~事件編~
とある日の事だった。消防士で隊長の小泉丸美30歳は、夜・消防署の応接室で一人の男が来るのを待っていた。
彼女はベテランの消防士で、この地域では有名なほど仕事熱心で、とても優しく人からも好かれていた人物だ。ここ10年間火災の数は1万件を超えているが、奇跡的にも亡くなった人の数はわずか0人であり、何度も消防庁長官賞を受賞しているエリートである。
しかし、そんな彼女も気がかりの事があった。それは大事な姪っ子のことだった。姪っ子は妹の子供で、隣の町で暮らしていたが、去年突然の火事で亡くなってしまった。生きていれば既に小学校に通っており、笑顔で暮らしているはずだった。自分の姪だからこそ管轄が違えとも、助けてあげたかった。そう思いながら消防の仕事をこなしていた。
しかし、最近になってから驚愕の真実が分かってきた。それを暴くために一人の男を呼んだのだ。
すると応接室のドアをノックする音が聞こえて返事をすると、同僚で後輩の長野陽介22歳が入ってきた。
彼は去年入ってきた新人の消防士だ。でも腕前は確かで、何度も人を助けてきたある意味のエリートだ。
「隊長。急に呼び出してどうかしたんですか?」
長野が少し気になりながら入ってきた。
すると自分は少し重めのトーンで
「あなたを呼び出したのはひとつ。姪っ子のことよ」
すると長野は少し動揺した様子を浮かべた。それもそうだ。実は長野という男は元々地元の不良で何度も警察沙汰を起こしていた人物でもあった。すると自分は続けて
「分かってるんでしょ。私が木島優子の叔母ってことを」
沈黙を貫く長野。次第に彼の頭から汗が出てくるのが見えた。
動揺するのも無理はない。自分が暴きたかった謎は、彼が姪を殺した張本人だって事だった。彼は去年。隣町に住んでおり、そこからここの消防署まで通っていた。しかし、理由は分からないが彼の家のすぐ近くで火災が起きた。その現場こそ姪が住んでいる家だった。親はすぐに救助されたが、姪は一酸化炭素中毒で亡くなってしまった。
実はその後不審な点が多いと言うことで、この火災は事件ということになり、現在も捜査中だ。しかし自分はその犯人が長野ということにたどり着いたのだ。
自分は続けて
「あなた、火災が起きるわずか10分前に近くのコンビニでライター買ってるわよね。タバコとセットにして」
「それがなんですか。それだけで何が言いたいんですか」
初めて私に反論した。しかし動揺しているのが丸見えである。自分は畳みかけるように
「私ね。とある小学生から聞いたの。その子私の姪と幼馴染でよく遊んでたらしいの。そしたらね、火災が起きる前日にあなた遊んでいる姪たちに、うるさいとクレームを付けたらしいじゃないの。そしたら姪が遊んでて何が悪いのと反論した。どう?動機も凶器も揃ってる」
「ふざけないでください。たったそれだけの理由で幼い子供を殺さなきゃいけないんですか」
少し怒り気味に言う長野。すると自分は少し微笑みながら
「じゃあ最後の切り札使ってもいい?」
「え?」
「あなた、同僚の松下くんに言ってたそうじゃない。自分は以前火で人を殺したことがあるって。どういうこと?」
すると長野が舌打ちをして
「あいつ余計なことを」
すると遂に自分も怒りがこみあげてきて、机を叩きながら
「どういうことか教えて」
と突然長野が笑いだした。突然のことで少し引き気味に長野を見ると
「それまで言われちゃもうおしまいだよ。そうだよ、あんたの姪を殺した人間だよ」
それを言われた瞬間。とてつもない殺意が襲ってきた。でもダメだ、あの計画を実行しなければ、すぐに捕まってしまう。完全犯罪を遂行するためには、ここでは堪えるしかないと思い、涙を流しながら睨みつけた。
