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ナハル・ニヴ ~神様転生とは~  作者: 空想病
第二章 ──── 乱世
31/31

大棘剣の勇者 -1

/Chaotic times …vol.04






 ・






〈魔者の大陸〉ニーヴにて。


「おいおい、聞いたか? ナハル嬢ちゃんの活躍をよ」

「聞いてる聞いてる」

『聞いてない人なんて、こちらにはいないんじゃないでしょうか?』


 人狼(コンリァフト)の青年、木乃伊(サラガーン)の淑女、骸骨(クナーヴァルラハ)の乙女、それぞれが廊下で行き会い、共通の話題で盛り上がる。

 魔都において重要地に数えられる元老院の赤い絨毯の敷き詰められた廊下。

 それぞれの部署や議会に散会を強いられる前に、心やわらぐ話題である。

 三者の地位を明確にするにならば、


 魔王軍装甲擲弾兵総監そうこうてきだんへいそうかん  レアルトラ

 元老院財務長官(ざいむちょうかん)  アーン・タシュタル

 魔王府主席護衛官(しゅせきごえいかん) アバル・クロガン


 各々に拝命された役儀があり、魔王府内でも別の部署で働くことが多い。

 他の幹部らを列挙するならば、


 近衛兵長兼国土防衛司令官──赤竜ソタラハ。魔王府工務長官兼装具管理庁長官──生命武器リギン、魔王主席副官兼医術庁長官──元エルフ王家のガルイヤーリァハ・ギィー、などなど。

 そして、今はこの地にいない魔王主席秘書官──ナハルと共に旅だった水妖──イニー・ン・リィア。

 彼女は100年前に、魔王と共にかの大陸を周ったっ熟練、ナハルの旅の同行者には真っ先に自薦してみせたのも記憶に新しい。。


「あいつら、うまく王派閥派に潜り込めると思うか?」


 レアルトラは疑念する。アーンは指を回しながら講釈する。


「いま、かの大陸は分裂間近──いやもう分裂状態と言える。そんな状況で、王派閥派に属する『傭兵団』への加盟・潜入は、かの国で何が起こっているのか……その最前線で物事を見聞できる


 もっとも、それをおなじようにやってのけた唯一の魔者は、魔王以外にあり得ない──他の魔者では魔力不足で力を十分に発揮できず、人間どもに正体が露見、のちに狩られて終わるだろう。

 しかし、魔王は違う。純白の全身鎧という人間として通じる見た目、豊富な経験と知識、何より魔力を自己錬成し続けることができる上、単独で大陸間移動転移大魔術を遂行可能という、他の者とは一線も二線も画す存在なのだ。おまえに、護衛役に選んだイニーは変幻自在の“盾”や“剣”となりうるのも心強い。

 その魔王は今回、ナハルにこの重大な役儀を託した。


「託されてるなぁ、ナハルの嬢ちゃん」

「本当に、こっちがうらやなしくなるくらい」

『ですが、巫女(マーン・シーキャハ)のグナー様の見立てだと』

《私の見立てが、どうかなさって? アバル・クロガン様》


 酔いかけた声は、聴覚を通したものではない。

 脳が──否、魂が直接聞かされている、そのような声の響きを伴う、童女の一声。だが、その実年齢は20歳に近い。

 振り返ると、数人の官僚もとい巫女補佐官(女官)に衣服の裾を大量に預けもたせた少女が突っ立ていた。まるで十二単(じゅうにひとえ)ほどもある重量。魔術による軽量化が通じないため、こうして女官らが裾を運んでやっらねば、童女は一歩を刻むこともできない。まるで布の幽霊か集合体のような童女に、レアルトラは挨拶を普通に交わす。


(おう)、巫女様もご出勤ですかい?」

《もちろん。我が陛下の招令です》


 彼女こそが四年前、“極大勇者”の出現を、勇者ナハル・ニヴと魔王ニアラスの邂逅を果たさせて張本人と言えた。

 が、その面貌はすべて法衣の内に隠され、露わになっているのは幼い口元だけ。どんな面貌をしているのか興味関心を懐く者は多いが、これを一枚でも外すと彼女の予知能力や未来観測は抑制を失い、発狂してしまうだろうという魔王の見解を聞いてからは、誰も口に出して問い詰めることはしなくなった。

