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2章

ミァハはそうやって文字の海を泳ぐうち、自分をいかにして社会的凶器として研ぎ澄ますかを、日々学んでいったようだ


伊藤 計劃「ハーモニー」より

公威と沙耶香が師弟関係になった翌日。


沙耶香はバスケ部の練習で汗を流し、昼食を取った後、公威の家に向かっていた。


元々は昨日と同様にマクドナルドで会話を交わすつもりだったが、沙耶香は公威がどのような環境で執筆しているのか興味が湧き、彼の自宅を訪れることを提案した。


公威も無駄な出費や移動時間を削減できるため、沙耶香が来ることに賛成したのだ。


沙耶香は緊張を抑えるために深呼吸をし、公威宅のインターホンを押す。


すぐに「はい」という声がインターホンから返ってきた。


沙耶香は「公威くんの友達の本田です」と伝えると、中から「どうぞ」という返事が返ってきた。


玄関を開けると、鋭い目つきの女性が出迎えてくれた。


「いらっしゃい、公威の母の陽子です」と彼女は挨拶し、「公威くんの友達の本田沙耶香です」と沙耶香も挨拶を交わした。


陽子は沙耶香をじっくりと観察し、「ふーん」と興味津々な様子で言った。


「おっと、失礼。いきなり弟子入りを志願する変な奴が来ると言うから、どんな子が来るのやらと思ってたけど、随分と可愛らしお嬢さんで驚いちゃった」


沙耶香は顔が赤くなるのを感じた。


確かに、沙耶香が取った行動は奇妙だったが、もっと他の紹介の仕方があるのではないか。


「来たか」と奥から公威が現れ、沙耶香は恥をかかせた意趣返しと言わんばかりに彼を睨んだ。


しかし公威は平然としており、「こっちだ」と自分の部屋に案内する。


沙耶香は靴を脱いで整え、公威の後を追って彼の部屋に入った。


公威の部屋は執筆用に最適化されており、まず目に入るのがL字型のデスクとシンプルなオフィスチェアだった。


さらに、リビングに置いてあるような木製の椅子も用意されていた。おそらく、沙耶香を招くにあたって用意したのだろう。


また、公威はデスクトップパソコンに2台のモニターを接続していた。


そして本棚。


本棚には小説だけではなく、歴史や宗教・哲学などの難解な本がびっしりと並んでいる。


「これ、全部読んでるの?」と沙耶香が尋ねると、公威は「そりゃそうだろ」と答えた。


彼の態度からは、「なんでそんなことを聞くんだ」という言外のメッセージが伝わってきた。


沙耶香は、先ほどとは別の意味で恥ずかしくなり、自分が書けないのは努力不足だと痛感した。


公威は沙耶香の小説についての感想を語り始めた。


「綺麗にまとまった優等生の作品だな。思想やメッセージ性が薄く、書けるものを書いた、という印象を受けた」と彼は言った。


「思想やメッセージ性……」と沙耶香は反芻する。



「創作ってのはな、社会に銃口を向ける行為だ。つまり——」


公威は鋭い眼光で沙耶香の目を見据えて断言した。


「創作はテロだ」


沙耶香は創作に対する考え方が大きく変わり始めるのを感じた。



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