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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第四章 教えるのも試すのも楽じゃない
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勉強会と言ったらお泊り会だよなあ!①

「さて、今日はこれで終わるか」



 勉強が一段落したのもあるが、時間は午後六時。夏時だからまだ明るいが、帰宅する理由としては十分な時間だ。



「そうだね。……疲れたぁ」



「え、もうそんな時間何ですか!?」



 机に向かっていたせいか伸びをしている梅森さんと、集中していて時間の感覚がズレたエリス。



「私はもう少し頑張りたいのですが……時間なら仕方ないですね。また明日にしましょう」



「そうだね」



 勉強道具を片付けて帰宅準備をする二人。



「え、明日もやるの?」



「当然です! これじゃ物足りませんし、まだまだやることは多いんですから!」



「……ちなみにどこでやるの?」



「ここに決まってるじゃないですか。言ってませんでした?」



「初耳なんだけど……」



 聞いてないぞそんな話。



「エリスさん、言ってなかったの?」



「いやー勉強に夢中で忘れてました!」



 それは良いことだけどさ……。



「明日は特に予定いれてないし、大丈夫だけど」



「良し!」



「良しじゃない。次はちゃんと連絡して」



「分かりました!」



「あら、二人ともせっかくだし晩ご飯食べていく?」



 そんな姿を見て、翡翠が提案する。



「……本当は有難いのですが、清貧を志す者としてあまり翡翠さんのお料理を食べ過ぎると戻れなくなりそうなので……」



「私もお母さんがご飯作ってくれてるので。ごめんなさい」



「いえいえ、良いのよ~」



 それぞれ事情がある。それは仕方ないことだ。



「じゃあ代わりに透さんが送っていくわね~。良いわよね?」



「俺は構わないけど……」



「じゃあ千里さんを送って下さい。私達家が逆方向ですし、私はここから近いので」



「それもそうだな」



 それにエリスなら何者かに襲われても返り討ちにしそうだ。戦力を考えると梅森さんに付くのが道理だな。



「……それは嬉しいけど、外、凄い風だよ?」



 窓の外を見ると、朝に比べ風の音が大きく甲高い。しかも雨もポツポツと降り始めている。



「透さんなら大丈夫、何があっても守ってくれるわ」



「翡翠の言う通り、任せて」



 これでも要人警備の時に襲ってきた刺客を守りながら倒したことだってある。それに比べれば風が強い程度、どうということはない。



「只今戻りましたーっ!」



 げ。この透き通る声は──



「あら夜鶴さん。おかえりなさい」



「ただいまです翡翠さん。おや、そこのお二人は確か──エリスさんと、梅森さんでしたね」



「あっ、鳴神君の従姉の」



「はい! 夜鶴です」



「ただいま。ちょっと夜鶴、手ぐらい洗いなさいよ」



「紅葉君の言う通りだね。清潔は大事だ」



 夜鶴の後から、紅葉と紫苑がやって来た。その後に金鈴と、知らない人がいてビックリしたのか秋奈

が夜鶴の後ろに隠れる。



「お帰りなさい紅葉さん、紫苑さん」



「あーつっかれた。何なのあの風」



「ドンマイ」



 何だか不満げな金鈴と励ます秋奈も帰ってきた。



「みんな早かったな。今日は夜までじゃなかったか?」



 今日は二人と鉢合わせしないために温泉ランドで夜までいるはずだった。せっかく俺の財布渡したん

だから豪遊すればいいのに。



「暴風警報出て電車止まりそうだったから早めに帰って来たのよ」



「え、警報出てんの?」



 紅葉の言う通りか確認するためスマホで調べると……本当だ。警報出てる。



 なら、他に懸念すべきことがある。



「透さん、電車止まってるわ」



 俺とほぼ同時にテレビをつけて調べていた翡翠が告げる。



「えっ、どうしよう……」



 それに真っ先に反応したのは梅森さんだ。



「どうしたんだい?」



 困惑している梅森さんに紫苑が問いかける。



「私電車で来てたので……」



「ああ、そういうこと」



 電車が止まってしまったなら、梅森さんは自宅に帰れない。



「透さん、大雨警報も出ちゃったみたいね。既に近くの川が氾濫危険域に達したみたいだわ」



 テレビからの情報を提供する翡翠。



「それってどこの川ですか?」



 それに反応したのはエリス。



「えっと、(はり)(やき)川ね」



「うっわ、帰り道じゃないですか」



 エリスも帰宅困難になってしまったようだ」



「……ちょっと、どうすんのよ」



 紅葉が二人に聞こえないように耳打ちしてきた。



「……正直どうすればいいか分からん」



 まず梅森さんの問題だが、電車が止まっている以上帰宅方法はないと考えていい。徒歩で帰るのは二つの警報が出ている現状では危険すぎる。



「そう言えば、梅森さんの最寄り駅ってどこなんだ?」



西夢(にしむ)(むら)です」



 夏原駅から八個先か。車じゃないと無理だな。親御さんに迎えに来てもらうか。



「親御さんに連絡して迎えに来てもらうのはどうだ?」



