馬喰 一兆 ゲームスタート
一兆編、馬喰 一兆と男鹿 特急は狐坂 紅の案内でゲームの世界へと案内される。
「さ、出て来て良いよ〜」
紅の呼びかけで俺はドアを開けた。見えた景色はさっきの機械の部屋とは全く違う、大自然の荒野だ。風の音、空気、温度に湿度、食感。全てが本物そっくりだ。
「え、マジでこれ!?うっそー!?」
トクがあちこち触って興奮してる。
「凄いでしょ、今のVRは本来これくらいの事はもう出来る所まで来てるんだよー。そして、ここがゲームの舞台。異世界へようこそ!!って言うべきかなー?改めまして、狐坂 紅だよ。主にこの世界のナビゲートをやってるの。よろしくねー」
「で、どうやって遊ぶんだ!?ゲームって事なら・・・そしてこのほぼ現実なこの感じ・・・お触りとかしても問題ない!?」
こいつそんな事ばっかりしか考えてないのか?エロザルめ・・・けど、実際やらかしたら対応らどうすんだ?
「やれない事はないと思うけど、不貞行為は運営がすぐすっ飛んでくると思うよー」
「くっ・・・事故を装うしかないか!!」
「ごめんねー。あくまで全年齢対象に作ってるからねー。あ、だけどそう言う事は出来ない代わりに、向こうじゃ絶対できない事。なんと魔法が使えるんだよー!」
「ふぁっ!?魔法!?」
魔法?あ、そう言えばエファナの奴も言ってたっけ。杖とか魔法陣とか描くのか?
「そうだよー。やり方としてはね、なんか集中してるとばぁーってなるよー。こんな感じー」
そう言う感じね。紅の手元に風が巻き起こった、てかばぁーってなんだ?こんなんがナビで大丈夫か?
「よくわかんねーや」
トクはアホ面して頭抱えてる、コ◯ックみてーだな。
「うーん、ちょっと手を貸してね男鹿さん、えーっと、まずは簡単に目を閉じて見て」
紅はトクの後ろに回って手を取った。うわ、すんげぇきめぇ顔になってんぞ。
「あれ?身体熱いよ?風邪?じゃなさうだけど・・・まぁいいやー、んでね集中してごらん。そして信じればいいよ。ここでは魔法が使えて当たり前なんだ。常識は意味をなさないって、そう願うの。そう、その感じ・・・大きく息を吸って、今だよ!」
トクが目を見開いた瞬間、あいつの右手に黄色い稲妻が纏っていた。
「うお!!出来た!!出来た!!」
「すごいよー!!よく出来ましたーー!」
二人は互いに楽しそうに喜んだ。それにしても、今のはなんだ?この女、まるで人が変わった。よく分かんねぇけど、貫録って言うべきなのか?子供が急に大人になった感じというか、なんというか。
それより、ここでは常識は必要ないか・・・常識なんて、俺には元から必要ねぇんだよ。誰が何と言おうが、今までもこれからも俺が常識だ。
俺は目を瞑って少し集中した。この感覚はなんだ?世界が教えている?魔法を教えている・・・
「はあ!!」
俺は手をかざした。すると少し離れた地面が一気に凹んだ。
「うわおっ!!さっすがいっちー!!なんとなくだけど俺じゃここまでは出来ないよ!!」
俺自身も少し驚いている。ここまでなるとは思わなかった。だがそれ以上に紅が口を開けて俺を見ていた。
「す、すごいねー。魔法の扱いはレベルが上がってないとここまでは使いこなせないのに」
「あ、そうだコレをsnsに・・・っておろろ?」
トクがスマホを取り出した。そうだ、こんな世界でスマホなんか使えるのか?
