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1 凄く綺麗


 遊園地デート(未だにデートとは認めたくないけど)から早くも一週間が過ぎようとしていた。ここに来てから時の流れが速いなあなんて、思いながら私は夏目のマンションのリビングの掃除をしていた。全く掃除をしなくてもいいくらい綺麗なのにと思いながら、一応居候の身家事ぐらいはやろうとヤケになって始めたのだ。


 元々住んでいた家は、部屋が狭かった(が汚い)ため掃除をする範囲が狭くものの5分で終わったのだが、夏目の家はそうも行かない。




「…はあ、疲れる。掃除ロボットでも買おうかしら」




 勿論、夏目のお金で。なんて馬鹿な事呟いて私は掃除機に手をかけた。あの床を徘徊する掃除ロボットぐらい自分で買える。2個や3個ぐらい…と、変なプライドが邪魔をして夏目があれこれ買ってくれるがケチを付けてしまう。素直に、彼からのプレゼントを喜べないのだ。実際、自分で買えるしいらないし…みたいな。


 私ってもしかしなくても性格悪いんじゃないか?とここに来て思ってしまった。



 そんな事を考えていると先ほどまでは置いていなかったビニール袋が目についた。どうやら、さっき帰ってきた夏目が買ったものらしい。




「…毛染めクリーム?なんで?」




 私は不思議に思ってその商品を手に取った。確かに私の髪は痛んでいるし、ストレスのせいか若白髪だってある…にしても、それは酷すぎないかと思っていると、丁度夏目がリビングに戻ってきた。

 私がビニール袋を物色しているところを見て、何やってるんだ?と驚いたような表情で私を見てきた。




「この毛染めクリーム…っ」

「ああ、俺が使うために買った」




 もし、変なことを言い出したら出て行ってやると意気込んでいたのだが、かえってきたのは予想外の答えだった。




「ほら、お前…この間テーマパーク行った時俺が目立つだの何だのいってたからな、お前と同じ黒髪にすれば目立たないだろうと思って」




 そういって、夏目は私の手から毛染めクリームを抜き取るとニヤリと笑った。


 私は唖然とした顔で夏目を見た後、彼の手に握られている毛染めクリームに視線を移した。

 あの時の発言を気にしているのだと、気づきお風呂場に向かって歩き出す夏目を引き止めた。




「待って!確かにあの時そう言ったけど、だからって別に染めなくても良いじゃない!」

「今度の水族館デートのためにも染めた方がいいだろう?そうすれば、少しは目立たなくなるだろうし…」

「そういう問題じゃない!」




 私は、思わず声を荒げてしまった。




「如何してだ?お前は注目されるのが嫌だろ?」

「私が注目されてるわけじゃない!」




 私は大声で叫ぶ。


 そう、私が目立っているわけではない。それに、注目が集まっているとしてもそれは夏目に向けられたものであって私ではないはずだ。もしかして、此の男自分が注目されていることを自覚していないのでは?

 私は夏目を見た…その目、絶対分かっていない。




「俺がお前と同じ髪色にすれば浮かないだろう…何なら、お前が金髪にするか?」

「結構です」




 私は、はっきりと断った。




「なら、俺が黒髪に染めるしかないな。それに、髪色を変えれば彼奴も追ってこないだろうし…」




と、私の制止を振り切り夏目は歩いて行く。何故理解してくれないのだろうと、腹立たしくなってきた。そうじゃなくて、私が言いたいのは……




「格好いいからっ」



 

 別に染める必要はなくて良いとそう言いたかったのに、口から出たのは全然違う言葉で。


 私は自分の口を手で塞いだ。

 何言ってんだ私…! こんなの、まるで夏目を褒めているみたいじゃないか。


 夏目が驚いたようにこちらを見ていた。きっと、私が何を言っているのか分からないといった顔をしているのだろう。私は急いで弁解しようとしたのだが、先に夏目が動いた。




「それで続きは?」




と、ニヤリと笑って聞いてきたのだ。完全に面白がっていた。私は恥ずかしさのあまり顔が赤くなるのを感じた。


 既に口からでてしまった言葉は取り消せない。こうなったら最後まで言わせて貰おうと私は再び口を開いた。夏目はそんな私の様子を見て、更に笑みを深めていた。




「貴方の金髪は綺麗だし、染める必要がないって事。それに、黒髪にしたからといって貴方が目立たなくなるわけじゃないし、そもそも元がいいから…」




 あーもう何言っちゃてんの私!?違う違う、訂正しなきゃ…って、遅いか。遅いけど、これじゃ本当に夏目のこと好きみたいな感じになってるじゃんか…!



 しかし、それは以前から思っていたことでありいつかその内いっていたかも知れない言葉であった。

 私が一人で慌てて真っ赤になっていると夏目が私の髪を触ってきた。その瞬間ビクッと体が震えた。しかし、彼はそんなこと気にする素振りもなく、髪に触れ続けた。 


 私は、話題を逸らすためにまた口を滑らせた。




「瞳も、凄く綺麗」




 そこまで言い終えて、ちらりと夏目を見ると彼は何故か暗い顔をしていた。

 そういえば…と、私は彼…いいやエスタス・レッドベリルの地雷に触れたことを理解した。




「レッドベリルの瞳は悪魔の瞳なんじゃないのか?」




 そう言った時、夏目は酷く傷ついたような表情をしていた。


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