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2 何て傲慢




「着いたぞ」

「…着いたって、え…」




 私は、目の前の建物を見て唖然とした。見上げるもやっとなくらい大きな建物。そこは、都内で一番高いマンション。

 先ほど物件を探していたときに一番上に表示されていたものと全く同じマンションの前に、私と彼はいた。




「ここが俺の家だ」




 そう言って、男は私の手を引き、エントランスに入っていった。そして、オートロックを解除してエレベーターに乗る。その間、私たちは一言も喋らなかった。

 そういえば、私はまだ彼の名前を知らない。まあ、知る必要も無いのだけど。そんなことを考えているうちに目的の階に着いたらしく、彼は足を止めた。そして、一つの扉の前で立ち止まると鍵を取り出しガチャリという音をたて、ドアを開けた。




「ああ、そういえばまだ名前聞いてなかったな」




と、男は立ち止まり振返った。


 こんな所まで連れてきておいて、こちらから先に名前を名乗れというのか、此の男は。私は、内心舌打ちをしながら口を開いた。





「冬華。連城冬華」

「冬華か、いい名前だな」

「…絶対思ってないでしょ」




 男は私の名前を聞くと満足そうに笑みを浮べ、部屋の中に入っていった。私にだけ名乗らせておいてやはり名乗らないのかと少し腹が立ったが、まあ仕方がない。




「何突っ立ってんだよ。早く入れ」




 そう言われ、私は頬を引きつらせながら彼に笑った。

 何故上から言われないといけないのかと…しかし、突っ立っているとだんだん彼の顔が鋭いものになっていくので私は、渋々部屋に入った。




「おじゃまします」




 リビングに入ると、綺麗に片付いた部屋に、大きめのソファーとテーブルが置いてあった。そして、その奥には一人でクラスにはもったいないぐらい大きなキッチンが見える。

 というか、全てが綺麗で飾りっ気のあるものばかり。さすが高級マンションと言ったところだろうか…それに、ここは最上階。リビングの奥のガラス戸からは都内の景色が一望できた。




(こんなところで暮らしてるなんて贅沢ね)




 そんなことを考えていると、ふと我に返りこんな所に住んでいる人間が一般人な訳がないと言うことに気がついた。如何してその考えにこれまで至らなかったのかと自分に呆れる。




「ねえ、そういえば貴方は何て言う名前なの?私は言ったんだし教えてくれてもいいんじゃない?」




 私がそういうと、男は一瞬眉間にシワを寄せた。何で、此の男は毎度毎度そんな不機嫌そうな顔をするのか分からない。相手が不快な気持ちになるのを理解していないのだろうか。




「夏目。俺は、久遠夏目だ」

「久遠…久遠夏目…って、久遠夏目!?」




 私は、男の名前を復唱しそしてその名前に聞き覚えがあることに気づき、思わず声をあげた。




「久遠夏目って、あの久遠財閥の…!?」

「ああ、そうだ」




 男…夏目は、答えると再びキッチンの方へと歩いて行った。そして、冷蔵庫を開ける。




「お前、何か飲むか?紅茶とかコーヒーならあるけど」




と、マグカップを用意しながら言う夏目に私は何も言えなかった。




(この人、人のこと勝手に連れてきた癖に随分偉そうな態度をとるわね)




 久遠財閥と言えば、日本で知らない人は殆どいないだろうと言われるほどの大企業を束ねる財閥だ。


 確か、一人息子がいるとか何とか風の噂で聞いたことがあった。全く政治にも何にも興味がないものだから知らなかったけれど、噂に寄ればかなり頭が切れてそれでいて傲慢…鮮やかな金髪とレッドベリルの瞳が特徴的なモデル顔負けの男だと。

 その御曹司である彼が、私みたいな一般庶民を自分の家に連れてくるなど普通では考えられない。一体どういう風の吹き回しなのか……


 私は、夏目を見つめそれから首を横に振った。




「いえ、結構です」

「遠慮するな、ほら座れよ」




 私は、目の前にある大きなソファを指差され、仕方なくそこに腰掛けた。

 噂とは違い、かなり優しい。しかし、やはり何処か乱暴で言動も荒々しい。




「ねえ、どうして私をここに連れて来たの」

「お前、家が火事で燃えたんだろ?なら、ここに住めばいい」

「話しについて行けないのよ。私をここに連れてきた理由は何?家政婦代わりにしようとでも思ってるの?」




 私がそう聞くと、夏目は少し驚いたような表情を浮かべてから笑った。




「家政婦?なんでお前が?」

「はあ?それはこっちが聞きたいわよ。いいところのお坊ちゃんなんだし、それぐらい…!あ…っ」




 思わず声を荒げてしまい、私は夏目から顔を背けた。

 すると、彼は私の頭をポンッと撫でてくる。その行動の意味が分からず、私は彼を見た。




「俺がお前と一緒にいたいから」




 そういう彼の顔は真剣で、冗談ではないと言うことが分かる。レッドベリルの瞳は深い愛情に満ちており、私をしっかりとうつしていた。


 これまで、私の事をしっかり見てくれる人なんていなかったから、私の心は大きく揺れる。

 しかし、それでも夏目の話は意味が分からない。筋も通っていないし、やはり…




「貴方の気まぐれで、ここに泊めてやるって言うことですか?」




 私がそう言うと、夏目がムッとした顔になった。そして、そのまま立ち上がり此方に向かって歩いて来る。




「違う」




(じゃあ、何だって言うのよ)




とは思ったものの、口には出さなかった。何を言っても聞き入れて貰えないような気がしたから。此の男には。




「俺はただ…お前のことが好きだから一緒に暮らしたいと思っただけだ。ここにあるもの全てお前は自由に使っていいからな」

「……」

「これじゃ不満か?理由として成り立たないと言うのか?」




 そう言って真っ直ぐに見つめてくる彼に、私は何も言えなかった。


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