第九紀・9823年 春
※R-15※
/Transmigration …vol.25
・
ナハルの決断は迅速を極めた。
「港湾都市に戻ります!」
彼女は自分の髪房を一掴みするが、その手を、魔王の純白の籠手が止める。
「行く必要はない。ソタラハが救援に『飛んだ』上に、ローンには“俺を含む”防衛部隊もいる。君の叔母君は早急に避難させると約束するとも」
慇懃な言葉遣いになった魔王。
そんな彼への違和感を持ちつつ、ナハルは自論をぶつける。
「私の叔母だけが助かってもしょうがありません、魔王陛下。私は、ローンの人たちすべてに世話となりました……ローンの城のメイドさんたち、都市の多くの人々と出会い、私は学びました……ここは「よい国」なのだと。彼らが教えてくれたのです」
感心しきったように小さな勇者の抗弁を聞く魔王と幹部たち。イニーに至っては涙を両目に湛え始めているが、ナハルはそちらには気づかず、魔王の兜の奥にある闇色に告げる。
「私はあなたの部下です。であるからには、あなたの民は、この大陸の人々は、絶対に守らなければいけないんです!」
少女の決意と覚悟に気圧されたように、魔王は手を離した。
瞬間、奇跡を実現する聖痕が彼女の髪色から放たれ、瞬間的に、彼女の身体を転移させる。
「…………まったく。いい部下を持ったな、俺は」
「────はい」
頷くイニーに頭を一撫でする魔王。
彼女は小声で呟いていた──「とても、とてもご立派です、お 」
・
そうして今に至る。
ナハルの制止を受けた魔王(分身体)は闇の棺を解いて、中で圧死する運命にあった若者を救命する。
だが、納得できないという声もあがった。
「ナハル殿! どういうおつもりか!」魔王の近衛兵長にして竜たるソタラハは怒声を張り上げた。「我らが王陛下に対して無礼千万! 場合によっては!」
ただではおかぬと告げる赤竜を、魔王は腕を振って制した。
「ナハル──君が俺の臣下であること──俺の配下にして部下である事実は、周知の通りだ。そこで問うが、『何故、止める』?」
魔王は死の恐怖に膝をつく勇者──右半身に190の聖痕を刻み込んだ若者の狼藉を許さなかった。
「港湾都市への破壊行為、ローン住人への殺戮的言動、すべてが罪科にあたるとは思わんか」
「思います!」
少女は臆さなかった。
魔王の秘技の一端──死の技を目前にしても、「待て」と言えた、その胆力。
「ですが、そのいずれもが、魔王陛下のおかげで未遂に終わっております! 都市は無事であり、住人への被害もない。ならば、まだ重篤な罪とは言えないはず!」
魔王は頷いた。
「それも、俺が止めなければどうなっていたか分からんが?」
「そこは魔王陛下のご英断あってのこと! 誠に尊敬に値します!」
「尊敬──」
魔王は盛大にため息をついた。
マカーンタ一等航海士に助け起こされる太陽剣の勇者の前に歩み立つ。
ナハルは一瞬「駄目だったか」と思ったが、魔王は闇を解放することなく、代わりに言葉を賜す。
「勇者よ、名は?」
「──ディーヴァス・アウス」
「《軽蔑すべき・傭兵よ。汝の罪を魔王が赦す。ただし、聖痕は一画を除き、すべて剝奪する》」
魔王はナハルの言葉に翻意してくれた。
しかし、それがすべてのきっかけとなった。
「せ、聖痕を、剥奪? ば、バカなことを申せ!」
ディーヴァスは拒絶するように全身の力を総動員して立ち上がる。
