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舵を新たな方向へ

 かつてリースト一族が魔法樹脂に古代種たちを保存するよう、命令を下した者たちがいる。


 本来、上位種たちが暮らしていた元々の国だ。


 これら上位種の数少ない生き残りたちは、現在では円環大陸の中央部にある『永遠の国』という小さな神秘の国に集まっているとされる。


 周囲を湖に囲まれていて行き来が難しいせいで実態の判然としない国だが、神殿や、世界各国にある教会の本部、冒険者ギルドの本部がある国だ。

 謎に包まれているが、存在感だけはある。


 この永遠の国は、人間のステータスに自然発生する以外で唯一、“称号”を発行して授与できる国として知られている。

 恐らく、円環大陸における真の支配者が存在し、運営している国だ。




「ルシウスは、始祖筋の最も古い古代種の生き残りです。ハイヒューマンと言えばおわかりでしょうか?」


 一族の長老から説明を受けて、やっとここでオデットは理解した。


「つまり、ルシウスはハイヒューマンとして永遠の国に行きたくない。我々リースト一族は、聖者にまでなった彼を手放したくない。そういうこと?」

「どちらかといえば、ルシウスを手放したくないのは女王陛下かと」


 先日、お茶を飲んだばかりのグレイシア女王のことだ。

 ルシウスは幼い頃から家族ぐるみで彼女と親しく、女王もまた彼を何かと重用しているとのこと。


「……百年前。私の知る聖者や聖女といえば、世界中を旅しては人々に希望を与えていたものだけど。あなたは違うの? ルシウス」

「私は、ここにいなくても良いのだろうか? オデット」

「存在感だけあっても、一族にヴィジョンを示せない者に意味はあるのかしら? あなたもしばらく、外に出ているといいわ」


 その間、自分がリースト一族の舵を取る。


 オデットは元から本家の嫡子だ。魔法剣も多数持っている。

 瞳には銀の花が咲いている。

 何も問題はなかった。




 もう『魔法剣をダイヤモンドからアダマンタイトに進化させる』という目的地に着いてしまった大型客船に、次の目的地を設定しなければならない。


 自分勝手な者が多い一族からこそ、基本の方針だけは堅固なものを定めて遵守する必要がある。


「時代が変わり始めていると思うの。とっくに死んでいるはずの私は生きていて、今この時代に蘇った。始祖に連なるハイヒューマンのルシウスは聖者となった。一族の悲願は既に果たされている」


 ひとつひとつ説明していくオデットを、広間に集まる者は誰もが固唾を飲んで見守っていた。


「さあ、次に我々はどこへ行く? まだこの国に留まるもよし、新たな新天地を求めて出て行くもよし」


 ウェイターに視線をやり、オデットはスパークリングワインの封を開けさせた。

 ずっと立ち話ばかりで喉が渇いている。

 会場内の者たちにグラスが行き渡ったことを確認する。


 受け取ったシャンパングラスを掲げた。



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