ゲームスタンバイ 馬喰 一兆
日本国 某県 某市 とある裏路地
『ガシャァンッッッ!!』
俺は1人の男を閉店した店のシャッターに叩き付けた。
「おいおい、何逃げようとしてくれちゃってんの?」
「ひ、ひぃぃっ!!な、何でも言う事聞くから!!命だけは!!」
で、この男は俺に土下座してきた。
「いや俺、謝ってもらうつもりないんだけど?そんなクソだせぇの見たって何も思わんからさ。必要なのは金、そこ分かる?おっさんよ?」
俺は土下座するおっさんの頭をペシペシ叩いた。
俺が今こんな事してる理由?単純、腹たったから。さっき軽くぶつかって俺は謝った。けど、こいつは舌打ちして睨んできた、それだけ。
「か、金っ!?こ、こいつで全部だ!!」
おっさんは財布を取り出した。あー、こいつ・・・色々やってんな?
財布の中身は現金のみ、5万程入ってた。
「うわ〜、すっくな。これが現代社会人?」
取り巻きの1人が財布の中身を漁ってる。
「いや、それだけな訳ないよな?えーっと、1、2、3・・・」
俺は札束を数え始めた。
「え、あ!!そ、それはっ!?」
「隠し通せると思った?ばーか、胸ポケットの内側にそのまま突っ込んでんのは流石にバレるわざーこ、これ何かの取引用?」
おっさんが懐に隠し持っていたのはざっと300万程、素肌に持ってるなんて何考えてんだか。
「そ、それだけは勘弁してくれ!!え、えとそいつは借金返済に必要なんだ!!頼む!!」
おっさんは涙ながらに訴える。うーん、この嘘つき。
「ぶふっ!!借金って、イッチーこいつダメダメにも程があるでしょ!?」
そして取り巻きは腹抱えて笑い出した。
「いや、ダメなんてもんじゃねーよ、最悪〜・・・あのよ?それ借金じゃねーよな?さっきスマホの画面見たけど、それ、パパ活用だよな?あ?貢ぐ気満々だろ。んでしかもお前、奥さんいるんだよな?とんでもねークズだなおい」
イライラしてきた、このみっともない大人にも、こんなクズに貢がれるような女にも。
「きーめた、可哀想だからこの300万は残しといてやるよ。会いに行ってこれば?」
「え?良いの?」
おっさんは馬鹿なのか?何で安堵したみたいな顔してるの?
「うん、良いに決まってんじゃん。けど、この5万は貰うぜ?んで、あともう一個。その金、貢ぐ為に使えよ?治療費とかに使ったら、分かってんな?」
「え、は?はぃ?」
「おーいトク、ちょっとそいつ押さえてて。後、口にティッシュ突っ込んで〜。うん、そうそう。服汚れたら売れなくなるもんな」
俺は取り巻きに体を押さえさせた。
「がっ!?ふがっ!!ふぉごっ!?」
「よーし、まずは前歯2本いーくーぞー」
俺はおっさんをボコして身ぐるみ剥いだ。結構高そうなスーツ着てたから売ろうと思ったのよね。こんな奴には身分不相応だろ?
で、大体合計したら手元に30万か、1日で溶けるなぁ。
あ、そうそう。あのおっさんはあの後パパ活相手にパンイチで放り込んで、そこにあいつの奥さん呼んどいた。
俺はそんな事は放っておいて、取り巻きと一緒に金を溶かして遊んでた。
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あ、いきなり血生臭いの見せちゃって怖かった?わりーね、文句はあの尺取り虫にでも言ってくれ。俺は普段は血生臭いのは嫌いだからね。
俺の名は馬喰一兆だ。ふざけた名前だろ?俺のクソ親が一兆円欲しいから付けたクソみたいな名前だ。イッチーってあだ名で呼ばれてる。
年は16だがまだ中学生。一応留年のせいではあるけど、それ以上に俺が在学してんのは、そもそも俺がその学校乗っ取っちゃったからなのね。適当に金出しゃ教員共の買収は出来るし、校長は花壇の手入れしかやってないし、そもそも俺自身ちょっと色んな方向にツテがある。
だから実質的に俺の中学のトップは自ずと俺ってわけ。
さっきの金を使い切って時間は終電ギリギリ。取り巻き共は帰って行った。俺はどうするか?
