~対決編~
翌日の事だった。前日の夜・長野の家から出火し出動したが、結局長野の遺体が見つかり火災調査官の調査で、事件性はなく、長野が誤ってガスを付けっぱなしで出勤し、そしてライターの火を付けながら帰宅し、爆発に巻き込まれたという事故で処理された。
自分も隊長室にいながら、その調査は妥当だと思っていた。一つでも疑われてしまっては、計画は水の泡になってしまう。そう思い、少しホッとしていた。
他のみんなは同僚が亡くなってしまったことに、ショックでいたが先ほど自分が慰めて、少し落ち着いてきたところだった。そのため、仕事を再開しようと思い、パソコンを打っていると、ドアをノックする音が聞こえて、返事をすると
「失礼します」
とドアを開けて、小柄でスーツを着た女性が入ってきた。
見覚えが無い女性だな、もしかしたらマスコミかなと思いながら
「あの。どちら様ですか?」
すると女性が少し中に入ってきて、胸裏ポケットから警察手帳を取り出して、自分に見せてきて
「警視庁捜査一課の岡部と申します」
「隊長の小泉です」
警察の人間かぁ。少しは対決の準備は出来ていた最中だった。いつ来ても負ける自信はない。そんな自信で溢れていた。
すると岡部が少し重めの顔で
「この度は大変なことで。同僚の長野さんが亡くなられて」
自分は近くの椅子に岡部をかけさせてから、自分も前の椅子に座り
「本当です。凄く悲しかったです。なんていうか、言葉になりません」
少し涙ながらに言った。これも全部演技だが、これに関しては自信がある。大学で元演劇サークルに所属しており、主演も務めたほどだ。だから演技で負けることはないと豪語しているから、こんな女刑事に負けるはずはないと思っていた。
すると岡部が少し恐縮そうな顔をしながら
「あの。大変こんな時に聞きづらいのですが、長野さんについて少し伺ってもよろしいでしょうか?」
自分は冷静な感じで
「大丈夫ですよ。私も少し時間があるので、手短に」
「ありがとうございます。実は先ほど、沢田さんという女性隊員の方から話を聞きました」
「あぁ、沢田さんから。あの子良い子でしょ」
すると岡部が少し微笑んだ笑顔で
「えぇ。とても笑顔が素敵な方でした」
沢田はそれが愛おしい、今では署内ではマドンナみたいになっているが、それも妥当だと思っていたほどだ。
「ですよね。あっすいません。続きお願いします」
「あっでは。えっと、火災が起きた時間、小泉さんはこちらで仕事をしていらっしゃった」
「そうですね。先日起きたボヤ騒ぎの報告書をまとめていました。ちょっと途中抜けましたけどね」
本当はそのボヤ騒ぎは思い出したくなかった。実は高校生が火遊びをして、それが草木に引火して、お騒ぎになった。消すのに4時間はかかったほどの大事になったのにもかかわらず、高校生の馬鹿な親のせいでなかったことにされたのだ。一番腹立たしいことだった。
すると岡部が
「当然、火災が起きて出動となる。するとあなた、沢田さんに長野くんの家が燃えてると言って出動なさった。それもアナウンスが鳴る前に」
確かにそれを言った記憶がある。でもそれはとっさに言ったもので、沢田も覚えていないだろうと思っていたが、まさか覚えていたのだなんて思いもしなかった。でも確かにそれは自分の中では汚点の一部だった。そのため少し考えながら
「あぁ。実は仕事中に外の空気が気になって、屋上に行ったんですよ。そしたら長野くんの家は屋上から見えるので、丁度そこが火事になっていて、すぐに沢田さんに言っただけです」
必死に考えて出た言葉だ。かなり出来ている話に少し自信を持っていたが、岡部は少し悩みそうな顔をしながら
「あの。屋上案内してもらっても大丈夫ですか?」
「構いませんよ。行きましょう」
笑顔でそう言った自分。絶対そう言われるだろうと思っていて、そういう準備も出来ているほどだった。
そのまま二人は屋上へと上ってきた。途中エレベーターの中では少し気まずい雰囲気になったが、そんなの気にせずに気持ちいい空気が漂う、屋上に足を運ぶと岡部が笑顔で
「気持ちいいですね。今日はいい天気だから、余計に良いですね」
「そうですね」
この感じを見ていると、凄腕刑事には見えないと思った。だから少し引いたような感じで言った。すると岡部が
「あっ、長野さんの家はどこから見えるんですか?」
「あっこちらです」
自分は長野の家が見える場所へと案内した。確かに周りが住宅街に囲まれているところにブルーシートがかけられた家があった。確かに長野の家だと思ったのか岡部が
「確かにすごいですね。これは火災が起きたら目立ちますね」
「でしょ。話はこれだけですか」
すると岡部は自分の言葉を無視して
「でも、よくこんな住宅街の中で長野さんの家があそこだってわかりましたね。私じゃいくら言われても覚えられないかも」
確かにそうかもしれない。自分がもしこの景色を見て、覚えろと言われても無理な話だ。でも今はこの状況をなんとかして逃げたい。そう思いながら
「でも私だったら見つけられますよ。記憶力良いんで」
「そうでしたか。あっもう一つだけいいですか?」
「はい。なんでしょうか」
しつこいなこの刑事はと思いながら少し怒りの表情で言った。すると岡部が
「実は、この火災は事件だと踏んでいるんです」
「え?」
少し耳を疑った。この件は火災調査官の見解だと事故として処理したはず、何故にこの刑事は事件だと踏んでいるのか、全く理解が出来なかった。
すると岡部が