 こんな若い身空で、あまりにも強力すぎる能力を得たがために魔王に封じられた──その点だけをみれば、彼女はナハルの真の同族と言えるだろう。が、彼女の場合は生誕の瞬間から“魔王預かり”の身の上。年季が違いすぎる。

 アバルは『ちょうどよかった』といわんばかりに巫女へ昨日の言葉──彼女の予言めいた一言を一同に求めた。

 しかし、彼女は微笑みながら、それを丁重に断る。


《言の葉には呪が宿ります。私自身、気を付けておりますが、私の言った言葉がどのような影響を──波紋を広げるのか予測できない。このことは他言無用に願いますね、アバル様》


 言われたアバルは納得し、背中の骨を最敬礼の形にまで曲げた。


《それでは、我々は魔王府へ。皆さまは元老院や各部署で、刻苦(こっく)精励(せいれい)なさいますように》 


 そういって、巫女はアバルを連れて魔王府への階段をのぼっていく。女官らは口を出さない──彼女には法衣越しにすべてが「見えている」のだ。

 そんな布おばけな巫女たち一行を眺めていたレアルトラは、ひとつの話を思い出す。


「……そういえば聞いたか? ガル姐さんの話」


 話とは何か見当もつかない木乃伊(サラガーン)はたずねる。


「陛下がナハルの嬢ちゃんを、人間の世界に返そうとしてるって」

「……はぁ? なんでよ、それ?」

「さぁ。よくわかんねえよ。ガル姐さんの“直感”ってやつらしい」


 レアルトラは仄聞(そくぶん)を述べる。

 ナハルを人間世界の覇者として発たせ、魔王である自分を討つ旗頭に据えようとしているのではあるまいか──そういう論法だ。

 実際、ナハルは魔王でも剥奪不能な“極大”の聖痕保持者だ。彼女自身、その気にさえなれば、魔王を討つことは児戯に等しい。

 第九紀が終焉を迎え、次の第十紀を迎える──新たな魔王が発つのか、あるいは……


「馬鹿らし」


 アーンは強く否定する。

 ナハル自身は魔王に心酔し、彼を信奉しているという意見も大いにある。

 その証拠に、彼女は魔王の願いを密かに叶えると、魔王軍幹部らに言って聞かせたこともある──どのような願いなのかまでは、本人は黙して語らなかったが──


「あんた、その話はあんまりしないほうがいいかも。マジでそうなっちゃうかもだから」

「言の葉には呪、ね。りょーかいっすよ」


 先ほどの巫女の話を思い出す魔王府財務長官と装甲擲弾兵総監。

 彼らは自分たちが口にし、耳にした言葉を反芻しながら、それぞれの部署を目指す。







 ・






 ティル・ドゥハス大陸へと渡ったナハルたちの活躍は、顕著という言葉では足りないほどの大活躍ぶりを見せた。




「斬鋼剣の勇者」にたとえられるように、あちらでは勇者の称号には“剣”が多く用いられる傾向にある。


 四年前に死亡した「氷結剣」「雷霆剣」「太陽剣」などを皮切りに向かった暗黒大陸調査船団に乗り込んだ勇者たち(「太陽剣」は生き残って暗黒大陸へと渡れたが、消息不明扱い──今は元乗組員であった女性航海士を娶り、二人目の子宝に恵まれていることは、無論こちらの大陸には知られていない)。


 これらの類例から分かる通り、「三文字に“剣”」をいれた称号をいただく勇者は、勇壮かつ強者であると見做されることが多く、事実、それだけの実力を周囲に認められたがゆえに、その称号を与えられた実力者だ。

 その中でも最高位に近い「斬鋼剣の勇者」──聖痕数は驚異の990──彼女の五つの刀から繰り出される一撃は、鋼さえも一刀両断してしまう威力を誇る。が、その代償というべきなのか、彼女は斬鋼の能力解放後すぐに倒れるか、眠りに落ちるかの択一しかなく、ちゅじ間の戦闘には向かないという弱点があった。それでも、その一撃は鋼を断ち、天と地にまで剣劇の一刀が風間れる様子は圧巻の一言に尽きる。


