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決戦の時〈3〉


 五海商会と組んで、ゲインズ商会を潰す。

 その過程で、可能ならば僕がカエイを倒す。

 基本方針は決まった。ピルスキーを間に挟んで、少しづつ話し合いも進んでいる。


 僕の仲間も協力を約束してくれた。

 個人的なゲインズ商会への恨みだったり僕への恩返しだったり”面白そうだもん”だったり、みんなそれぞれに違う動機だけれど、潰すべきだ、という意見は一致していた。

 危険なんて今更な話だった。もう何回も死線を潜っている。

 それに、五海商会のバックアップでいくらか安全は確保される。

 五海商会から金を受け取らない判断にはけっこう文句を言われたけど……。


「クオウさん」


 その日の夜、リルがベッドの間に置いたついたて越しに話しかけてきた。

 ……かと思うと、強引についたてを動かして、顔を合わせる状況を作ってきた。

 こうなると、単に倉庫にベッドが二つ並んでいるだけだ。

 プライバシーも何もあったものではない。


「アザリアさんのことを覚えていますか? わたしを売り飛ばそうとした、小悪党の」

「一応は」

「わたしは思うのです。もしもゲインズ商会が無ければ、彼女はまっとうな手段で借金を返していたのでは、と」

「……さあね。他の悪党が、同じように借金で脅して使い走りにしてたかも」

「だとしても、ゲインズ商会はやりすぎなのです。冒険者という戦力がありながら、あんな悪党を見逃している迷宮都市の偉い人たちは……」

「どうせカネと政治なんじゃないかな」

「……そうですか。わたしには分からないし、興味もないのです。けれど」


 リルはベッドの横に立て掛けた盾を見つめた。


「みんなに助けられた分だけ、わたしは誰かを助けなければいけない」

「……」

「ゲインズ商会に立ち向かうのは、願ってもない機会なのです。わたしは必ず、守りきってみせる……クオウさんも、仲間も。悪党の犠牲になっている人々のことも」

「他人ばかりじゃなく、自分のことも守ってあげなよ。あまり無茶して君が潰れたら、元も子もないんだ」

「それでも、わたしはその無茶がやりたいのですよ」


 ……僕とリルは、違うようでいてけっこう似ている。

 僕たちは二人とも、たぶん、無茶をやるのが好きだ。


「なら仕方ない。明日から存分に無茶をやるとしよう。おやすみ」


 そして僕たちは、無茶に挑むための準備を始めた。

 計画を立て、検証し、少しづつ戦術を形作っていく。


 そんな状況下で、僕とリルはザーラ・サルタナオウルの邸宅を訪れていた。

 仮想敵として訓練に付き合ってもらうためだ。


「綺麗になってるのです。姉さん、ここに長居する気になったのですかね」


 荒れていた庭には使用人の姿があり、剪定作業をやっている最中だ。


「かもね。……本国にはなんて報告してるんだろ」

「わたしを殺すための捜索中、で十分に通るのです。今のテュラク帝国はガタガタなので、姉さんに構ってる余裕はないのですよ」

「なるほど」


 使用人の一人に案内されて、屋敷に入る。

 床も家具もピカピカだ。

 ああ金持ち権力者の豪邸だな、という雰囲気に少し気後れした。

 しかし、ザーラにこんな生活を維持する金があるんだろうか……?


