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熱砂の活劇〈7〉


 直視できないほどギラギラと輝く太陽が、雲ひとつない空にぽつんと浮かぶ。

 見渡す限りの砂丘と青空。どっちが奥なのかも分からずに、僕は途方に暮れた。

 さて、どちらに行ったものやら。


「おい、コンパスが狂ってるじゃねえか! どうなってんだ!?」


 マイザの手にしたコンパスの針がぐるぐると回っている。

 方角の目安すら無いらしい。


「迷宮の中で磁界に頼ろうとするのが間違いなんだよ。魔法を使わないと」


 フェイナが巻物を掲げた。


「よし測れた。空間魔力濃度127.6」

「魔力濃度? そんなもの測ってどうするのですか?」

「迷宮って、奥ほど魔力が濃くなるでしょ? 魔力濃度が濃くなれば奥が近いのだ!」

「じゃ、移動しながら点々と魔力濃度を測っていこうか」


 どっちが奥だか分からない広大な迷宮では一般的な探索方法だ。

 普通、こういう測定のためには高価な機材が必要になる。

 巻物一枚で測れるのは、フェイナの技術のたまものなんだろう。


 砂漠をさまよい歩きながら、魔力を測って白紙の地図にプロットする。

 迷宮探索ってより、地図でも作ってるみたいな地道な作業だ。


「むうー……むむむー……」


 フェイナが地図に記したデータを見つめて唸っている。

 魔力濃度にたいして差が現れないせいで、どっちに進めばいいか分からないらしい。

 砂漠の太陽に肌をじりじり焼かれ、少しづつ体力が失われていく。


「ま、フェイナがこれだけ苦労するんなら、他のやつらも苦労してるっしょ!」


 ブレーザーが明るく言った。


「俺たちがボスに一番乗りだったりしてな! あるぜあるぜー!」

「いやー……転移門の前にいた連中、見たろ? でかい乗り物にたっけえカネかけた機材でも積んで走り回ってりゃ、あたしらより絶対計測が速えだろうよ」

「まあまあマイザっち、まだ分からんって! 希望を持とうぜ!」

「マイザっちって何だよ!?」

「ブレーザーっちの言う通りだね! あるぞあるぞー!」


 巻物を掲げたフェイナが、無駄に元気よく隣の砂丘を駆け上がった。


「うげっ! なんかいる!」


 登りきったところで彼女が引き返す。走ろうとして斜面に足を取られた。

 ああああ……と情けなく叫びながら砂丘を転げ落ちていく。

 

「……戦闘準備を! ブレーザーとマイザは後ろに!」


 砂丘の中腹から、青空と砂の境を見つめる。

 緑色の鱗で覆われた二足歩行する魔物が、一気呵成に砂丘を駆け降りてくる。

 〈リザードマン〉だ。現実世界でも沼地なんかによく生息している。

 平均的な知能はけっこう高く、人間並の文明を持つ部族もあるとか。


「あれは……竜人ですか!?」

「リザードマンだよ! リル、人間を相手にするつもりでかかれ!」

「はい!」

「グアアアイッ!」


 先頭のリザードマンが剣を掲げ、叫んで指示を出した。

 三グループにパッと分かれ、挟み込むように動いてくる。


「……そいつだなっ!」


 後方から雷鳴のような銃声が響く。

 指示を出したリザードマンの頭部が吹っ飛んだ。

 い、一発目で走ってる相手の頭に直撃させた!?


