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最初から結婚するつもりなどない


「ああ、そういえば。私、とても重大なことを思い出したのですわ。百年前、私を罠に嵌めて誘拐し、奴隷商に売り払った者たちのこと」


 観戦していた人々が、固唾を飲んでオデットの言葉を待つ。


 ここまでは前座。

 ここからが本番だということは、誰もが理解していた。


「まず、フォーセット侯爵令嬢と、その婚約者である分家の男子生徒。でもね、もう一人いたんですのよ」


 さらりと癖のない青銀の髪をかき上げて、決定的な名前を口にする。


「何という名前でしたか。……ああ、そうそう。ドマ伯爵令息ダニエル様でした。当時の私の婚約者でしたの」



「「「!!???」」」



 その名前と家名に、誰もが度肝を抜かれた。


 そして悟った。

 リースト伯爵令嬢オデットの真の目的は、ドマ伯爵家だ。

 なぜ、この茶番のような試合を行い、人を集めたかも、ようやく観客たちは理解した。


「あら? 嫌ですわ、今の私の婚約者様もドマ伯爵家の方ではありませんか。私、自分を誘拐して奴隷商に売り飛ばすような非道な人間の子孫と危うく結婚するところだったのね?」

「なッ、何をそんなデタラメを!」


 そう。百年後の今となってはリースト侯爵家側に、ドマ伯爵令息ダニエルに関する証拠がない。


 だが、今この状況で、サムエルが醜態を晒しきった場ならどうか?


 何より、誘拐されたオデット本人がそうだと言っている。


 そして集まっている多数の観客たち。

 その中には王太子のユーグレンもいれば、王家の親戚ウェイザー公爵令嬢のグリンダ、そして騎士団の重鎮たちも数名いた。


 さあ、そして知る人ぞ知るリースト一族随一の実力者、“魔王”と呼ばれるルシウスまでいる。

 この男は身内を害すものには容赦がないことで知られている。

 本人は面白そうに笑っているが、その湖面の水色の瞳は獰猛で、周囲に漂わせている空気は触れるだけで凍りつきそうだった。


 これではドマ伯爵家は逃れられない。




「ユーグレン王太子殿下。私、誘拐されて奴隷商に売り飛ばされ、この身の純潔を穢される寸前、己を魔法樹脂に封印して身を守りましたの。そして百年もの長い間、ずっと眠っておりました」

「………………」


 オデットは殊更、憐憫を誘うような儚げな口調で訴えた。

 その様子はとても、先ほどメイスで熊男をぶん殴った猛者には見えない。


 役者ね、とユーグレン王太子の隣にいるグリンダが扇子で口元を隠して震えている。

 ここに人目がなかったら大笑いしていたが、ぐっと堪えている。


「ようやく解凍されたと思ったら、まさか自分をこのような目に遭わせた元凶の子孫と婚約する羽目になるなんて。……もちろん、婚約破棄を認めていただけますよね?」


「事情が事情だ。認めよう」


 この話の流れなら、王家は却下できない。




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