「サルタナオウルさま。……サルタナオウルさま? 客人をお連れしましたよ?」


 使用人がゲストルームの扉を叩くが、返事はない。

 何回か声を掛けてから、不審に思った彼女が扉を開く。


「むふふふふ……いいですわっ! 行くところまで行ってしまいなさい!」


 ザーラはイケメンが表紙の本を読んでニヤついていた。


「姉さん?」

「……あばっ!?」

「そんなに面白いのですか?」

「お、面白いなんて一言では失礼なぐらい最の高なのですわよ!? まず顔がいい!」


 赤面しながら謎のプレゼンを始めたザーラへと、咳払いを一つ。


「し、失敬! 訓練でしたわね!」


 彼女は本を机に降ろした。近くにいくつか大衆雑誌が置かれている。

 ……どちらもゲインズ商会の裏側についての特集記事がメインだ。


「そ、そういえば! このゲインズ商会とかいう連中! 許せないのですわ!」


 片方には表紙の隅に僕の顔が乗っている。

 つい最近、〈冒険者の友〉という雑誌で僕についての特集記事が組まれた。

 執筆者はもちろんブレーザー。

 内容は、仲間のリルがゲインズ商会に売られそうになったところを助けたことやカエイとの間にある因縁、五海商会の商館長と共に繰り広げた冒険についてだ。


「クオウさんの特集記事も読ませてもらいましたわよ!」


 他の雑誌にも似たような話が乗っている。その半分ぐらいは執筆者がブレーザーだ。

 基本的にこの街の雑誌記者は半フリーランスで、記事の持ち込みも珍しくない。


 もちろん、そうした記事の後ろには〈五海商会〉の息が掛かっている。

 僕とゲインズ商会の物語を広め、五海商会がそこに便乗するためだ。

 向こうのPR戦略に利用されてる形にはなるけれど、同時に僕たちのPR戦略にもなる。

 冒険者をやる上で知名度が高いにこしたことはないので、互いに利益のある話だ。


「最高でしたわ! 私もクオウさんみたいな冒険者になってみたいものですわね!」

「……どうも」


 ……こういう世界に足を踏み入れてしまったからには、うまく利用するしかない。

 できれば深みに沈む前に足抜けしたいところだけど。



- - -



 訓練の成果はそこそこだった。

 どの戦いも、封殺するか封殺されるかの一方的な勝負だ。

 僕が主導権を取れば一方的に勝ち、取れなければ一方的に負ける。

 ステータスの差がある以上、互角の打ち合いになれば自動的に僕の負けだ。

 カエイはザーラよりもさらに上だが、どっちにしろ僕よりはるかに上だから。

 相手の意表を突き続ける必要がある。


 だが、カエイはひらめきに優れる直感タイプだ。

 予想もできない奇策や意表を突いた奇襲こそが彼女の武器。

 互いに自分のやりたいことを押し付ける以上、実際に戦法をぶつけあってみるまでどう噛み合うかは分からない、予測不可能な戦いになる。

 ……はずだった。少なくとも、少し前までは。


 映像の中に映っていたカエイは完全に別人だった。

 予測不可能で自由自在な戦い方という最大の長所を失っている。

 単純に機械的にぶつかってきたならば、僕は勝てる。そう言い切れる。


 ……フェイナいわく、彼女の洗脳が治せるとは言い切れない、らしい。

