熱砂の活劇〈10〉
魔法の船が砂漠を滑り、粉々になったゲインズ商会の馬車へ向かう。
金目のものを回収するためだ。
助けてもらったお礼ということで、僕らはその回収作業を手伝った。
ついでにフェイナの”遺品”も回収する。
「どこに降ろせばいいですか?」
リルと一緒にアイテムボックスに収まらないサイズの残骸を抱え、船長に尋ねる。
「甲板に置いといてくれ! クレーン使ってまとめて倉庫に降ろすからよ!」
言われた通り、船の甲板に残骸を置いた。
ただの壊れた馬車に見えるが、要所に迷宮産の魔法素材が混じっている。
素材としてなら、まだ値段はつくだろう。
「よし、デカい荷物からハッチ空けて降ろすぞ! 滑車を使え!」
海賊コスプレのウサ耳船長が、船員たちへ的確な仕事を与えていく。
見た目のわりに優秀な采配っぷりだ。
「あれ、そういえば……ブレーザーはどこだ?」
姿が見えない。
……よく見回すと、彼は船員に混ざって滑車のロープを引いていた。
めちゃくちゃ馴染みすぎて普通に船の一員に見える。
「ああそうだ、あんたがポーターだったよな? ちょいと倉庫まで来てくれよ!」
船長が僕を呼びつけた。彼を追って急な階段を下る。
「ガハハ、悪いな! こんな雑用させちまって!」
「このぐらい、何でもありませんよ。助けてもらった恩がありますし」
「ところであんた、仲間内でもそういう改まった態度なのか?」
「え? いえ、そんなことは」
「じゃ、くだけていこうぜ! 同じ冒険者だろ、な? そう礼儀正しそうな態度を取られちゃ、くすぐったくていけねえよ! ガッハハ!」
「そこまで言うなら、タメ口でもいいけど」
「そうそう、それでいい!」
僕たちは最下層の倉庫に足を踏み入れた。
中央のハッチが開いていて、甲板から太陽の光が差し込んでいる。
なのにまだ壁についている魔法の照明を消していない。
この船長、細かい節約をするような男ではないらしい。
「さっきも言ったが、おれのことはフージェンって呼んでくれ! 船長、でもいいし、別に呼び方なんざ好きにすりゃいいがな、ガハハ!」
……僕は今まで、”フージェン”なんて名前の冒険者を聞いたことがない。
この船も見たことがない。
掲げている旗はただの海賊旗で、所属が分かるような紋章ではなかった。
ひょっとすると海賊旗を紋章に使っている新興の勢力だろうか。
もしかすると、本当に元海賊なのかもしれない。
「さて、着いたな!」
船長が船底の隅に並んだ金庫の一つを開いた。
まだ空の金庫へ、ゲインズ商会の連中が落とした装備をアイテムボックスから移す。
「ところであんたら、〈ゴブリンズトレイル消失事件〉のパーティだろ?」
「よく知ってるね。僕たちの名前を出してるのってブレーザーの記事ぐらいなのに」
「そりゃ、仕事柄でな。迷宮都市のこたぁ隅々まで知っとかねえとよ! 表も裏も、ようく知ってるぜ! 女のことも迷宮都市ぐらい知りてえもんだがな、ガハハ!」
フージェンは腹から笑った。大きな海賊帽とウサ耳がぴこぴこ揺れる。
「お前ら、まだクラン作ってないんだろ? うち来るか?」
「ありがたいけど、遠慮させてもらうよ」
「独立独歩か! 冒険者らしいじゃねえの、いい覚悟だ! ガッハハ、なら活動資金だけでも出してやろうか!?」
「……いや……まだ投資を募る気はない。身の丈なりにやってくよ」
「ガッハッハ! 身の丈か! 身の丈なりにゃ見えねえがな!」
彼はなぜか爆笑した。
「気に入った! なあクオウ、この迷宮も行けるとこまで行ける気だろ?」
「まあ、一応」
「おれと組もうぜ! 宝探しといこうや!」
裏切られる可能性は低いだろう。どう見ても既に金満の集団だから、宝を手にした瞬間にカネ目当てで……みたいなことをやる必要はそこまでない。
僕らの戦力は不足しているし、メリットしかない申し出だ。
「利益の配分は?」
「純利益の等分でどうだ?」
「……純利益? さっきの弾薬費を費用に含んだ上での?」
「冗談だよ、ガッハハ! んなケチくさいことやらねえ! 最奥のドロップを価値で等分だ! それ以外は全部持ってけ!」
金に余裕があるとはいえ、ずいぶん気前がいいんだな。
「おれのことを、気前がいい男だと思ったか? ……まあな! ガッハッハ!」
フージェンは大きく笑い、右手を僕に差し出してきた。
握り返す。
「取引成立だ!」
手が痛くなるような勢いで握ってきた。
悪気はないんだろう。これもステータスの差だろうか。
「で、クオウ。お前、どっちに進めばいいか知ってるか?」
「えっ」
「これ、単なる実戦テストのつもりだったからよ。計測機器、積んでねえんだわ」
い……一杯食わされた……。
こいつ、どっちが”奥”か知らなかったんだな。当然知ってるものかと。
組んでしまった以上、無料で情報を教えるしかない。