太陽の刃の再錬成では抗しえぬと悟ったか、彼は別の反撃手段に撃って出る。
「そんな屈辱を味わうくらいならば、いっそ死んだほうがマシだ!」
止めようとするマカーンタを突き飛ばして、彼は懐から何かを取り出す。
「──それは」
「これは我等を襲った海魔の肉の断片だ! これをもって、私は魔者の力を!」
取り込むつもりだと全員が了解した。どうやって取り込むのかは、彼が実演してくれる。
「聖痕よ!《我が願いを叶えたまえ!》」
正気を失った男の惨めな抵抗にしては、あまりにも愚かすぎた。
海魔の肉片が息を吹き返したように暴れ狂い膨れ上がり、ディーヴァスの肢体を吞み込み始める。
『おお、感じるぞ……コレが、魔者のチカラ……』
「ッ、ばかなことを!」
魔王が激昂の声をあげた。
魔者化していく勇者は、下卑た笑顔に蛸足を巻き付け、巨大なクラゲかウミウシの成りそこないじみた容姿となった。黒く透明な肉体に、幾多の触手。光を失った片目には、絶望の色が這い出ていた。墨汁のごとき体液が、ヘドロのように各所から吹き出ていて、その様は黒い魔者の暴徒そのものであった。
「くそ。自ら「魔者化」し暴走するとは、愚かにもほどがある!」
「いかがしますか、我が陛下?」
「ああなっては駆除駆逐するしかない。ソタラハ、おまえの炎で」
「待ってください!」
制止の声をあげたのは、意外にも、彼に冷遇されていたとみえる一等航海士の女性であった。
「魔王陛下様ならば、ディーヴァスさまを、我等の恩人を、救うことが?」
「無理だ」
彼は即座に断言する。
「あれでは「黒化魔者」と同じだ。魔力の供給バランスが取れずに、自滅していくのを待つだけ。残念だが、手の施しようがない」
それを聞いたマカーンタは落涙する。
自分たちを救ってくれた恩人が、救いようのない化け物になったと聞いては、無理もないだろう。
「……陛下。我儘を一つ聞いていただきたいのですが」
それを言ったナハルは、自分の小さな手の甲や掌、全身、そして金色の髪に至るまで刻まれた聖痕を意識する。
「私ならば、私の聖痕による奇跡なら──もしかしたら」
「馬鹿な!」
叫んだのはソタラハの竜声であった。
「いくら貴官が“極大”に号されているにしても、そこまでの奇跡は!」
「できると思うか?」
「はい」
謎の自信に満ちた少女の声に、誰もが呆然となる中で、魔王は命じた。
「では、彼を救え、ナハル・ニヴ」
頷いたナハルは、触手攻撃を多重に行うバケモノ──海魔と人間の融合体を前に、ひたすら前進。攻撃を聖痕の力で防御し、極至近距離にまで接近。
「聖痕よ。《願いを聞け》」
その一言で、彼女の掌が太陽のように輝きだした。
「《元に」海魔の悪あがきを乱暴に引きちぎりながら、ナハルは拳を握った。「戻れ》!」
獰猛な蛇の牙のごとく鋭い一閃──それでも。
撃ち込まれた暴力は、聖痕による奇跡にほかならなかった。
『あ、ああ、あ?」
これまで誰もなしえなかった奇跡が、そこにはあった。死に崩れる海魔の身体から、太陽剣の勇者ことディーヴァスが、五体満足に現れ、たたらを踏んで数歩を歩く。
「……あぇ?」
意識もあった。完全に無事であった。
「やった! やりましたな、陛下!」
竜が驚愕と狂喜に燃え上がるのとは対照的に、魔王は深い沈黙と冷厳な首肯を落とした。
「特大聖痕による魔者の暴走の抑止──実験するつもりではいたが、まさか、ほんとうにやり遂げるとは……」
