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ナハル・ニヴ ~神様転生とは~  作者: 空想病
第一章 転生 
25/31

太陽剣の勇者

そろそろ第一章・完

/Transmigration …vol.24





 ・





 ナハルとプレアの文通は続けられた。

 奇跡の御業を降着させる聖痕、幾億もあるそれを使えば、互いの居住地も知りえぬ遠隔地にいる二人が文通を交わすことぐらい、わけがなかったんだ。

 ナハルは無造作に念じるだけで、文通用の小鳥──青い鳥を生み出せるまでに成長をみせた。

 魔王はその成長ぶりに難色をしめすことなく、逆に聖痕の実態把握に大いに役立つと嬉しそうに語ってくれた。

 イニーたち幹部級の魔者たちの協力もあって、ナハルは何不自由のない生活を約束された。

 それと引き換えるように、彼女の「聖痕」についてえ、様々な検証がなされた。

 実際に研究に立ち会った女医のエルフ(ルハラハーン)、ガルイヤーリァハ・ギィーの観測・調査するところ「マヂでありえない」“量”に辟易(へきえき)していた。

 髪の毛一本一本に刻印された聖痕など、それこそ電子顕微鏡でもなければ観測不能な神の(しるし)である。彼女らの扱う〈魔術〉をもってしても、全容を把握することは困難を極めた。

 ナハルが研究対象となるうえで、連れてこられたのは、魔王の国の首都──魔都であるが、それを航空送迎コンテナ──飛行機の飛竜(ラグ・ドラガン)版に揺られていた彼女が見たものは、信じがたいものであった。


「これが、魔都?」


 天を貫くビル群。建造途中の鉄骨の群れ。それは中世風であった人間の大陸よりも1000年は文明の進んだ、現代世界にも通じる超然とした世界であった。


「100年前の戦い──征翼の傭兵団との戦いで、ほとんどぶち壊れたが、魔王さま復活のおかげで、ここまで再建できた」


 そうレアルトラ──人狼の青年は語る。

 近現代的な造形を超えた、半ば未来的ともいえる建物の群れは、御伽噺に出てくるおどろどろしい魔王城などとは、似ても似つかぬ造形である。


「お次はリギンの旦那が核となる魔王城だ」


 そう教えてくれる人狼の説明を受けるまま、コンテナは空を行く。

 同情した中で骸骨(クナーヴァルラハ)のアバルと木乃伊(サラガーン)のアーンなどは平静そのものであったが、


「あの、大丈夫、ですか、ソタラハさん?」


 飛竜コンテナに乗り込んだメンバーの中で、一人体調が悪そう今にも吐いてしまいそうな青い顔なのが、(ドラガン)であるはずのソタラハ、ただ一人であった。


「ソタラハの旦那が飛竜の周りを飛ぶと気流が乱れに乱れて墜落する危険もあるからな。だからといって、魔王さまの近衛兵長を務める幹部が同乗しないわけにいかないってんで」

「乗り物酔いしている、と?」


 普段の、快活闊達(かいかつかったつ)を絵にかいたような姿が嘘のように、ダラリと垂れ下がった全身。空虚な瞳。ナハルが心配の声をあげるたびに、だいじょうぶと主張しようとして褐色の掌をあげる様すら苦しげであった。

 ちなみに、同乗している魔王陛下は外の様子を眺めつつぼんやりと思案に耽り、その横の席で秘書官たる水妖のイニーが書類の確認を行っている。仕事熱心なことこの上ない。

 ようやく空の旅も終わり。魔術式地上車に乗り換える。いっそ転移術でここまでくればと問いかけて、魔都の全貌を見晴るかすのに都合がいいのが、あのコンテナによる飛行だったのだと理解するナハル。


(本当にこれが魔都なの?)


