序章 『Re:第二章裏 異世界の真実、やがて来るは死の運命』
『この世界は常に監視されている』
それがこの物語の舞台、異世界の真実だ。『彼ら』と呼ばれる存在、それは私たちの生きるこの世界に存在する闇。
彼らは異世界のこの地を実験場とし、そこに私たちの世界の人間を送り、経過観察する実験が繰り返されていた。
三上 礼と呼ばれる男はその1人、彼はごく普通の家庭で育った普通の青年だ。しかし、彼は突如としてこの異世界に飛ばされてしまった。
その中で彼は魔法に目覚め、そして、自身の力に目覚める事となる。そしてこの国の悪と戦い1人の少女を救った。
やがて三上の力は世界をも救う事となった。ゼロと呼ばれる世界を支配しようと目論む巨悪、三上はその男をも倒した。
だが、その三上のその行動全てが彼らによって仕組まれた事だった。ゼロもまた、三上同様にこの世界に連れてこられた被害者だったのだ。
三上はそんなゼロを倒して18年、幸せに暮らしていた。だが、そんなある日、三上は偶然この真実を知ってしまう。
三上は突然暴走し、この異世界を乗っ取り、恐怖で支配した。毎日一人ずつ、反逆者と称して罪なき人たちを殺していったのだ。
一つ大事な事を伝え忘れていた。三上が暴走し、異世界を突如として恐怖に包んだ理由はそこにある。
この世界に連れてこられた者は、一時的に魔法能力や大幅な身体能力の上昇を得るが、そのまま何もしなければ1月でバケモノと呼ばれる怪物へと変貌してしまうのだ。
それを阻止出来るのが『覚醒』と呼ばれる状態、極限の精神状態へと至り、さらに乗り越える事で世界を理解し、より深くこの世界の力を使う事が出来るようになる。そうなればその体はもはや不老不死に近い存在へとなる。
ただ、それも20年までだ。それ以降はどう足掻いてもバケモノへと変貌してしまう。
三上はこの転移実験が20年周期で行われている事を知り、三上は一つ、彼らに芝居を打つ事にした。自らが支配欲に溺れた巨悪を演じる事にしたのだ。
そして20年目を迎えるその年に、3人の少年少女たちがこの世界へと飛ばされてきた。坂上 桜蘭、麗沢 弾、神和住 零羅。
三上はその子らに自らを殺させるゲームという名の試練を与えた。三上はその子らと戦う。その子らを覚醒に導く為、悪の存在を演じきり、そして激闘の末、遂に三上は敗北し、死亡した。
戦いの後、その子らも真実を知る事になる。
『この異世界より真実を込めて』
三上が真実に到達した本。ただ、この本には20年の壁を超えた更に先まで生存する事が出来る可能性が示されていた。だが、その術を知るのは彼らのみだった。
だから三上はその命を懸けて、彼らをこの世界の表舞台に引きずり下ろしたのだ。その命を投げ捨ててでも三上は、皆を救おうとしていた。
3人の子らは三上の遺志を継ぐ覚悟を背負った。この世界を真に支配する悪と戦うために、3人の異世界の勇者たちは別れ、それぞれ新たな旅立ちを決意した。
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序章
『Re:第二章裏 異世界の真実、やがて来るは死の運命』
バッドエンドゲーム開始より一年前、
創歴五百十九年 四月
異世界、アダムス連合王国、現国王へのクーデターが巻き起こった。首都である中央地区のあちこちで王国軍への反撃が開始される。
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新アダムスビルヂング、玉座の間
そこには1人の女性ともう1人、男性が向かい合っていた。
ふわっとしたピンク色の髪を持った女性の名は、シャルロット レッドローズ。この世界、アダムス連合王国で知らない者はいない、爆破部隊と言う名前のチームのトップアイドルだ。だが今の彼女はクーデターの首謀者として玉座に攻め込んでいた。
「はぁ・・・はぁ・・・教えてよ、みかみん・・・」
そんなシャルロットは肩で呼吸し、全身傷だらけのボロボロな姿で男の前に立ち問いかけた。