 他にも様々な剣の勇者がいる中で、逆に、剣の称号に値しない勇者も数多い。


「巨盾の勇者」シュキーア・コサンツィ、「星球の勇者」カスール・スマフティーン、「聖杖の勇者」シュナ―フタなど。いずれも“剣”ほどの実力を認められることのない勇者たちであるが、その原因は彼ら自身ではなく、彼らの信仰する宗教に由来する。人類の祖たる開祖トゥアタ・デー・ダナン。彼の一族ががもたらした四秘宝のうちの、最大の信仰対象が“ヌアダの剣”であった。「切っ先から逃れること(あた)わぬ剣」というのは、言い換えれば確実に敵を殺戮する剣であり、所有者に絶対勝利を約束る剣だと解釈できる。ヌアダの次点が“無敵となれるルグの槍”。さらに次点が同率三位で“石”と“釜”──王位継承者を選ぶ医師への信仰は「王権への敬意」を表明し、また、「食材の湧き出す」鎌に至っては、決して植えることがないようにという、農耕文化や採取文化への信仰の象徴とされた。

 さらに、勇者たるもの、100年前に“剣の力量”のみによって半ば強引に魔王を封滅したリーァハト王家の祖たる征翼王にして「剣王」──イアラフトゥ初代国王に「あやかりたい」という理由で、剣という武具に頼る勇者は非常に多い。洗礼前のただの子供ですら、木剣で勇者ごっこに興じるものが圧倒的に多数派を占める。イアラフトゥが傭兵団の仕切っていた団長だったことも、現在において統一大陸において傭兵団が100年後に数多く存在できた所以(ゆえん)であろう。

 しかしかしながら、すべての勇者が剣技をおさめ、極められるとは限らない。

 中には剣に奇跡の発現たる聖痕の力を宿すことが出来ない“落ちこぼれ”が発生し、彼らはやむなく個々人に適応した武具を調達し、それが彼らの称号となっていくのだ。

蟲葬(ちゅうそう)の勇者」クルータン・ジェラグは銃器と蟲使いの才覚に。「鋏刃(きょうじん)の勇者」クワハトゥ・ナールトゥは大鋏と従者の才能に。それぞれが恵まれている。



 そんな事情の中で現れた「大棘“剣”の勇者」──別称「茨姫(いばらひめ)」──または、その悪辣さや貪欲さ、〈魔者〉すらも毒し沈静化させる能力を指して「毒蛇」と称される新米勇者──ナハル・ニヴ。



 彼女が属することになった傭兵団“(シュカルプ)

 クリーヴによる「斬鋼剣」が蠍の尾毒の一撃であり、復調たる二人の二丁拳銃や大鋏の体剣が、そのまま蠍の両前肢を構築したようなチーム編成といえる。

 そこへ「茨姫」、あるいは「毒蛇」と号されるナハルの加盟は。単純な武力の強化にはおさまらなかった。



 彼女は、人食いの魔者を鎮静化させる奇跡が使えること。



 他の勇者たちでは試みようとも思わない──救うよりも殺す方が安易かつ簡略な方法だからだ。

 何故、〈魔者〉までをも救おうとするのかと戦場で問われたナハルは、即座に言い返した。

「信仰上の理由です」と。

 人間たちの奉じる四宝教に、そんな戒律があっただろうか。それとも彼女は、別に信仰している者や物があるのか、それはわからない。

 おまけに、彼女が沈静化させた魔者は、彼女の聖痕によって何処かへと転送・転移させられ、それ以上の詳細は不明ときている。


 とにもかくにも。

 傭兵団“蠍”の名声──噂はますます国土を席巻していき、そして

 王宮へと呼ばれるほどに相成った。






 □






 親愛なるプレアへ。


 私は魔王様からのお役目で人間の大陸に戻り、とある傭兵団に属することになりました。

 みんな「茨姫」だの「毒蛇」だの、様々な称号で呼んでくれるけど、少し騙してくる気がして、気が滅入る思いです。

 そうそう。

 我が傭兵団の団長は、私が黒い魔者を討伐し、沈静化できることを最初から見抜いていました。

 いやはや非常に驚かされました。さすがは「斬鋼剣」と号されるだけの存在です。


 私たちの噂──魔者退治の功績を称え、近く王宮に()ばれると聞いた時の皆の驚きようと言ったら!


