、冒険者…と言うよりかは一社会人としての常識を強く説かれた印象だった。

 と言うより、冒険者と言う役職自体が設立したばかりで、この「冒険者の規定」に関しても完成した訳では無いのだろうな。だから今は冒険者の活動を通じて情報収集に努めつつ、冒険者には余計なトラブルを起こさないよう勧告するようなスタンスを取っていると思われる。恐らく規定に関しては今後事細かに訂正が入るだろうし、冒険者側からも各立案に対し意見を要求される可能性さえ考えられる。

 ぶっちゃけ、設立当初と言う事もあって俺達の負担は恐らく大きくなるだろう。気が重くなるが、これもほんの少しの辛抱と思ってやり過ごすしか無さそうである。


 結局、この後で「冒険者の手引き」なる例の冊子を受け取る事で一連の流れは終了となった。

 そうして外に出てみたのだが、建物の中に居たから判らなかったものの、もう日が暮れる頃合いであった。

 それにしても随分と長い事拘束されていたものだ、もう今日はこのまま宿に戻って終わりかな。


 そんな事を考えながら退室しようとすると、先に俺達の応対をしたメルリアさんが歩み寄って来た。呼び止められた訳では無いので無視しても問題は無さそうだが、見れば何やら言いたげである。

 まぁ丁度いいか、こちらからも言いたい事はあったんだ。


「お疲れさまでした。いや、まさかこの試験内容でパーフェクトが出るなんて、想定していませんでした。お三方は想像以上の実力者なのですね」

「ですよね?やっぱりあの試験内容は過酷過ぎると思うんです。もっと易しくしても良いのではないですか?」


 思わず抗議に出てしまった俺である。あの難易度は本当に勘弁して欲しい。

 何せあの試験で高得点を叩き出すのは、それはもう大変だったのだから。


 しかし、メルリアさんの返答は俺の想定から外れたものであった。


「それは此方も重々承知です。そもそも後衛の試験の場合「攻撃」は兎も角、「防御」と「援護」の試験については制限時間が三分間と定められていましたが、我々は制限時間を待たずに強制終了する事を想定していたんです」

「…へ?」

「前例は少ないですが、両方を通じて制限時間をまるまる使い切ったのは初めての事ですよ。しかも「攻撃」でも打ち漏らしが一つも無く…ハッキリ言って恐るべき快挙です!」

「さ、左様でございますか…」


 どうやら、組合としても完遂出来ない事を前提に試験が作成されていたようだった。ある意味で納得だ、それならあの難易度も頷ける。

 しかし、同時にこれを聞いた他の受験者が戦慄している様子を目の当たりにしてしまった。もう、誰から見ても「有り得ない!」と言いたげなのが丸わかりだ。

 しかも悲しい事に、これを無視して帰る強者は居なかったようで、受験者の全員が思わず足を止めてしまっているではないか。


 そんな事してなくていいから、今日はもうさっさと帰れよ!

 俺は無理に目立ちたくないんだよ!…なんて内心愚痴るしかない俺である。


 …いや、彼らの気持ちは分からないでもない。実際俺も難しいと感じてたもん。

 ただ、俺が別の意味でおかしいのも間違い無いようだ。


 そんなおかしい俺を他所に、メルリアさんのテンションは右肩上がりだ。


「フラウさんも素晴らしかったです!中衛試験においても目で追えない程の機敏な動き、洗練された技術の数々を見せて頂きました。他の受験者の方々と比べても群を抜いて優れておいででしたよ」

「ありがとうございます…」


 フラウは褒められてまんざらでもないらしい。フラウの戦闘スタイルの本分を鑑みると、それで本当に良いのか?と思う所はあるけど。


「それにキアンさんも凄まじいですね!その他の試験においても力、技術のどちらにおいても圧倒的で…何なら貸与した武器の柄を、片手で何度も握り潰していらっしゃいましたから。最高評価も文句なしとの判断です」

「それは…照れるね」

「…」


 キアンも、それはもう嬉しそうである。

 だが俺は違う。聞き逃せない一言があったので、キアンを刺し殺すかの如く鋭い視線を突き付けた。


 …ちょっ!武器の柄を握り潰すって、仮に組合から損害賠償求められたらいくらになると思ってるんだ!