 見る限り、人間と魔者が平和に共存する街だとわかる。道行く異形に人々は関心を示さず、東京は新宿渋谷の雑踏に、仮装の化け物が降り立っている光景、だと言える。古い洋館なども無論あるにはあるが、絶対数は明らかに少ない。

 しかし。違和感を感じるナハル、彼女こそがここでは異分子なのだ。

 なにしろ億単位の「聖痕」を肉体に刻み込まれ、その総数すら測り知れない。


「お、見えてきた」


 ナハルは可能な限り窓辺に寄って、見た。


「す、すご……」


 言葉にならないとはこのことである。

 荘厳無比な魔王城──ドイツのノイシュヴァンシュタイン城にも似た本物の城は、リギンという魔者──浮遊し喋る魔剣のおじいさんが“核”となっているらしい話が信じられないほど、巨大かつ精緻の極みであった。十を超える堀池と城壁に囲まれ、二十を超える城砦と楼閣が天を突く。数ヵ所の空中庭園まで設けられた絢爛豪華(けんらんごうか)な魔王城は、ナハルの感嘆と関心を買ってやまない、水晶のごとき美しさであった。

 あの夢の中で観た、打ち壊され朽ち果てた外観は100年前のもの──それをここまで復元する〈魔者〉たちの文明レベルには、ほとほと呆れるしかない。


「武器製造は勿論、城郭(じょうかく)城壁(じょうへき)までおったてられる生命武器(アラム・ビオ)は、旦那ぐらいなものさ」


 レアルトラは賞嘆してやまない。眼鏡をかけた人狼は、謙遜する魔剣を笑って「さすがは最古参」と称揚する。


「俺の(いえ)のほとんどがそうだ。リギンがいなければ、うちの要塞造営事業は成り立たんだろう」


 そう評する魔王の声に、魔剣の老爺は「滅相もございません」と謙遜して微笑む。

 飛竜の発着場付きの魔王城について早々、ナハルには私室が用意されていた。

 港湾都市ローンよりも大きく広い。サンルーム付きという部屋は、近くにある美麗な湖の景勝地を見渡すことができ、港湾都市・ローンから見た景色の良さを存分に思い出させてくれる。どこまでも行き届いた魔王の差配に、ナハルは恐縮するほかない。


「では、さっそく修業を始める」


 ナハルは一も二もなく頷いた。

 軽い運動とストレッチにはアバルが付き従い、準備運動は万端整えられた。


「よし。次は、武器の製造だが……」


 それについては、既に一家言(いっかげん)を要してしまっているナハル。

 ……神への憎しみ、恨み、憎悪と怨嗟が引鉄(ひきがね)となり、彼女の腕には白光(びゃっこう)棘剣(きょくけん)──光り輝く鋼鉄以上の硬度に満ちた、刺々(トゲトゲ)しい──あるいは神々しい刃が、無数に輝く光の(とげ)となって生成される。

 ナハルの棘剣(きょくけん)は、(つか)部分が茨が巻かれたような形状で、場合によっては束を茨の枝葉のごとく広げ防御や攻撃にも使える。刀身120センチ──こちらの単位表記では「1.2ファード」あるいは「120ファー」──とそこそこ長いわりに、ナハルが振るう分には重みを感じない。が、その重量は1.2トン──現地の単位表記だと「1.2マター」──にもなるのだが、これすらも、ナハルの意志で改変可能。その刀身をキロメートル単位で伸ばしたり、円状に広げるなどして盾となるものを変成するなどの術理も確立された。刃を小さくした小剣を投擲して的に当てる技能や、手を触れた大地から棘剣を大量に生成・攻撃に転化することも可能となった。


「形状変化に重量調整、おまけに武器製造に関しては一本の聖痕が永続発動的に使用可能──おそらく、歴代で最も凶悪な勇者となりうるじゃろうな」とは、剣の指南役を務めたリギンの言葉である。


 ナハルの奇跡は、一度「こうだ」と決まった場合、それを再使用するのに聖痕を使用しないことも確認された。それが永続発動。

 棘剣も、棘鞭も、棘盾にいたるまあですべてが「一個の奇跡」とカウントされる──つまり、「聖痕が減らない」のである。

 通常ならばありえないことだと魔王は評した。

 勇者が武器などを練成した場合、それが破壊されるなどして奇跡を破却すると、別の聖痕の発動が必要になる──これを単一発動という──ところに、ナハルの場合は武器を破壊しても、一本の聖痕がそれを再生・再錬成可能という特別仕様だ。