「や、やるねマイザ! ナイス狙撃!」


 続いて、ひゅう、とクロスボウの矢が飛んでいく。

 そのまま砂丘の向こう側に消えた。この外し方、ブレーザーだな。


「左にいきます! クオウさんは右を!」

「それでいこう!」


 あえて正面を無視して、回り込もうとしているほうへ向かう。

 距離を詰めて、僕はアイテムボックスを開いた。

 その内側にはまるで銃のような金属のバレルが四本ある。

 その一つに固定された無銘の剣を掴み、右手の指輪へ魔力を流す。

 ドンッと打ち出された圧縮空気の反動が、以前よりも遥かに強い。

 居合の速度が増している。僕の攻撃とは思えない、人外の域に入った高速斬撃。


「よっ!」

「グアアッ!?」


 鋭い剣先がリザードマンの肉体を両断する。

 剣を振り切った先へ〈アイテムボックス〉を開く。

 剣を投げ捨て〈マギ・インバーター〉へ持ち変える。

 ラックが専用設計になっているおかげで、その動作がはるかに楽だ。

 まったく隙のない持ち替えを経て、超高速での二撃目を放つ。

 二匹目もまた僕の剣に倒れた。

 これならフェイナのポーションでバフをかけるまでもない。


「はあっ!」


 三匹。四。五。

 回り込もうとしたグループを瞬く間に全滅させ正面へ。

 六、七。八匹目がようやく僕の居合に反応し、剣を受け止める。

 つばぜり合いの形だ。ものすごい力で押し込まれた。

 ステータスで負けている。構わない、今ならそれでも戦える。

 僕は剣から手を離し、バランスを崩した敵を居合で斬り裂いた。


「よし!」


 残りは三匹だけだ。切り捨ててリルの援護へ。

 四匹に囲まれ、後ずさりながら耐えている彼女の元へ突撃する。

 走りながら居合での一閃。その一撃で、まとめて二匹を切り倒せた。


「……助かったのです!」


 反撃に出たリルが、正面のリザードマンを仕留める。

 そこで再び銃声がして、最後の一匹をマイザが吹っ飛ばした。

 ……まだ三十秒も経っていない。ブレーザー比で二倍速以上の再装填だ。やるな。


「ブレーザー、周辺の状況は!?」

「え? ……あ、ああ! 何も聞こえない! 安全だ!」


 クロスボウの再装填に手間取っていた彼が、耳を澄まして答える。


「あ、あれ? もう終わったのですか?」


 リルが砂丘を転がっていく魔石を見ながら困惑している。


「……クオウさん、何匹やりました?」

「十匹」

「え、ええ?」

「どうだ、クオウ! あたしの設計した居合の鞘は!?」

「最高だよ! 僕の居合が段違いに強くなってる!」


 マイザの言っていたとおりだ。

 剣を入れている部分を銃のバレルじみた設計にすることで、〈風撃の指輪〉で打ち出す圧縮空気が桁違いの反動を生み出すようになっている。


 しかも、剣を収納するラックとしての使いやすさも段違いだ。

 銃身のような細かい筒が四本並んでいて、そのどれかに剣を放り込んでやると、自動的にカチッと内部機構が働いて固定してくれる。

 ロックを外すのも簡単だ。押し込むかひねるかすれば一瞬で固定が外れる。

 しかも、〈風撃の指輪〉で空気を打ち出すとその力で自動的に固定が外れるようになっていて、反動加速居合のときはロックを解除する必要すらない。

 〈アイテムボックス〉の中に収納棚を入れる〈ポーター〉は多いけれど、ここまで凝ったガジェットを仕込む人間はそうそういないんじゃないか?


「おうよ、そうだろ! 使いこなしてくれてありがとよ!」


 マイザは下に転がっていった魔石を拾い、僕のほうに投げてきた。

 この前の〈ドロイノシシ〉と比べて遜色ない魔力だ。

 〈アイテムボックス〉内の収納棚へ繋がるよう開き、中に放り込む。


「やるじゃんかクオウちゃん! 完全にエースの戦いぶりだったぜ! リルちゃんもきっちり盾役の仕事をこなして、マイザは頭をぶち抜いて! 相当いいんじゃねえの!?」


 あとはお前の攻撃が当たるようになればさ……とは思うものの、口には出さない。

 情報は重要だ。ブレーザーは索敵だけで十二分以上に役立っている。


「いいねいいねー! いい感じだね、どんどんいこー!」

「いやサイコーだったよお前らほんと、この調子なら敵なしっしょ!」


 なんだか、この騒がしさも心地よく感じられるようになってきた。

 交戦を終えて、再び地道な魔力の測定へ移る。


 アイテムボックス内に蓄えてある水がどんどん減っていく。

 ときおり遠方で砂煙が巻き上がり、遅れて爆音が聞こえてくる。

 どこも交戦の規模が派手だ。


「……おい! 見ろ!」


 砂丘の上から、ブレーザーが近くの一点を指差した。

 栓を抜いた風呂場みたいに砂が地下へと吸い込まれている。


「流沙だ! あれ、ボスに繋がる道だったりしねえ!?」

「ちょーっと待ってね……ああっ! 測定地点が低いほど魔力が増えてるかも!」


 地図に記したデータから、フェイナが答えを導いた。


「下だ! 砂漠をいくら進んでもボスはいない、地下が目的地だね!」


 フェイナが一人でずいずいと流沙を目指して下っていく。


「ん?」


 ブレーザーが呟く。その瞬間、フェイナの後ろにほんのわずかな砂埃が立った。

 砂丘に小さな金属針が突き立っている。

 ……心臓を撃ち抜かれたフェイナが光と化し、装備を残して迷宮内から消失した。


狙撃手(スナイパー)だ!」


 僕らは慌てて砂丘の手前側に戻った。


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