ナハルは重度の疲労を感じてはいたが、魔王の膝元まで戻る体力はあった。
砂浜の上に跪拝するナハル。
「申し訳ありません。差し出がましい真似を」
「いいや、よくやった」
救済された勇者ディーヴァスを、漂着者たちが歓迎していた。
「何はともあれ、聖痕は剥奪しておくが」
魔王は疲弊しきったディーヴァスのもとへ。
そして先ほどのやりとりが再言される羽目に。
彼の聖痕は完全に剥奪された。
純白の籠手の指先に額を突かれた勇者は、あれだけの数の聖痕──右半身を刺青のように覆うそれ、残存数189の内、188を奪い取られ、残りは右目脇の一画のみとなった。
ディーヴァスはなす術を失い、項垂れるだけ。
「これで、君は〈勇者見習い〉以下の存在だ。本来であれば戦闘の末に殺されていた命──我が部下、ナハル・ニヴの温情と奇跡に感謝するといい」
「は、はい……」
おこっている事態がよくつかめていない表情で、元勇者は首を頷かせた。
マカーンタ一等航海士の肩を借りて、とにかく漂着者救済の列に加わる。
「ありがとうございます、陛下」
そう告げるナハルに対し、魔王は安全とした口調で応えた。
「君は不殺主義者か、何かか?」
「不殺?」
「殺しに来ている敵を前にして『殺すな』などと」
「失礼ながら、私は殺すなとは申しておりません」
「なに?」
「ただ、彼の行状が、死に値するかどうかと問われれば、刑死させるには値しないと判断した──だから陛下をお止めしたのです」
「なぜそんなまだるっこしいことを?」
「あなたには、正しくいてほしいから」
そう判断したナハル。
驚嘆したように沈黙を続ける魔王であったが、
「優しいな、君は……魔者化し暴走したものまで救うとは……その優しさが仇にならん未来を願おう」
そう告げる魔王の分身体。
無論、彼女も都市に少しでも被害が出ていたり、叔母に何かあれば止めはしなかったろう──彼女は現実主義的な瞳で、魔者たちに救助されていく漂着者たちを見つめる。
「彼らはどうなるのでしょうか」
「傷を癒した後は、ここの住人となるか、もとの大陸──ティル・ドゥハスに戻してやるか、だ」
「よろしいのですか。魔王さまの存在を知った人々を生かして帰して?」
「君は……殺したいのか殺したくないのか、わからんな」
「できれば、殺したくはありません──本当ですよ?」
「元の大陸に還りたいものは多少記憶をイジる。それで済む話だ」
魔王は呆れたように肩をすくめ、ソタラハと共にローン市長のもとへ赴く。
ナハルは追いかけるように述べ立てた。
「言っているでしょう? 私はただ、あなたには、正しく生きてほしいだけです」
波間を一人歩くナハルの胸中に去来するのは、かつて見た鮮明な夢。
(──「〈聖痕〉よ。俺の友達の願いを叶えろ。この“おひとよし”で、ずうずうしくて、いつまでも一人の女を追いかけてる、純粋で純情すぎる男の願いを、叶えてくれ──」)
ナハルもまた心の中で、魔王の願いが、彼の祈りが通じることを、強く願う。
しかし、聖痕は何の奇跡も起こさない。
(どうすれば、彼の願いを叶えられるだろう)
最近はそればかりを思考し、志向するナハル。
魔王の願いなんぞ神の力とやらで叶わぬことだとしても、自分を救ってくれた、闘いの法を教えてくれた男に対し、彼女は一方ならぬ思いを募らせる。
(善行を積ませる──なんて論外よね。きっと。いや、そもそも、魔王さまの追いかけてる女性って、どこの誰だ、ろう?)
