熱砂の活劇〈12〉
謎の空間を後にして、階段を降る。
例によって、扉と銘板があった。
「文字が潰れてんな……”██層:貴族█層”みたいな感じっぽいけど」
口でもにゃもにゃした音を出しながらブレーザーが言った。
銘板を覆う瘴気らしき汚れはさらに濃くなっている。
「ま、貴族の墓なんだろうな。兵士よりは上等なんじゃねえ?」
彼がそろりと扉を開く。
壁にぼろぼろの旗が掛かった部屋の中に、宝石のついた大きな棺が並んでいる。
そして、蓋が一斉に開いた。
「我らガ眠りヲ……」
「妨げるハ……」
「誰カ!」
中から出てきたのは、全員が黒い包帯で体を包んだ〈マミー〉だ。
だいぶ明瞭な喋り方をしている。
そのほとんどが、副葬品らしき装飾過多な武器を構えていた。
「死ヲ!」
「死ヲ、冒涜者に死ヲ!」
マミーの集団が、声を揃えて叫んだ。
呼気に合わせて口から吐き出される濃い瘴気が、暗闇を更に濃く染める。
彼らの構える武器に合わせて、横に長い陣形が作られた。
兵士たちの密集陣形ではなく、間隔を取った並び方だ。
冒険者パーティがよくやる戦い方に近い。
そろそろ本格的に気を引き締める必要がありそうだ。
「なにが冒涜者だよ、うるせえな! 死にぞこないのくせにっ!」
叫びながら、マイザが銃の引き金を引いた。
だが、マミーたちを守るように展開された黒い魔法の障壁に阻まれる。
続いてリルが突撃した。盾持ちのマミーたちがその正面でスクラムを組む。
力比べが拮抗し、突撃の勢いが止まった。そこを剣のマミーが囲みに来る。
「リル、退けっ!」
囲みに来たマミーめがけて〈無銘剣〉を振り抜く。
一撃目は受け止められた。すぐさま剣を手放し放った二撃目が、マミーの首を飛ばす。
同時にリルが飛び退り、囲まれる前に戦線を下げ僕と並んだ。
リルに横を預けつつ、マミーたちと切り結ぶ。
技量は中々のものだ。感触としては、おそらくEランク冒険者より強いぐらい。
それでも一対一なら普通に勝てるが、数が多すぎる。
「死ヲッ!」
敵陣の後方で、叫び声が重なった。
前衛マミーが光をまとい、動きが急に鋭くなる。バフだ。
……こっちも、いい加減にポーションを使う頃合いか?
”残弾”はまだ余裕がある。全種類を合わせればポーションの在庫は四十個ほど。
いや。使わずとも、まだまだいけるはずだ。
「これでっ!」
僕はメインの武器を〈無銘剣〉から〈マギ・インバーター〉に切り替えた。
マミーの一匹とつばぜり合いの形でぶつかり合う。
その瞬間、剣がちかちかと瞬き、マミーのまとう光が消えた。
バフがデバフに反転し、急激に動きが鈍くなる。
そこで再び〈マギ・インバーター〉を〈無銘剣〉に持ち替える。
反動加速による居合が、鈍ったマミーをたやすく切り倒した。
……はじめて本来の使い方をした気がする。
「おおっ! 完璧だ! あたしの剣を使いこなしてるな! 気分がいいぜっ!」
銃をぶっ放しながらマイザが叫ぶ。
リルの側面へと回ろうとしていたマミーの頭が弾け、消える。
徐々に敵の前衛が削れていき、形勢が有利に傾いていった。
「聖王ヨ、我らニ加護ヲ! 〈焦土〉!」
地下迷宮に太陽が現れた。
直視できないほど眩い光点が、耐えがたいほどの灼熱で僕たちを焼く。
「〈大盾〉!」
リルが下がり、盾を上に向けて〈大盾〉を展開する。
魔法の盾が灼熱を和らげた。けれど、こうしている間はリルが戦えない。
マミーの半分が僕を囲む。
そして、残りの半分が後ろのマイザとブレーザーに向けて走っていく。
「おっと! こいつはまずいな、おれの出番か!」
ここまで静観を決め込んでいたフージェンが、サーベルを抜き放った。
その刀身は水で作られ、はっきりとした形はない。魔剣だ。
彼が振るった刀身が、少しだけもたつきながらもマミーたちを両断した。
なんか、使ってる武器の質に比べて技量が微妙だ。
後ろばかり見ている余裕はない。
僕を取り囲んだマミーたちが、四方から剣を繰り出してくる。
決着をつけるための、防御を捨てた一斉攻撃だ。
……いい加減に、ポーションの使い所だろう。