 どこまでもインチキくさいというかチートじみている……ナハル・ニヴは無限の強さを秘めた、当代最高の〈勇者〉と称してもよかった。

 しかし、ナハルは鍛錬と修練を自己に課し続けた。

 幼い体はめきめき成長速度を上げ、事件から5年後──14歳になるころには、他の大人と遜色ない印象を受けるまで成長する。

 金髪には黒い髪房が混じっていたが、どちらが彼女の生来のそれであるかは、一同には瞭然たる事実である。

 話を現在に戻す。


「さて、うちの巫女(マーン・シーキャハ)が迎えに…………?」


 来ているはずと魔王が告げた──そんな折に、魔都へ急報が入った。


「港湾都市ローンが、〈勇者〉を名乗る一団に襲撃を受けている」と。




 そして、

 その港湾都市には、ナハルの叔母である修道女、ロースが残留している。





 ・





「これが噂に聞く暗黒大陸か?」


 緩やかな崖に沿って造営された一個の都市を、男は見上げた。

 暗黒大陸政党部隊の第一陣として、最初の船に乗った〈勇者〉ディーヴァス・アウス。

 (どう)に輝く髪に青の瞳。頬や額を含む全身には190を超える「聖痕」が顔面を含む右半身に刻み重ねられ、独自の光彩を放っていた。

 だが、彼の乗る船は長旅の末に座礁転覆し、そのまま海魔──海の魔者どもの襲撃を受け、同じ船団に乗っていた勇者(見習いを含む〉十五人が死亡。彼の「奇跡」でもって、船団の生き残りたちは、暗黒大陸の西海岸に漂着することができた。


「魔法の方位盤を見ても、確かにここが、暗黒大陸──〈魔者〉どもの根城であることは、確かかと」


 奇跡の成就によって、見事に命を拾った船団の一人、マカーンタ女史は告げる。彼女は父である提督の下、一等航海士として船団を導いていたが、急激な嵐に襲われ、それをディーヴァスに救われている。

 提督も船長も遭難死──否、海のバケモノ海魔に捕食された中で、おそらく現状、ここにいる漂着者の中では彼女が最上位に位置する(勇者はあくまで船団の客員であり護衛要員でしかない)。金髪の短い髪に(みどり)色の瞳の女性は日に焼けた褐色肌に涙をあふれさせ、自分たちの生存を神たちに感謝した。袖のない衣服は肩先と腹が露出しているが、彼女の筋肉美に覆われ、盛大に海水を吸った丈長の作業員オーバーオールの裾を絞っている。一刻も早く漂着者らの確認と救助に当たるマカーンタ。

 そんな祈りと救助活動に参加することなく、下卑(げび)た声を発する男が、一人。


「はは。〈魔者〉共が都市を築いているとは」


 彼の視線の席には、港湾都市・ローンが広がっている。

 感嘆に値すると剣を抜くディーヴァスに、マカーンタは悠長にたずねる。


「ゆ、〈勇者〉様、い、一体なにを?」

「勿論。魔者退治に決まっておろうが!」


 そう言って、彼は光り輝く剣を伸長させ、太陽のごとき輝きを燦々(さんさん)爛々(らんらん)と照らし出す。彼の右腕の聖痕一画が消滅し、巨大な攻撃態勢を構築させる──だが。


「お、お待ちください!」マカーンタ航海士が声を荒げた。「この都市の住人すべてが〈魔者〉であるとも思えません! どうか、今は交戦を控え、救助に徹す」

「貴様に命令される覚えはないぞ、一等航海士風情(ふぜい)が!」


 マカーンタは色を失った。鼻の奥がツンとなる前に、勇者に()たぐられるまま吹き飛ぶ一等航海士を、仲間たちが救いに行く。


「はん。聖痕に選ばれもせん、ゴミムシどもが。『必ずや暗黒大陸への旅を完遂させます』だのなんだのと言いつつ、この有様だあ! 我が戦友も海の藻屑と果てた──だが、まあよい。許してやる。俺は勇者故に寛大だ。夜伽(よとぎ)の五つで許してやろう」