魔王の想い人を考えただけで、ナハルは涙を領の目の端から溢れさせる。
おかしい。何故だろう。波間に涙を落としつつ、さまざまな疑問と疑念を残して、港湾都市襲撃未遂事件は、落着した。
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魔都──魔王城にて。
「今回の襲撃未遂事件における、漂着者のリストです」
「うん。ではローン市の民事局にかけあって、早急に住居なり生活物資なり揃えてやってくれ」
畏まりましたと笑顔で退室していくイニー。
ナハルが黒化魔者をどうにかしたと聞いて以来、ずっとあれだ。
「よほどうれしかったのかね……」
その先を言葉にするのはためらわれた。
魔王の執務室──普通のオフィスビルのそれよりも豪奢な作りのそこに残っているのは、純白の全身鎧で中身を隠す魔王と、彼に臣従するパンツスーツ姿の女エルフ──ガル。
「今回の件、本当にこれでよろしかったんですの?」
勇者からの聖痕剥奪は、魔王ニアラスにとっては簡素な作業のひとつであり、重要な『生命維持活動』のひとつだ。
「〈魔者〉が人を襲う、人の中の〈勇者〉が〈魔者〉を倒す、そして、その〈勇者〉を倒し喰らうのも、魔王の責務のひとつであり、生態の一種ではありませんでしたか?」
ガルは興味深そうな瞳で、デスクの上ににじり寄った。
魔王は泰然と書類整理を続けつつ、ガルの疑問に答える。
「聖痕だけを剥奪し、それを喰らう法もある──前魔王は、我が師は、そちらの方を好んだからな」
「そして亡びた」
9822年前に。そして、当時齢1200程度だった闇が跡を継いだ。
第八紀から第九紀へ。
人を喰うことを辞めた──人を殺すことを辞めた魔王に待っているのは、残酷なまでの枯死しかない。
聖痕のみを喰らってもダメなのだ。
神に選ばれた上質な魂を捕食すること。
それが、魔王を魔王たらしめる材料となる。
「両陣営──人間と魔者の共存を考える上では、我々魔王国の方が圧倒的に絶対的に正しいはずです。にもかかわらず、どうして〈勇者〉などという邪魔者があふれ出すのでございましょう?」
「さあな。それこそ『神のみぞ知るところ』だろうさ」
ガルが考えるまでもなく、〈勇者〉とは魔王の餌だ。糧秣であり食料なのだ。
そういった意味では、ナハルを殺し喰らえば、彼は神を超える力を手にするだろうことは確実。
無限にも近い「聖痕」を宿す勇者、ナハル・ニヴ──下手に聖痕を使わせて消耗させるよりも、今、この時の状態のまま食い散らかしてしまえば、その時に得られる魔王の力は途方もない──だからこそ、魔王国最高峰の巫女の見立てに従い、「極大聖痕」を宿す勇者を探し当て、手中に収めた。無論、これから先、彼女の聖痕が“増大”する可能性があることを考えれば時期尚早の感は否めない。
それでも、ガルは引っかかるのだ。
一万年を生きて準備してきた魔王が、たかだか十年しか生きていない勇者に、ここまで入れ込むなど──充分に嫉心をいだいて当然。ガルが、いくら芳醇な香りを漂わせる1000の聖痕持ちのエルフの肉体を差し出そうとしても、彼は受け取ってはくれない──むしろ、ガルの傷を癒し、その罪科を許して、傍に置いてくれて、四千年が経とうとしている。
「では、私はローン漂着者の治療に向かいますわ」
彼女は引き下がり、魔王もいつもの調子で「頼んだ」と告げるのみ。
ガルは思案する。
(あの娘──ナハル・ニヴには何かがあるに違いない)
そう確信しつつ、彼女は転移魔術専用の部屋へと向けて足を向けた。
・
その夜。
港湾都市・ローンにて。
「くそ! くそ! くそ!」
罵詈雑言と共に、元・勇者であるディーヴァス・アウスは、集合住宅室内の家具にあたりちらしていたが、
「痛っ!」
足の小指を盛大にぶつけた衝撃でつんのめる身体を、備えつけの寝台の上に横たえる。
室内は清潔だが、いろいろと手狭な印象を受ける。「仮設の集合住宅なので、がまんしてください」と、アザラシの皮を頭にかぶった少女に言われたのを思い出すだに、怒りが沸点を超える。それは自己の境遇への怒り。
「ちくしょう──以前までは、こんな痛み、へでもなかったというのに!」
船団の遭難からしてケチのつけ始めであった。
船は座礁転覆を余儀なくされ、それの救助活動中に海魔に遭遇。ディーヴァスの「太陽剣」以外の勇者──「氷結剣」と「雷霆剣」が犠牲となった。ディーヴァスは尚も抗戦するも、とにかく生存の可能性にすべてを託して、聖痕を起動。何とか神の奇跡が通じ、《生存者全員を暗黒大陸へ!》──そう願うほかになかった。
