9 友達
「わー!お久しぶりです、冬華さん」
私は、春音さんに連絡を取りカフェで待ち合わせをしていた。彼女は、私を見つけるなり嬉しそうに駆け寄ってきた。
相変わらず、美人だなと思う。
「ええ、一週間ぶりかしら」
私はそう言いながら、席に着く。春音さんも私の向かい側の椅子に座った。
私が注文したアイスコーヒーが運ばれてくるまでお互い他愛もない話をし、店員が去った後に早速本題に入ることにした。
「それって、軟禁じゃないですか!」
「しー声が大きい」
私は慌てて春音さんの口を手で塞ぐ。幸い周りには誰もいないので、誰にも聞かれてはいないだろうが……念のため確認する。
それにしても、こんな大きな声で話すなんて……やっぱり、この子馬鹿なのかしら? 私が呆れていると、春音さんはごめんなさいと謝り小さめの声で話を続けた。
「その、えっと…秋世さんでしたっけ?その人ヤバくないですか?」
「ヤバくはないと思うけど…最近、少し可笑しいような気がする…かな」
私の言葉を聞いていた春音さんは、うわぁと引き気味に顔を歪める。
どうしよう、今更だけど相談相手を間違えたかも。
私は、気を取り直して話の続きをする。
橘さんがヤバいって言うなら、夏目の方がよっぽどヤバいとは思うんだけど…
春音さんには話していないけど、夏目も夏目で私が仕事のことで橘さんと連絡取ろうとしたとき電話帳から橘さんの連絡先消したからね。流石に、やり過ぎだと1日口を利かなかったが土下座しようとしたので許してあげた。あの顔はそう簡単に地面に付けてはいけない。
「それで、そのことは夏目様に相談したんですか?」
「まさか。まだ何も変わってないわよ…連絡も来てないし…」
私がそう答えると、春音さんは心配そうな表情を浮かべる。
「もしよければ、私が夏目様にお伝えしましょうか?」
春音さんは、申し訳なさそうに言った。相談はしたけど…でも、これは私と橘さんの問題で……他人を巻き込むわけにはいかない。
私が悩んでいるのを見て春音さんは、更に続けた。
「それでも、一刻も早くその人の家を出るべきです。私の家にでもいらして下さい」
「…春音さん。ありがとう。でも、大丈夫だから」
私は春音さんの申し出を断った。正直、心は揺らいだが……やっぱり迷惑はかけられない。
春音さんは納得のいかなさそうな顔だったが、それ以上は何も言わなかった。春音さんまで危険が及んだらいけないからね。
「冬華さん…」
「春音さんは私の唯一の友達だから、迷惑かけたくないの」
そう言って微笑むと、春音さんは目を子ウサギのように丸くした。
「とも…友達……!」
「え、ええ…可笑しなこと言ったかしら」
私の言葉に春音さんはブンブン首を横に振る。そんなに振ったら首取れちゃうんじゃない?
そういえば、私友達って初めてかも。今まで友達らしい友達いなかったし。
春音さんは、感動したように私を見ている。ちょっと恥ずかしい…… 私はアイスコーヒーを一口飲む。
「昨日の敵は今日の友って言いますもんね」
と、春音さんは言う。
それって違うと思うんだけどなぁ……私が苦笑いすると、春音さんも笑う。
「私の事頼って下さいね。冬華さん」
「…ありがと。じゃあ、一つだけ頼んでいい?」
私は、鞄の中からあるものを取り出した。春音さんはそれをまじまじと見る。
「これを、夏目に渡して欲しいの」
「…うわ、これ…いいんですか?」
深くは考えてなかったけど、私は首を縦に振った。
確かに、これを受け取ったところで…という感じなんだけど、念には念を。かといって、夏目がきてくれるわけでもないからそこまで期待していない。
春音さんは私と受け取ったものを交互に見て、任せて下さい。と鞄にしまった。
「あ、後……その編集者さんの事私思い出しました」
「秋世さんのこと?」
「はい……実は――――」
―――――――
――――――――――――――
「それって、本当?」
「はい。私の記憶が間違ってなければの話ですけど」
そういって、春音さんは困ったように笑った。
そして、私は確信が持てた。
「ほんと一杯頼ってくださいね。私は冬華さんの味方ですから」
と、春音さんは付け足し先ほどの困ったような表情ではなく、明るい花のような笑顔で言った。
それから、少しだけ世間話をして私達はカフェを後にした。春音さんはすぐに夏目に私が頼んだものを渡してくると掛けだしていってしまった。
そんな慌ただしい彼女を見て、私は少しだけ癒やされた。
「……夏目」
私は、スマホを取り出し夏目とのLINEを開く。
そこに『会いたい』の四文字を確認して、私はフッと微笑んだ。
「さて……確かめに行こうかしら」




