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オデット、完勝


「……これは確かに、ヨシュアとルシウス様がいたら危なかったな……」


 サムエルのオデットへの罵倒に、しみじみとユーグレン王太子が呟いた。


「あの一族は身内を侮辱する者に容赦がないのだ。知っていたら、喧嘩を売ろうなどと夢にも思わないものだが」

「リースト家はあまり社交にも出て来ませんものね。ご当主のヨシュア様も叔父様のルシウス様も、実績は多いのですけれど」


 ユーグレン王太子たちの目の前では、サムエルが最後の悪あがきをしていた。


 オデットはあくまでも涼しい顔をして、突進してきたサムエルの大きな身体を本人の勢いを利用してメイスで宙に飛ばす。

 そのままドスドスドスッと空中で数回殴りつけていく。

 最後に、一気に球技の球のようにサムエルを練兵場の壁までぶん殴って吹き飛ばしていた。




「ふーむ。これがオデットのやりたいことだったか」

「ルシウス様!?」


 突然側から聞こえて来た男の美声に、慌ててユーグレン王太子とグリンダが振り返る。

 そこにはオデットと同じリースト侯爵家のネイビーのライン入りの白い軍服に身を包んだ、壮年の美丈夫が立っている。


 オデットの養父、リースト伯爵ルシウスだ。


 女王の命令で地方出張していたはずではなかったのか?

 と思ったが、そういえばとユーグレンは思い出した。

 この男は数少ない“空間移動術”の使い手だったではないか。

 仕事の途中で抜け出して王都まで一時的に戻ってきたのだろう。


「仕事に出る前のオデットや家人たちの様子が気になっておりましてな。いや驚きました、うちの娘が養父(わたし)の許可なく婚約をして、なぜか相手の男と戦っている。どういうことですかな?」


 じーっと、湖面の水色の瞳で見つめられる。

 あ、これはすべてバレているやつだ、とグリンダとともにユーグレン王太子が冷や汗をかいている目の前で。


 ついに、オデットはサムエルに完全勝利を収めたのだった。




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