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単純な罠なのに気づかない


 そして案の定というべきか。


 最初から、ドマ伯爵令息サムエルはリースト侯爵家を乗っ取る意欲を見せていた。

 それはもう、家の者たちが呆れるほどあからさまだった。


 婚約を交わす際、リースト侯爵家へ招かれたサムエルは、自分ひとりだけが招かれ、また執務室で出迎えた者がオデット一人だったことに疑問も抱かず、


「これで俺が次のリースト侯爵だな。君を守りながら盛り立てていくことを誓うよ」


 などと、熊男は平気でのたまったのだ。


 家人たちは皆して顔を顰めていたが、あらかじめオデットの策略を聞かされているため余計な口出しはしない。


 だがリースト家は、後継者は「本家筋の最も魔法剣の本数の多い者」と決まっている。なお、男女は関係ない。


 ドマ伯爵家の五男サムエルはオデットの婿養子となる、とリースト侯爵家側ではしっかり婚約証書の条件欄に記入した。


 ところがサムエルは何をどう解釈したのか、オデットと結婚した後は自分がリースト侯爵になるのだと勘違いしている。


 五男サムエルは庶子で、貴族教育が甘い。

 本来なら婚約証明書もサインする前によく内容を精査しなければならないのだが、それすらしなかった。


 オデットは用意周到で、あらかじめ家令に用意させた婚約証書はあえて回りくどい表現で長文を連ねさせている。


 とはいえ、その婚約証書に、大したことが書かれているわけではない。

 サムエルがオデットに対して不利益を与える言動をした場合や、後からそのような事実が発覚した場合、即座に婚約が破棄されることなどが簡単にまとめられているだけだ。


 オデットが王家に面会を申し込んだのは、いざというとき、自分とドマ伯爵令息サムエルとの婚約が破棄される可能性があることの、事前報告のためだ。

 オデットの百年前とは違い、現在は自由恋愛が主体になってきているとはいえ、まだまだ貴族同士の政略結婚には制約が多い。

 こういった根回しはしておくに越したことはないのだ。




 婚約に際して、オデットは婚約証書を二部作成して互いにサインし、一部をサムエルに持たせて手土産とともに帰らせた。


 そこには、オデットとサムエルが婚約したことを証明する内容が書かれている。

 サムエルが父親のドマ伯爵に渡すものはこれだけだ。

 必要事項はすべて記入されている。何も不審な内容はない。


 ましてや、今話題のリースト侯爵家と縁戚になれることでドマ伯爵家は舞い上がっているだろうから。




 5年前、このアケロニア王国ではいくつもの大事件が起こっている。

 先王が殺害されたこともそうだし、あるひとつのお家乗っ取り事件が王都の貴族社会を騒がせたこともそうだ。


 その渦中となったのが、当時まだ伯爵家だったリースト家だというから、笑うしかない。


 当時の当主はヨシュアの父。

 その彼が迎えた、一族の者でも何でもない後妻と連れ子が、ヨシュアの父を毒殺し、跡継ぎだったヨシュアまで殺害しようとした。


 辛うじてヨシュアだけは助かったが、彼を溺愛する叔父のルシウスが激怒した。

 結果、ルシウスの手によって後妻の実家の男爵家と、元婚家の子爵家、それら関係者の家が潰されたそうだ。

 5年後の今、彼らの家も本人たちも何ひとつ、誰ひとりとして残っていない。


 その話を聞いていたから、オデットはヨシュアとルシウスを一時的に王都の屋敷から遠ざけた。

 力のある人物なのはわかるが、お楽しみを他人に持っていかれては面白くないではないか。




 かつてのリースト伯爵家お家乗っ取り事件の顛末を知る者たちは、冷笑しながらドマ伯爵家とオデットとの婚約にまつわる事態を見守っているそうだ。

 親友のグリンダも積極的に情報収集していて、ことあるごとに教えてくれている。


 ドマ伯爵家は、5年前に四男が仕出かした多数の犯罪により家の力が傾いていて、立て直しにとにかく必死。

 そのせいで、そういったリースト侯爵家を含む現在の貴族社会の雰囲気に鈍感とのこと。



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