異変 オーギュスト ドラセナ
アダムス連合王国 中央地区 テンショウ区城前通りの裏にある酒場。
俺はそこで飲んだくれていた。
「店長!もう一杯っ!!」
「オーギュスト、そろそろやめとけ?飲み過ぎだろうが、そりゃよ?もう少しで事件解決出来たのに、それが全部パーになったのは腹立つよ。けど、流石に飲み過ぎだ」
「うるせぇ!あとちょっとだったんだよ!あとちょっとでミカミの野郎の真相に辿り着けたってのによぉ!!」
俺は机に突っ伏して泣き喚いた。周りに誰が居ようとお構いなし、それくらい今は喚きたい気分なんだ。
いきなりみすぼらしい姿晒してすまんな。俺か?俺の名はオーギュスト ドラセナ。このアダムス連合王国のここ、中央地区で探偵を営んでいる。年齢は聞くな、秘密にしてんだ。
そんな俺がここで何で喚き散らかしてるのか、その理由はこの世界のかつての王、ミカミ レイにある。俺はとある依頼で奴のことを調べていた。
奴はこの世界で最も恐れられた男だ。見た目は笑顔の似合う少年そのものだが、二年前、突如としてこの世界を征服した。
その原因を調べろ、それが俺への依頼だ・・・いやちょっと違うな。そもそも奴には不思議な事が多い、奴はこの世界ではない異世界から来た事、何十年も歳を取らない事、奴一人で様々な技術発展を成し遂げた事。
上げ出したらキリがない程奴は異様だ。俺はその全てを調べたかったんだが・・・肝心なミカミそのものが死んだ。今テレビでやってる事はその事で持ちきりだ。倒したのはミカミ同様、この世界に突如やってきた人間。俗に『異世界の勇者たち』だなんて呼ばれてる。
あいつらはやってきた直後にミカミに巻き込まれ、自身と戦う事を強要されたらしい、そんであいつらは必死に戦って勝利した。
だからだ、俺はミカミに一つ問い詰めたい事があった。それが揃えば一気に真相に辿り着けるって踏んでたんだ。けど死人に口なし、奴がいなけりゃ全ておじゃん、詰みましたとさ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!」
俺のミスだぁぁ!!遅すぎた!!何もかもが!!ちくしょ!時間指定の意味をもうちょい深く考えておくべきだった!!
俺は自己嫌悪を起こしながら頭をぐっしゃぐしゃにして悶えた。
「やぁ兄弟、今日は一段と荒れてるね」
そんな俺を嘲笑うかのように一人の男がやって来た。アーサー コンシンネ。俺と同じ探偵・・・いや、こいつを探偵とは認めたくねぇな。女好きで、そいつらに自分の知識やらをひけらかしたいだけの大馬鹿者だ。ほら、今も後ろに女どもを引き連れてよ。
「るっせぇ、失せやがれ!」
「まーまー、落ち着きなって兄弟。大体この国の王様の秘密なんてものを暴こうとするからこうなるんだよ。世の中にゃ知らない方が幸せな事もあるんだ、確実に解決できるものだけを請け負う。そうでなきゃ探偵はやってられないよ?」
うざ・・・お前が探偵を名乗るんじゃねぇよ。金目的でしか仕事しねぇ野郎がよ。俺はこの世の全ての嘘を暴く、たとえ不都合だろうが何だろうが関係ねぇ、それが俺の人生なんだからよ。そもそも立つ土俵が違う。お前はてきとーにそこら辺の不倫調査やってんのがお似合いだ。わかったらとっととその爽やか顔をどけやがれ、頭突きかますぞ?
