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10/22

10.狂人。


 「おせーよ。アシ。で?こっち来る気になったの?どうよ?お前の居る百階は、クズ共が俺らの盾になるために用意されてる階層な訳。能力も才能もある俺らは、もちっと深くて暖かいところで、のんびりすればいーのよ。隔壁の内側に来いよ。お前なら六十番台をやるよ。な?判るだろ。俺んとこで楽しくやろうぜ?」


 ガラス張りのVIPルームで第五十九番隊隊長のウラルが楽しそうに威嚇してくる。大きすぎる双眸を光らせる彼からは、内蔵を捕まれるような覇気がにじみ出している。裸の彼は同じく裸のヒト――性別は問わない――と、飼い慣らされた蛇やナメクジの異形に囲まれ、愛撫されていた。


 巨大なソファが彼の玉座だ。ウラルはありとあらゆる化学物質を摂取してご機嫌だ。得体の知れない酒を煽ってグラスを放り投げる。割れた破片が側に居た若い男を傷つけた。血を流し、短い悲鳴を上げる。ウラルは満足そうに微笑んで彼にキスをした。取り巻きの女達があたしもあたしもと縋り纏わり付く。ウラルは気に留めない。


 「で――返事は?」


 「俺は九十九番隊で良いです。」


 愛想無くウラルの申し出を断ったアシをダダが睨む。しかし、彼はウラルの言葉を待つだけで、余計な行動は起こさない。すうぅぅぅーっと、ウラルは息を吸い込んでから立ち上がった。ダダは(ああ、こりゃ、しんだなぁ。)と思った。しかし、ウラルは笑う。


 「がははははははははぁっ!お前馬鹿だろ?あぁ??」


 ウラルは天井を見上げて笑った後、アシに向き直り見つめる。彼の大きな双眸が更に更に大きく見開かれる。VIPルームは沈黙する。フロアのリズムだけが空気を揺らし時間の存在を証明する。誰も動かない。アシは気が狂ったようなウラルの瞳を見つめたまま、単純な答えを返した。


 「はい。馬鹿ですね。俺は、信じています。強い兎狩こそ上層階に居るべきだと。下層のデブ共を守るために隔壁の内側に籠もるつもりはないですね。俺は最上階でヒトの生活圏を、そのデッドラインを守りたいです。」


 ウラルはぐううっと首を伸ばして顔をアシに近づけた。あんパンくらいの大きさがある瞳がアシを見つめる。アシは動じない。ウラルは細かい牙の生えた口を上手に動かして応える。


 「好きだぜ、アシ。まぁ……また来ると良い。次は良い返事を聞かせて貰うぜ。」


 「はい。恐縮です。」


 返事を聞いたウラルは自身にまたがっていたオンナの首を掴んで放り投げた。VIPルームのガラスを突き破り階下のフロアに落ちる。大きな衝突音がして悲鳴が上がり、次いで歓声が起こった。全員が狂っていた。地下に籠もりすぎて、日の光を忘れ、愛を失ったのだ。血と死が何よりのエンターテイメントになってしまったのだ。

 階下の騒ぎを充分に堪能してから、ウラルはアシに告げる。


 「そう言うのをインギンブレイって言うらしいぜ?なぁ。」


 「はい。すんません。」


 再びウラルは馬鹿笑いして、左手をひらひらさせた。帰れの合図だ。ダダは頷いて、アシを引っ張るようにしてVIPルームを後にした。



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