Ⅰ
次の日の朝——
翔也はいつも通りに起き、朝食を食べ、学校に登校し、教室で時間になるまで本を読んでいた。
まだ、三つ子の姉妹たちは登校してきていない。
そこへ、先程登校してきた達巳が翔也に話しかけてくる。
「翔也、おはよう」
「ああ……」
翔也は、本を読んだまま返事をする。
達巳は今日の翔也の様子に違和感を覚えた。
いつも通りの翔也は、翔也、そのままであるのだが、何か少し歯車が合わない。
「ん? どうかしたか?」
翔也は、何も話してこない達巳に言った。
「あ、うん…ちょっとな……」
「ふーん」
達巳は誤魔化す。
(んー。やはり、俺が帰った後何かあったな…。昨日と何か違うんだよな…。一体何があったんだ?)
すると、三つ子の三姉妹が教室へと入ってきた。
「翔君、おはよう!」
「ああ、おはよう」
三咲が翔也に挨拶をすると、翔也は挨拶を返す。
(ん? あれ? 翔君? 三咲? 昨日まで、名前で呼び合っていたか? んー、何かあったな……)
達巳は、二人の違和感に感づく。
「なぁ、翔也。お前、三咲ちゃんと仲良かったか?」
「ん? ああ、昔から仲良かっただろ?」
翔也は平然と答える。
「お、おう……」
達巳は、三咲の方をちらっと見る。
(んー、なんとなくおかしいんだよな。この二人……)
三咲は、バックを机の横についてあるフックにかけ、席に座る。
他の二人も三咲が翔也のことを名前予備したことに動揺していた。
(しょ、翔君って…三咲…)
(み、三咲? しょ、翔君?)
二葉も、一花も、頭の中が空回りする。
(どうやら、他の二人も満更ではないようだな……)
達巳は、はぁ、とため息を漏らす。
「………」
翔也は、本を読んだまま黙っている。
朝のチャイムが鳴り、全校生徒がそれぞれのクラスに入る。
そして、今日も長い一日が始まる。
昼休み——
午前中の授業も終わり、全校生徒のほとんどが昼食を取る。
翔也は、お弁当は持ってきておらず、学校の売店で弁当やパンを購入して、それを昼食として食べる。
バックの中から財布を取り、立ち上がる。
「ねぇ、翔君。売店に行くの?」
三咲が声を掛けてきた。
「ああ…」
「じゃあ、私も一緒に行こうかな?」
三咲も学区から財布を取り出し、立ち上がる。
そこへ、いつも通りに達巳が翔也の元へとやって来る。
「翔也、俺も行くわ。部活前に一個くらい食べておきたいからな」
三人はそろって教室を出た。
教室に残された一花と二葉は、その様子を見たまま黙っていた。
(な、な、なんで…。え? 三咲と翔也君って、そんなに仲良かった? でも、中学、高校でもまともに話した事ないですし、いきなり親密になるなんて……)
一花は、バックから弁当を取り出して、まだ、食べずにいる。
(………)
二葉は、ただただ、死んだ魚のように動かずにいる。
三咲と翔也、二人の間に何があったのか。二人は知らずに過ごしている。
「それにしてもお前ら、いつの間に名前で呼び合うようになったんだ? 昨日まで仲良さげじゃなさそうだったから…。翔也、俺が帰った後、何かあっただろ? 俺の勘は、意外と当たるんだからな」
「達巳、お前には関係ない。どうだっていいだろ?」
「ねぇ、翔君。北村君と何かあったの?」
三咲が二人の隣を歩きながら、不思議そうに訊いた。
「ん? まぁーな。三咲には関係ない。こっちの話だ。こいつが余計なことしないように釘を刺しているだけ」
「あー、そういう事」
三咲はうなずいて納得する。
「あの、お二人さん。二人だけの世界に入らないでもらえます?」
達巳は苦笑いする。
「でも、本当に何があったら仲直りするんだ?」
「はぁ? 仲直りって、そもそも俺たち喧嘩なんてしていないだろ?」
翔也は三咲の方を見る。
「うん。喧嘩なんてしたことないね。むしろ、ただの自然消滅みたいな感じ」
「そうだな」
二人とも意見がそろう。
「まぁ、いいか…。何があったのかはこれ以上訊かない。なーんか、面倒だからな……」
「そうしてくれ」
三人は一階に降り、渡り廊下を歩き、売店の方へと向かう。
学年問わず、売店には、主にパンを購入しに来ていた生徒でいっぱいになっていた。
「これは…先に予約しておかないと面倒ね……」
三咲は、呆れていた。
「でも、予約しておいておけば面倒はない」
翔也は、売店の扉を開け、中へ入る。
「おばちゃん。予約しておいたパン、ある?」
「ああ、あるよ。そこに置いてあるからお金は五百円ね」
「ありがとう。ついでにプリンも買うわ」
翔也は、透明の冷蔵庫からプリンを一つ取り出し、袋に入れる。
お金はプリン代も入れ、合計六二〇円を支払う。
すると、隣にいた三咲もプリンを持って、一緒に支払いをする。
「おばちゃん。私も置いておくね」
「はい。ありがとう」
二人は売店を出た。
「あれ? 今思ったんだけど…北村君は?」