 術者や特定の個人を殺せば治るケースや、魔法で治療すれば治るケースもあるが、完全に不可逆のケースもある。

 もし完全に精神が壊されていたなら……僕が葬ってやるべきだろう。



- - -



「これはまた、随分と金のかかった秘密基地ではないか……」


 僕らの地下工房に足を踏み入れたピルスキーが、周囲を見回して呟いた。


「書類上での地権者は確かめたか? そうそう許可を取れるとも思えないが」


 聞かれた僕はマイザの方を見た。彼女は曖昧に「あー、まあ」と答える。


「……ここの両隣にある農業工場は、どちらもメインバンクがローランド共和国系の〈農林金庫〉だ。こじれた時はウィレムを頼れ、なんとかなるだろう……」


 言いながら、彼はリビングにある机に図面を広げた。

 それはカジノ〈リゾーティア〉周辺の上面図だ。

 戦力や要塞化された建物など、各種の情報がメモ書きされている。


「ウィレム、居るかね」

『おうよ。いつでも始めてくれ』


 ピルスキーが卓上に置いた水晶から、五海商会の商館長が立体映像で投影される。

 その二人に僕たち五人を合わせ、机を七人で囲む形だ。

 これが第一回目の作戦会議になる。


「さて……始める前に聞きたいのだが。クオウ君たちのパーティに名前はあるのか?」


 もうそろそろ、ちゃんとした名前を付けてクランを設立するべきだろうか。


「いや。どうしても名前が必要?」

「……ふむ。なくとも不都合はないな。では、始めるとしよう」

『まずは大きなレイヤーの話をさせてくれ。対ゲインズ商会作戦の勝利条件は、短時間でゲインズ本人を討ち取ることだ』

「長いこと市街戦をやれば、五海商会が非難されて大事な大事な評判が落ちるからね」


 僕は精一杯に皮肉っぽく言った。


『その通り。あとよ、ゲインズ商会は裏社会の諸勢力を傘下に収めてるだろ。そいつらの根城が〈落花通り〉周辺に散らばってるんだ。時間が経てば経つほど、周辺から戦力が集まってくる。大集合してドンパチやって街を壊せば、さすがに圧力で法律を捻じ曲げるにも限度があるからよ。おれは逮捕されて有罪になって刑務所行きだ』

「……そうなれば、僕たちも無事では済まないかもしれませんね」

『お前らは平気だろ。迷宮ギルドの連中は、有望な冒険者にはとことん甘えよ』

「強けりゃお咎めなしってな。迷宮都市のそういうとこ、俺は嫌いだわ」


 ……僕は、そこまで嫌いじゃない。


「つまり、短時間で決着を付ける必要があるのだ。ここまではいいかね」


 僕たち五人は頷いた。


「また、表向きの形として、戦端を開くのはクオウ君でなければいけない」

「裏に五海商会が居るのはモロバレなのに、そこまで偽装する必要はあるわけ?」

『迷宮ギルドの連中がおれたちを見逃すにも理由が必要なんだよ。政治の話だ』

「はあ……」

『ま、ここまでが戦略面の話だ。とりあえず、おれに戦術面の見立てを聞かせてくれよ。迷宮潜ったときの雰囲気からすると、専門だろ?』

「それなりには」


 僕はカジノ周辺の地図を眺めた。


「……細い路地が多すぎる。即席バリケードと〈大盾(ワイドガード)〉みたいな防御技能(スキル)、あるいは〈炎獄(インフェルノ)〉みたいな長く残る魔法を組み合わせるだけで、完全に封鎖できる」