そしてもう1人、黒髪のボブヘアでまるで少年のような出立の男の名は三上 礼、一年前この世界を恐怖で支配したこの国の王。三上は肩書きに似合わないボロボロのコートを羽織ったまま、玉座に腰掛けて少し笑みを浮かべながらシャルロットを見返した。
「ははは、凄いねシャル・・・このクーデター。まさか、ここまで侵攻を許すとは思わなかったよ。けど、もうやめたら?僕は君の事は気に入ってるんだ。今なら国家反逆については不問にしてあげるよ」
三上は笑いながら答える。
「質問に答えて!!!みかみんの!!本当の目的はなんなのっ!?教えないなら・・・」
シャルロットはその三上を見て声を荒げて、着ていた上着の内側を三上に見せた。
「ダイナマイト・・・それは本当凄い発明だったね・・・」
「そうだね、みかみんと私と一緒に作った・・・みんなを平和にする為のダイナマイト・・・けど、今私は・・・私ごとあなたを殺すためにこれを使う。教えないなら、本当に全部を吹っ飛ばすよ・・・」
シャルロットの上着の中には無数のダイナマイトがあった。
「なるほどね、それだけの量のダイナマイトはちょっと僕でもきついかな?けど、どうやって一気に点火させるの?」
「私を舐めないでよ?」
「・・・」
三上はゆっくりと玉座から立ち上がった。そして立てかけてあった流血光刃と呼ばれる剣を抜く。
「仕方ないね・・・僕は君にはまだ死んで欲しく無いんだ。僕は君の自爆を全力で阻止するしか無いな」
「昔からの知り合いだからって贔屓してるの?これまで散々自分に逆らう者は殺してきたのに?みかみん、もし、私がみかみんを追い詰める事が出来たなら、本当の事を教えて。じゃ無いと今すぐ私は死ぬ」
シャルロットは一本のダイナマイトに火をつけて自分の胸に当てた。
「・・・なら君が、本当に本気なら・・・一個だけ教えようか」
「っ!?」
一瞬だった。三上はいつのまにかすれ違いざまにシャルロットのダイナマイトの導火線を剣で切っていた。
「けど、君が万が一僕に勝てるような事があるのならね」
「・・・ふふっ!!それで良い!私も教えてあげるよ!!私の本気って奴を!!」
シャルロットは三上に向けて点火済みのダイナマイトを数本一気に投げる。
「今度は切るタイミングは無いよ!!」
「あはは!!ならっ!!」
三上は剣を振り、周囲に風を巻き起こして爆風を退ける。
「ふーん、足元注意だよ?」
「セムテックスッッ!」
三上の足元にはまるでコンクリートの塊のような爆弾が仕掛けられていた、通称セムテックスと呼ばれる爆弾だ。
三上は飛んで避けたが少し足にダメージを負った。
「まだまだ!!」
『ズドドドドドドドドドドォォォォンッッ!!』
そしてシャルロットは次々と柱に粘着爆弾を付けて爆破し、瓦礫を三上に向かって落とした。三上は瓦礫の山に埋もれてしまった。
「・・・私のお母さんもこうやって死んじゃったんでしょ?落盤事故で・・・いや、あれは事件だよね。みかみん、お母さんが死んじゃったあの日、どうして私を現場まで連れてってくれたの?どうして一緒にお母さんを探してくれたの?」
『ガラガラ・・・』
「言ったよねシャル、教えられるのは一つ。聞きたいのはそれで良いの?」
三上は瓦礫を押し除けて現れた。
「いや、そんな事はもう今更聞きたく無いね。私が知りたいのは今、みかみんは何を思ってるのか。それだけ・・・行くよみかみん、私のこの気持ち・・・受け取って!!」
シャルロットは一瞬のうちに両手に抱えきれないくらいのダイナマイトを持ち、一気に三上へと投げた。
「流石シャルだ・・・僕の目ですら導火線に火を着ける瞬間が分からなかった。けど、もう少し導火線を短くしておくべきだったね!!」
三上は剣を振り導火線の火を全て消した。
「っ!?」
「残念、それダミー。そのダイナマイトは二重構造なの!!」
切断されたダイナマイトの中からさらに別のダイナマイトが現れた。三上は流石に捌ききれず、ダイナマイトは爆発した。
(今のダイナマイト、なんで僕に当たる前に爆発した?)