 碧色の瞳が愕然と見開かれ、日に焼けた頬にサッと朱が差す──ディーヴァスは獲物を前にした肉食獣よろしく、歯を剥いて舌を舐めた。


「我こそが! 魔王退治の一番槍だ! はは、褒賞も何もかも思うがままだ! おまけに今回は随分と殺し甲斐のある数ではないか! せいぜい逃げまどえよ! 人喰いの〈魔者〉ども!」


 港で漂着者らの救護に駆け付けんとしてていた魔者たちに向かって、彼の聖剣が光輝を放った。

 太陽もかくやという灼熱の顕現──都市の港を破壊し、崖の家々を焼き払わんとした一撃を、


「そうはいかんのだよなー」


 気の抜けた声の持ち主が、足をすっころばせる感じで彼の攻撃方向を無理やりに天頂方面へ変えた。

 そうしなければ、港湾都市の住人や、そこの孤児院で働きだしたロースも、無事ではすまなかっただろう。


「だ、誰だ! 無礼者めが!」


 浜に転ばされ砂をかぶった勇者を見つめるのは、小さな純白の鎧を着た、黒髪の少年兵。ただの童にしては、闇一色の眼球が人外(じんがい)じみた雰囲気を(かも)し出している。

 その鎧の意匠は魔王国の民にとっては勝手知ったものであるが、初対面の勇者たち船団の生き残りにはわかるはずもない。


「万一に備えて、各都市に分散させておいて正解だったな。とりあえず、二、三か所からも増員しとくか」


 そう告げる声は大人の声。小さな鎧が徐々に大きさを増し、いつもの状態に近づいていく。少年兵は(クロガド)をかぶった。


「誰だと聞いているのだ、貴様!」


 銅色の髪が天を衝き、青い瞳が屈辱に戦慄(わなな)く勇者の姿に、純白の全身鎧を着込んだ男──闇は応えた。


「俺は魔王────魔王(アン・ターヴィルソル)陛下である。はい、拍手」


 自らの籠手(こて)で柏手をパチパチ打つ、純白の鎧。

 ディーヴァスは一瞬、怒りを忘れて自失した。


「魔王……だと?」


 誰もが固唾(かたず)をのんで見守った。

 ここで、こんな漂着地点の最初で、出会うべき相手にはふさわしくないように思えた。


「はっ! 虚偽を申し立てるな!」ディーヴァスは無論、彼の言葉を信じなかった。「魔王ごときが、そんなにも神聖な鎧を見に帯びているはずがない! 動く鎧の魔者か、何かであろう!」


 そう結論づける勇者の反応を、魔王は肯定的に頷いてみせた。


「うん。まあ。信じられないのも無理はないけど、本当は本当だからなー」


 緩い感じで答える魔王に対し、マカーンタ航海士が父の言を思い出した。


「パパが、提督が言っておりました……魔王は全身を純白の鎧で隠す“闇の王”だと……だとしたら、本当に?」

「は! なるほど、面白い考えだな! 魔王ともあろうものが! こんな大陸の端の砂浜で一体なにをやっているのやら!」

「それは勿論、都市にいる我が民と、君ら漂着者を助けるために来たんだけど?」

「笑わせるなあ!」


 ディーヴァスの剣が、またも太陽の色に染まる。刃渡り1.9ファードの、極小の太陽だ。


「魔王が民を救うぅ? そんな馬鹿な話があるものか!」

「いやいや。世界は広い。そういう魔王が一人くらいいても不思議でも何でもない、でしょ?」


 勇者は答えなかった。答える代わりに、再び聖痕を消費し、瞬間的に脚を強化。

 そして、


「んなものがいてたまるかあああああ!」


 太陽の剣を魔王の鎧に振り下ろすディーヴァス。

 わずか一秒にも満たない剣戟(けんげき)