 あのハイテク機材、絶対高いぞ!借り物なんだから、もっと優しく丁寧に扱いなさい!


 そんな俺を差し置き、依然二人とも誇らしげである。実際二人の反応があるべき形なのだろうし、こうやって悪態をついている俺の方が不謹慎と言うものだろうか。

 畜生、ここで水を差すのは大人げない。もし最悪の想定になったら、その時はもう大人しく号泣しよう。


 因みに、俺達の実技成績は組合が設立されてから初めてのパーフェクトだそうで、現状全冒険者の中で、()()()()()()()()()俺達が最高の評価をされているとの事だ。

 最も、言うまでも無く「実技」と「実戦」は全くの別物だから慢心してはいられないけどね。一時的に喜んではいても浮かれてはいないらしく、二人とも俺の言わんとする事は同様に理解しているようであった。


 だったらこれ以上気にする必要は無い。俺が今すべきは謝罪のみ!


「何と言うか、ウチの不束者(ふつつかもの)がご迷惑をおかけしたようで。高かったんでしょう?それ」

「?ああ、武器の事ですか。お気になさらず、武器は消耗品ですし、予備はまだまだありますから」


 俺は思わず頭を下げたが、メルリアさん…と言うより組合が寛容な対応をしてくれて助かった。

 あの試験で刮目したシュミレーターの技術は素人目に見ても素晴らしい物で、あれを作れる技術者の持つ技術力にも感服するレベルであった。現時点では量産体制が確立されているかどうかも分からず、再び用意するとなるとどれだけ大変な事か…と一人思案に耽り、内心ヒヤヒヤしていたのである。


「ただ…もう武器に触らないで頂けると嬉しいですね」


 メルリアさんからの辛辣な一言が浴びせられるが、キアンは却って嬉しそうにしていた。

 だが俺はメルリアさんの方に同意する。本当それな!

 キアンには可哀そう…いや、今のキアンを見る限りそんな感情は湧いてこないのだが、それとは別にしっかりと弁えて頂きたいものである。さっき言われた「節度」ってやつを。

 そして俺も例外では無い。今回は無事だったが、下手すると羅神器(アルティメイター)の拒絶反応で武器をダメにする可能性もあるからな。それ以前に、俺自身二度と持ちたいとは思わないけど。


 そんな俺達を他所に、メルリアさんが本題と思われる話を突き付けて来た。


「今はそれは良いとして…提案なのですが、宜しければこのまま徒党(パーティ)登録をされては如何でしょう?先の面談でそのような話をお聞きしましたが」

「あれが面談だったんだ…ってそうじゃない!唐突な話ですが、何か理由でも?」

「いえ…ほら、周りをご覧頂ければ言わんとする事はお解りだと思いますが」


 メルリアさんに促され、俺達は周囲を見渡してみる。周囲の視線は一様に俺達に向けられていた。

 確かに、今の俺達三人が好奇の視線を集めている事は言うまでも無いが…あ、そういう事か!


「解ります…二人共、どの道ここで徒党(パーティ)は組む想定だったでしょ?次いでだし、このまま済ませても良いんじゃない?」


 そうと分かれば話は早い。メルリアさんに同意しつつ、俺は咄嗟に二人に話を振る事とした。本当、メルリアさんの心遣いに感謝である。

 対する二人の反応だが…うん、異論は無いと見て良いかな。


「確かに…そうですね、(ついで)ですし私も構いませんよ」

「僕もだよ、今更議論する必要も無いよね」


 物言いは遠回しだったが、その裏に隠されたニュアンスは確かに察知出来た。「早急に逃げなければ」と。

 そこで俺達は、メルリアさんの勧めに従い、直ちに徒党(パーティ)登録を済ませる事にした。一部肩を落とす新人冒険者の姿も見えるが、これを見て猶更急いだ方が良いと感じた次第である。


 いや、別にパーティメンバーに誘われること自体は嫌じゃないし、何なら光栄な事だとは思うよ?