「あれれ、電源入らねー」
「あ、ここじゃスマホは使えないよー?それにごめんね?ここの事は口外禁止で、まだ一応実験段階だからね」
「だろうな」
やっぱりか、こんなのを発信してみろ。あらゆる方面から色々飛んで来て即炎上して消される。この馬鹿トクはそんな事考えもしないだろうが。
「えー・・・て事は1ヶ月スマホなし生活?」
あ、馬鹿な事しようとする割にはそこに至るのが早いな。まぁ別に俺はソシャゲ嫌いだし、スマホ程度に生活縛られるのは嫌だから1ヶ月くらいどうって事ない、多少不便だがな。
「ごめんねー。代わりにこれ上げるから勘弁してね」
腕時計?あ、スマートウォッチか・・・
「それはここでの通信とか色々出来るやつだよー。ここではこれしか使えなくてごめんね?まぁそれの主な使い道は時計とか通話とかの機能の他に、一番はゲームのメニュー画面的な役割だね。とりあえずそれには自身の状態が表示されてるの。ゲージが二つあるでしょー?簡単にHPとMPって思えばいいよ。上が体力、下が気力で君たちと状態はリンクしてるんだー。だからMPの方は少し減ってるでしょー?」
確かに減ってる。そしてさっきの魔法で確かに少し疲労感がある。最近の技術って凄いな、疲労レベルを数値化出来んのか。ブラック企業に渡してぇな。
「んでね、一番の機能としては相手のレベルを見れるんだー。まずはお互いに向けてみてー」
俺はトクちゃんに向けて腕時計を向けた、トクちゃんも同様に俺に向けた。
「男鹿 特急 レベル18。属性雷だってよ。お前のにはどう出てる?」
成程ね、いよいよゲームっぽいな、あいつがレベル18なら俺はどれくらいだ?
「いっちーね、凄いよレベル31だってさ!!属性は土だって!!」
31か、初期レベルでそれならまぁいいのか。というかレベルが相手に合わさるのか。ゲームバランスが崩れそうだな。
「へぇー馬喰さん31もあるんだーすごいねー。てなわけで。こんな感じで相手のレベルが見られるんだー。説明はこんな感じかな?一応この世界には害獣っていうのがいてそれがこの世界の住人に迷惑をかけてるから、それを退治していけばレベルはおのずと上がるはずだよー。とはいっても、ストーリーをやる訳じゃないからやってもやらなくてもいいけどねー。ここから先は好きなようにしていいよ。じゃ、私は行くね」
「え?もう行っちゃうんですか?」
「私も色々とやらないといけないんだー、通信ならいつでもしていいからね。あ、あと博士の連絡先もそれに入ってるからねー。また会いましょ。あ、それは常に肌身離さず持っておいてねー、それを元に情報収集したいから。またねー」
紅は俺たちを置いてどこかへと去っていった。
「はぁぁぁ・・・紅さん、いいよなぁ」
「なにトクちゃん、ああいうのがタイプなの?」
「い、いやそんなんじゃねぇし!!なんつうか癒しってかんじじゃん!?」
反応がありきたり過ぎだろ、ガキ臭い。
「それよりもトク。紅のレベルは見たか?」
「え?いや、やってないけど、いっちー見たの?」
「あぁ、ここはゲームとはいえそれぞれに合わせてレベルが設定されてるんだろ?俺は喧嘩に自信を持ってる、大人にも負ける気はしねぇよ?けど、あいつのレベルは85だった」
「は、85ぉ!?いやいや、多分制作スタッフだから高めに設定されてるだけなんじゃね?じゃなきゃおかしいでしょ」
確かにおかしいよな、レベルというのが単純に体力に関係しているのか。それか魔法、精神力にも影響するのなら、85は精神異常者レベルじゃないのか?
俺の思い過ごしならいいんだが、どうにも違和感を感じる。ここがゲームの世界だからそれの影響なのか?それとも何か別の・・・とにかく、俺自身のレベルが上がればどういう事か分かるか。
「なぁいっちー、これからどこに行くー?」
「何でもやっていいのなら、まずはケンカだろ?レベルアップってやつもやってみてぇしな」
奴らは言った、ここで何をしても構わないと、ならばやる事は一つ、ケンカしかねぇ、そこからまたのしあがる。ストーリーは勝手に作らせてもらうぜ?スマホがない代わりに自由にやるわ。
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研究室
「博士ー、あの子たちには渡してきましたよー。スマホも使えなくしておきましたー」
「そうか、ありがとう。これで実験が出来るな」
「そうですねー、薬を使った強制覚醒。まずは一週間通常で過ごしてもらうんでしょ?」
「そうだ、一週間後あの腕時計端末から一種の興奮剤が投与される。わたくしが調合した特別なやつだ。理論上はそれだけで・・・」
「実験は成功、この世界でのリスクは一気に減る。ですね?」
「その通りだ、狐坂君、引き続きあの子たちの面倒を頼んだよ」
「はーい、あの子たちは私が守ります・・・絶対に」
紅はエファナのいる部屋を後にした。
「さて、仕事は一旦終わりだ・・・急がなければ・・・あの子は既に覚醒に至った。次のステップに入るのは時間の問題だ。それまでに完成させなければ。次のステップに入ればもうあの子は戻っては来れなくなる」
エファナの表情は少し焦っていた。そして猛スピードでパソコンのキーボードを叩いた。