「うん、連絡してみるね」



 梅森さんはスマホを持って廊下に出る。



 さて、梅森さんの方は回答待ちとして、次はエリスの方だ。



「エリス、自力で帰れそうか?」



「うーん、川が氾濫しそうなら無理っぽいですね。私の異能じゃ自然の水は操れないので」



「そうか……」



 体育祭の事を考えたらいけるかと思ったんだが、そうは上手くいかないか。



 そうだ、《十二枚刃》と《三千世界》を使えば……と思ったが無理だな。暴風雨の中じゃ《十二枚刃》を使うのは危ない。万が一風に煽られて民家に激突したら大問題だ。



「ってことは、しばらく様子見か?」



 天気が回復するまで待つか。



「それは無理よ。天気予報だと朝までこの調子みたいだから」



 テレビ画面を見ていた翡翠が教えてくれた。



「じゃあここでお泊りするしかないみたいですな」



「いやそれは駄目だろ」



「何でです?」



 エリスさんそこ疑問視しますか。そちらの教義に引っかからないの?



「常識的に考えて、男の家に女の子が泊まるってのはどうかと」



「……普段の男女比知ってて言ってます?」



「うっ……」



 確かに、エリスの言う通り男女比は一対七だ。一人ぐらい増えても状況はさほど変わらない。



「いやでも、みんなは家族みたいなものだし」



「それ、家族じゃないなら手を出すって聞こえますけど?」



「それは……」



 確かに。



「鳴神さんってそんなにスケベな人だったんですか?」



「いや違うけども!」



「ならいいじゃないですか」



 ……くそ、反論が出ない。常識的に考えて駄目なはずなんだ。でも反論すればするほど信用が失墜していく。何故だ。



「……分かった。二階に客室があるからそこ使ってくれ」



「ありがとうございます」



 くそう。何だか良いように操られてる気がする。流石は世界最大の宗教団体幹部。



「鳴神君」



「梅森さん、どうだった?」



 電話を終えた梅森さんが戻ってきた。



「それが……お父さんもお母さんも仕事で帰れないって」



「そりゃ参ったな……」



「それで、何だけど。泊まらせてくれないかって」



 こっちもか。



「男がいるって言った?」



「言ったけど、緊急事態だし仕方ないって。……二人とも乗り気だった」



「ええ……」



 それで良いのかご両親。



「事情は分かった。エリスと一緒に二階の客室使ってくれ」



 もうどうとでもなれ。



「エリスさんも泊まるの?」



「そうなんですよー」



「話は決まったかい?」



「じゃあ着替えとか用意しないといけないわね」



 紫苑と紅葉が話に入る。



「じゃあ私は料理の準備をするね」



 翡翠はキッチンに入った。



「そう言えば私はちゃんと挨拶していなかったね。私は戸塚紫苑。大学院生だ」



「アタシは如月紅葉。専門学生よ」



「じゃあ次はあたしか。夢原金鈴。ここの管理人だよ」



「梅森さんは二度目ですね! 私は鳴神夜鶴。大学生です!」



 式神達の紹介が終わる。ちゃんと偽装歴を覚えているようで一安心だ。



「あ、私もまだね~。神宮寺翡翠、職業はさっき言ったけど、家政婦よ~」



 料理をしながら、背中を向けて自己紹介した。



「なるほど。で、そこに隠れている方は?」



 エリスの指摘に、夜鶴の背後に隠れていた秋奈に声を掛ける。



「っ」



 しかし秋奈は夜鶴の背後に隠れたまま出てこない。



「その子は黒木秋奈。藤宮の生徒だよ。人見知りだけど、いい子だから仲良くしてやってくれ」



「そうでしたか! 私はエリス・ガブリエル・ホーリーと言います! 鳴神さんのクラスメイトです、よろしくお願いしますね!」



 明るく笑顔で挨拶すると、秋奈は少し顔を出し、



「……よろしく」



 と返した。



 エリスとは相性悪いかなと思ったが、そんなことはなさそうだ。



「秋奈、こっちは梅森千里さん。同じ委員会の仲間だ」



「えっと、秋奈さん。よろしくね?」



「……よろしく」



 こっちも問題なさそうだ。前から二人は似ていると思ってたから心配していなかったが。



 いや、こうして見るとあんまり似てないかも。梅森さんは内気なところがあるだけで社交的、秋奈は人づきあいが苦手だから内気に見えて実は積極的だしな。



「皆さん、ご飯はまだかかりそうだから先にお風呂に入っちゃいなさい」



「そう言えばずぶ濡れだったわねアタシたち」



「そうだね、お言葉に甘えさせてもらおうか」



 紅葉と紫苑が自分の服を見て言う。そこまで濡れてない気がするが。



 しかし風呂に入るのか。じゃあ俺は部屋に引き籠るか。



「エリスさん、梅森さんも一緒にどうですか?」



 夜鶴が二人を誘う。



「私達もですか?」



「え、流石に入りきらないんじゃ……」



 困惑している二人に、金鈴が注釈を付ける。



「心配ご無用。うちの風呂は温泉施設並みに大きいから。十人は軽く入れる」



「金鈴さんの言う通りです! さあ、善は急げ、ですよ!」



「……着替えは私のを貸すね」



 何てやり取りをしている間に《隠者》で気づかれずに部屋に戻った。



 いやはや、あの人口密度は精神衛生上悪いわ。


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