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12 答えを、真実を



 イヴェールには、自ら毒を飲んで自決する前までずっと味方でいてくれた騎士がいた。



 帝国の大きな騎士団の団長を務めるイェシェィン・マカライトという男は、イヴェールが自害する前に最後まで傍にいて支えてくれた人だった。誰よりも優しく、誰よりもイヴェールの声に耳を傾け、助言していた。



 エスタスといたら、イヴェールが苦しくなるだけだと彼女を説得し続けたが、イヴェールの心はエスタスに囚われたままだった。愛されなくても、いつか愛されると夢を見ていた。




 イェシェィンは、イヴェールが皇宮に来てから一度も彼女の身分に触れることなくおなじ目線で話をしてくれた人物でもあった。それが、イヴェールにとってどれだけ支えであったか。だからこそ、イヴェールはイェシェィンの事を信頼していた。




「イヴェール様もうやめましょう。それ以上は、貴方の身が持ちません」




と泣きそうな顔で言うイェシェィンに、イヴェールは優しく微笑んだ。


 以前、エスタスと散歩に出かけた際イヴェールはエスタスにこれまで押し殺してきた思いを伝えた。しかし、エスタスとそのことで揉めイヴェールは崖から落ちてしまった。幸い、命に別状はなかったが、彼女を誰一人として助けようとしなかった。


 エスタスも見て見ぬフリをしていた。勿論、イヴェールはエスタスが突き落としたなど言わなかった。あれは事故だと、仕方がないことだと。

 もしエスタスが落としたと言ったとしても誰にも信じてもらえない。侮辱罪で牢に入れられてしまうかも知れないと思ったからだ。

 その件があって以降、よりいっそエスタスはイヴェールから離れていってしまった。




「大丈夫よ。ありがとう、イェシェィン。私は、エスタスを愛しているわ。例え彼が私を愛さなくとも……それでも、いいの」

「……っ!どうして、そこまで……」

「私が彼を好きになってしまったから……それだけの理由じゃ駄目ですか?」

「……いえ……すみませんでした。出過ぎた真似を……」




 悲しげに微笑むイヴェールを見て、イェシェンンはこれ以上何も言えなかった。


 そして、イェシェィンの支えも虚しくイヴェールは自ら毒を飲み自害した。

 それを知ったイェシェィンが駆けつけた時には、既に遅かった。イヴェールを抱きかかえ叫ぶ、エスタスの姿。それを、遠くから眺めるしか出来なかった。



 エスタスに泣く資格はないと、イェシェィンは心の中で何度も思った。

 全て、貴方が悪いのだと―――――






―――――――

――――――――――――――――




 日が沈み、街灯がぽつぽつとつき始めた頃。私と夏目は人のいない公園を歩いていた。



 自分から話したいことがあるといったもののなかなか切り出せず、ここ10分ぐらいは互いに一言も喋らず沈黙が続いている。

 聞かなきゃいけないけれど、返ってくる答えが怖かった。だから、私は切り出せずにいた。

 すると、夏目が足を止め私の方を振返った。




「それで、話したいことって何だ?」

「あ、えっと……」




 夏目から話を振ってくれたのはありがたかったが、いざ言おうとすると緊張して上手く声が出なかった。私は、深呼吸をして落ち着かせる。




 言わないと……




 私は、意を決して口を開いた。




「ねえ、私達前に会ったことない?」




 私がそう言うと、夏目は目を丸くさせた。夏目は少し考えた後、一歩…また一歩と私の方に近づいてきた。


 私が聞きたいこと、それは――――



「思い出したのか?」

「いいえ、思い出したんじゃない。聞いたの」




 誰に?と、夏目は私に問うた。

 私は、遊園地に行った時のこと鏡の迷宮でイヴェール・アイオライト本人にあったことを話した。


 本人…いや、イヴェールは私の前世の姿。

 夏目は、手で顔を覆い何かを呟いた後そのレッドベリルの瞳の私に向けた。




「そうか…俺はずっと後悔していたんだ」




と、夏目は話し始めた。

 彼がエスタス・レッドベリルだった頃、愛を知らなかった彼は愛されたいと思っていた彼は、道ばたで倒れているイヴェールを拾った。自分と重なったから。そうして、連れ帰り怯える彼女に愛を注いだ。そうすることで、愛することを学ぼうとしたのだ。


 そうして、次第にイヴェールは心を開きエスタスに好きだ、愛していると好意を伝えるようになってきた。

 エスタスにとってイヴェールは初恋で、人生で初めて愛で満たされた瞬間だった。そこからだ、彼が壊れたのは。



 元から誰も信じれず疑ってきた彼は、イヴェールの愛情が信じられなくなった。そうして、イヴェールが本当に自分を愛しているのか確かめたくなり、プレメベーラと一緒にいるところを見せつけた。それは、イヴェールにとって逆効果で彼女はエスタスに思いを伝えることも、まして近づくこともなくなった。

 エスタスは、もうイヴェールは自分の事が好きじゃないと、愛していないと誤解しさらに彼女を突き放した。勝手に捨てられたと思っていたのだ。


 自分がまいた種なのに。


 そうして、イヴェールはエスタスのせいで死んだ。彼がもっとしっかり愛を伝えていれば、彼女の愛を疑っていなければ…



 イヴェールも誤解していたのだ。

 だが、互いに思いが通じることはなくイヴェールは死んだ。




「俺が馬鹿だった…お前を失って気づいた。俺は、ただ自分の感情をイヴェールにぶつけていただけだったんだな……」

「そうね…」

「ずっと後悔して、後悔して…そうして気づいたら久遠夏目として新たな生を受けていた。前世の記憶を全て引き継いで。だから、俺はイヴェールを探していたんだ。今度こそ、彼女を幸せに、愛するために。もう二度と傷つけたりしない」




 そういう夏目はとても苦しそうで、見ていられなかった。

 でも、彼の言葉に引っかかりを覚える。やはり、彼は…




「ねえ、貴方が私をあの日連れてきたのは私がイヴェール・アイオライトの生まれ変わりだったから?」

「ああ、そうだ。出会った瞬間、お前だって思った。俺がずっと探していた人…恋い焦がれてきた人。今度は絶対に……」

「でも、私は貴方のことが好きじゃない」




 私はその言葉を遮るように言った。

 夏目は一瞬驚いたような表情をして、それからまた悲しげな表情に戻る。




「お前の言ったとおり、押しつけだった。これからは、お前のことを考える。また不安だった……お前が離れていくんじゃないかって」




 そう続ける夏目は、私の肩を掴み必死に訴えかけた。

 けれど、そんな必死な訴えも私には届かない。




「ねえ、貴方が好きなのはイヴェール・アイオライトなの?」












第三章完結となります。

後少しだけ続きます。


(略称)タイプじゃないのでお帰りくださいも残すところあと一章分です。

ゴールデンウィーク前には終わり、そこからちょこちょこssをあげていければなあと思っています。


もしよろしければ、引き続きブックマークを。そして☆5評価お願いします。



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