 同時に。そろそろ、あなたが秘密にしていることもわかる気がしてきた、今日この頃です。


 あなたの友人ナハルより。







 □







 親愛なるナハルへ。


 傭兵団の活躍は、私がいるところにも良く届いています。

 叔父様も大層関心を寄せられているご様子でした。

 彼らの武力が王派閥に属することになればと、そう口癖のように申しております。

 それにしても……「茨姫」はともかく「毒蛇」というのは、納得のいかない名づけようですね。いったい、誰が最初に言い出したのやら。

 私は、ナハルは毒蛇から最も遠い人物だと個人的には思っているのに──

 いえ、何か理由があるんでしょう。そうでなければ「毒蛇」なんて思いつきもしないったらありません。


 私が抱えている秘密に気づいてくれて、ありがとう、ナハル。

 でも……、あともう少しだけ待ってください。

 きっと、直接あなたと対面できる日が、近日中にも来るはずです。

 その時にはすべてをお話するつもりです。


 どうか、どうかその日まで、あなたが無事壮健でありますよう、心から祈念いたしております。


 あなたの友人プレアより。





 ・





「んだあ? うちのエース様はぁ、誰と文通してんだよ?」


 仕事明けに受付に届いていた手紙の返事を更衣室で開封して、ナハルは微笑する。


「大切な友人と、です」

「そうか……そうだな……友人(トモダチ)は大切にしとけよ」

「……え?」

「なんでもねえ、ただの独り言。じゃあな」


 意外にも殊勝な言葉を返す「蟲葬の勇者」クルータンは、下着を変え私服に着替え、そのまま更衣室を後にした。ナハルは小首を傾げる。


(なんだか(さび)()だったような)


 クルータンにも友人はいる。

 団長であるクリーヴは勿論、同期同副長のクワハトウゥとも、何気に仲が良い。とんでもない毒舌吐きで、一部団員からは「毒舌姫」と揶揄(やゆ)されている始末だが、それだけではないことを、ナハルはこの一ヶ月で知るところまで来ている。

 そんな彼女が正直な述懐をしてきた──なにやら事情がありそうだが、それはナハルにはわからない。

 ダマスカス製の装備類を外し、個別ロッカーに。

 誰もいないこと──監視の魔法の類のない子を確認した後、イニーを鞄へと隠して、ナハルも更衣室を後にする。


「お疲れ様です、茨姫(いばらひめ)

「その姫って言うの……まぁ、いいや。ちょっと外に出てきます」


 外出許可を受付で済ませ、首都を練り歩くナハル。


(統一王国、首都・エツィオーグ──)


 翼という意を冠される都の喧騒は、外では〈魔者退治〉が行われているなどとは信じがたいほど安穏(あんのん)としている。

 安らかで穏やかな人波。

 老若男女が憩う庭園や甘味処、市場と出店の規模と多様さは、着目に値する。旧帝領などの整備が行き届いていない田舎では絶対に見られない光景だ。まさしく首都の名にふさわしい盛況ぶりである。

 そんな人の波をかいくぐりつつ、ナハルは首都の重要施設──国王の住まう巨城や各種宮殿、さらには政府庁舎や軍関係施設などを巡るのを己の責務としている。いざと言うときのために、備えておく必要があるからだ。


(それにしても、広いし……宮殿の数も多い)


