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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第四章 教えるのも試すのも楽じゃない
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神殿②

神殿の構造は三層構造となっている。



 第一階層は侵入者を排除するための階層。だからここには何もなくただ広いだけの階になっている。



 次に第二階層は地黒と天白の居住スペース。



 そして此処を下りた第三階層こそ、《異能工房》で造った物を保管する倉庫だ。



「あ、あの、ご主人様」



「ん? 何だ天白」



 階段を下りている途中、天白が恐る恐る話しかけてきた。



「神殿に来た理由は何となく分かりますが、どうしてわざわざ神殿に足を運ばれたのですか?」



 天白の言う通り、今回の来訪目的は《異能工房》にある呪具《人間外装》だ。



《人間外装》は魂に巻き付ける包帯で、主に幽霊を実体化させるために使う呪具だ。



 しかし、今回の使い方はそれではない。俺の魂に巻き付け、見た目をよくするためだ。



 というのも、現人神の肉体再生には魂の形を元にする。そして魂の形は同期するから魂と肉体は同じ

形をしている。



 つまり、《人間外装》を巻き付けることで見た目上は腕が元に戻ったようになるのだ。



 ただ、自分の意志で動かせることはできない。魂の動かし方は肉体がある生者では不可能。動かしたいなら死んで幽霊になるしかない。



 だから両腕骨折したように偽装し動かせないのは当たり前という工作をする。こうすれば悪目立ちはしないはずだ。



「いやー呪力が足りなくてな」



 《人間外装》は《異能工房》造った呪具である以上召喚は可能だ。



 しかしそれも呪力があればこそ。地上のみんなに腕がなくても支障が無いよう説明した時に《金剛千手》を使ってしまった為呪力が足りないのだ。支障あるじゃねーか! 



「そ、そういうことだったんですね」



「それ以外にも神殿にいた方が腕の再生が早いからな」



「ご主人様、到着致しました」



 第三階層に着き、地黒に扉を開けてもらう。ここには警備システムを配置していないので警戒する必要はない。今まで何度か侵入者はいたが、それら全て地黒と天白に返り討ちされているからだ。



 倉庫には整理整頓された呪具や資源が置かれており、きちんと整理されている。



「地黒、《人間外装》はどこだ?」



「お待ちください。すぐにお持ち致します」



 この倉庫は地黒が管理しているため、俺ではどこに何があるか全く分からない。俺は召喚できるから把握しなくてもいいからな。



「あ、あの、ご主人様」



「ん? どうした」



「た、立ったままというのも何ですし……す、座りません、か?」



「それもそうだな」



 でも座るところがない。ここはただの倉庫で、机や椅子なんてない。見渡してもそれを確認できる。



「あ、す、すみません! いくら何でも地べたに座るのはダメですよね!」



「いや、別に良いけど」



 地黒の管理が行き届いているのか、倉庫の地面は綺麗で汚れ一つない。このまま座っても服が汚れるということはないだろう。逆にこっちが汚しそうだ。



「わ、私が椅子になります! どうぞ!」



 だが天白はそう思ってないようで四つん這いになってしまう。



「いや地べたで良いから……」



 ミニスカという事もありパンツが見えそうになったのですぐさま目を逸らす。



「とりあえずこれに座ろう」



 《劣化複製(コピーメーカ―)》を使って長椅子を作る。呪力不足でちょっと苦しいが天白の上に座るよりはマシだ。



「ほら、横に座って」



 ポンポンと長椅子を叩いて天白が座るよう促す。



「は、はい! しし、失礼します!」



 サッと立ち上がりスッと座った天白。



「……っ」



 機敏な動きのせいで、天白の豊満な胸が揺れた。



 血流が活発になるのを感じたが、俺はいい大人。悟られないように心を落ち着かせる。



「…………」



「…………」



 そして静寂の時が流れる。



「そうだ、何か変わったことはあったか?」



 何か話した方がいいだろうと思い、子どもとの距離感が掴めず当り障りのないようなことを聞く父親みたいな話の切り出し方になってしまった。



「そ、そうですね。特に変わったことはなかったと思います」



「そうか」



 そりゃずっと神殿にいるんだから目覚ましい変化はないか。



「し、侵入した方もいらっしゃいませんでしたし」



「それは何よりだ」



 俺の事を創造神の現人神であることを知っているのは少数。俺の存在は一応機密案件だからな。



資源がないこの国にとって無限の資源を生み出す俺は正に国を変える力を持つ。なんか豊かになってきたら俺のせいだと思ってくれていいよ。



「ご、ご主人様はどうでした?」



「うーん、そうだなあ……」



 確かにここ最近は色々あった。アルカナの登場や三日月の共鳴として神遊祭に出たこととか。あと体育祭もそうだな。



……全部アルカナが関わってんじゃねえか。



「割と忙しかったかな。普段の仕事に加えて緊急の仕事もあったし」



 忙しさの元凶あいつらだな。さっさと問題解決に当たろう。



「た、例えばどんなものでしたか?」



 そう尋ねてきた天白の瞳はキラキラと輝いていた。



 きっと娯楽に飢えているのだろう。



 ここは天白のため、多少の脚色を付けて面白おかしく話そう。



 そして俺は近況を語り始めた。



 人に語るのは経験が乏しいため天白を楽しませられるか心配していたが、天白は俺の言葉一つ一つに反応し、時に話を急かしたり、時には泣いたり、時には心配して来たりと、多種多様な反応を見せてくれた。