『うちの冒険者を動員すれば、その程度のは力押しできるが』

「だとしても、正面から戦うのは無理だね。地形的にも戦力的にも、向こう側の根城だ。カジノ自体も硬い……というか、短時間で落とすには硬すぎる」


 カジノ〈リゾーティア〉は、全体的にお城っぽいテーマで作られている。

 周囲には水堀が巡らされ、出入り口には城門もあるぐらいだ。

 中に入ってしまえば、ただの明るい南国風施設なのだが……外への防御は硬い。


「このカジノを本城と見立てた上で、周辺のゲインズ商会傘下勢力が陣取る建物を相互支援の利く支城網として配置してるみたいだ。星型要塞と小要塞群の関係にも近い」


 文字通りの”外郭団体”が周辺を固めているわけだ。


『どう落とす?』

「まっとうな攻城戦は無理だね。少数精鋭の浸透作戦しかない」

『そうか? 〈ランドシップ〉の砲撃力でどうにかなんだろ?』


 皆が分かっているような分かっていないような顔をしている。

 悪いけど説明するのは後回しだ。


『砲撃で建物を潰すのは構わねえしな。許容できる付随的(コラテラル)損害(ダメージ)だ。それで市民が何人か死んでも、原因はゲインズ商会になすりつけてやる』

「いや……。廃墟の迷宮で戦った経験からすると、砲撃で潰した建物って、それほど防御力は落ちないんだよね」


 はっきり言って、軍隊より冒険者のほうが実戦経験は豊富だ。

 毎日毎月毎年ずっと戦ってる軍隊はないが、ずっと戦ってる冒険者はいる。


『そうなのか?』

「爆発する魔法を当てても、たいてい建物の基礎とか柱は残るんだ。だから潜める空洞が残る。爆発があったら周辺から戦力も集まってくるはずだし……」

『へえ……? うちの海軍から出向してる士官連中、砲撃で潰せば楽勝だろってノリだったが……』

「建物を潰すぐらいの派手な砲撃は、むしろ陽動にしたほうがいい。そこへ注目を集めて、別方向から精鋭を送り込むほうが、抵抗は少なくなると思う」

『もっともだな』


 改めて地図へ目を落とす。

 カジノ周辺の戦力は、それぞれ脅威度がランクで分類されていた。

 ……カジノの中央に”S+”としてラクートの表記がある。

 カエイは”A”だ。僕なら今のカエイはCにするけど。

 アルギロス・ゲインズ本人は”C”。

 幹部はせいぜいD前後だ。

 周辺にいる傘下組織の方はバラバラで、Aが複数のところもあればEのところもある。


「戦端を開くのは僕たちだって言ってたけど、そのあと五海商会の戦力はどうやって展開するつもりなわけ?」

合同作戦(レイド)さ』

「……なるほど。合同作戦の集合に使う西側大通りの広場は、〈落花通り〉と近い」

『カジノ周辺で騒ぎがあってから、十分に駆けつけられる距離だろ?』

「砲撃で潰しながらの大攻勢なら、そこに集めるのは合理的だけど……少数精鋭部隊での突破を狙うなら、大戦力で助攻をかけつつ別方向から突入させたいね」

『……おい、まさか〈ランドシップ〉を囮にするのか?』

「主攻に見えるような大戦力を助攻に使うってわけだよ。まさかアレが囮とは思わないだろうから。つまり、精鋭部隊の突入方向は広場と反対側」


 地図の右上から中央に向けて、ペンで矢印を描く。


「互いの主力が集まる正面の戦線がここになる、と」


 地図の左下側、大通りの広場とゲインズ商会傘下組織の中間点に戦線を記した。


「えっと、あの……」


 リルがおずおず喋り始めた。


「要するに、左下からたくさんの戦力で陽動をかけて、反対側から突入するっていう話でいいのですよね?」

「合ってるよ。やることはシンプルだ」


 そして、大規模な戦術はシンプルにしておくべきだ。

 複雑な手順を踏む精巧な戦術は、全員が完璧な精鋭集団でなければ実行できない。

 僕たちだけなら、それなりに複雑なプランを組んでもいいけれど……。


「わたしたちは、その突入する側に回るのですか?」

「いや……。これだけ詳細な諜報をやってるなら、内部に協力者がいるだろうし。僕たちは正面からカジノに入っていけばいいんじゃないかな? そのほうが、”五海商会は僕たちの揉め事を聞いて駆けつけただけ”って言い訳も自然になるし」

『……大胆なプランだな。なあクオウ? やっぱうちに来ねえか?』

「お断りだってば。金も受け取らないからね」


 ちょっと待てよ、とマイザが呟いた。


「それって、あたしたちは何の支援もない状態で敵中ド真ん中に突っ込んで騒ぎを起こすってことかよ!? 危険は承知つったって、そりゃ無茶がすぎるだろ!?」

「いや。マイザには、ブレーザーと二人一組で狙撃手をやってもらおうかと」


 視力を含めて全体的に五感の鋭いブレーザーと、妙に銃の狙いが上手いマイザがいるんだから、二人を組ませない手はない。

 二人とも前線で直接戦えるほどは強くはないし、これが最適だろう。


「カジノの中には、僕とリルだけで行く」

「更に無茶じゃねえかそりゃっ!?」

「そうでもない。地図の戦力配置を見れば、ゲインズが警戒してるものは明らかだ。五海商会の主力が攻めてくることへの防御だけを考えてる。少数が抜けてくるのは気にしてない」

