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蒼天の荒鷲・8

新書「蒼天の荒鷲」8(シュウ)


思いきりぶつかって、転げた。行き交う駅、ハオとソウンと、俺の間に、商人の団体が入り、遅れを取るまい、と焦ったからだった。追い付こうと慌てた。

俺は、平謝りに相手に謝り、自分のと相手のと、とにかく散らばった書類を拾い、まとめて受け付けに出した。

「ほい、ギリギリだな。仲間は一足先になるぞ。」

馴染みの受け付けが、調子よく言った。

受け付けは、俺のあと、数人で締め切り、「後は明日の便だ。」と言われていた。

俺は、ぶつかった相手に、

「いや、すまん。俺のせいで、ギリギリ、間に合わなくなるとこだった。」

と謝りながら、指定された列車に向かった。ハオとソウンは、一本速い列車になる、といわれていたが、結局は同じ列車だった。

ハオは、火吹き鳥狩りは初めてだ、と言っていた。ソウンは二回目だと言っていた。俺もだ。

俺は、北チウゲートで傭兵をしていたが、シーチューヤとシュクシンの国境は、至って平和で、傭兵の仕事は不足していた。ハオとソウンは元はセートゥの出身らしい。

「これを機会に、本格的に、セートゥで仕事を探そうと思って。」

と、知り合ったばかりの、銀目のコーデラ人に説明した。コーデラ系の傭兵は、シーチューヤには珍しかった。

「あんたも、初めてか?火吹き鳥狩り。」

と、ハオが尋ねた。だが、返事を待たずに、そうと決め込んで、話を進めた。

「今年は、人手が足りない、と言ってた。綺麗な鳥だけど、ちゃんと狩っとかないと、人里に降りてきたら大変だしな。意外に凶暴だから。」

俺は案内書を見ながら、喋った。どうやら、初めてなのは確かで、熱心に聞いていた。

「コーデラのギルドも人集めてるみたいだが、あっちは、魔法が使えないとなあ。」

「最近はそうでもないらしいぞ。」

「まあ、よく知らん所にいきなり行くのも、なんだ。このクエスト、巡り合わせ、良かったな。」

「何ヵ所か狩り場があるから、同じ所になるかわからないが、とりあえず、よろしくな。ええと…。」

「ファイストス。」

銀目の彼は、静かな声で名乗った。

「長いな。ファイ、でいいかな?」

と俺が言った。

「ああ…いや、『ファイス』と呼んでくれ。」

「そうか、よろしくな、ファイス。」

ソウンが、自分の村には、「フェイン」「フェイトゥ」「フェイツォイ」という名前の、年の近い子が三人いて、「フェイ」と呼んだら、三人同時に返事をする、短いのも考えものだよ、と、面白おかしく話して、笑わせていた。


ファイスとは縁があり、セートゥでも暫く一緒に働いた。彼は、結局、コーデラに行くことにしたが、出発の前の日、

「コーデラに行こうか、ヒンダ回りで東に行くか迷っていたが、シュウとぶつかったお陰で、セートゥに来ることになった。」

と初めて聞いた。

「シュウの『どじ』のお陰で、回り道か。」

と、当時の上司のイオ隊長が言い、全員で笑った。


思いがけず、コーデラの勇者の一行にいて、再会した時は、驚いた。妻にその話をしたら、

「やっぱり、一番出世したわね。そういう人相だと思ってたわ。」

と言っていた。


コーデラに戻る前に、一晩、うちに招いた。妻は、カッシーという女性が、一緒に来ると掛けていたが、掛けは俺の勝ちで、ファイスは、一人でやって来た。

さりげなく尋ねて見たが、まだ、腰を落ち着ける気はないようだった。


妻の弟妹が、勇者の一行の話を聞きたがったので、口下手ながらも、一生懸命、説明してくれていた。

コーデラやヒンダ、東の果て、両親が死んで、傭兵になった時は、俺は、前向きに、世界を見て回ろう、と思っていた。今は方向は違うが、前向きに、セートゥで基盤を築いている。

「自由」なファイスが、少し羨ましかったが、それは、今の俺だから、感じる事なんだろう。


セートゥの懐かしい夜に、しみじみと思った。



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