あの日、私は失った
「悠里、明日だけど」
「ごめんなさい、明日は勉強会に行く約束しちゃって」
学校からの帰り道。
龍平の言葉が言い終わる前に断る私。
彼が言いたかった事は分かっていた。
明日は龍平の誕生日、毎年一緒にお祝いしていたんだ。
「...分かったよ」
「ごめんね、この埋め合わせはするから」
「うん」
少し寂しそうな龍平。
でも私達は単なる幼馴染み、別に付き合ってる訳じゃない。
「さてと」
家に着いて、自分の部屋から電話。
相手は同じ高校の友達。
「もしもし晃行?」
「お、川井上手く行ったか?」
電話口の向こうから聞こえる賑やかな音。
きっと友人達と一緒に遊んでいるのね。
さすがは家の高校一番のリア充グループ。
「ええ」
いつも龍平と真っ直ぐ自宅に帰っている私。
彼等に対し、例え様の無い疎外感を覚えていた。
こうして話をするだけで最初は満足していたんだ。
でも、最近それだけじゃ...
「そっか、ようやくだな。
まあ山本は仕方ねえよ」
「...そうね」
何が仕方無いのか、分からないがここは追従しよう。
空気を壊したくない。
「明日11時、みんな待ってるから」
「分かった」
手短に通話を終わらせた。
長く話すのはまだ無理、龍平に対する罪悪感があるのかな?
「告白してくれない龍君が悪いんだからね」
待ち受け画面の龍平に呟く。
少し笑った龍平の写真。
幼馴染みの龍平。
私は昔から彼が大好きだった。
そんな彼も私が好きな事は薄々気づいていた。
お互いちゃんと口に出した訳じゃない、それでも私達は満足だった。
いつからだろう?
彼に物足りなさを覚えたのは。
「おーい!」
「お待たせ!」
待ち合わせしていた駅前に行くと晃行達が既に集まっていた。
みんなお洒落な格好してる。
私だけ浮いてない?
自分のセンスに自信が持てない。
「それじゃ行くか、先ずは服屋からだな」
晃行は私の服装を軽く見ると言った。
やっぱりダサかったのか。
龍平は可愛いいって言ってくれたんだけどな。
「そうね、悠里は可愛いんだから」
隣に居た眞由美の言葉にも落ち込んでしまう。
きれいな彼女はいつもお洒落に気をつけている。
クラスでは男女を問わず人気者の眞由美。
学校でも薄く化粧をしていて凄く目立っていて、今も雑誌から出てきた様な格好で...
「ほら行くわよ」
「うん」
眞由美に腕を取られ、洋服店に。
その店は私が着た事の無い、流行りの服が沢山飾られていた。
「ほら、これどう?」
「ありがとう」
眞由美に手渡された数着の服。
凄くお洒落だけど、似合うのかな?
「どうかな?」
試着室のカーテンを開け、待っていた晃行達に見せてみる。
少し身体のライン出し過ぎじゃないかな?
胸の谷間が少し見えて恥ずかしい。
それに似合ってるか自分じゃ分からない。
「似合うぜ」
私を見て目を輝やかせる晃行。
良かった、変じゃ無かったみたい。
「やっぱり眞由美はセンスが良いな」
晃行の隣で同じく目を輝かせる彼は清水顕二。
彼も晃行と同じグループに居て眞由美の彼氏。
少し染めた髪が不良っぽいけど女の子の人気は晃行と二分する人気者。
「でしょ、でも悠里の素材が良かったのもあるかな?
でも顕二、悠里を見すぎよ」
「わりぃわりぃ、眞由美が一番だ」
ジト目で顕二を見つめる眞由美。
そんな彼女に顕二はバツ悪そうに頭を掻いた。
そんな二人を見てると恋人って良いなと感じてしまう。
そう、龍平と...
「悠里、楽しんでる?」
カラオケに場所を移し楽しんでると眞由美が聞いて来る。
楽しい筈なんだけどな。
「うん」
元気一杯の笑顔で頷くと三人は私から視線を逸らす。
しまった、何か不味い事したかな?
「そろそろ行くか」
「ええ」
「そうだな」
晃行達は立ち上がる。
まだ時間は30分も残っていた。
何が悪かったか分からない。
私は項垂れながら晃行の後ろに続いた。
顔を上げられない。
せっかくグループに入る事が出来たと思ったのに。
「あれ?」
「どうしたの?」
晃行の声に視線を上げる。
少し困った顔で私を見る晃行、良かった怒ってないみたい。
「はぐれっちまった」
彼の言葉に私は顕二と眞由美が居ない事に気づく。
辺りに人気は無い。
ここはどこだろう?