三上がそう考えた直後、その答えが出た。
「さっきの倍だよっ!!」
空中には無数のダイナマイトがばら撒かれた。
「目眩しって訳ね!!けど・・・ん!?」
三上はまだ間に合うと判断し剣を振った。そしてほぼ全てのダイナマイトは切られてしまった。しかし、三上は気が付かなかった。シャルロットはサイズの小さいダイナマイトを三上の目の前にばら撒いていた事に。
「流石に無理でしょ!?見えてるのに触れられないその爆弾には!!」
三上の目の前に迫ったダイナマイトが炸裂した。
「ぐっ!!」
三上は直撃を喰らった。
「いってて・・・目の錯覚か、これは読めない。けど、こんな小さいダイナマイトじゃ僕は・・・」
「だから、それもダミーなの!!本命はこれっ!!」
「え・・・」
全力でダッシュしてきたシャルロットは何をするのかと思えば三上の唇に自身の唇を合わせた。そして、
「ん・・・っ」
「しま・・・」
「ファーストキスは、爆弾の味だね!!」
シャルロットはキスの際に自身の舌を使い三上の口の中にガム状にした爆弾を捩じ込んだ。そして手に持っていたボタンを押す。
『ボコォォンッ!!!』
三上の頭が吹っ飛んだ。三上はそのまま後ろにバタンと倒れる。
そしてシャルロットも力尽きたようにぺたんと地面に座り込んだ。
「あっはは・・・初めての人、爆殺しちゃった・・・ねぇみかみん、これが私の本気。私ね、みかみんの事が好きなの。まぁ、みかみんはグレイシア選んじゃってるんだけどね。けど、私の思いは変わらない。あなたがどんなになっても、どんなふうに生きるのだとしても、私は、君を愛してる。
だから教えて、今の君は本当の君じゃない。演技してるのなんかバレバレだよ?無理して壊れてる。だから教えてよ、お願いだから・・・独りにならないでよ!!私は!!」
「もう良いよ・・・シャル・・・」
シャルロットは大粒の涙を流しながら三上に問いかけ、三上は今までにないような優しい声でシャルロットを宥めた。
「これだけめちゃくちゃなら、話しても良いかな?ごめんね
シャル、ここまで追い込んじゃって・・・この世界は・・・」
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シャルロットは三上から真実を聞かされた。彼らの事をそしてシャルロットはその事から自力で気がついた。三上は自らの命を棄ててでも彼らと戦うという事を。
「そんなの・・・みかみん、これ知ってるのって他に誰?グレイシアは?」
「知ってるのはスチュワートさんだけ、彼は自力で気がついたんだ。そしてグレイシアやフォックスには何も伝えてない・・・いや、グレイシアも多分何か感じてるとは思う。それでも彼女は何も言わずにいてくれてるだけ・・・」
「流石は、みかみんのお嫁さんだね・・・もし、私がグレイシアの立場だったらあんな風にはしていられない。多分何処かでポカやらかしちゃう・・・けど、けどさ・・・」
シャルロットは喋っているうちに声が再びうわずってきた。
「僕はもう決めたんだ。僕は奴らを許しはしない・・・」
「わかってるよ・・・けど、みかみんがそこまでして戦う必要なんかないよ!!」
シャルロットは三上に抱きついて、三上のやろうとしている事を止めようとした。
「そうだね、やりたくないさ・・・僕だって・・・けど、僕の中で燻ってるこの感情は抑えられないんだ。足掻き続けたい、諦めてたまるか・・・この身がバケモノになろうとも、たとえこの世界をぶっ壊す事になったのだとしても僕は奴らを・・・許さない・・・!!」
三上の口から発せられた言葉は怒り、憎しみ、恨み、あらゆる負の感情が噴き出していた。だが、その表情は明るく笑っていた。
「・・・みかみん、止められないんだよねもう・・・だから壊れた・・・私決めたよ。私もこの命を懸ける。この命を懸けて、この世界に溢れた復讐心を全て背負う。私が、導く!!」
シャルロットはゆっくりと立ち上がった。
「そうか・・・ありがとう。ならシャル、君にお願いがある。これからは、僕の右腕として動いてくれない?今回のクーデターはそれでおしまいだ」
そして三上も立ち上がった。
「ふふ・・・仰せの通りに、国王陛下とでも言うべき?」
「はは、君がそんな風に言うと気持ち悪いなぁ・・・二人の時はいつもの呼び方でいいよ・・・ほんとに、ごめんね」
「それこそ、悪の帝王がそんな言葉は似合わないよ。謝らなくていい。なら、行こうよ」
「だね、シャルロット」
二人は互いに手を取り合い、計画を始める事にした。
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これまでの総ては零だった。だが、世界は壱へと進む時が来た。
一度動き出した歯車は止まる事を知らない。終わりを迎えるまで回り続けるだろう。
これは我々の物語。そして、巡り合う物語。