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辺境貴族令嬢と学ぶ現代青春の歩き方  作者: 庵才くまたろう
英雄になれない僕らと青春スタートライン
1/17

どこか歪なありふれた始まり

はい、ということで新連載です。


気合い入れて頑張りますのでよろしくお願いいたします。

 ひょんなことから異世界に転生したとある若者がその世界を救って十五年。彼の功績はその世界に長く蔓延っていた殺戮と混沌に終焉を告げ、異世界”アースレイン”に久方ぶりの平穏をもたらしたそうだ。

 

 魔物の元締めであった魔王は勇者に敗れ、それまでずっと活発化していた魔物の活動も今は随分と静かなものらしい。

 人々は暗く澱んだ時代の奔流からようやく抜け出し、街から出るたびに魔物の脅威におびえる生活から解放されたことを大いに喜んだらしい。世界中の子どもたちが彼の活躍にあこがれ、街中で吟遊詩人たちは勇者の英雄譚を口ずさんだ。


 こうして長いこと続いていた人間と魔物の戦争は終結し、勇者は世界に平和をもたらしたのだった。こんなありきたりな英雄譚を、俺たちはなんと小学校で習う。街中を忙しなくスーツのサラリーマンが行きかい、電器屋の軒先には企業がせっせこ薄く仕上げているテレビがずらりと並んでいる。

 そんな二一世紀の現代日本の、どこにでもある小学校でだ。


 どこぞの異世界転生者の影響によりついに平和を取り戻したアースレインだが、彼が影響をもたらしたのはなにもアースレインだけに限らなかったのが、このお話の最もはた迷惑なところだったのかもしれなかったり――


『友好条約提携15周年を迎える本式典には、日本、アースレイン両国から多くの参列者が集まり、宇部雄三首相とリーデル・ヴィ・アースレイン国王ががっちりと肩を組みあいマスコミの前で互いに笑顔を浮かべるワンシーンも見受けられました。外務省関係者の話では、式典終了後の首脳会議では首相、国王ともにこれからの技術支援、魔法支援等を含めた両国のより一層の――』


 何の気なしに見つめていたテレビの画面が切り替わったのは、俺が朝食の焼き鮭の皮をいざ口に放り込まんとしたその時だった。


「おいっ!こっちは見てたんだが!?」

「はぁ~!?あんなくそつまんねぇニュース垂れ流されるほうの身にもなってみろってんだ。これだから鮭の皮なんて食ってるやつは」


 普段はそこそこ物静かな食堂の一角で、二つの若い男の声が上がった。


「おい、今鮭の皮を馬鹿にしたか、一遍表出てみろや」

「上等じゃねぇか」


 声を上げた一人が勢いよく食卓に向けて箸を置くと、先ほどまで腰かけていた椅子をテーブルに向けて押し込む。青雲寮の食堂には今も数人の生徒がのんきに朝を過ごしており、既に見慣れた光景となっているこの事態にむけてすっかりと他人事のような視線を飛ばしながらいそいそと各々の朝の支度へと勤しんでいる。


 そんな彼らの喧嘩の行く末をちらとよそ眼に見ながら、皿の上で綺麗にはがれた鮭の皮を口に放り込むのだった。


「おい!(ひじり)はどちらにつくんだ!?」


 ふと先ほど喧嘩を仕掛けた側の男子が俺の名前を呼ぶ。


「悪い内山、俺は鮭の皮はしっかりと最後まで味わう派なんだ」

 

 口の中いっぱいに広がるカリッと焼けた皮の味を堪能しながら俺の名前を呼んだ内山に向けてそう答えると、鮭の皮は最後まで味わう派のルベルは小さくガッツポーズを浮かべている。


「これが民主主義だ内山、諦めろ」

「たかが二対一で何が民主主義だルベルぅ!」

「僕はてめぇのせいで大木アナを最後まで見られなかったじゃないか!」


 そう言ってルベルは既に朝の情報番組へと切り替わってしまったテレビの画面を指さしながら悲しそうな表情を浮かべた。


「大木アナ!?さっきニュース読み上げてたアナウンサーか?……そ、そっか、女の趣味はそれぞれだもんな、なんか悪いなルベル」

「どーして俺が急に慰められてんだよぉ!かわいいだろうが大木アナっ!ちょっとその、今どきのアイドルや女優なんかよりこの世界に生を受けたのが早かっただけで、あの溢れんばかりの知性と熟成された女の魅力がわからんとは!大木アナがこの世で一番魅力的な女性なんだよ!」


 ルベルにまくしたてられるようにして壁際に追い込まれれる内山。しかし彼もルベルの最後の言葉には思うところがあったらしい。


「はっ、これだから女の魅力を年齢でしか語れない男ってのは。今の時代一番かわいいのはミーナちゃんだと相場は決まってんだよ。見ろ、あの保護欲をくすぐるロリフェイス。それにあのキュートで愛らしい猫耳にやられねぇ男はいないってんだよ!ビバ獣人族の春!」

「確かにミーナちゃんはかわいいがそれとこれとはまた別の話であってな!」


 その後も次第にヒートアップしていく両者の俺の推しアピール。そこに今まで傍観していたはずの青雲寮の男子生徒どもが我が推しをここぞとばかりに喧伝せんと参戦。

 状況は混迷を極め群雄割拠の推し戦争が一体どこに向かうのか。


「アンタら、そろそろ時間でしょうが!」


 誰もがその結末を予測できずにいたこの状況に終止符を打ったのは、この騒がしい食堂に放たれた矢のように響き渡った彼女の声だった。


「ったく朝から騒がしいったらありゃしないんだから」


 先ほどの声の主、曜子さんは俺たちに向けてすっかり呆れたような声を上げながら再びキッチンにかけられた鍋のほうへと向き直った。


 さて、そろそろこの世界のことについて少し話しておこうと思う。


 異世界アースレインは、とある異世界転生者の活躍によって救われた。しかし彼と魔王の最終決戦はこれまた類を見ない激しさを極め、周囲に多大なる被害をもたらしてしまったらしい。魔王城は跡形もなく崩れ去り、周囲の草木は焼き払われ、周辺の魔力はこれまたとんでもないほどに歪に乱れてしまったらしい。


 そしてその最たる被害として挙げられるのが、アースレインと我が国日本の融合である。


 乱れに乱れた魔力は、ついに時空間の隔たりすら歪めてしまい、アースレインの各地と日本の各地に、”異界門”と呼ばれる空間の捻じれを出現させた。

 これにより自由に行き来が可能となったアースレインと日本は、互いにそれぞれの文化、常識を尊重しあい、今日までなんとかよろしくやっている訳だ。


 この物語は、異世界がすぐ隣り合わせになっている日常が当たり前になってしまっている現代日本で、俺こと城ケ崎聖がこれから出会う、とある女の子との僅かに非日常な、それでいてどこまでも他愛のない日常のお話。


ということでここまでお付き合いいただきありがとうございます。

併せてご感想、ご評価、ブックマーク等いただけると泣いて喜びますので泣かしに来い。

それでは次話でお会いしましょう

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