別になにか損をしてるわけじゃないけど、くっそ……。
「……下だよ。たぶん、流沙の先に地下迷宮がある」
「流沙の先ぃ!? それじゃ船が使えねえじゃねえか! 参ったな!」
向こうにとっても想定外だったらしい。
そもそも魔力の計測ができるフェイナはもう居ないし、大丈夫か……? これ。
「他のやつらは船の護衛に置いとくとして……せっかくだしな! おれ一人で行くか!」
……海賊のコスプレをしたウサ耳のおっさんが仲間になった。
フェイナが居なくなって静かになるかと思いきや、むしろ騒がしくなりそうだ。
- - -
フージェンを入れた僕たち五人は流沙のそばで船を降りた。
船から長いロープを垂らした上で、慎重に進んでいく。
「なあ死なない!? あたし死なないかこれ!? 体が埋まるんだが!?」
「潜るんだから埋まって当然でしょ。あまり叫んでると砂が肺に入るよ」
「なるようになるのです。騒いでもしょうがないのですよ、マイザさん」
「ガッハハ、肝の座った嬢ちゃんだ。その通りだぜ、ドーンと構えていけよ!」
真っ先に流沙の中央へ突入した船長が、腕組みしながらスッと下に消えていった。
……ちょっと絵面が面白い。
流沙の上に最後まで残ったウサ耳も、すぐに見えなくなる。
続いてリルが消えた。
「おう、空洞だ! 人工っぽい迷宮があるぜ!」
「ちゃんと息ができるのです!」
大丈夫そうだ。
「みんな! またな! 〈奇妙たれ〉!」
隣にいるブレーザーが、船のほうへ手を振りながら叫ぶ。
船員たちも手を振り返し、同じ言葉を叫んだ。
「〈奇妙たれ〉!」
ローランド共和国で通じる決まり文句なんだろう。
ブレーザーが砂の下に潜る。
「……マイザ? まだ行かないの?」
「い、いや、お前が行けよ!」
「なんかあったら助けに入れるよう待ってるんだけど」
「お、お前が怖いだけだろ!?」
「いや……」
彼女はずっとロープにしがみついている。
仕方がないので、僕は船のほうにロープを緩めるよう指示を出した。
「ちょ! ま! お前ぼはっ!」
砂を飲みながらマイザが沈んでいく。僕もその後を追って、流沙の下に降りた。
「おお……これは」
空洞に山のように積み上がった砂のふもとに、黄色っぽい砂岩の石畳がある。
その先には人工的な四角い入り口。本格的な地下迷宮だ。
「べほっ! べほっ! 強引! 強引すぎるっ! クオウの外道っ!」
「僕は十分に待ったと思う」
「ほらマイザ、とりあえず水でも飲んで喉を洗っとこうぜ、な?」
ブレーザーの差し出した水筒を遠慮なく飲み干して、マイザが立ち上がる。
「……おお、いかにも冒険の舞台って感じの地下迷宮! 最っ高だぜ!」
機嫌を直したようで何より。
砂の山を滑って下り、入り口の前で集合する。
「さあ、行きましょう!」
リルが先頭に立った。
「ちょっと待って」
中を覗き込む。人が三人ぐらいは並べる広さはあるが、狭めだ。
けれど、入れ替わる余裕がある。戦闘になってからリルを前に出しても遅くない。
「ブレーザーを先頭に。次にリル。それから、僕、マイザ、フージェンの順で行く」
「えっ!? わたしが先頭じゃないのですか!?」
「先頭に立たせたほうが、鋭い五感を活かせるんじゃないかと思って」
「俺が先頭? マジ? まあ、やってみるけどさ……ぜってえ死ぬわ」
背負った安物クロスボウを握りしめて、ブレーザーが地下迷宮に足を踏み入れた。
……その瞬間、彼が後ろに飛び退る。
横から飛び出してきた矢が壁に突き刺さった。
罠があるタイプの地下迷宮か。そうだろうと思った。
「……あっぶね。そこの床スイッチになってるわ。気をつけろよー」
少しだけ飛び出した床を、慎重にまたいで進む。
リルが〈光石〉を取り出して前方に投げた。長い下り坂だ。
「おおおっ! 罠の張り巡らされた地下迷宮で、一直線の下り坂!」
なぜかマイザが嬉しそうだ。
「あたし、これ小説で読んだことあるぜ!」
「いやいや、まさか……」
……どすん、と後ろ側から音がした。
大岩が落ちてきて、今まさに転がり始めたところだ。
やばい。とにかく、逃げるしか……?
「ふんっ!」
フージェンが岩に体当たりした。いや無理でしょ。
「わたしも手伝うのです! たあっ!」
脳筋二人が大岩に襲いかかる。
……止まってしまった……。
「ガッハッハ! 逃げるまでもねえ! 後ろは止めとくから、じっくり進めよ!」
というわけで、僕らは下り坂をじっくり進んでいった。
ブレーザーと僕が罠を見つけ、機械や仕掛けに詳しいマイザが解除を担当する。
地道な作業だ。
「もっとさ……大岩に追われて逃げるようなさ……そういうのだろっ……!」
石畳を剥がして裏側をいじくりながら、マイザが叫んだ。
「ロマンあふれる地下冒険譚が始まるべきだろっ……! なあクオウ……!」
悪いけど、僕に同意もロマンも求めないでほしい。




