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熱砂の活劇〈5〉


 翌日。

 マイザに起こされて、僕は痛む体を何とか起こした。

 一日中ずっと迷宮に潜るのは、やっぱり少し体力的に無理があったらしい。

 もっと〈ステータス〉が高ければ、無理も効くんだろうけど……。


「他のみんなは?」

「昨日の迷宮へ通じる転移門が夜に開くから、それまで自由行動だとよ」


 リルとフェイナはどっか行ったし、ブレーザーは仕事だぜ、と彼女は続ける。


「そっか」


 今日も同じ迷宮への転移門が開くってことは、まだ攻略されていないらしい。

 つまり、今日も有毒〈ドロイノシシ〉をまとめて燃やす稼ぎ方ができる。

 誰かに攻略されない限り、明日も明後日も同じことができるかもしれない。

 既に対策が分かっているだけに、リスクは低くリターンは大きい金策だ。


「〈ファーミング〉できる迷宮引いたからって、浮かれすぎてなきゃいいがな」

「……普段から頭フワフワしてるやつもいるしね。心配だ」


 迷宮をキープして魔物を狩るやり方は、一般的に〈ファーミング〉と呼ばれる。

 同じ場所で作業を繰り返す様が農業に似ているからだ。

 問題は二つ。一つはもちろん、誰かに攻略されるとそこで終わること。

 もう一つは、狩りすぎると迷宮の魔力不足で魔物が出てこなくなることだ。

 実際、そこまで狩りきるのは難しい。


「あ、そうそう。〈ブラックマッチ〉の修復はどうなってる?」

「修復自体は一日で出来るがよ、せっかくだから改造できないか試してるんだが……」


 マイザが後頭部をぽりぽり掻いた。


「少しでもいじると、爆発すらしなくなる。フェイナに中の回路を見てもらったんだが、あいつもまったく分からんってよ。結局、衝撃で起爆する危ない剣のままになっちまう」

「なるほど。〈風撃の指輪〉が使えないのは困るな」

「そこでなんだが」


 彼女はリビングへ歩きながら設計図を懐から取り出し、机に広げる。

 描かれているものは、今〈アイテムボックス〉の中に入れている木棚とだいぶ違う。


「お前が〈アイテムボックス〉の中に入れてる収納棚を改良して、中に〈ブラックマッチ〉専用の収容スペースを作っちまえばいいんじゃねえか?」

「……!」


 この設計図だと、剣のラック部分とポーション瓶の棚が完全に分離されている。

 剣のラック部分は、まるで大砲の中に細かい銃身が四本並んだような作りだ。

 加えて、その両方から隔離された〈ブラックマッチ〉用のスペースがあった。


「専用の鞘に加えて、この囲ってる部分をだな、魔力を遮断する材料で……」


 彼女は早口で語りはじめた。

 要するに、いくら反動加速居合を使っても衝撃が伝わらないような作りらしい。


「加えて! お前の使ってる居合の威力もいくらか上がるはずだ」

「それはどういう原理なの?」

「例えばよ……ただ火薬に点火しても激しく燃えるだけで終わるが、銃の中に密閉して火をつけりゃ爆発で弾が吹っ飛んでくだろ? 同じことだぜ」


 マイザが自身ありげな顔になった。


「居合のための鞘を……”銃身”を作ってやるのさ。銃を作るのは慣れっこだしよ」


 彼女の視線が、壁にかかった大きな銃へ向かう。

 昨日ブレーザーが使っていた前装式のロングライフルだ。


「どうだ? ワクワクしてこねえか?」

「……ああ。強くなれるんなら、何だって大歓迎だよ」

「よし! そうと決まりゃ、早速作業だ。まず棚を取り出さないとな」

「任せて」


 僕は右手を突き出して、〈アイテムボックス〉を開く。

 いつもと同じ円形の裂け目が現れた。

 そこから更に、集中を切らさず魔力を注いでいく。

 空間の裂け目が徐々に大きくなっていった。

 そして、四角形をした不可視の型枠に沿って変形していく。


「お、お前……こういうの、数時間かけてやる作業だって聞いたんだが」

「僕の〈アイテムボックス〉は小さいから。それに制御は得意だし」

「そ、そうか? にしたって……凄いんじゃねえのか?」


 〈アイテムボックス〉の限界まで裂け目が広がった。

 中の空間にぴったり嵌っている木の棚を、マイザが引っ張り出す。

 彼女は各所をてきぱきと計測した。


「よし。聞いてた通りの寸法か。材料は十分にあるな」


 倉庫から鍛冶場へと、彼女が鉄板やら何やらの材料を運ぶ。


「暇なら見てくか?」

「せっかくだから、そうしようかな」


 マイザはまず、鍛冶場の隅にあるレバーを動かした。

 水車と繋がっている太いシャフトが、部屋に並んだ大きな機械の一つに繋がる。

