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飛躍の時〈17〉


 ソブランたちが〈サイクロプス〉と交戦して数十分。

 纏う鎧に傷が増えた程度の〈サイクロプス〉に比べ、ソブランたちのダメージは深い。

 至るところに手傷を負い、遠くからでも見えるほど血に塗れている。

 しかしまだ致命傷は受けていない。

 攻撃を仕掛けず休んでいる場面が増えてきたが、まだ体力に余裕はありそうだ。


 ゴブリンロードには、とっくの昔に矢が突き刺さって倒れている。

 けれど何も起きる様子がないし、ゴブリンの部隊は何だかんだでまだ動いている。

 動きは悪いが、隊長格のゴブリンが戦列をまだ維持しているみたいだ。

 ……ロードが倒れて何も起きないなら、この迷宮のボスは〈サイクロプス〉で間違いなし、か。


「もう……もう待てないのです! 助けに行きましょう!」

「まだだ。もう少しだけ」


 僕は集中力を研ぎ澄まして、徹底的に〈サイクロプス〉の動きを観察していた。

 行動は単純だ。距離が離れたら剣で薙ぎ、近づいたら足で攻撃する。

 今もまた、気合の叫び声を上げながらサイクロプスが剣を薙いだ。

 ……わずかに逃げ遅れたソブランが真上に飛ぶ。

 その身体が、まるで何かを撃ち出したかのような反動を受け、ちょっとだけ上に浮かび上がった。何かの技能(スキル)か……?


 何にしても、あのサイクロプスはかなりシンプルな戦い方をするな。

 僕の装備をフルに使えば勝ちの目はある。

 しかしチャンスは一回きりだ。なるべく成功確率を100%に近づけたい。


 頭に叩き込んだ巨人のパターンを頭の中で高速再生し、起きうる展開の枝を探索する。

 どの枝を辿っても、最後の一手が足りない。

 ああいう巨人は決まって桁外れの生命力を備えている。

 たとえ心臓に穴を開け、体内の魔力が集まる魔石を壊したとしてもまだ戦えるぐらいの化け物だろう。下手に怒らせて、町に突進でもされたら大事になる。

 それを仕留めきるためのあとひと押し……。


「あのー! ヘンな薬出来たよーっ!」

「ちょっと待って」


 下からフェイナが呼びかけてくる。

 言い方からするとゴミが出来たようだ。

 ……ポーション混ぜるような作り方じゃ、何の不思議もないな。


「もう少しで終わるから」


 一撃必殺の攻撃を紙一重でかわしながら、ちくちくと効かない攻撃を繰り返すソブランたち三人。

 彼らはついに決断して、巨人に背を向けた。

 行く手を阻むはずのゴブリンたちは震え上がっている。

 逃げる三人はそこまで抵抗を受けず、あっさりと包囲網を割った。

 後ろからゴブリンの射かけた矢が飛んでくる。

 振り返ったソブランが指をそちらに向けると、何故か矢の弾道が変わった。

 あれは……〈風撃の指輪〉。僕の知ってるマジックアイテムだ!

 使い勝手のいい風を打ち出す指輪で、けっこう使ったこともある。


「あれだけ戦って、ソブランさんたちはまだ逃げれるのですか!?」

「余力を残した戦い方だったよ。逃げ道は残してた。……じゃなきゃ流石にさ、助けに行くに決まってるでしょ? 僕はそこまで冷血じゃない」

「……まったく気付かなかったのです……」


 あのパーティはかなり堅実で現実的な戦い方をする。

 ソブランと話した時からそうだろうとは思っていた。


「リル。ソブランたちが何をやっていたと思う?」

「え? た、戦ってたのですよね?」

「僕たちに敵を見せてたんだ。討伐は任せるぞ、ってわけ」


 見るものは見た。ソブランたちは強いが、あれは普通のパーティだ。

 僕たちは弱いけれど、まったく”普通”じゃない。

 まだまだ可能性がある。こんなところで立ち止まる気はない。


「さて、出来たポーションは?」


 屋根から飛び降りて、フェイナの隣に行く。

 フェイナがポーションの瓶を誇らしげに掲げた。

 どろどろとした黒い液体が詰まっている。


「全種類のバフとデバフが同時に掛かる魔法薬だよ! すごくない!?」

「それ全部打ち消し合って効果ゼロじゃないか!?」


 いや凄いよ。凄いけどさ。普通そんなん作れないけどさ!