「・・・・・なーんも思いつかねーなー」
帰る気は無い。けど、何しようか思いつかない。
「あれ?イッチーじゃん、何してんのー?」
「あ?」
前から歩いてきたこの出っ歯のチビは男鹿 特急俺の取り巻きの1人だ。こいつも変な名前してるけど・・・まー説明面倒くさいからいいやー。
「今なんか失礼な事考えたでしょ?それよりも、帰らなかったのー?」
「帰っても暇だし、それこそトクはなんでまだいんの?あ、方向音痴だからか」
「そこまでバカじゃねー、あのクソ親家にいねーの。で、帰っても鍵開いてないの。んでもって暇だからプラプラとね?」
ふーん、そりゃ大変なこった。
「えー、野郎2人で夜一緒にいんの?」
せめて女の1人でもいればな〜、あ、ナンパするか?いや・・・最近ナンパも飽きてきたし、やっても金目当ての女しかいねーし、パスだな。
「仕方ねーじゃん。2人しかいないもの。うーん、ファミレスにでも行く?」
「まだそっちがマシだな」
俺はトクとファミレスに入って、適当にドリンクバーとつまめる物を頼んだ。
「明日は何しよっかな〜」
「またおっさん襲う?クソ弱ぇ〜くせして、やたらとマウント取りたがってうぜーし」
「良いけど、なら次お前がやれよ?疲れるもん」
「そいつは勘弁、俺ケンカ弱いもん」
トクは基本的に俺の腰巾着、後ろからワーワー言うけど特になんかする訳じゃない。
「だろーな。ま、今日のアイツみたいな奴がいたら俺がムカつくからやっちまうかもしんねーけど」
「ヒュー!イッチー言うねー!!」
トクはなんか持ち上げ出した。
「ふっ、頼もしい限りだな。わたくしとしても、あのような男は金輪際関わりたく無いものだ」
そこに突然トクの後ろの席から合いの手を入れてきた奴がいる。トクは振り返って席を覗き込んだ。
俺も見てみるとそこには変な奴がいた。眼鏡に白衣をこんなとこで着てるのもどうかと思うけど、なに?あのなっがーい右肩から垂らしてる三つ編み眼鏡。男だよな?どう見ても・・・
「誰あんた?なに?俺たちにケンカ売ってる?それなら買ってやるよ、イッチーがなっ!!」
「バカトク、お前がケンカ売ってんの?」
トクはまた何でか喧嘩腰だ。
「はは、わたくしはケンカは売らない主義でね。君らが襲ったあの男は少々わたくしの会社と提携している会社の男でね、今回の不祥事について君に感謝を言いたいんだ。馬喰 一兆君だったね?」
何だこいつ・・・おっさん襲ったのは、ついさっきの出来事だぞ?それがなんで俺の名前バレしてんだ?
「感謝の気持ちくれるくらいなら金をくれ」
トクがあからさまに手をホイホイと出してる。
「無論だ、だがそれ以上にちょっとしたスカウトをしたくてね。君たちはVRに興味はあるかな?」
「VR?あ、トクお前最新機種持ってたな」
「もう売ったよー、いや〜アレは金になったわ〜。で、それが何?因みに家のパソコンはスペック低すぎるぜい?」
多分そんな事言ってんじゃないだろ。
「はは、そこは問題ないよ。要はスカウトと言うよりモニターをやって貰いたいんだ。わたくしはとあるゲームの開発をしている者でね、こう言う者だ」
この男は名刺を出した。会社名は・・・知らん、AWRO?で、名前は
『エファナ アンダーソン』
おもっくそ日本人顔だけど・・・偽名か?
