ポーターの可能性〈1〉
裸で放り出された後、僕はひとまず近くの宿に泊まろうとした。
が、話も聞いてもらえずに拒否された。
それどころか不審者扱いされた。
……確かに、どこからどう見ても不審者だけど。
そういうわけで僕は人通りの多い道から外れた。
こうなったら知り合いの誰かに助けてもらうしかない。
なるべく人目につかないよう移動して……。
「あ、あの。大丈夫なのですか?」
コソコソ隠れていたら、小さな少女にバレて声をかけられた。
状況がヤバすぎる。少女を前にほぼ全裸って。
子供の誘拐事件だって珍しくないのに。
もし傍から見てる冒険者がいたら、今すぐ僕を斬り伏せたって不思議じゃない。
「これが大丈夫に見える?」
寒さに体を震わせながら、僕は聞き返した。
「で、ですよね。よければ、これ……」
少女が外套を脱ぎ、僕に手渡した。
ああ、見ず知らずの全裸男を助けてくれる子がいるなんて。
心も体も暖かくなるな。
「ありがとう。その、別に変態とかじゃないんだ」
変態みたいな言い訳がとっさに口をついた。
「ただ、服も巻き上げられて追い出されてさ……」
「! かわいそうな人なのですね!」
「え?」
少女の瞳が妙に輝く。やや紫の入った特徴的な色だ。髪も同じように紫がかっている。
なんだか彼女のスイッチが入ったみたいで、急にいきいきとしはじめた。
変人だこいつ。
「このわたしが安全なところまで守ります! 心配しないでください!」
「う、うん? ありがとう」
少女は僕の手を引いて、大きな歩幅で街路を行く。
がちゃがちゃと装備のぶつかる音を聞いて、僕は彼女が武装していることに気づいた。
ほとんど全身を覆っている革鎧から、防御力重視なことが伺える。
素材は安物で、魔法的な強化もされていない。お手頃価格の初心者向け鎧だ。
なのに、腰のベルトに吊るした剣は奇妙な存在感を放っている。
「その剣……」
「わかりますか? これは魔剣なのです!」
彼女は誇らしげに柄を叩いた。
「君が? 魔剣を?」
外見からすると十五にもならないような、幼い少女だ。
身のこなしは悪くないけれど、そこまで強いようには見えない。
「この剣は……」
ざっと見たところ、さほど質は高くない。
代用素材で混ぜものをして作られたのか、不揃いな模様が剣身に浮かんでいる。
しかし、間違いなく魔剣は魔剣だ。
低品質とはいえ、効果次第で価格は数千万イェンしておかしくない……。
貴族の道楽娘がパパに魔剣でも買ってもらったのか?
「借りているのですよ! 一緒に迷宮へ行く冒険者のかたから!」
「借りてるだって?」
それは妙だ。
高価な魔剣となると、持って外を出歩くだけで襲われる危険もある。
それをこんな子供に? 実は強かったりするのか?
「うわっ」
彼女は地面の段差に躓いて、あやうく転びそうになった。
やっぱりド素人だ。
「っとと。着きましたよ! わたしを拾ってくれたクラン〈エイプリル〉のクランハウスなのです。クランといっても、二人だけなのですが」
裏通りの何の変哲もない民家を指して、少女は言った。
まあ、専用の設備を備えたクランハウスを使うのは高ランクの連中だけで、半端なクランなら民家をクランハウス扱いにするのも珍しくない。
エイプリルって名前に聞き覚えもないし、たぶん小規模かつ低ランクだろう。
……そんな連中がなぜ魔剣を。怪しい。
「ただいまなのですー!」
少女は民家のドアを開いた。
「困っていた人を連れてきたのですー! 構いませんよね?」
「えっ。ええーと、まあ、構わないわよ」
やや汚れた修道服を着た女性が言った。
この少女と会話してると、なんだか保護者みたいだ。
でも、なんだか……上辺の優しさの奥から、何か妙なものが滲んでいる気がする。
あまり良い印象を抱けない。
「リルちゃん、この……裸の男は……?」
「わかりません。何も聞かずに連れてきたので!」
「な、なんで?」
「困っている人が居たならば、何も聞かずに助けを差し伸べる! それが立派な戦士の道というものなのです!」
「う、うん……そうね……」
僕は居間に通されて、暖かなお茶と簡素なシャツとズボンをお出しされた。
この上なくありがたい。やっと人間の尊厳を取り戻した気分だ。
「いやあ、助かりました。必ず、見合ったお礼を返させて頂きます」
「うふふ、構わないのよ? 人を助けるのが、わたしの仕事だから」
彼女がちらりとリルを見た。
リルに魔剣を貸してるのも人助けの一環、ってことか?
だとするなら底抜けの善人だ。
「あなたは……」
「サリー。見ての通りシスター崩れよ。色々と事情があって、今では冒険者をやっているわ」
「なるほど。申し遅れましたが、僕はクオウ。ミ……じゃない、フリーのポーターです」
「あなた、ポーターだったのですか! ちょうどいいのです!」
机の横にちょこんと座ったリルが言う。
「丁度いい?」
「明日の夜、わたしたちは迷宮へ挑むのです。ポーターさんがいればありがたいのです」
「いやあ、居てもしょうがないわよ、リルちゃん。さほど深い迷宮でもないようだし、長い探索も予定していないもの」
「だとしても……迷宮の中で小腹が空いたりとかぁ……」
「しないわ」
「持ちきれないぐらい魔石やお宝がゴロゴロ出たりとかぁ……」
「ありうるわね」
それで説得されるんかい。
ずいぶん即物的な。
どういう理由でシスター崩れになったのか、なんとなく分かるような……。
「もしよければ、だけれど、明日の夜、わたしたちに同行してもらってもよろしいかしら? 転移費用は負担しますので」
「いえ、構いませんよ。自分の分は僕が払います」
「ほ、本当によろしいのかしら。そこまでして頂いて」
「いやあ、助けてもらわければまだ裸で外をうろつく羽目になってましたからね。それを思えば安いものですよ」
「そう言って頂けるなら……悪いけれど、お願いしようかしら」
明日の夜となると、新しい装備を揃える時間はなさそうだ。
本当は、攻撃用のアイテムを揃えて一人で戦闘できるか試したかったけど……。
まあ、馴染みのポーション屋に寄っておくだけでいいか。
助けてもらった恩返しだ。しっかり支援役をやるとしよう。
「あの、クオウさん! わたしが守りますから! 心配はいりませんよ!」
よく分からないけど、リルは他人を守るのが好きなんだろうか。
それでほぼ全身鎧で固めて盾役をやりたがってるわけだ。微笑ましいな。
「分かった。頼りにしてる」
「はい! 頼りにしてほしいのです!」




