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百年前の心境


 かくしてオデットは、百年前の屈辱を晴らした。


 かつての己の婚約者であり、自身を誘拐させ奴隷商に売り飛ばした犯罪の片棒を担いだ、ドマ伯爵令息ダニエルの家を潰すことに成功することで。


「報復を行い、制裁も下した。……案外、すっきりしないものね」


 オデットは百年前、誘拐された後から自分が魔法樹脂に封印されるまでの出来事を思い返していた。




 誘拐され魔力封じの魔導具を無理やり装着させられ、奴隷商に売り飛ばされたとき、まず感じたのは恐怖だ。


 それから数日かけて円環大陸を、護送車のような中から外がわからない鉄壁の馬車で運ばれる。

 この間ずっと、教会が教える救い主とやらに助けを求めていた。


 到着した奴隷商の館では丁重な扱いを受けたが、それは美しく希少価値の高い商品だからこそ。

 すぐに身を害されることはないと理解し、それからは両親や兄に心の中で必死に呼びかけていた。

 けれど魔力を封じられている状態では、結局何もできなかった。心の中に家族の声も響いては来ない。


 いよいよオークションにかけられるという日には、学園で別れたばかりの王女殿下のことだけを念じていた。


「先輩。先輩、助けて。オデットはここです。先輩、先輩、会いたい、助けて……」


 もちろん、オデットの大好きな王女殿下が現れることはなかった。


 そして“商品”として落札され、会場と同じ建物内でその身を穢されるという寸前、オデットの中にスイッチが入った。




 リースト伯爵家の人間は、当主や一族の要人の肉体に身の危険が迫ったとき、透明な魔法樹脂の中に肉体を封じ込めて保護する術が施されている。


 突発的な事故や凶事の際は自動的に。


 そうでなくとも身の危険を感じたときには、自分の意思で。

 ただ、安易に発動しないよう、発動条件が厳しく設定されていた。


 条件はたったひとつ。


「“己が生き残るに値する者と確信できるかどうか”か。つまり、リースト伯爵家にとって必要な人間であると思えるかどうか」


 何にせよ、過酷な体験がオデットを戦士として完成させたのは、皮肉なことだった。


「もう二度と、油断なんてしない」


 先日の試合の後、早々に出張を片付けて屋敷まで戻って来た養父のルシウスとお茶を飲みながら、オデットは胸の内を淡々と語った。


「我が娘オデット。では次はどうする?」


 リースト家の者は単独だと自分本位なことが多いが、一族としての結束は固い。

 一族は皆、この百年ぶりに目覚めた少女を自分たちの大事な娘と認め、残りの人生を好きに過ごさせると決めていた。


「まだしばらくは、学園で学生生活ね。卒業までまだ2年もあるのだし」


 月も3月に入った。

 そろそろ、カーナ王国へ使者として発っていた、現当主のヨシュアも戻ってくる頃である。




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