 今後冒険者として長くやって行く為には、優秀なメンバーはどんどん確保…退いては勧誘したいものである。俺達はある意味、彼らの狙い目でもあると推察する事が出来る。

 でも俺達の本分を忘れてはならない。『此方』を疎かにするのは論外だし、無関係な人間を此方の事情に巻き込むのも気が引ける。第一、俺達三人は『此方の事情』により利害が一致したからこそ、同行している部分も大きいのだから。

 若干申し訳ないと思わない事も無いが、これも背に腹は代えられないと言うもの。せめて臨時パーティで済めば良いが、彼らを見てると出来るだけ長く自分たちの徒党(パーティ)に引き留めようとしそうな雰囲気さえ感じるからな。それが一番揉めそうで厄介なのである。


 と言う事で俺達三人は、速やかに徒党(パーティ)登録を完了させた。そのあまりにも迅速な対応に、他の新人冒険者は付け入る隙すら与えられなかったようだ。

 そのメンバーは先の想定通り、俺とフラウとキアンの三人である。

 しかし今後組合に申し出れば、新規メンバーの加入や既存メンバーの脱退等、必要な手続きは適宜行えるとの事。こうなると今度は俺達の徒党(パーティ)に入りたいと言い出す者も出るかもしれないが、それはまた追って対処するとしよう。


 ここで何やら、徒党名(パーティネーム)を考える必要があるとかどうとか…なのだが…これも以降自由に変えられるそうで、特に拘りに拘る必要は無いように感じた。

 しかし二人は逆に「後で徒党名(パーティネーム)を変える手間が面倒臭い」との事で、「現時点で変えなくてもいいと思える徒党名(パーティネーム)を考えておいた方が良いのでは?」と言う意見が出た。


 でも、この主張もある意味真理だよな…徒党名(パーティネーム)をころころ変えるのもまたどうかと思うし、今後冒険者活動を行っていく中で一種の御旗となる名前になるもんな。

 ぶっちゃけ俺自身はそこまで冒険者活動に拘るつもりも無いのだが、二人は少なくとも俺以上にやる気があるようだし、特筆して反論すべき内容で無い事も確かだ。多数決上でも二対一で不利だし、ここは素直に便乗しておこう。


「…で、何にする?」

「え?僕?ネーミングセンスにはちょっと自信が…」


 キアン君さぁ…こうして俺を言い含めたんだからさ、アイデアの一つくらい出しても罰は当たらないんじゃないの?