 それが何だか嬉しくなって、ちょっとだけ事実を大げさにしてしまったが、天白がこんなにも楽しん

でくれているんだ。少しぐらいは目を瞑ってくれてもいいだろう。



「お待たせしましたご主人様」



 話が終わった頃に薄橙の包帯を持った地黒が戻ってきた。あれが《人間外装》だ。



「まあ、最近はこんな感じだよ」



「そ、そうなんですね! 楽しかったです!」



「お話のところ失礼致します。私が処置致しますのでジッとしていてください」



「任せた」



 地黒は《人間外装》を広げ、右腕の切断面に巻き付けていく。



「よくできるな。魂見えないだろ」



 魂を見るには《霊視の魔眼》が必要だ。地黒はそれを持っていない筈なのに、まるで見えているかのように的確な処置を行っている。



「確かに魂は見えませんが、ご主人様の腕の形は覚えておりますので」



 その言葉に偽りはないようで、テキパキと指先まで完璧に《人間外装》を巻き付けた。



「では、左腕ですね」



 そして地黒は一分も経たないうちに《人間外装》を左腕に巻き付けた。



「これでいかがでしょうか、ご主人様」



 立ち上がり、天白が持ってきた姿見に映る俺を見た。



「完璧だよ。ありがとう地黒」



 見た目の違和感が全くなく、指摘されても気づかない仕上がりだ。



「いえ、式神として当然です。次は骨折偽装致しますので座って下さい」



「はいよ」



 天白が持ってきた添え木と三角巾を受け取り、両腕を固定し、三角巾で吊るせば骨折擬装の完成だ。



「如何でしょうか」



「うん。問題ない。ありがとう二人とも」



「いえ、主の命に従うのは式神の責務ですので」



「こ、このぐらい当然です」



 謙虚だなあ。こんなに効率よく動けるなんて普通の域超えてるんだけどなあ。



 しかし、本人たちがこう言っているのだから、指摘するのは野暮だろう。



 ……あ、そう言えば理事長に報告しないといけないんだった。



「地黒、ちょっとポケットから携帯取ってくれる?」



「承りました」



 地黒は体操服のポケットから携帯を取り出した



「この連絡先に電話かけて」



「この方ですね」



 相手は──雨宮さん。



 地黒は携帯を操作して俺の耳に当てる。



『もしもし、雨宮です』



「もしもし、鳴神ですけど、理事長は居られますか?」



『申し訳ございませんが、理事長は今会議中です。ご用件をお伺いしましょうか?』



「あー、依頼の報告なんですけど」



『……お手数をおかけしますが、十時ごろにこちらに来ていただくことは可能ですか?』



「できますけど……」



『でしたら誠に恐縮ですが、その時間にお越しください』



「分かりました。失礼します」



 向こうも忙しそうだ。あんなことがあったのだから当然だけど。



「地黒、天白。ちょっと出てくる」



「分かりました」



「い、行ってらっしゃいませ」



「それと、しばらくこっちに寝泊まりするから、第二階層の俺の部屋って使える?」



 第二階層には俺が《異能工房》を使うためのスペースがある。寝るには手狭で寝具はないが再生を早めるためだ。多少の不便さは許容範囲。



「使えますよ。ですが片付いてはいないです。」



 立ち入り禁止にして、そのままにしていたからな。それはしょうがない。俺が掃除してないのが悪い。



 それなのに作業スペースの状況が分かるのは神殿の管理者だからだ。



「済まないが地黒、掃除を頼めるか」



「御意に」



「ありがとう。──行ってくる」



「行ってらっしゃいませ」



「い、行ってらっしゃいませ」」



 二人の声がハモり、俺の不注意で仕事を増やしてしまったことに罪悪感を覚えながら物置に戻る。



 ギリギリの呪力で《金剛千手》から二本腕を出す。



 そして扉を開け庭まで出るのだった。



「お、お帰りー」



「金鈴、いたのか」



 てっきり家に戻っているもんかと思ってた。



「ちょっと空をね」



「ああ、今日は良く見えるな」



 上を見ると、夜空には星が瞬いていた。



「で、戻ってきたってことはまた開けるの?」



「あ、そうなるな」



 しまった。金鈴の負担を考えてなかった。



「仕方ない、ここで待ってるよ」



「いいのか?」



「良いの良いの。あたしがしたいだけだから」



「……ありがとう」



「早く行ってよ? あたしにも限度があるから」



「そうだな」



 なるべく早く帰ることを決意し、俺は学校に向かった。




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