だが、漂着してより数刻もせず邂逅を果たした、純白の魔王。
その魔王に殺されそうになる寸前、ディーヴァスは年端もいかぬ少女の嘆願を受けて、聖痕の剥奪のみの刑に処せられた。
同輩たちの中で、三桁にも及ぶ聖痕を発現できるものは多くない。たいていは、教会で聖痕に選ばれないか、選ばれても五画~十画──二桁程度が関の山と言われている。
だが、ディーヴァス・アウスは、度重なる洗礼式によって、漂着以前は250の聖痕をその身に宿していた──それが、海難での戦いで60を失い、魔王への敗北で、189画をなくすはめになった。
たった一画では勇者見習いとも呼べはしない。嬰児や赤子が自然発生的に聖痕を宿した時と同じ数量でしかなく、加護も、奇跡も、武力さえ望めない。
「もう、終わりだ、俺の人生────」
小指の痛み以上の悲嘆にくれ、ディーヴァスは嗚咽を禁じ得ない。
国に帰ったところで、もはや勇者ではないのだ。“太陽剣の勇者”ディーヴァス・アウスは、確かに今日死んだのだ、魔王の手によって。
「ちくしょ、チクショ、畜生…………」
枕に顔を埋め、自らの醜態を外に漏らさぬよう努力するが無駄であった。
彼は子供のように泣き喚き、この世すべてに絶望しそうになっていた、そんなときに、室内に客が来たことを報せる鐘がチリリリンと響いた。続いてノックの音。ディーヴァスは無理やりにでも涙と鼻水を飲み下し、平静な自分を装う。
「あの、ディーヴァスさま?」
部屋の鍵は開いていた。
現れたのは、バスローブ姿の女性──短すぎる金髪に碧の瞳、小麦色に焼けた肌の、風呂上がりで上気した姿が美しい、マカーンタ・アマレール一等航海士であった。
彼女は部屋の惨状に怯えつつ、平静さ冷静さをとりつくろうディーヴァスに申し出た。
「お約束の通り、夜伽に参ったの、ですが?」
「…………………………………………はぁ?」
ディーヴァスは自分の聴覚を疑うしかなかった。
こいつは自分が、目の前の元勇者に、何をされたのか忘れてしまったとでもいうのか?
マカーンタは指と指を合わせ、赤面しながら告げる。
「私程度でお相手を務められれば、それで構いません。それに──」
彼女は船乗りの長として働いた自分の筋肉質な肉体と短すぎる金髪にコンプレックスを懐いているようであるが、それでも勇気をもって、彼のもとを訪ねた。それに、
「それに、勇者として聖痕の奇跡を叶えられたディーヴァス様がいなければ、我々全員が、海の藻屑と果てたか、海魔の餌となったことは、事実です。それを思えば、あなたは我らの、いえ、私の命の恩人。その事実は消えはしません。この身でよろしければ、存分に、お楽しみいただきとうございます」
「いや、だが」
「……やはり、私程度では、ご満足いただけぬ、と」
「いや、そうではなく」
ディーヴァスはこれまでにないほど返答に窮した。
目の前の女性の艶っぽい声に、耳まで真っ赤になる。見下ろせば、彼女の小麦色の肢体は起伏に富みすぎていて、男のそこを刺激してやまない。それがバスローブ一枚きりで、目の前にあるのだ。碧の双玉が、桜色の唇が、物欲しげに元勇者だった男を見ているような、そんな気分にあてられる。
しどろもどろに視線を右往左往させ、顔面を茹でられたように赤面しつつ、彼は下腹部のそこを膨らませながら、告白する。
「…………俺、童貞なんです」
嘲られるだろうか。蔑まれるだろうか。
夜伽五つでなんのかんのと言いつつ、この体たらく。
どちらの反応が返ってきても、男の名折れであったが──
「私も処女です」
お揃いですねと微笑む女性。
この夜、二人はめでたく結ばれた。
後に、彼と彼女は港湾都市ローン市民となり、数年後には五人の子宝に恵まれる。
・
こうして、さまざまな疑問と葛藤、騒乱と混沌と謎に満ちた第九紀・9823年──冬は幕を閉じ、23年の春を迎えた。
Q. ディーヴァスを助けた結果?
A. 魔王の国の人口が増えました
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今回で、第一章【転生】編が、終幕。
次回から怒涛の第二章【乱世】編…開幕…
と、その前に「断章」をひとつ、はさみます。
タイトルは──「TypeC・最善のプロローグ」
お楽しみいただければ幸いです! by空想病




