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2 悪魔の瞳




 エスタス・レッドベリルが嫌われていたのは、暴君であったからとその瞳が初代皇帝の瞳の色と同じだったからだ。初代皇帝はエスタスすら引くほどの暴君であった。暴力で支配し、気に入らなければ即行に死刑と首をはね飛ばし、女子供も容赦なく殺したという。最後は市民の反感をかい、反乱を起こされ自身の弟に殺された。


 弟の第二皇子は平和主義者で、それまで貧富の差が激しかった帝国を立て直し戦争にも勝利し英雄となった。第二皇子の瞳は輝かしい純粋な赤色…ルビーの瞳だった。




 そのため、ルビーの瞳と金髪は皇族の証であるとされ、レッドベリルの瞳は悪魔の瞳とされた。


 そして、その血を受け継いだ子孫である第二皇子のエスタスはレッドベリルの瞳を持って生れた。ピンクがかった呼吸をするのを忘れるほど美しい魔性の瞳。


 エスタスはその瞳を持って生れたため、残虐な性格をしているのではないかと恐れられ、嫌われてきた。まだ生れて間もないときから悪魔と呼ばれ、それを背負い生きてきたエスタスのことを考えると胸が痛む。




 愛されない第二皇子…



 夏目は、私の言葉を待っていた。その瞳からはどうせ、お前もそう思っているんだろ?という感情が見え隠れしていた。私はその視線に耐えられず、思わず目をそらしてしまった。




「…そ、それはエスタスの話でしょ?貴方には関係無い」




 私は必死に誤魔化した。


 夏目がエスタスだって分かってから、夏目がエスタスだった頃のことを引きずっているんだろうなということは分かった。それが、痛いぐらいに伝わってきて…私がイヴェールだったとき、何も彼のこと気づいてあげれなかったんだなあと改めて実感した。


 愛されないから…愛されなかったイヴェールを拾ったのだろう。同類だとエスタスはイヴェールのことを思ったのだ。

 そこまで考えて私は首を横に振った。でも、それは今の私には関係無いこと。私は、エスタスじゃなくて夏目を見ているんだ。彼が昔如何だったとか、私が如何だったとかじゃなくて。






「それに」




 私は、少しだけ声を張り上げた。




「…貴方の好きな相手が、褒めてるのに如何して素直に受け取れないの?」

「本心か?」

「本心よ」




 夏目の問いに対して、間髪入れずに答えた。


 誰が、貴方の機嫌取りで思ってもいないこというのと言いたかったが、さすがに夏目を傷つけるだろうと思って私はそれ以上は何も言わなかった。


 まだ、夏目は私の事理解していないのかと思うと悲しい。私の言葉一つも信じれず疑ってくるのだから…

 夏目は少し考えるような仕草を見せた後、手に持っていた毛染めクリームを乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。




「あ…」

「何だ?」

「いや、その勿体ない」




 私は、ゴミ箱から毛染めクリームを取り出した。まだ蓋を開けてもない、まして箱から取り出していないものを此の男は捨てたのだ。なんたる冒涜。




「俺には必要ないって、お前が言ったんだろ?」

「あのね、だからって使ってもないのに捨てるなんておかしいでしょ!?」




 私は思わず叫んでしまった。


 まだ家にいた頃、節約しなきゃとあれこれ考えスーパーでは値引きされるまで待ってからかごに入れたり、シャンプーも最後の一滴まで使い切りボトルは買わずに詰め替えの商品を買ったり…今でこそお金はあるが、あの頃の習慣が抜けずつい勿体ないといってしまう。貧乏人臭いと思われただろうか。


 しかし、何でもかんでも買える金持ちの夏目とは違うのだ。




「じゃあ、それは如何するんだ?」

「私が使います」




 毛染めクリームを指さし、こっちに渡せといわんばかりに見つめてくる夏目から私は箱を守ると、夏目は分かったよ。と少し呆れたようにいった。


 その態度は腹立たしかったが、グッと呑み込んで私は笑顔をはっつけた。

 毛染めクリームは、大事に脱衣場持っていき棚にしまった。それからリビングに戻り、ソファーで本を読んでいる夏目を見つけた。


 彼が読んでいるのは、私の書いた小説だった。あれからよく読んでいる姿を見るけれど、こんなに真剣に読まれると歯がゆいというか…前世が前世な分なんとも言えない気持ちになる。

 夏目が私の事を理解してくれようと努力してくれていると前向きにとらえ、私は玄関に向かった。




「おい、何処に行くんだ?」

「買い物だけど」




 靴を履いていたら、後ろから声をかけられたので振り返らずに返事をした。

 掃除も一通り終わったし、気分転換にでもと思い計画はしていなかったのだがショッピングモールにでも行こうかと考えていた。夕ご飯の材料も買いたいし。


 そう思いながらドアノブに手をかけた瞬間、待て。と後ろから夏目の声が聞こえた。

 行くなとでも云うのだろうか。と私は振り向かずにそのまま立ち止まった。




「何?」

「俺も一緒にいく」




と、あまりに予想外な言葉に私が唖然としていると夏目は支度をしてくると、その場を離れた。


 私が待っている保証もないというのに…と、夏目がいなくなった玄関で私は立ち尽くした。




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