 金髪を振って足で歩くと、一等地だけでもなかなかの邸宅の数だとわかる。二等地、三等地、四等地にまで幅を広げると、とてもではないが一日で回りきれるものではない。

 それが首都だ。

 奇跡の力での転移術は、魔者をニーヴの大陸──魔王陛下のもとへ送ること以外には使わないと決めている律儀な少女、ナハル。

 十二の宮殿が都市の四方八方に散在し、初代国王のハーレムの跡が、この都市には残されていた。初代国王は「剣王」と号されているが、実に「傭兵王」としても名をはせたことは、歴史書が語っている。宮殿の名は、最北に位置する百合(リラ)(クイリーン)(マガルリーン)(スー・タルーン)(マルプ)杏子(アプローグ)(ヴィステーリア)など、数え上げればキリがない。 一時は宮殿の数は20を超えていたというのだから、初代様の性欲……後宮の数は測り知れないものがある。


(これも不敬罪にあたる、かな?)


 思うくらいは許されるだろうという結論をくだす。

大棘剣(だいきょくけん)の勇者」ナハルは、自分が観光がてら偵察している宮殿のひとつに、最も大切な友人がいることを、まだ知らない。


「これだけ魔法の設備が充実していたら、首都“内”でも魔者騒動が起こってもおかしくないだろうに」


 ひとりごちるナハル。

 電灯、上下水道、馬車に使われる軽量化の魔法や建物自体が魔法で建造されたものを見る限り、此処でも〈魔者化〉するものはいて当然の道理。

 だが、ナハルが傭兵団で仕事をしているのは、近くても都市近郊の街道あたりだ。首都内で〈魔者〉が沸いたという噂や事実は確認できていない。

 魔者ということで、ナハルはかの大陸理に思いをはせる。


(魔王さまや皆、元気にやってるかな?)


 ガルたちの仄聞(そくぶん)を知らぬナハルは、公園の四阿(あずまや)に腰をおろし、そんなことをぼんやり考える。

 定時連絡は毎朝毎晩とっているが、それでも、直接言の葉を交わせないこと・顔を合わせられないことがここまで寂しいとは。特に気がかりなのは、魔王の動向であった。


(魔王さまの“待ち人”、まだわかってないんだよね)


 元老院の悪魔や、幹部級の魔者たち、ガル先生にもそれとなく聞いてみても、そんな話など寝耳に水といったありさまだ。有益な情報を、この四年間で得られることができなかった、ナハルは己の無能ぶりをいやでも痛感する。いっそ本人に聞こうとも何度か思ったが、そのたびに躊躇する自分がいて、歯がゆいったらなかった。

 何度でも耳に残響する、あの日見た夢。


(──「 … … あ あ、 待 っ て る … … 」──)


 彼のあの声が、切実な希望が、どうしても忘れられない。


(──会わせてあげたい)


 そう(こいねが)っても、金髪の聖痕は起動すらしない。

 いつも通り。

『お時間です、ナハル様』と促す鞄の中のイニーに従い、少女は立ち上がる。

 そうして「大棘剣の勇者」は出店の肉饅頭を自分とイニー、二人分買って、傭兵団の宿舎に戻った。








 ・







 首都エツィオーグ、魔法省地下にて。


「ふーん……黒化した〈魔者〉の鎮静と転移、いや、これは“転送”か?」


 魔法省の尚書を務める女性・ララァバは、妖然ようぜんと微笑んだ。

 なまめかしい女の肢体(からだ)を白衣で覆い、眼鏡をかけて、彼女は(わら)う。


「ナハル・ニヴ──茨姫に毒蛇──そして棘剣(きょくけん)、ふふはは!」


 長い黒髪が揺れるほどの哄笑(こうしょう)

 おもしろい玩具を見つけたような嬰児(えいじ)のそれに似た嗤笑(ししょう)を漏らしつつ、彼女は、首都内で発生した〈魔者〉たちを保瓶容器の群れを素通りしながら、新たに捕らえた罪人と魔者、両方を使って、魔法実験を繰り返す。

 不老の実験。

 不死の実験。

 不滅の実験。

 人々が目指す上位存在──“神”に届くための──実験。


「今度はうまくいきそうじゃないかしら、ねえ?」


 魔法尚書は闇の一隅にいる人物へ問いを投げるが、答えは返らなかった。









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