「二人になりたかったみたいだな、たまにあるんだよ」
やれやれと言った顔。
恋人の二人に私達はお邪魔虫だったみたい。
「それじゃ帰りませんか?」
残念だけど、もう時間は7時を回っている。
今日は友達と勉強するって言って出てきたから遅くなったら心配するよね。
龍平も...
「俺じゃダメか?」
突然の告白に頭が真っ白になる。
そんないきなりなんて...
「付き合わないか?」
「少し考えさせて」
やっと出た言葉。
まだ心の整理が着かないよ。
「え?」
突然近づく晃行。
気づくと私は抱き締められていた。
「いや!」
晃行を突飛ばし後退る。
龍平でさえ無かったのに。
「...ごめん悠里、俺我慢出来なくて」
「ううん」
下を向き悲しそうな晃行に私はそれ以上言えなかった。
「お帰り悠里ちゃん」
「ただいまお母さん」
家に戻り玄関で靴を脱ぐ。
今日買った服は駅のトイレで着替えた。さすがにあの格好で帰る事は出来なかった。
「あれ、美里は?」
一つ下の妹が居ない。
いつもはリビングに居る筈。
「部屋に居るわよ」
「そう」
調度良い、今は美里に会いたく無かった。
「勉強どうだった?」
「まあまあかな」
「良かったわね」
「ごめん、疲れたみたい。
私も部屋に行くね」
嘘を吐いてる後ろめたさ。
お母さんから離れて私は自分の部屋へと急いだ。
部屋で荷物を下ろし、ベッドで携帯をチェックする。
龍平からのラインが数通届いていた。
「どうしよう?」
結局晃行達からのラインは返信し、龍平には返せないまま携帯の電源を落とした。
「おはよ!」
「...ああ、おはよ」
翌日いつもの待ち合わせしている場所で龍平と会う。
気まづさから元気よく話すが龍平は素っ気ない。
「昨日はごめんね、ラインも返せなくて」
「良いよ別に」
「どうしたの...怒ってる?」
「怒...違うな、もうそんなんじゃない」
何か違う。
ひょっとしたら昨日の事が?
私は龍平と目を合わさないまま無言で高校に向かった。
[悠里、屋上に来てくれ]
その日の昼休みに届いた晃行からのライン。
一体何だろう?
まさか昨日の返事を聞きたいのかな?
[何の用?]
震えながら返信すると直ぐに次のラインが届いた。
[いいから来てくれ]
胸騒ぎを覚える。
一体何だろう?
[分かった]
そう返し私は屋上へと急いだ。
屋上に居たのは晃行と顕二、眞由美、
そして...
「龍平...どうして?」
龍平は一瞬私を見て直ぐに視線を外し、晃行達を見た。
「なんだよ、揃いも揃って?」
龍平の言葉には全く何の感情も籠っていなかった。
「俺、悠里と付き合ってるんだ」
「ち、ちょっと晃行!」
晃行の言葉に思わず叫ぶ。
どうしてそんな事を突然!
「...そうか」
龍平はあっさり頷く。
どうしてなの?
誤解だよ?
「昨日俺達は一緒に遊んでたんた、お前が1人っきりで誕生日を過ごしていた時にな」
晃行に話したのは失敗だった。
そんな事を龍平に言うなんて!
「大体あんたみたいな陰キャが悠里の幼馴染みって事だけでつきまとってること自体おかしいのよ」
「全くだ」
眞由美と顕二は口々に龍平を責め立てる。
こんな事をする人とは思わなかった。
「それにホレ」
絶句する私を他所に晃行は携帯を取り出し画面を見せる。
あれは一体?
「これは...」
龍平の表情が歪み、私は全身の血の気が失せる。
「...いつのまに」
そこに写っていたのは私が晃行に抱き締められている画像だった。
「もう俺達はそう言う事なんだ」
「...分かった。
悠里、もうお前には近づかない」
龍平は静かに立ち去る。
私から視線を逸らしながら。
「龍平!」
慌てて龍平の後を追う。
こんな別れは嫌だ!
ちゃんとした終わりを迎えないと。
それに誤解だけは解きたい!
「頼む...もう来ないでくれ」
龍平は振り返らず呟く。
強い拒絶と嫌悪の言葉に動けない私。
「惨めね」
「本当だ」
閉められた扉。
そして後ろから聞こえる顕二達の言葉に私は龍平との関係が終わった事を知った。