「あのガキ。俺に指図しやがった。それにあの公園は、元々俺たちのグループが使う専用の公園なんだよ。そこをのこのことやってきて、砂場遊びだぁ。邪魔だったんだよ。だからさ、指図されたからさ、お仕置きしてあげただけ」
自分は涙が止まらない状況で
「あなた恥ずかしくないの。そんな理由で人を殺すなんて」
すると窓側にまで長野が近づき、そのまま笑顔で
「実は本当のことを言うと、最近知ったんだよ。あんたが、俺が殺したガキの叔母だったことを。家族一つも救えねぇくせに、何が消防庁長官賞だぁ。恥ずかしい話だなぁ」
少し挑発的な笑いをしながらその場を後にした。本当は警察に突き出したいところだが、ここは計画を遂行するしかない。そう思い、実行に移した。
午後7時・まず、一階の消防車や救急車などを保管するところに行き、そこにいた若い女性の隊員である沢田美由紀に
「あっ美由紀ちゃん」
すると沢田が少し緊張した顔になり
「あっ隊長。お疲れ様です」
自分はこの子とは元々仲が良く、一緒にご飯も食べるほどだ。だから笑顔で
「お疲れ様。あっそうだ、今日見回りだったっけ?」
すると沢田は元気な声で
「あっはい。今日見回り担当の日です」
「それなんだけどさ。私に変わってくれない?」
沢田は驚いた顔になり
「隊長がですか?!」
「うん。最近事務仕事ばっかりでさ、たまには外にいかなきゃ。外回りも大切な仕事だからね。今度おごるからさ」
沢田が少し微笑みながら
「分かりましたよ。では今度美味しいお寿司屋さんがあるので、そこで」
この子なら何でもおごれることは出来る。理由は実は沢田はこの隊では唯一の女性隊員で、それも意外と話が合う。趣味も映画鑑賞とかが一緒でそこから仲良くしている。本当のことを言うと寿司は大の苦手だが、しょうがないと思い微笑みながら
「分かったわよ。ありがとうね」
「あの。私はその間何を」
「仮眠室で休んでなさい。たまにはその時間も必要よ。隊長である私が許可する」
と笑顔で言うと、沢田も笑顔になり何故か礼を言われた。そして彼女から見回りの車の鍵を渡されて、そのまま車に向かう。それに乗り、急いで向かう先があった。それは長野の家だった。彼は一か月前からこの町に住み始めて、署からはあまり遠くはない距離だった。
家に着くと、すぐに鍵を取り出した。実は知らないうちに合鍵を極秘に作っており、簡単に家の中に入ることが出来た。以前一回だけ入り、下見をした経験があるため、何がどこにあるかはすぐにわかった。そしてすぐにキッチンに行き、ガス栓を抜こうとした。実は長野の家のガス栓は特殊で出来ており、近くのボタンを押して、2秒たってからガス栓のロックが解除される仕組みだ。さすが消防士と言っても過言ではないほどの用心である。
そしてガス栓を抜いて、ガスをわざと入れてから、その場を後にした。時間は午後8時。計画だと、午後9時に勤務を終えて、すぐに帰ってくるだろう。そして爆発に巻き込まれて死亡するそんな計画だった。
午後9時、消防署では長野は他の隊員に
「お疲れ様です」
すると他の隊員が笑顔で
「お疲れ様」
そのまま家へと帰っていく長野。いつもは車通りの少ない近道で帰るため、午後9時15分に着くことが出来た。実は長野はかなりのヘビースモーカー。すぐにタバコが吸いたくなり、吸いながら家に入るのは、今では日常行事みたいなものだった。そして火を付けながら、鍵を開けて中に入る。すると見事に爆発・炎上した。
既に署に帰ってきていた自分は、屋上からその光景を見ていて
「完璧」
と口ずさんで笑顔がこぼれてきた。憎き相手を殺したということで安心感と達成感で一杯だった。
これで小泉丸美の完全犯罪は完璧だった…
~第1話終わり~