 しかし言い淀むキアンとは裏腹に、真面目に考えていたであろうフラウが口を開く。


「この三人の共通点…『天啓』…は使いたくないですね」

「ああ、妙な連中が近寄って来そうだ…ってちょっと?危険な発言は控えてね?」


 それには同意するが、フラウの思わぬ迂闊な発言に思わず腰が抜けそうになった俺である。ここにはメルリアさんも居るので、声量は極限まで小さくしてもらいたかったけどね。


 その後も三人仲良く唸り続けていたのだが、奇しくも直ぐには思いつかなさそうだったので、一先ず三人のライセンスでも眺めながら考えてみる事にした。


 パーソナルデータはもういい。既に三人とも把握している。

 実技評価も皆同じだったので、言うべき事は無いだろう。

 但しそう言ってばかりでは話が進まないので、徒党(パーティ)の編成でも見てみようか…


 一応俺が後衛で、専門が銃使い(ガンナー)、フラウが中衛で、専門が暗殺者(アサシン)、キアンが前衛で、専門が武闘家(モンク)となっている。

 その陣容を見る限り見事に物理攻撃全振りと言った面子だが、全員独自の自衛手段は持っているので、何なら攻撃よりも防御が得意な三人かも知れない。

 魔法は…フラウが魔術を使えて、俺も似たような感じ、キアンは現時点では使えないものと見なされている。

 支援や妨害と言った搦手は…俺は可能だけど中途半端、フラウは妨害なら可能、キアンは自身の回復なら可能と言った感じ。


 こんな感じの陣容になっていたのだが、ここで各々が気付いた事を挙げる。


「バランスは良くないんですけど、その割に尖ってないですよね」

「各個人で見るとバランスは取れてるんじゃない?パーティとしてはどうか、って思うけど」

「パッとしない…第一、俺達の強みって何になるんだ?」


 組んでみて分かる、周囲からダメ出しを食らいそうな歪な編成。ハッキリ言って、冒険者を舐めていると思われても反論出来ないかもしれないレベルだと思う。

 強いて言うなら、ここに盾役と魔法専門のメンバーが加われば見栄えが良くなるかもしれないが…その予定はない、詰んだ。


 しかしどうにも引っ掛かる。

 俺は今、何かに気付きそうなのだが…他二人も同様らしく、揃って頭を傾げている。


「あっ!」

「「?」」


 待って、閃いた…


 と言うか、これは正に()()()()()()()()()編成であろう。

 恐らく俺達が気付こうとしている事は、「対魔物や対亜種族を睨んだ編成に見えないのが問題なのでは?」と言う話なのではなかろうか。

 

 この考えを口にすると、二人も得心が行ったような反応を見せた。


「多分それだよ。でも逆に、名前の元ネタとしては使えなくもないかも」

「…それ、結局は人聞きの悪い名前になりかねませんか?」


 対人戦闘特化の集団、にちなんだネーミング。うん、犯罪集団を連想させる名前になりそうな気しかしない。今改めて考えてみても、マシな名称が本当に思い浮かばないんだが。


「何度見ても、()()()()()殺意が高そうな編成だよなこれ」

「最早凶器とか爆弾とか、そっちの路線で考えた方がしっくり来そうな感じさえあります」

「一人一人の実力も高く表示されてるし、この面子だと全員で速攻とかして来そうだし…何か()()()みたいだね」

()()()…もうそれでいいんじゃね?」


 と言う事でキアンの案を採用し、あっさりと決まった徒党名(パーティネーム)は「核弾頭ニュークリアランチャー」。多少読み方は弄っているが、物凄くしっくり来ている俺達。決まりだな。

 それにしてもキアン、自信無いと言う割にネーミングセンスはあると思う。謙遜が嫌味だぁ?どの口が言ってるんだって話だよ。

 しかしそれとこれとは話が別、ここは素直に称賛して…


「僕達が揃ってアーク…もごもご」

「「(それ大声で言っちゃダメ!)」」


 おっと、俺が褒めようとしたのが災ったのか…余計な事を口走りそうになったキアンの口を、フラウと慌てて塞ぎにかかる。

 言おうとしている事は分からなくもないよ?人類社会にとって脅威となり得る核弾頭、人類社会に対して敵対する勢力となる自然勢力(アークレギオン)…見事に繋がったから気持ちはわかるけど、くれぐれも時と場所はよく考えて発言しようね!


 そんな感じでてんやわんやな寸劇を繰り広げていた俺達だが、完全に空気と化していたメルリアさんが慈愛に満ちた表情で語りかけて来た。

 戯れに勤しんでいたお陰で完全に意識の隅に追いやられていたが、それでもずっと目の前にいた事だけは確かなのだ。


「丸く片付いて良かったですね。今後とも、冒険者連合組合ロックス支部をご愛好頂けると幸いです」


 そう言って最後に締めくくるメルリアさん。地味と圧が凄い。俺達は黙って頷く他無かった。

 それと同時に思う。本当にこの人、ちゃっかりしてるよなぁ。


 そんなこんなで特にトラブル等も無く、俺達三人は無事「冒険者クラス」を習得する事が出来た。これで魔王との対談に関するピースの一つが手に入ったと言えるだろう。

 とは言いつつ、直ぐの話にはならない。そこで明日は、試しに依頼(クエスト)を受けてみてもいいかもしれない…が、嫌な風が吹いているのが気になるな。


 …


 結局、その日はちょっとだけ寄り道をした後、そのまま宿に戻って終わる事となったのであった。

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