神殿⑤
「……んあ?」
野営の経験が残っていたせいで、何か変な気配を感じて意識が戻っていく。
「あ、お、起こしちゃいましたか?」
この声は……天白か? 部屋が暗くぼんやりとしているので上手く姿を捉えられない。
「天白、あれほど邪魔をしないようにと念を押したでしょう」
地黒の声も聞こえてきた。もう朝なのか?
「……おはよう」
「ご主人様。まだ午前三時なのでおはようというのは不適切かと」
「……え?」
じゃあ何で二人がいるのと疑問が浮かぶが、まだ覚醒していない頭ではその疑問を解決してくれない。
時間が経つにつれ視界が鮮明になり、二人の姿を捉えた。
「何で二人ともベッドに入ろうとしてんの?」
二人は何故か足が掛け布団に入っていた。しかも服装がいつものメイド服ではなくスケスケの衣装だ
った。あれか、ネグリジェとかベビードールとかいうやつか。初めて見たが……これはヤバいな。破壊力があり過ぎる。
暗くて細部まで見えてないのが救いなのか残念なのか、それすらも判断できない程に。
「そ、それはですね! 添い寝をしようかと思いまして!」
いつものオドオドとした雰囲気は何処へやら。天白から妙に強気というか意地でも押し通るかのような気迫を感じる。
「……何で?」
しかし、俺には天白がその結論に至った経緯が分からない。
「天白が言うには、疲れた男性を癒すのは同衾することだと」
地黒が答えてくれたが、それ別の所が元気になるだけでは? むしろ疲れるのでは?
「……いやそういうのいいから」
健全な成人男性としては喜ぶところ何だろうけどそっち系よりも今は寝たい。話から考えると提案したのは天白か?
「天白、その知識間違ってるからな」
だが、こっちは死ぬほど疲れている。そっち系に費やせる時間がない。そんな時間があったら一刻も早く身体を休ませて両腕を再構築しなきゃいけない。
「え!? で、でも確かに広告には……」
情報源そこかよ……。てか何の広告だそれ。
「色々と言いたいことはあるけど……もう寝させてくれ」
天白も地黒も俺の事を想ってしてくれたのは事実らしいし、それは嬉しいことではあるんだけど……タイミングが違う。いや、タイミングが良くても受け入れないとは思うけど。俺小心者だし。受け入れられるならとっくに童貞卒業できてる。
「二人ともお休み」
布団が掛かっていないが枕に頭を預けて目を閉じる。強引ではあるがこちらの意志は見せた。二人も
分かってくれるだろう。
「……どうしますか天白」
「ど、どうするって……」
俺が断ったことで二人に混乱が生じているようだ。
まあそれも経験という事で。神殿生活じゃ混乱するようなことはないだろうから、いい勉強になるだろう。
「と、取り敢えずお休みと言われたので天白達も休もう?」
「そうですね。それ位しかできることはないでしょう」
「じ、じゃあ布団掛け直さないと」
目を閉じているので音声しか拾えないが、同衾の危機は去ったようだ。
そして掛け布団の重みを感じて一安心──
すると思いきや、両側から体温を感じる。
「……二人とも、自分の部屋に戻らないの?」
目を開いて事実確認するのが怖いので、目を閉じたまま話しかける。
そうしている間にも《人間外装》を施した両腕に何かが絡んできた感触が。恐らく二人の腕だ。
……いや何してんの。
《人間外装》にもちゃんと感覚を再現する機能があるので、二人の感触は分かる。
でも《人間外装》は元々の腕より脆い。現人神の肉体であることを差し引いても、耐久性は低く造られている。これは《人間外装》が幽霊の未練を成就させるために実体化させることが目的のため、耐久性を上げる必要がそんなになかったからだ。
なのであまり抱き着かれると《人間外装》が剥がれてしまうのだが、どうやらそれは弁えてるようで絶妙の力加減でくっついている。
引き剥がそうと両腕を動かしても、まだ馴染んでいないせいか上手く動かせない。起き上がろうとしても身体が寝る態勢になってしまったので力が入らない。
……しゃーないか。
出来ることは何もないし、もし二人を引き剥がそうとすれば二人の気遣いを無下に扱ったことになる。
ということで、この状況を受け入れ(諦めとも言う)さっさと寝ることにした。
おやすみ!