「でも……カジノの中には、おそらくラクートさんが居るのですよね?」

「そうだね。あの男が一人いるだけで、十分以上に浸透作戦の類はケア出来ると思ってるんだろう。実際、そうなんだけど……」


 技を極めた冒険者は、一人で数千・数万の軍勢に相当する戦力だ。

 しかも、計画も大勢の士官も大規模な平原も兵站も必要はない。

 いつでもどこにでも屋内のトイレの中にすら展開できる軍勢だ。


「そこはフェイナになんとかしてもらう」

「えっ!? あたし!?」


 頬杖を突いて退屈そうにしていたフェイナが飛び起きた。


「どれだけ貴重で高価な素材でも、そこの二人が快く提供してくれるはずだし。手段を選ばなければ、化け物を止められるような魔法薬(ポーション)でも作れるんじゃない?」


 防御をラクートに依存している以上、あいつさえ止めてしまえば何とかなる。

 ……上手く行けば、カエイと一対一の機会も作れるはずだ。


「む、無茶振りっ! でも、ダーリンのためなら……!」

「うむ? ダーリンだと?」

『意外だ。ぜってえ女とかいねえやつだと思ってた』

「私もそう思っていたのだが……」

「気にしないで。こいつがまともじゃないだけだから」

「むー、素直じゃないんだからー」


 フェイナがふくれっ面を作った。


「今に見てろよー……あ、ところでそのラクートって人、殺しちゃってもいいの?」

「殺す気でやりたまえ」


 ピルスキーが即答した。


「幾度も地獄から戻ってきた筋金入りの傭兵だ。何をしようが死なんとも。私に調達できる材料であれば何でも用意しよう。費用はウィレムが持つ」

「言ったな!? フェイナちゃん印の劇薬でコロリと逝っても恨むなよー!」


 僕たちまで一緒に死ぬような代物じゃなきゃいいんだけど。


『え、ちょっと待てよ、おれが持つの?』

「うむ。私はこれでも金欠なのだ」

「そんなことより。ただの平面図じゃなくて、建物の高さとかがわかる図が欲しいんだけど、ある?」

「あるとも。戦場の調査は事前に済ませておくものだ、違うかね?」


 斜め上空から水晶かなにかで撮った写真が出てきた。

 ……そういえば、前にカジノの内部にいるピルスキーと水晶式の通信機で話したな。

 遊んでるだけかと思ってたけど、あれも事前調査の一貫だったんだろう……。


「なるほど。カジノの窓はけっこう大きいんだね。外から射線は通りそうだ」

「いいや、その窓はリゾート寄りの区画や上部オフィス区画の窓なのだ。カジノ部分は窓のない作りになっているな」

「……そこまで防御力重視なのか」

「うむ。カジノの中には強固なシェルターが隠されているという噂もある」


 シェルターか。籠もられると厄介だ。

 突破手段を用意しておく必要があるな。これもフェイナに任せるしかないか?


「窓を作らない理由は防御力ではなく、外を見えなくしてカジノの客に時間を忘れさせ、一日中遊ばせる効果を狙っているようだがね」


 ピルスキーが写真の束を取り出した。

 カジノ内部の写真、重要幹部の顔、各種の出入り口に通気口。

 必要なものはだいたい映っている。完璧な偵察だ。

 ……窓から見えるプール付きのリゾートホテルを背景に、胸の大きくて露出の激しい女性とピルスキーが笑顔で写真を撮っている写真も、きっと偵察の一貫だろう……多分。


「待てよ? ホテル?」


 僕は顎に手を当てた。


「あのホテルには、世界中の金持ちとか貴族が泊まりに来るはずだよね?」


 最先端の娯楽と魔法技術が揃う迷宮都市には、もちろん観光客が来る。

 ましてあのカジノは金持ちと権力者がターゲットだ。

 そういう奴らを相手にしている商売ともなると、そうそう簡単に止められない。

 ホテルは営業を続けるはずだ。そうすればゲインズが人質に使うこともできる。


「うむ」

「作戦の決行日も、たぶん営業してるんじゃない?」


 全員の視線が集まった。


「事前にホテルへ戦力を送っておけば、完璧な監視拠点になるんじゃない? スパイの協力を得て、大荷物に紛れて入り込ませてさ……」

『それだ』


 ウィレムが言った。


『それでいこう。うちの軍隊連中が上げてきたプランより、お前のプランの方が良いぜ』


 それから僕たちは、たっぷり時間をかけて詳細な計画を練り上げた。

 ……もう何回目かも分からない、命懸けでの作戦だ。

 こういう綱渡りはこれで最後にしたいものだけど……。

 ……恐怖を感じるのと同時に、少しだけ心が躍ってしまう。


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