インスタント味噌汁
私はインスタント味噌汁。銀色の壁に囲まれ、暗闇の中で佇んでいた。でも、あるとき、前触れもなく壁に穴があいた。初めて見る光に目も開けられなくて、真っ白な世界に四角く縮こまった。その穴はどんどん広がり、ついには一面全てが無くなっていた。私は抵抗なんて出来なかった。床、いえ、空間全体が激しく揺れたかと思えば、私は叩きつけられていた。見知らぬ場所は逆U字で、跳ねるたび角が削れた。粉々になった体の一部が、コスメの代わりのように覆った。
私は、私の現状なんて分からなかった。戸惑うばかりで動けない私に、何だかとても熱いものが触れた。それはどんどん増えていって、一緒に私の体も浮かんでいった。そして、私のそばにいたキャベツやニンジン、ネギは、離れていってしまった。間を埋めていた味噌や出汁も、どんどん小さくなって、私は四角じゃなくなっていた。外からやってきた、たぎる熱湯に、私はいつの間にか溶かされていた。自分の意思が関わる隙もなかった。変わり果てた自分は哀れで、惨めで、あられもない姿で、もはや涙なんて出ないくらいの衝撃だった。
何もかもを諦めていた私の体積は、どうやら少し減っていたようだった。この場所の外へ出たのだろう、その真実に、私は希望を持ってしまった。こんなにも醜い私は、いっそのこと、消えてしまえればいいと思った。その望みを知ってか知らずか、私の体はなお流れ出ていた。かさが低く、少なくなった私はどろっとしたものになった。さっきよりも濃くてしょっぱい私は、ひんやりとした外気から、薄い赤の生暖かな口内へと注ぎ込まれた。