 とうてい人力では動かせない巨大ハンマーがゆっくりと持ち上がった。


「あれは……魔剣鍛冶って、ああいう機械を使うものなの?」

「魔剣には使わねえって。大雑把な加工用だよ」


 彼女は既に火の入った炉へと鉄板を放り込んだ。

 ハンマーの動作を見届けてレバーを戻し、また別のレバーを入れる。

 大型のギロチンじみた機械が、宝石のような刃をゆっくり上下させた。


「こっちは切断用だぜ。この刃には特殊なコーティングが……」


 彼女は例によって早口で、無駄に詳細な情報を語った。

 少年みたいにキラキラした瞳だ。

 内容は良く分からないけれど、彼女は楽しそうだからまあいいか。


「っと、そろそろ熱が入ったな」


 それから手袋を着けて、赤熱する鉄板を左手で掴む。


「その手袋、ボスドロップ?」

「そりゃな」


 性能だけで、迷宮内から産出された品だと分かる。

 めちゃくちゃな遮熱性能の手袋だ。


「ちょっと離れとけよ」


 赤熱する鉄板がギロチンで切断された。

 それから巨大なハンマーで打たれ、みるみる曲がっていく。

 あっという間に棚の角にあたる部品が作られた。

 出来上がったそばから左手で放り投げ、次に移る。


「ほんとに左手しか使わないんだね」

「当然だろ? 掴むことも出来ない手に出番はねえよ」


 生まれついて障害のある右手はポケットに入ったままだ。


「……知ってるか? 鍛冶の仕事ってのは基本的に二人一組なんだ。魔剣を打つときも、師匠と一番弟子の二人で打つのが普通なんだぜ。鍛冶のプロセスは四本の手がある前提でな」


 滑らかに部品を量産しながら、彼女が語る。


「魔剣鍛冶の見習いがやる修行も、四本の手がある前提なんだよ。あたしと組んだやつは皆困ってたぜ。どいつもこいつも、組みたくねえ組みたくねえってピーピーうるせえことうるせえこと」


 出来上がった部品が、また放り投げられた。


「ま、昔っからあたしはプロセスを機械で補助する派だったから、普通の修行とは全然やり方が違うんで、分からなくもないけどよ」


 一通りの部品を作り終えて、彼女はレバーでハンマーを止めた。


「あいつの打ち方は邪道だ失格だって騒ぐ連中の中に、あたしより上手く剣を打てるやつは一人も居なかったがな」

「だろうね」

「そうとも。言っとくがな、あたしはそこらの強豪クランお抱えの専属鍛冶師なんぞより数段上だぜ。それでも、まだまだ……だが」


 彼女は部品を合わせ、寸法を計ってうなずいた。


「カエイを倒す程度で満足するんじゃねえぞ、クオウ。さっさとクラン作ってAランクにでもなってくれよ。そうすりゃ、あたしも堂々と魔剣鍛冶を名乗れる」

「……そうだね。モグりの違法な魔剣鍛冶だろうと、Aランクのクランの庇護下にいるなら誰も文句は言えないだろうし」


 いつの時代のどんな場所でも、力は道理を捻じ曲げる。

 迷宮都市なら尚更だ。


「……よし。とりあえず組み立ててみるか」


 マイザが壁から鉄の仮面を掴み、また別のレバーを動かした。

 縦長の機械に繋がったホースの先から、直視できないほどの光が出る。


「うわ」

「っと悪い。そこに鉄の面があるだろ? 着けてくれ」


 言われた通り、重い面を着ける。


「これはな、原理的には〈火石〉に近い機械で、水晶レンズを……」

「用途は?」

「溶接。ああ溶接ってのはな、昔から発想はあったんだが手段が……」


 説明しながら、部品と部品をくっつけていく。

 ……彼女の説明が終わるよりも先に、金属製の棚の方が出来上がった。


「ふう。あらかた出来たな。細かい仕上げをやってから、剣を入れるラック……居合の”銃身”になる部分に取り掛かるぞ。製法として考えてるのは、小型砲サイズの心棒(マンドレル)に熱した鉄を……」


 説明が終わったと思ったら、次の説明が始まった。

 僕に聞かせるっていうか、単に自分が話したいことを話してるだけだ。

 完全に、一方的にまくしたてるオタクそのもの。嫌いじゃない。


「なあ、どうだ? なかなかすごいもんだろ? この工房、かなり安く上げてるけどよ、ケセルヴィア帝国あたりの蒸気機関とか作ってる最新の工場にも全然負けてねえ」


 鍛冶に打ち込む彼女の横顔は、この上なく楽しげだ。


「……お前のおかげだ」


 ふいに手を止めて、マイザが僕に言った。


「お前のおかげで、あたしはまた夢を追えてる。ありがとうよ」

「ああ、うん……だいぶ損得勘定で助けたのに、そういうこと言われると少し照れくさいね」

「知ってるよ、そんなこたあ。構わねえさ。これからも、互いに得しようぜ」


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