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3章

まず物書きには二種類ある。テーマがあるから書くタイプと、書くために書くタイプだ


ショーペンハウアー「 読書について」より


帰宅した沙耶香は頬杖をついて考え込んでいた。


自分に足りないものはわかった。


だが、いざ書こうとすると、結局何を書けばいいのかわからない。


——創作ってのはな、社会に銃口を向ける行為だ。


——創作はテロだ。


「テロと言われても……」


思わずため息が溢れる。


本田沙耶香は恵まれた人間だ。


某トップアイドルグループでも通用するであろう容姿とスタイル。


勉強は常にTOP10入り、バスケ部でエースを任されるほどの運動神経。


両親は健在、世帯年収もお金持ちとまではいかなくても、世間一般の中では上の方だろうし、家族仲もいい。


学校でも、いじめられることは一切なく、友人に恵まれた。


恵まれているからこそ、公威みたいに強い思想や信念は、良くも悪くも持ち合わせていなかった。


「というか、今まで流されて生きてきたな……」


流されるまま。


あるいは、求められるまま。


今の高校を決めたのも親の希望だ。


沙耶香には双子の妹がいる。


世帯年収は世間一般の中では高い方とはいえ、三人を大学まで進学させるとなるとそれなりにお金がいる。


特待生の学費無料は魅力的だ。


バスケも友達に誘われて始めた。


エースと呼ばれるようになって、辞めるに辞めれなくなり、惰性で続けている。


身体を動かすのは好きだが、熱中するほど好きかと言われるとそうでもない。


恵まれているが故に求められる、それが本田沙耶香という少女だった。


「ダメだー」


頬杖を状態から一転、椅子に背中を預ける。


これ以上考えても何も浮かびそうにない。


気晴らしに何か読むことにする。


公威のように難しい本は持ち合わせていないが、ライトノベルでも創作の肥やしになるだろう。


沙耶香は椅子から立ち上がり本棚に向かう。


「どれにしようか……な」


赤い背表紙のライトノベルが気になり、手に取る。


リコリス・リコイル Ordinary days——


電撃文庫から刊行されている人気アニメ「リコリス・リコイル」のスピンオフ作品。


「千束は私と正反対だよね……」


リコリス・リコイルの主人公ーー錦木 千束。


誰よりも殺しの才能に恵まれながら、人を殺すことを拒否した少女。


リコリス・リコイルは、他人軸ではなく、自分軸で生きることを説いた作品だ。


「他人軸ではなく、自分軸……」


急いで椅子に腰掛け、パソコンの電源をつける。


パソコンの立ち上がる数秒が腹ただしい。


パスワードを求められて余計に腹が立つ。


無事立ち上がったのを確認し、マウスを走らせてメモアプリを立ち上げる。


今思いついたことを急いでプロットに落とし込む。


一方、公威は相変わらず本を読んでいた。


ロバート・A・ハイラインの小説「月は無慈悲の女王」。


次は無政府主義者の話を書こうと思っているので、参考にするため読み返していた。


半分ぐらい読み終えた頃、スマホの通知音が鳴る。


沙耶香からだった。


さっそくプロットができたらしい。


タイトルは「反逆の勇者」。


民衆に求められるまま生きるのではなく、自分の信念を貫く勇者の物語。


読者に伝えたいメッセージは「自分らしく生きろ」。


現代社会。


誰もが、他人に求められるまま生きている。


例えば就職活動。


「個性が大事」「多様性の時代」だと嘯きながら、結局求められているのは役に立つ人間だ。


誰もが、「私は役に立つ人間です」と必死にアピールする。


例えばSNS。


誰もが、必死に「いいね」稼ぎに邁進する。


一億総マーケターと言えるこの時代に、「自分らしく生きる」ことテーマにするのは意味のあることだろう。


「ふむ……」


他人に求められるままではなく、自分らしく——それは公威の思想にも通ずるものがある。


もちろん、世の中どっかで社会と折り合いをつけなければいけない——それは公威とて例外ではない。


だからこそ、俺は——俺たちは創作を行うのだ。


再び通知音が鳴る。


沙耶香から追加のメッセージ。


どうやらバスケ部を辞めるらしい。


「わざわざ俺に言わんでも……」


公威は手に持っていた小説に栞を挟み、本棚に戻した。


そして、パソコンを立ち上げ、いつも使っているメモアプリを起動する。


予定変更だ。


自分も「他人に求められるままにではなく、自分らしく生きる」ことをテーマとした作品を書くことにした。


他人に求められるままに生きていた少女が、創作を通して自分らしく生きるようになる物語。


タイトルは——


「創作テロリズム」



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