「そう睨むなって、慰めに来たんだから」
「そーよ、アーサー様に慰めて貰えるなんて、そんな光栄な事ないんだから、感謝しなさいよね!」
女の一人はアーサーの後ろからぐちぐち言いやがる。
「誰がするかよアバズレがよ、お前はさっさと帰ってママのミルクでも飲んで寝てな」
「ぁあ?なんですって!?」
ったく、アドバイスもろくに聞けねーのか?確実に寝不足の顔してるから言ってやったってのによ、だから女は嫌いなんだ。
「はいはいそこまで、喧嘩しないの。兄弟は君を心配してくれたんだよ、ちょっと寝不足気味って言ってたもんね。それよりも兄弟、今日こうして会いに来たのはほんと君を笑うために来たんじゃないんだ」
どう見ても人の仕事の失敗を笑いに来てんだろ。こいつはいつもそうだ、俺の受け持った殺人事件の犯人の証拠を盗んで、俺より先に捕まえる。こいつはそう言う奴だ。
「実は俺もミカミ レイについて興味があってね、兄弟も調べてるんでしょ?」
「何も教えてやんね」
ほら見ろ、俺が受け持ってた仕事を奪いに来てんじゃねぇか。
「なら、俺が調べた事を一つ教えておくよ。今、南オーシャナ一帯が全くの音信不通になってるのは知ってるよね?ただその少し前、丁度ミカミ国王が死亡したとされる直後、真っ直ぐここ中央から南へ走る車が一台・・・」
「で、車は南オーシャナの森で消え、その数十分後空が突然光り輝き、そこ一帯の通信ができなくなった。それくらいは知ってんだよボケ」
アーサーが得意げに話すもんだから俺は続きを教えてやった。そしたら予想通り、アーサーは目を見開いて固まった。
「そこまで知ってたのか・・・さすが兄弟、けど、その続きは知ってる?」
なに?
「その後、警察車両が海岸道路で謎の車を発見。追跡を試みたが車は逃走し、行き止まりの標識を無視して海へと落ちた・・・」
俺は一気に顔を上げた。頭の中で一気にパズルのピースが埋まり出したんだ。にしてもアーサーの野郎・・・何故それを知っている?機械系が全く動くなったと言われてる南オーシャナの中での出来事を・・・
「しかも、その不審車両はブレーキ痕も残さずに落ちたらしいよ?なんなら崖を前にそこから加速したってさ」
酔いが一気に醒めた。
「おいアーサー、今のそれ嘘じゃねーだろうな?」
「嘘じゃないさ、この情報は俺の優秀な部下が調べたんだけどね?いかんせん、そこから先が全然読めなくてさ、だから兄弟に聴きに来たんだ、どう思う?」
「舐めんじゃねぇ・・・」
ミカミを知る為のもう一つの手段、異世界の勇者たち。そいつらの情報だ・・・そいつが一気にやって来た。森の先の行方と、何をしたのかだ。考察しろ、そこで一体何が起きたのか。
警察を振り切った・・・そんな芸当が出来るのはおそらくグレイシア ダスト。無論そこに同乗しているのは異世界の勇者たち、勇者らはなんらかの方法で南オーシャナ一帯の電子機器を破壊。その後に逃走している。しかも、そいつは何故か壊れずに動く車だ。
そこから更なる疑問が生じる、南オーシャナ一帯はあらゆる電子機器が使用不可能となっている。にも関わらず何故警察は動ける?何故テレビでは一切その様子は映らない?
そして海岸道路まで向かい、行き止まりの標識を破って海に落ちた。確かあそこは緩やかな登り坂の後急激な下り坂、いくら急いでいても目の前に崖が迫れば否応なしにブレーキは踏む。だが、車はむしろ加速した・・・
ならば目的は海に落ちる事一択、勇者たちは何もかもから姿をくらます必要があると言う事だ。では何から?可能性は一つ、この影響下で動いていた謎の警察車両、警察はその先に何かある事を知っていたとして、それを阻止しようとした?
いや、警察車両側は知らない。警察側は文字通り追っていた筈だ、海に落ちる前に勇者たちを手に入れる。その為にそこまでして手に入れたい理由は?
これも可能性は一つ、勇者は知った。警察が秘密にしたい事を・・・
この世界の真実を
まさか・・・ミカミ レイ、全てお前の計算のうちだって言うのか?お前が豹変したあの日から、今日に至るまでの全てが奴の計算で成り立っている。そして俺が今こうしてお前を調べてるのもまた、奴の計算・・・
「ヤバいよね、この依頼。本来俺向きじゃないからこんな阿呆らしい仕事なんかしないんだけど・・・流石にそそるでしょ?彼を調べるってのはさ・・・けど、俺だけじゃ彼の残した全てを解き明かすのは無理だ。だからさ兄弟、ここは互いに協力しあおうじゃない」
アーサーは俺に手を差し出した。けど、
「いやだね、だが感謝はしておくぜ?店長、アーサーに一杯くれてやれ、俺の奢りだ。釣りはいらねーよ」
俺は感謝の印にアーサーに一杯奢ってやった。俺は席から立ち上がってテーブルに金をドンと置いて店を出た。
「ほんとツレないんだから・・・けど、スイッチは入ったね。俺もそろそろ行くよ、この世界の真実・・・どっちが辿り着くのが早いかな?」
『この世界の真実は、俺が暴く!!!』