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熱砂の活劇〈1〉


 僕とリルの二人は、既に並の冒険者へ遅れをとるレベルではない。

 打ち上がった花火のごとく冒険者としての階段を登っている。

 ……とはいえ。


 実際、どのぐらい強くなったのか?

 強くなったことを頭では知っていても、体では実感できていない。

 今の僕たちがどのぐらい危険な迷宮まで潜れるのかも不明だ。


 そういうわけで、僕らは危険度F・宝のレアリティFの迷宮を選んだ。

 パーティの活動資金がマイナス百五十万だけに、確実性を優先した形になる。


「ダーリンがんばえ~」

「いやあ、やっぱ迷宮内で密着取材するのが醍醐味だよな!」


 ……あと、非戦闘要員が二人くっついてきたのも理由の一つだけど。


「せっかくなら、五人で一緒に迷宮へ行けたらいいのですけど」

「マイザはたくさん仕事を抱えてるからねえ」


 〈ブラックマッチ〉は爆発でボロボロになりすぎて修繕がすごく難航している。

 それと、〈原初の魔剣〉は製法が製法だけに長い準備が必要だ。

 最近はフェイナと協力して、”どのみち動かない”マイザの右手へびっしり回路を刻み込んでいるところらしい。並行して義手の試作もやってるんだとか。


「さて、まあ、地下に降りる階段を探せばいいのかな」


 今回の迷宮は地下迷宮タイプだ。

 人工的な石壁に松明が並んだ、いかにも迷宮じみた雰囲気をしている。

 視界が効かないし通路は入り組んでいる。進むべき方向は分かりにくい。


「右手法でいいよね?」

「はい?」

「片方の壁を伝って進むやつ」

「お任せするのです」

「じゃ俺はマッピングしとくわ」

「みんながんばえ~」


 フェイナがどこからか取り出した小旗を振っている。

 ……ピクニックじゃないんだから……。


 僕らは転移した地点を出発し、右側の壁を伝って地道に進んだ。

 出会ったデカいコウモリやらデカいネズミやらゴブリンやらを蹴散らしていく。


「しっ。皆、止まったほうがいいわ」


 ブレーザーか指示を出してから数秒後、足音が聞こえてきた。

 会話らしき音も混ざっている。冒険者パーティだ。


「四……いや、五人ぐらいっしょ」

「分かるの?」


 目だけじゃなくて、耳も良いんだな。

 松明の光があまり届かない場所に隠れ、待つ。

 がやがや喋りながら進んでいる冒険者パーティが松明に照らされた。

 五人。全員が明らかに十代の若さで、練度も低そうだ。装備だけは悪くない。


「そこのパーティ。降伏するか殺されるか、どっちがいいか選べ」


 松明の光が当たるところまで歩み出て、僕は言った。


「ああー? 二人じゃん。負けねーっしょこんなん!」

「いけるいける! 最近うちらめっちゃ強いから!」

「逆にそっちが降伏しろよ!」


 相手にならないな。


「リル。せっかくだし稼ぐとしよう」

「……はい。これが迷宮ですから……恨み言はなしなのですよ!」


 リルは突進して、相手パーティの前衛に盾で殴り掛かる。

 一瞬で押し勝ち、向こうの前衛が背中からひっくり返った。


「はあっ!?」


 驚いている彼らを、リルが盾で容赦なく殴って地面に転がしていく。

 これなら、僕が居合で斬りかかる必要すらなさそうだ。


「もう一度言う! 降伏しろ!」


 ……というわけで、十五万イェンばかりカツアゲすることに成功した。

 これが迷宮稼業だ。ハマれば一瞬で楽にカネが手に入る。

 これに味を占めて遊び始めて痛い目を見るのが定番パターンだ。


「子供を殴ってカネ巻き上げるなんてえげつないなあー」

「あいつら、わたしより年上なのですけど」

「言われてみたらその通りじゃんね。五人でリルをボコってカネ巻き上げようとするなんてやること汚いぞー、それで負けてんのださいぞー。やーい」


 意気消沈したパーティが死体蹴りされて「うっ」とうなだれている。


「何もしてないのに煽るだけ煽るのですね……」

「ふっ……あたしは人呼んで煽り全一のフェイナ……これがあたしの戦闘STYLE……」

「はい。そうですね。行きましょう」

「ちめたい」


 それからも、迷宮探索は順調そのものだった。

 下り階段で待ち伏せていた冒険者パーティを一瞬で返り討ちにして更に十万イェンをせしめ、ちょっとバフで光ったり牙が生えたり微妙に強くなっていく魔物をさくさく倒す。

 弱いだけに魔石は安いけれど、戦闘を避ける必要がないので稼ぎが積み上がる。

 しかもポーションを使わず勝てるので費用が少なく済む。

 潜ってから一時間少々しか経っていないのに、既に二十万イェン近い黒字だ。


 そして、気づけばボス部屋らしき広い場所に出た。

 最深部には人工的な作りの石で出来たゴーレムが眠っている。


「楽勝すぎて取材にならねーけど、ボス戦なら書けるネタが生まれる可能性も……!」

「面白い戦いになるといいねえー」

「いくらなんでも後ろのやつらがお気楽すぎるんだけど」

「ブレーザーさんはともかく……フェイナは何しに来たのですか?」


 フェイナはちゃんと僕らの魔力の状態をモニタリングしてる。

 多分、これを参考に基礎トレーニングのメニューを組んでくれるはずだ。


「遊びに」

「聞いたわたしがバカだった……!」


 言いながら、リルが盾を構えて突っ込んでいく。

 ゴーレムの目に赤く光が灯った。ごごご、と石をこすりながら立ち上がる。

 ……動き出す前に、勢いをつけたリルの全力シールドバッシュがゴーレムに直撃した。


 ゴーレムは思いっきり後頭部を打ちつける。

 そこに僕が追撃を一撃。

 ……ボスが光になって、魔石を残して消えた。

 バリン、とガラスの割れるような音がする。


「終わってしまった……」


 ボスが倒されたときの音は迷宮全体に響く。

 きっと今、攻略途中だった冒険者が一斉に〈リターン〉で帰りはじめているはずだ。


「ま、また死闘になるかとうすうす身構えていたのですが……!」


 この迷宮は危険度F。

 例の〈テンタクルプラント〉と戦った時の迷宮も、危険度F。

 ……同じ危険度ランクでもブレがあるとはいえ。

 これは……おそらく。


「今もう一度〈テンタクルプラント〉と戦ったら、楽勝なんだろうな……」


 今なら、リルは触手の攻撃を受けてもビクともしないだろう。

 僕の方も触手攻撃を見てからの居合で全部切断してしまえば終わりだ。

 だいぶ苦戦した相手だったのにな……。


「さて、ボスドロップは?」


 白いオーブに手を突っ込む。

 中からは……まるで牛柄の、白黒まだら模様の短剣が一本。

 鞘から短剣を抜いてみたら、剣身も牛柄だった。


「ちょっとかわいいのです。貸してください」


 かわいいか……?


「投げるには……あまり向いてないですけど、投げれなくもないのです」


 リルが手中でくいくいと重心を確かめて、言った。


「じゃ、使う?」

「いえ……」


 柄が珍しいだけの短剣だ。持っていてもしょうがない。

 売っても安値だろうが、まあ、こんなこともある。

 低ランクの迷宮なんだし、高値で売れる物が出るとは限らない。


「よし。昼飯を食べたら、危険度Eの迷宮に潜ろう」


 今回でよく分かった。僕らはもう、危険度Fに潜るレベルじゃない。

 初心者はとっくに卒業している。


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