「……きっとダーリンなら活用できるって信じてるから!」

「そのダーリン呼び続ける気!? いや無理だよ、使えな……」


 あ。使える。欠けていた”最後の一押し”になるかもしれない。

 全部のポーションを混ぜて濃縮したからか、濃密な魔力の気配を感じる。


「……ああ、活用してみるよ! ありがとう!」


 謎ポーションを受け取り、僕は町の出口へと駆け出した。


「あ、あと医療用の薬をいろいろと! 回復薬とか!」

「それは帰ってきた冒険者たちに使ってやれ!」


 こっちに投げてこようとしたフェイナを制止する。

 回復薬はもうあるし、いまもっとも治療が必要なのはソブランたちだ。

 僕よりフェイナの方が適切な処置が出来るだろう。

 ……アレでも。多分。


「きーっ! な、何をしているのだ!? あと少しで倒せるところではないか、なぜ逃げ帰ってくるのだ! 給料泥棒め!」


 町の出口で、単眼鏡を覗いた町長がわめいている。

 その隣にブレーザーが居て、メモを取っていた。

 ……存在感ないなーと思ってたら、そんなとこに居たか。


「ちゃんと記録したまえよ! やつらの怠慢の証拠だ!」

「うっす! ばっちり全部書き留めてますよ!」


 僕に気付いて、ニヤリとブレーザーが笑った。

 さっきあんたも喧嘩してたろうに、もう町長に取り入ったのか。

 これだから記者ってやつらは信用できないんだよな……。


「終わったら全部記事にしますんで! いやあ、こんな記事が出たら町長さんに注目が集まること間違いなしっすね! 楽しみっす!」


 ニヤニヤしながら僕へ目配せしてくる。肩をすくめて返事した。


「そうか! そうだろう! わっはは! チミは話がわかるねえ……む!」


 町長が僕とリルに気付いた。


「雑魚諸君、おとなしくしてくれていたようで何より!」


 僕たちは無視して町の出口へ歩いていった。

 門の向こう側に、〈ゴブリンロード〉の指揮下で陣営を整えているゴブリンの軍勢が見えた。

 その中央に〈サイクロプス〉が立っている。

 本陣に隠していた切り札だったのだろうけど、もう存在はバレている。

 向こうからしてみれば、今が切り札の使いどころだ。

 ゴブリンロードが死んで、持久戦をするほどの統制も残っていないだろう。


「こら! チミたちねえ、どこへ向かう気だね! まさか逃げるのか!?」

「そんなわけないでしょう」


 町長の手下たちが行く手を塞いだ。


「やつを倒してくるんですよ」

「後はわたしたちに任せるのです! みなさんは無理をせず、自分の命を守ることを考えてほしいのです!」

「何を馬鹿な! 勝手な行動をするな! おい! お前らみたいな雑魚が行ったって瞬殺だろう!」


 やめとけよ、と町人たちから声が上がった。


「他の冒険者が戦ってる最中だったのに、そいつら何もしてなかったじゃん!」

「この町を助けに転移してきたとかいうけどよ、そいつらが黒幕なんじゃねえの!?」

「あそこ宿屋のマスターもさ、クオウ・ノールといや有名なお荷物だから期待するな、って言ってたよな!? もう片方は子供だし!」

「そうそう、マスターから聞いたぜ! すげえ評判が悪いんだろ!?」


 野次が飛んでくる。


「ち、違います! クオウさんはすごい強いし、あなたたちを助けようと……」

「信じられるかよ! ガキは黙ってな!」


 リルが発言したことで、かえって野次の勢いが強くなる。

 ……弱そうに見える少女が相手なら勇気が出る、ってか。


「黙れ!」


 誰かが声を張り上げた。

 

