表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

凍った波打ち・4

新書「凍った波打ち」4(グラナド)


コーデラ出身の冒険家ポーロ・マーカスの著書「東方での記録」より。


《東方の島国ヒミカは、代々、鬼道を得意とする、女王の治める国だった。

初代から四十九代までを、ヨモツ朝、五十代から六十五代までをロウカン朝、六十六代から、現代の七十一代までを、マンヨウ朝と呼ぶ。これらは、それぞれの都の名である。


(中略)


ヨモツ朝最期の女王、四十九代目のトヨカは、鬼道の力が無かった。だが、美しい声と人を丸め込む話術、そして、「蛇欲」と呼ばれる淫らな気によって、姉イソラを押し退けて、即位した。

賢明な父ヤシロトは、信頼する豪族のマクラギ氏にイソラを託し、彼の長男と結婚させて、臣下の妻として、西の海辺の田舎町、ロウカンに逃がした。

イソラは鬼道の力を人々に役立て、彼女を慕う人々は、都を離れ、ロウカンに集まった。

荒淫を貪り続けたトヨカは、父親のわからない子供を身籠り、女王の座を追われたが、大河を越え、東の蛮族の土地に逃げた。

東の蛮族は言葉は通じたが、文明が無かった。

近親で交わり、結婚前も後も貞操を守らず、人を殴り殺しても罪にはならず、金に困れば人を襲った。農地の肥料は人の死体であった。人々の性は嫉妬深く僻みやすく、狂暴にして凶悪であった。

トヨカは蛮族の女王として君臨し、都を攻めようとしたが、蛮族は兵士とはしては優秀だったが、迷信深い彼等は、慣習で、大河を越える事は出来なかった。ほどなく、イソラを擁したタカマガ氏とマクラギ氏、ヤコウ氏、ミカズチ氏に撃退された。この四氏は、「蛇欲」の効かない氏族だった。

平和は戻り、イソラは五十代目として正式に即位した。蛮族はほぼ討ち死にしたが、生き残りは許された。イソラの夫は勇敢に戦い、死亡したため、タカマガ氏より婿を迎えた。都はヨモツから、ロウカンに移された。

イソラは息子ヒナギノミコト、娘ミラノヒメミコを産んだ。ヒナギノミコトはヤコウ氏の長女の婿になり、ミラノヒメミコは、ミカズチ氏より婿を取り、五十一代目の女王になった。


「殿下、殿下。」

ガディオスが声をかけていた。

「熱心ですね、歴史ですか?」

「どっちかと言うと、古典かなあ。」

古典、と聞いて、ガディオスは少し身震いした。

「先月のオペラの原作に当たるというから、読んでみたんだけど、ぜんぜん違う話に見える。脚本家、すごい想像力だな。」

「それ、『東方夜話』の方ですよ。著者名が同じだから間違えやすいですけど、百年近く差があります。」

とアリョンシャが説明した。ガディオスが、

「まあ、そろそろ、お時間ですから。」

と明るく、古典から目を反らして言った。

今日はザンドナイスの公爵の誕生パーティだ。長寿のお祝いでもある。

本は置いて、公爵邸に向かうため、俺は、部屋を出た。


明くる日、図書館に「東方での記録」は返し、「東方夜話」を借りた。これで知的好奇心を満たした俺は、それ以来、「東方での記録」は忘れていた。


ファイスが仲間になった時、ふとその本の事を思い出したので、船の上、朝食の席で聞いてみた。

ヒミカの歴史は、ソウエンの史書に歴代の王の名前が出てくるだけで、細かい事はよく分かっていなかったが、エパミノンダスの事件の時、避難してきた人達が、まとめた物がある。「東方の記録」は、「講談物」が元になっているから、派手な戦闘のある所は詳しいけど、他は適当だ。

ファイスの説明は、このような物だった。

「まとめた物」を読んだかどうか聞きたかった。が、その時、カッシーが、ラズーリが寝坊している、珍しい、と言ったので、俺が起こしに行ったため、聞けなかった。


そして再び、「東方の記録」は、片隅に追いやられた。


しばらくの間。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