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オデットの解凍


 魔法樹脂は発動するときは比較的ゆっくりで、術が解けて解凍されるときは一瞬だ。

 透明な樹脂が消えて魔力として自分の中に戻ってくるのと同時に、樹脂に支えられていた身体が落ちていく。


「おっと。失礼、ご令嬢」


 黒髪黒目の、二十歳を何歳か過ぎたぐらいの黒い軍服姿の男性がオデットを受け止めた。

 その腕はオデットに直接触れることなく、破れたドレスで半裸状態だったオデットは彼の軍服から剥がされた黒いマントで包まれた。


 その人物を見たとき、一瞬だけオデットは自分の慕う学園の先輩かと錯覚した。

 だが自分を抱く腕の力強さと、身体に当たる胸板の逞しさは女性ではありえない。


(先輩のお胸はふかふかだったもの。こんなにかたくなかった)


「チッ。……男か」


 オデットの呟きはとても小さかったが、さすがにゼロ距離のその男性の耳には聞こえたようだった。

 驚いたように相手の黒い瞳が見開かれる。

 しかしオデットにとって、そのようなことは重要ではない。その黒髪黒目の男のことも、すぐに興味を失った。


「お帰り、オデット。待っていたよ」


 後ろからまた別の声が聞こえる。どこか聞き覚えのある声質だ。

 振り向くと、自分と同じ青銀の髪と湖面の水色の瞳を持つ麗しい容貌の男性が二人、リースト伯爵家のネイビーのライン入りの白い軍服姿で立っている。


「お兄様……ではないか。一族の者ね?」

「オレたちは君の兄上の子孫にあたる。君は百年、魔法樹脂の中で微睡んでいたのさ」

「百年! 案外短かったわね」


 オデットはその身を穢されるぐらいならばと、奴隷商に誘拐された先で、いつ解けるかもわからない魔法樹脂の中に己の肉体を封じ込めた。

 魔力には自信があったので300年ぐらいはいけるか? と思っていたのだが過信だったようだ。


 ふたりの男のうち、まだ若い二十代前半の男の名はヨシュア。

 現在のリースト伯爵家の当主だそうだ。

 リースト伯爵家の成人男子らしい背の高い男性で、ハンサムショートの髪型が良く似合っている。


 三十代後半の男のほうは、ルシウス。

 こちらはヨシュアの父方の叔父だそうだ。

 ヨシュアより背が高く、体格も良い。髪型も甥と同じ短髪だ。


 どちらも、相当に魔力の強く、大きな感覚がある。


(ああ。もうお父様もお母様も、お兄様もいないのね)


 ヨシュアもルシウスも、オデットの家族とよく似た顔立ちだったが、やはり違う人物には変わりない。

 オデットにとっては、学園で誘拐されて魔術樹脂の中で眠るまでの時間は一週間とたっていない。

 たった一週間で百年もの時間がたってしまった。

 それは何と寂しいことだろうか。




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