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一族の最長老


「まあ。それでは、親族会議で最長老に任命されましたの?」


 放課後、ガスター菓子店のカフェに寄って、ミニのショコラパルフェで紅茶を楽しんでいたオデットと、親友の生徒会長グリンダである。


「私、自分ではまだ16歳だと思ってるけど、公式には116歳なんですって。本家筋の最高齢者は自動的に最長老だとか。……はあ、一気に年を取ってしまったわ」


 しかし良いこともあった。

 先月、学園でグリンダとやり合って大暴れしたことで、お仕置きとして減らされていた小遣いの金額が元に戻った。


 そればかりか、一族の最長老職のお手当として毎月、一定額が支給されることになったのだ。

 学生の小遣いとはいえないほど多額の金額が自由に使えるようになった。


 そして、一族の重役としての権力も授けられることになり、オデットの細い肩には一気に背負うものが増えたということでもある。


「一族からは、何を託されましたの?」


 こちらはスコーンを注文していたグリンダが、二つに割ったスコーンにたっぷりのクロテッドクリームを乗せながら尋ねてきた。


「大したことじゃないわ。元々の計画通りよ」


 チョコレート味のビスケットで生クリームをすくい、グリンダに微笑みかける。




「そういえば、夜には戻ってくるそうですね。カーナ王国への使節団が」


 オデットの家の当主、リースト侯爵ヨシュアのことだ。

 さすがにグリンダは勘が良い。


「新国王夫妻にはご挨拶できたけど、お目当ての先王弟とはすれ違ってしまったそうよ。タイミングの悪い男ねえ」


 手紙を受け取った養父のルシウスが、中身を読んで目頭を押さえていた。


 5年前、この国で起こった凶事のことを、オデットは書籍で概要を、当事者や関係者から断片を聞いた程度にしか知らない。

 だがそんな彼女でも、わかることがある。


「ねえ、グリンダ。うちのリースト家って、5年前の事件でかなり王家に借りができてしまったと思うの。それなのに何で侯爵に陞爵できたのかしら?」


 当主のヨシュアは先王弟カズンの護衛だったにも関わらず、護衛対象を出奔させてしまっている。

 残った王太子の負傷も防ぎきれなかった。

 これではむしろ、爵位の降下や取り上げのほうが適切ではないのか。


「逆ですよ、オデット。後の王太子殿下を守れたからこその陞爵であり褒賞です」


 グリンダが言うには、元々の王家は『万年伯爵家』に甘んじて上を目指そうとしないリースト伯爵家を陞爵させたくて仕方がなかった。

 そこに、都合よく当時まだ王子だったユーグレン王太子を、当主ヨシュアが身体を張って守り通した。

 その他のことは、また別の話だそうだ。


「『万年伯爵家』。まさか百年後もまだ言われてるとは思わなかったわ」

「少なくとも今の王家と同じくらい古い家なのに、その頃からずーっと伯爵家のままですからね。下がりもせず、上がりもせず」

「伯爵家ぐらいがちょうどいいのよ。上にも下にも顔がきくもの」


 常に一族の当主は、リースト家の力を平均よりちょっとだけ上に調整している。

 貴族社会の中で浮き過ぎないよう、絶妙な立ち位置を保つことこそが、当主に課せられた使命だ。


 だからこそ、たまに個性的な者が一族の中に出ても、少し経つと貴族社会の中に埋もれて忘れられがちになる。

 蘇った後のオデットが学園で虐めにあったのも、リースト家が社交界で存在感の強弱を調整し目立たないようにしているからだった。


「今後もその方針は変わらないの?」

「数代ごとに微調整してるの。今後百年、一族がどう在るべきか親族会議で話し合ってね」


 そしてオデットの一族はひとつの結論を出したばかりだ。




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