「ふーん。なんのゲーム作ってんの?」
「シンプルにファンタジーだよ。ただ、わたくしたちが開発しているのはこれまでのVRの常識を覆す、五感全てで体感する事の出来るゲームなんだ。岩や草、地面の触感。料理などの匂いや味覚・・・そして、魔法を実際に放つ感覚、それらを体験出来るんだ」
「えー、怖いんだけどナニソレ?ノーベル賞でも取るの?」
「そんな賞は要らないよ、そもそもわたくしがここに来たのは君たちに先ほどの詫びをする為。ただ、少しばかり提案をしてみたに過ぎない。ただ、もしモニターをやってくれるのならその報酬は5000万でどうかな?1人、5000万だ」
わお、あまりの金額にトクの顔は(^ω^)みたいな顔文字みたいになってるわ。
「その分危険があるとか?」
俺は疑り深いんでな。
「わたくしもスタッフも体験済みだ。身体に異常は起きない事は保証しよう」
「うーん・・・きーめた。5億出すなら乗ってやるよ、1人5億な?しかも前金で、できなかったら今日の話はなしって事で」
さて、どう出る?こいつは絶対怪しい、もし出来るって言ったら、俺以上のでかい組織が絡んでるのは間違い無さそうだ。
「10倍の金額を出してきたか・・・何とか予想通りのうちか、丁度ここに現金10億がある。こいつでどうかな?馬喰 一兆君に、男鹿 特急君」
エファナは机の下にしまってあったアタッシュケースを取り出して開けてみせた。中にはびっしりと札束がある。
そして、うん・・・偽札じゃねーな、本物だ。そしてざっと数えてもみたが確かにぴったし10億だ。
「か、金・・・じ、10億・・・」
んで、トクはこの金額に殺到しそうだ。まーこいつの家ビンボーだもん。転売やら万引きやらで生活してるような奴だ、こうなるわな。
「うん、俺やべー奴にちょっかいかけたっぽいね。仕方ね、まぁ好条件だから呑むしか無いか。で、モニターはどれだけやんの?」
ここは大人しく言う事聞こ、下手なことやって東京湾行きは嫌だもんね。
「連続して1ヶ月だ。食事やトイレなんかもゲーム内でしてもらって構わない」
うーんこの、ますます怪しい・・・某SFアクション映画の世界でも作る気か?ただ、怖い反面・・・面白そうだって思ってしまった。最早これはVR超えて、メタバースも超えて、異世界転移みたいなもんだな。
「戻ったらクソまみれになってるとか無いよな?」
「そこも問題ない。さて、話だけではつまらないだろ。実際に見てからでも構わない。気に入らなかったら即中断しても良い。ここはわたくしが払っておくよ」
これ下手すりゃ未成年者誘拐になりかねないけど、とりあえずなんかそれっぽいとこに連れてこられた。ザ 研究所みたいなとこだ。
『AWROラボラトリー』って入り口に書いてあったからここだろうな。
「あ、はかせー、連れてきましたー?」
中では助手らしき女性が何やら作業してる。にしても、こいつもまー髪の長いこと長いこと、膝下まであるロングの黒髪だ。で、こいつも眼鏡か。てかここ研究所だろ?せめて髪まとめとけよ・・・大丈夫か?
「ねーねー、イッチー」
そんな感想を述べてたらちょいちょいとトクが俺を引っ張った。
「あ?」
「あの子めちゃ可愛くね?」
「あっそ」
お前はそこかい、これだから思春期のガキは・・・あ、俺もそうか。けどこいつには興味ないなー。
「紹介しようか、彼女は私の助手、狐坂 紅だ」
「えへへ、よろしくー」
紅は愛想良く笑って俺たちに手を振った。
「今回は彼女と同行してもらう。まぁ案内役のようなものだ」
「うっし・・・」
隣でトクがガッツポーズしてる。
「で?エファナさんよ、俺は何すりゃ良いんだ?」
「自由に行動してくれて構わない、今のところ世界の構築しか至っていないからね」
「ふーん・・・で、1ヶ月だったな?分かった。ただ、金持ち逃げしたらいくらお前がどんな組織がバックに付いてようがぶち殺すからな?」
「約束は守るさ。さ、これがその機械だ。この中に入って椅子に座れば良い。すぐに終わるさ」
俺はアナザーワールドとか書いてある何個か並んでるカプセルみたいな機械に入った。
「君たちを送り次第、わたくしも向かう。では、紅君頼んだよ」
「はーい」
それぞれカプセルに入ってドアを閉める。椅子は・・・これI◯EAで見た奴だ、ポツンと置いてある。こんなんで良いの?もっとこう、拘束具が付いてる奴とかじゃないのね。
『転送を始める、間接転移システム起動。色々飛ばしてオールグリーン』
スピーカーからエファナの声だ、てか色々飛ばすな。
『では、良い旅を』
次の瞬間、爆発音みたいな音が聞こえて外が真っ白に光った。こうして俺たちは、未知の世界へと旅立った。