その一撃に誇りを乗せて〈6〉
マイザが魔剣鍛冶の準備を始めたのはいいが、さすがに時間が掛かる。
終わるまでずっと時間を無駄にする気はない。
僕とリルは訓練と迷宮探索に明け暮れる日々を送った。
「リル、行くよ! 合わせてっ!」
「はいっ!」
リルが引きつけている魔物を、横から回って切り伏せる。
最低限の連携は取れるようになってきた。
駆け出し冒険者としては普通、ぐらいには強くなれたはずだ。
「まだ訓練を優先するのですか?」
「基礎を固めておいて損はないよ」
「むう……」
ちょっと強くなってきて、リルが浮足立っている。
彼女はいま素人を脱し始めている。いちばん調子に乗りやすいところだ。
自分では一端の強さまで登りつめた気になっていても、実際は公園の小山を登ったぐらいの立ち位置で、まともな使い手までの道のりはまだ遥かに遠い。
分かってないだろうけど。自分が弱いと気付くにも強さが必要だ。
その翌日。
「ありませんね! 訓練向きの迷宮!」
うきうきとした表情でリルが言った。
危険度E前後、かつ宝の価値が低く人が集まりにくい迷宮。
それが理想的な訓練場所だが、いつもあるとは限らない。
なにせ転移門を開くにもコストが掛かるわけで、迷宮ギルドとしては人の集まるような迷宮をスケジュールに記して大勢に転移してもらいたいのだ。
人の集まらない迷宮なんて、迷宮ギルドも転移先に選びたくないに決まっている。
そういう理由に加えて、どうやらひとつ転移門が故障しているらしい。
そのせいで価値の低い迷宮から弾かれたんだろう。
故障は珍しい話でもない。高度な技術の結晶だけに、どうしても不安定だ。
「どれも危険度が低め、しかも宝の価値が高め!」
「嬉しそうだね」
「はい! 訓練に向いた迷宮がないってことは、実戦するしかないのですよね!?」
「……うーん」
正直に言って、まだ僕たち二人の連携は完成していない。
相変わらずリルは生傷が絶えないし、僕の火力は不足している。
だが……。
「懐も厳しくなってきたし」
迷宮に潜るのもタダではない。
僕には初心者用の割引措置が効かないから、すごい速度で金が無くなっていく。
一週間の訓練費用で百万イェン以上が消えてなくなるぐらい。
鍛冶場と魔剣素材で合わせて一億と数千万の出費が見込まれるわけで、残金は数千万イェンほど。
十分な大金ではあるものの、無限に赤字を垂れ流せるほどの大金ではない。
「おう、お前ら! ちょうどいいところに!」
「あ、マイザさん! お久しぶりなのです!」
マイザが僕たちを呼び止めた。
どういうわけか、彼女もギルドの転移門スケジュール表を見に来ていたらしい。
「必要なものがあってよ」
スケジュール表の一角を彼女が指差す。
状態異常が豊富な森林世界、危険度F。宝はレアリティEのポーション系だけれど、そこに”推定ボス素材”が追記されている。
ラエドリル鉱石、とやらが入手できるようだ。
「場所を変えようか」
「え?」
よく分かっていないリルを連れて、ギルドの外に出る。
「ラエドリル鉱石って、ミスリル系の金属だったよね」
「よく知ってるな。ありゃあ、通常の鉄と魔法金属を織り込んで繋げる鍛接に必要な素材なんだ。細かいことは省くが、魔剣鍛冶以外の用途はほとんど無い」
「ってことは、魔剣鍛冶ギルドが流通を監視してるタイプの素材なのかな」
「まさに。だからよ、市場を通さずに入手できるんならそれが一番なのさ」
「……わたしたちがラエ何とかを拾っても売らなかったら、怪しまれたりはしないのですか?」
「そこは大丈夫だ。だろ、クオウ?」
「多分ね」
そうそう分かるもんでもないし、最悪ピルスキーに頼めば何とかなるだろう。
あいつ、ポーション屋を隠れ蓑に色々やってる気配があるし。
現物のロンダリングぐらいお手の物だろう。
「っていうかな。このへんの素材、昔のコネで入手できるだろうと思ってたんだが。一番アテにしてたやつが居なくなっちまってて、わりと怪しいんだ」
「……他の素材は大丈夫なわけ?」
「ミスリルにしろ炉にしろハンマーにしろ、用途は魔剣鍛冶だけじゃないからよ。他はごまかせる。だが、ラエドリル鉱石だけはな……」
「なるほど」
僕は軽くため息をついた。
どうやら、これは否が応でも実戦に出ざるをえないようだ。
「ここ行きの転移門が開くのは明日だったよね。それまでに準備しておこうか」
「ってことは! いよいよ訓練じゃなくて実戦なのですね、クオウさん!」
「そうだよ。あまりマイナーなドロップ品を連続で狙っていても怪しまれるし、失敗せず一発で確保したい。ちょっと骨が折れたぐらいじゃ撤退しないぐらいマジな実戦だね」
リルは興奮を抑えきれない様子で装備を確かめている。
気持ちは分からなくもない。
訓練のために迷宮へ潜るのと、稼ぐために迷宮へ潜るのでは大違いだ。
実質的にこれがリルの初陣になる。
「訓練通りにやればいいのですよね? わたしが盾になる形で」
「基本的には。必要なら僕が前に出るけどね」
さて、どうなるか……。
今までのところ、純粋な能力だけでいえば僕もリルも力不足だ。
けれど本気でドロップだけを狙いに行くなら搦め手が使える。
「とりあえず高ランクのポーションは必要だし、〈リターナー〉とか、煙幕に爆弾に罠に……強めの毒薬もあったほうがいいかな……」
「毒まで必要なのですか?」
「毒ぅ?」
二人が顔を顰めて、僕に聞き返す。
「常套手段だよ。先行して、休憩に便利な場所の水源に毒を入れておくとか。宝を獲得できるのは最初の一組だけなんだから、妨害にも全力を尽くさないと」
僕たちは手段を選べるほどの力を持っていない。
なら諦めるのか? 強くなるまで待つのか?
いいや。何が何でも汚い手を使ってでも今すぐ勝つんだ。
……それも含めて冒険者の強さなんだ。
フェアな戦いがしたいなら闘技場へでも行けばいい。
「リル。これは僕たちの金と未来を賭けた実戦だ。何をしてでも勝たなきゃいけない。その覚悟はいいかい」
彼女が固唾を飲んだ。
「……はい。綺麗事だけで済まないのはよく分かっているのです。……それでも、そんな手を使わずにクオウさんを守りきれるぐらい、わたしは強くなりたいのです……」
……僕だってそうだ。本当は無双の戦士になって正々堂々と切り倒したかったさ。
子供の時からずっとそうだったし、今もまだ諦めちゃいない。
「手段を選ばずに全力を尽くすのは、それはそれで尊いことだと思うんだ、僕は。少なくとも迷宮の中で完結していればね。迷惑が掛かるわけでもないんだから……」
誰に向けたわけでもない言い訳を呟いて、僕は準備のことへ頭を切り替える。
「おっかねえな、あんた。おっかねえ張り詰め方してるよ。あんたの妄執にあたしの
魔剣が関われるっていうのは、ある意味で鍛冶師の本懐かもな」