「実は、この写真を見てもらってもいいですか?」
そう言い岡部は鞄から写真ファイルを取り出し、写真を一枚自分に見せてきた。それは長野の自宅リビングだった。かなり焦げている。これを見ただけじゃ何も分からずに
「これがなんですか?」
「実は、リビングが火元になってますが、なぜこの件を火災調査官が事故として処理したかわかりませんが、いち消防士がガス栓を抜いたまま、外に出かけるなんてありえません。それにガスが充満していたら、近所の人が気づきます」
言ってる通りだ。そう思うと火災調査官がなぜ事故にしたかもわからない。もしかしたら消防士が火災不注意事故で亡くなったことを隠蔽したいため、そう思い始めてきた。そのため自分は少し上層部に怒りを持ちながら
「確かにそうですよね。何か火災調査官は隠したいんじゃないんですかね」
「その可能性もあります。そのため捜査を引き続きしますので」
「よろしくお願いいたします。それでは私は忙しいのでこれで」
「ありがとうございました」
この不気味な笑顔はなんなのか。私を挑発しているのか、それとももう何かを突き止めたのか、その思いで一杯だったが、その場をとにかく後にした。
昼過ぎ・自分は隊長室で電話を掛けていた。相手は火災調査官の隊長である三谷だった。
「あれは本当に事故なんですよね」
自分は少し問い詰めた雰囲気で聞いた。すると三谷は少し戸惑いながらも
「そうですけど。どうかしたんですか?」
「あっいえ、特に何でも。どうして事故で処理されたんですか?」
「それは伝えた通りです。事件性はなく、単なる事故と言うことで」
少し自分はトーンを落としながら
「もしかして、消防士が火災不注意事故で死んだということを、隠したいからですか」
完全に三谷は戸惑った声をして
「そ、そんなことはないですよ。こっちはしっかりと調査をして決まったことなので」
「あのですね三谷さん。こっちは人一人でも多く救う覚悟でやってるんです。そんな勝手な隠ぺいで振り回されてたまりますか!」
と怒鳴り散らし、電話を切った。それもそうだ。何せこの殺人には大きなデメリットがある。それは過去10年間管轄内で亡くなった人は0人を誇りに思っていたが、それがたとえ自分が殺したとはいえ、1人になってしまったことだ。この時ばかりは、あいつがこの管轄内に引っ越してきたのが腹立たしくなってきた。
するとドアをノックする音が聞こえて、冷静に返事をすると
「失礼します」
聞き覚えのある声だなと思っていると、やはり入ってきたのは岡部だった。もう正直言うとあんたの顔は見たくないと思っていたが、来てしまった以上対応しなければいけないと思い
「どうかされたんですか?」
少し優しめで言った。そして岡部をさっき座ってもらった席に座らせ、自分も前の椅子に座った。
「実はですね。少し小泉さんにお聞きしたことがありまして」
「なんですか?」
どうして大した件じゃないだろと思いながら言った。すると岡部はメモ手帳を取り出して、めくり始める。しばらくして見つけたのか
「あっありました。実はですね、昨日小泉さん、お一人で外回りに行かれたと」
「えぇ行きましたよ」
「本来、昨日の担当は沢田さんだったらしいんですが、突然変わってほしいと言われて変わったと、沢田さん自身が仰ってましたが、それは何故だったんでしょうか」
沢田の奴、そんなことまで言う必要なかったのに。少し沢田には怒りの気持ちが出始めてきたが、それを堪えながら
「なるほど。それはですね、いつも隊長って楽していると思われがちですが、この部屋に籠りっきりでいつも書類をまとめたり、現場に駆け付けたりと大変なんです。だからある意味着晴らしで、少しは外も出ないとなって思って。消防士失格でしょ」
少し笑顔で言う自分。すると岡部も笑顔になりながら
「そんなことないですよ。良いことだと思います」
「ありがとうございます」
すると岡部が少し声のトーンを落として
「あと、実は先ほど分かったことがありまして。長野さんは過去に放火殺人を起こしていたかもしれません」
それはとっくに知ってる。てか今回の殺人の原因はそれが全てだ。でも演技力に掛けるしかなく、驚いた顔で
「え?そうなんですか?」
「はい。別の消防士の方に、自分は以前火で人を殺したことがあると言っていたそうです」
少し動揺した感じに演技をして
「そうなんですか。驚きです」
「はい。でも実は私たちも知っていたことなんです」
「え?」
驚いた。まさか警察が知っていたとは思いもしなかった。てっきり真相にたどり着いているのは私ぐらいだと思っていたからだ。
すると岡部が数枚ページをめくり
「実は、本来なら明日長野さんを逮捕する予定だったんです。こちらも色々と真相にたどり着いたので」
「なるほど」
なんて言ったらいいか分からずに、何故か出た言葉だった。警察がたどり着いているということは、少なくとも私と関係があることに気付いているはずだ。でもこんなところで負けるわけにはいかないし、ましては喋るわけにはいかない。自分はあえて黙っていた。
すると岡部の携帯がなり、それに出る。
「はい岡部です。分かりました」
電話を切る岡部。自分は少し冷静になった顔で
「どうかしたんですか?」
「えぇ、ちょっと職場からです。そろそろ失礼します」
そう笑顔で言い、部屋から出ていく岡部。少し恐怖感を抱いた自分だが、少し冷静になるために屋上に向かった。
でもまさかあの後、こんなことになるとは自分はまだ知るはずもなかった。
~第2話終わり