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大金貨1000枚でも足りない


 この事件はもちろん学園では大問題となるのだが、ここでこそ、今までオデットが魔法樹脂に保存し続けてきた映像と音声記録の出番だ。


 これまでオデットに対して、他の令嬢たちが何を仕出かし嫌がらせを行ってきたのか。

 学長室の学園長エルフィンの前で、オデットはすべてを明らかにした。




 オデットも、オデットの髪を切った令嬢も、同じ伯爵という家格の家の者だった。


 この場合、最初に手を出した令嬢の負けだ。ましてやオデットは、自分の髪が切られた前後の映像と音声の記録を持っている。

 そこには、令嬢が悪意に満ちた笑みを浮かべてハサミをオデットの髪に突き出してくる様子が鮮明に記録されていた。


「学園が私たちをどう処分しようとかまいやしないけれど。私は個人的に、そこの女を潰すまで報復するわ」

「ヒッ」


 令嬢が短い悲鳴を上げるが知ったことではない。

 やる者は、やり返される覚悟があって当然とオデットは思っている。


「私にとってこの髪はね、愛する王女殿下の口づけを賜った、大金貨1000枚(約2億円)以上の価値があるものなのよ。それを切られたの。無惨に。バッサリ。ねえわかる? あなたも自分の髪が根こそぎ失われればこの気持ちがわかるんじゃないかしら」


 と令嬢の髪を掴もうとしたオデットを止めたのは、やはり生徒会長グリンダだった。


「いけません、リースト伯爵令嬢」

「止めるの? この状況で、被害者である私を? ならばあなたも私の敵よ、ウェイザー公爵令嬢」

「……そう誰も彼もがあなたの力に跪くとは思わぬことです。どうしてもあなたがこちらの彼女に私刑を下すというなら、わたくしが相手になりましょう」

「やる? 戦うというの? あなた、それほど強そうには見えないけど?」

「それはお互い様でしょう!」


 一方は青銀の髪に、銀色の花咲く湖面の水色の瞳を持つ麗しの美少女。


 もう一方は、眩いばかりの金の巻き毛と群青の瞳の知的な美女。


 どちらも見た目はたおやかな貴族令嬢そのもので、とても戦えるようには見えない。




「待ちなさい、ふたりとも。……そちらの令嬢は退学処分。先日の中庭でオデット嬢へ水をかけたことも報告を受けてるわ。そして今回、よりによって淑女の髪を悪意をもって切り刻んだ。とてもじゃないけど貴族令嬢のすることではない。更生の余地なしと判断します」


 学園長のエルフィンは室内にいた衛兵に、顔を腫らした令嬢を自宅まで送り届けさせるよう指示を出した。


「リースト伯爵令嬢、ウェイザー公爵令嬢。あなたたちにも後日話があるから、今日のところは帰って……」

「そうね、帰ります。帰ってあの女をどうするか考えないと」

「が、学園長、いけません! この生徒をこのまま帰したら、明日にはあの令嬢は死体となって発見されてしまいますよ!?」


 途端に学長室内が騒がしくなる。


(あらあら。リースト伯爵家も舐められたものね。死体なんて足がつくもの、残すわけないじゃない)


 ひっそりとオデットは微笑んだが、物騒な本音を口に出さないだけの賢明さは嗜みとして持っていたから、黙っていた。



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