敏捷性と攻撃力のポーションを取り出して足元に投げる。
ブーストされた身体能力で、僕はアイテムボックスから〈無銘剣〉を抜き放つ。
同時に、足を使ってぐるりと回転した。
少し前にザーラ戦の仮想敵をやっていたときと同じ用に、回転しながら剣を放つ。
もちろん、〈風撃の指輪〉に込める魔力は最大限だ。
ずばあっ、と一つに繋がった音が地下に響いた。
一回の攻撃で、六匹ものマミーが胴体を両断された音だ。
僕を囲んでいた敵が、同時に光と化して消える。
……他人へ”武器の質に比べて弱い”なんて言える立場じゃないな。
武器が良すぎて、速いだけで力のない剣でも胴体が両断できてしまう。
「あんだあ!? それ勝てるのかよ!? 死んだかと思ったぜ、ガハハ!」
「失敗作でも、そこまで使いこなされると……嬉しいといやあ嬉しい!」
前衛が失われて、敵後衛を守る人員が居なくなった。もう敵の人数は一桁だ。
杖を上に掲げていたマミーたちが、自分たちを守るため黒い魔法の障壁を展開する。
おかげで〈焦土〉が消えた。
「戦線復帰なのです!」
前に戻ってきたリルが、盾を構えて魔法障壁に突進した。
大きく障壁が揺らぎはしたが、破れはしない。
「……何匹か、障壁の展開に参加してないマミーがいる」
右手を引き絞り、いつでも剣を取り出し居合を放てる状態で、じわじわと近づく。
僕たちが有利だけれど、気を抜けば奇襲でやられる可能性は十分にある。
「壁を破った瞬間に、逆襲を狙ってくるはずだ」
黒い障壁を挟み、僕とマミーの一匹が向かい合った。
包帯の隙間から見える瞳が赤色に輝いている。
「冒涜者メ」
正面のマミーが口を開いた。
「神聖ナル墓ヲ荒ラス冒涜者メ」
「神聖?」
「我ラガ聖王シェヌヲ知ラヌト申スカ!」
「シェヌ? 聞いたことないな。誰か知ってる?」
聞いてみたが、返事はない。ここに居る人間は誰も聞いたことがなさそうだ。
……迷宮が作られる原因としてポピュラーな説明に、”かつて大量に世界の狭間へと追放されたマジックアイテムが、その魔力でもって小さな世界を作り出している”というものがある。
もしその説明が正しいなら、この迷宮の最奥部に眠る宝はもともとシェヌとかいう聖王の墓に埋葬されていたのかもしれない。まあ、たぶん違うだろう。
「我ラガ王ヲ愚弄スルカ……! 冒涜者ニ、死を!」
不意に、障壁が消えた。
すぐさま居合を放ち、正面のマミーを斬り裂く。
だが、消える寸前に彼の杖から黒い稲妻が放たれた。
「んぐっ!」
至近距離からの電撃が体を走り抜けて、思わず膝をつく。
思うように動かない体を気合で無理やり動かし立ち上がった。
どんっ、と空気を揺るがしながら、別のマミーが稲妻を放ってくる。
けれど本物の稲妻とは違い、空間を徐々に進んでくる様子が見えた。
避けられる。とっさに横っ飛びしてかわし、魔法の後隙を狙って距離を詰める。
一瞬、首を振ってリルの様子を確認した。
黒い電撃を繰り返しぶつけられながらも、一匹を逆に倒している。
防御力のゴリ押しだ。あれなら心配はない。
距離を詰めきり、杖を握ったマミーの集団へと切り込む。
四方へ散って逃げようとするのを許さず、素早く確実に仕留めていく。
あっという間にケリがついた。
リルの方も、後ろからの援護射撃を受けながら全員を倒しきったようだ。
危ない場面はあったが、まだ行ける。
「わたしに当たったのですけど!」
「いやごめん! まさかあれ突っ込んでくとは思わなかったわ!」
「刺さらなかったからいいですけど! もっと気をつけるのです!」
またブレーザーの誤射があったらしい。
……五感は鋭いくせに、射撃の才能はなさそうだ。
いっそのこと魔法使い系のクラスをやらせて、敵を追尾する魔法だけ撃たせようか?
ただ、今の〈スナイパー〉より知覚力は下がってしまうけど……。
悩ましいな。ま、後で考えるとしよう。
「ガッハハ、よくあることだな! 気にすんなよ! さ、行こうぜ!」
水の魔剣を鞘に収めたフージェンが、どすどす奥に進んでいった。
その通りだ。次の階層へ挑むとしよう。