 魔王の鎧の上腕部が断ち切られた。漂着者たちの歓声(かんせい)が鳴り響く。


「民を護るとは、我々勇者の仕事だ! 魔王と僭称(せんしょう)する鎧ごときが、(わら)えること言ってんじゃねえぞ!」


 宣告と共に太陽の刃を向けるディーヴァス。対して魔王は、


「ああ、やはり薄かったか……二、三体じゃあ、やっぱりちょっと足りないか?」


 どこまでもマイペースな純白の鎧に、ディーヴァスは(ほぞ)を噛んだ。


「ふざけてんじゃ──っ!!」


 追撃の剣戟を浴びせようとしたところで、赤髪褐色の軍服の青年に蹴りを入れられた。

 一瞬のことで受け身を取り損ねたが、彼が蹴ったのは“太陽の刃”である。


(嘘だろ? 俺の太陽剣を蹴っただと?)


 どれほどの技量、どれほどの耐性のなせる業かと戦慄する勇者。

 軍服の青年は、烈火のごとき怒気を孕んだ暴声で、言い捨てる。


「なにが太陽の刃か。そんな“(うず)()”など、このソタラハには微熱程度にも感じられん──」

「よもや、まさか貴様が本物の魔王か!」


 彼の服装の見事な仕立て。彼の戦闘力の発露に誤解したディーヴァスは、竜の逆鱗に触れた。

 漂着者を統べる勇者の問いかけに、極低温の竜声が一言をそえる。


「──私と陛下を間違えるなどとは、万死に値する──」 


 炎を吹き出し、本来の竜の姿に立ち戻っていくソタラハ。翼が生え角が伸び、竜の鱗と翼に覆われた、四足獣の偉容。

 ここにいる全員を焼死させるには十分すぎるほどの熱量を喉元に蓄積しつつ、竜の瞳で漂着者の群れを睥睨する。

 恐慌に囚われ、マカーンタのように失禁すらするものが多い中で、ディーヴァスだけは余裕な表情のままだ。


「りゅ、竜など恐るるに足らん! 征竜王伝説に、攻略法は書いてあった!」


 不愉快な伝説を話題にさ、ソタラハの殺意が増す中。


「よせ、ソタラハ」

「な、ですが、陛下!」

「彼らは“漂着者”だ。そのことを肝に命じろ──わかったな?」


 魔王の分身体である鎧に、彼は礼節の限りを尽くした。


「どうか、話を聞いてほしい」


 魔王はどこまでも友好的に接した。


「我々は話し合いですべてを解決できるはずだ。当方に敵意はない。そちらも、剣をおさめてくれれば」

「ふっざっけるなああああああああああああああ!」


 勇者の咆哮(ほうこう)があがった。

 どうあっても。勇者としての矜持(きょうじ)、教会からの先例という名の“入れ知恵”が、彼の認識を敵対の方向へ(かじ)を切らせるしかないらしい。


「ここで魔王を討伐すれば、恩賞は我が物! 逃げる道理などなければ、話し合う余地などあるわけもない!」

「──本当に?」

「む、無論だ!」


 そもそも人喰いの魔王の話など聞く耳もたない、太陽剣の勇者。


(ああ──ダメだ)


 魔王は決断する。


「では『死ぬがいい』」


 突如発生した黒い(もや)が形象を整え、闇の(ひつぎ)と化した。それが刹那のうちに、ディーヴァスの全身を覆いつくす──それでも、彼は雄叫びをあげて太陽剣を振るい、棺の破壊を試みた。が、すべてが無駄であった。右半身に刻み込まれた100を超える聖痕も、すべてが無為である──

 魔王の死刑宣告は、絶対。

 棺は徐々に小さくなって、最後には黒い(ハコ)となっていく。その中に収棺された人間の運命は、圧死あるのみ。彼は、彼自身が持つ太陽剣すら維持できなくなり──





「待ってくださいッ!」




 その少女の声が、浜辺に(こだま)した。

 ソタラハの飛行速度に適う魔者は存在しない──

 聖痕による奇跡を使い、ここまで転移してきたナハル・ニヴが、戦闘に介入した。












・分岐点のひとつ・


    ディーヴァスを ▷ 助けない

              ▶ 助ける


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