「評判が悪いから何だってんだ! お前ら、ちゃんと自分の目で物事を見てみろ!」


 噂を広めた当人らしい若ハゲのマスターが叫ぶ。


「そいつらはな、自らボス討伐に名乗り出てたんだよ! それをな、そこの町長が無理やり止めたんだ! 自分の雇ってる奴らで解決して、自分の手柄にしたいからってな!」


 野次の風向きが少し変わった。


「本当かよ?」

「そこにいる町長の腰巾着どもに聞いてみろや! 銃まで向けて、無理やりそいつらをソブランたちから引き剥がしたのは本当かよ、ってな!」

「そんなことしたのかよ!?」

「いや、町長ならありうる!」


 敵意の矛先が徐々に町長へ向かい始める。

 ……元から嫌われていたんだろう。


「でも、無能なポーターなんだろ!?」

「俺がさっき話を聞いてた限りじゃ、有能そうに……」

「いい」


 僕はマスターの話を遮った。


「僕の評判が悪いのは、結局のところ結果を出してなかったからだ。僕が評判通りの男なのかどうか、これからの戦いを見て判断してくれればいい」


 そして、門を塞いでいる町長の手下たちへと向き直る。


「通してくれ」


 僕の背中から、町人たちの圧力が吹き付けているのを感じた。

 彼らが左右に退く。


「こ、こら! 通すな!」

「うるせえよバカ町長!」

「ななな、なんだねチミ! 失礼な!」

「わざわざ来た冒険者の助けを断るてめーの方が失礼だろ!」


 町人たちがヒートアップしている。


「クオウ、信じてるぞ! お前らなら絶対に勝てる! 勝って皆を救ってくれ!」


 ブレーザーの大声が揉め事の空気を塗りつぶした。


「……お、俺も信じる! さっきから自信満々な態度じゃないか! 雑魚だってんならもっとビビるだろ!」

「確かに! 自分から志願したってんなら、勝てると思ってるんだろ!?」

「だ、だよな!? いや実は俺も最初からアイツらはやると……」


 町の外を歩く僕らの背を、声援が後押しする。

 不思議だ。皆が僕を信じて送る声のおかげで、僕まで自分が信じられる。


「リル。戦闘が始まったら、君は僕の背中を守って欲しい。〈サイクロプス〉と戦ってる最中に背後へ気を割けるほど強くないから」

「そのつもりだったのです。任せてください」

「ああ。それと、町が襲われはじめても気にするな。そっちはソブランたちが何とかする」


 噂をすれば、そのソブランたちが目前にいた。

 全身に傷を追った痛々しい冒険者たちが四人。合流して帰ってくるところだ。

 町が近づいて歩調の緩んだ彼らの背後から、ゴブリンの一団が迫っている。


 腰に吊った鞘から、マイザの〈無銘剣〉を抜き放つ。

 まるで琴のように甲高く、魔法金属が震えて鳴った。歩調を強めて駆け出す。


「ソブラン、その指輪を!」


 僕は剣から片手を離し、彼に叫ぶ。

 ソブランが右手に嵌めた指輪を外し、僕に投げた。


「〈風撃の指輪〉だ、使え! 威力を弱めればあと数回分はある!」


 走りながら血に塗れた指輪を受け取り、左手に嵌める。

 これは指輪の形をしたマジックアイテムだ。

 圧縮された空気を前方に撃ち出す魔法が籠もっている。

 もう魔力が残り少ないが……フルパワーでも一回ぐらいは使えるか。


「……出来ることはした! 後は君たちに託す!」

「ああ。託された」


 横を通り過ぎて、ゴブリンの追手にまっすぐ切り込む。

 一撃で二匹のゴブリンが両断された。

 返す刀でさらに一つ、二つ、三つ。血しぶきすら置き去りにして前へ。

 最小限の力で振るった刃が、一瞬のうちに追手を全員切り倒した。


「やれる」


 自信が確信に変わった。この剣の出来は想像以上だ。

 ……これが失敗作だというんなら、成功した剣はどれほどのものなんだ?


「リル。背中は頼むよ」

「はい」


 地を埋め尽すゴブリンの軍勢へと、僕らは一直線に駆けた。

 その中央に立つ〈サイクロプス〉が、巨大な一つ目で僕をはっきりと睨んだ。

 睨み返してやる。負ける気がしない。勝ちを引き寄せる道筋は既に掴んでいる。

 僕は更に足へと力を込めて、全速力で突進した。


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