神殿①
時間は少し巻き戻る。
そう、あれは家に帰宅した頃だ。
「全く、参ったもんだ」
体育祭から逃げるように帰った俺を待っていたのは式神と秋奈からの抗議だった。
いや、一部抗議の枠を超えていたような気がするが、心配をかけてしまったのは事実。受け入れなけば。
でも陸斗の一撃、蒼司の水責め、雷夢の雷撃はやり過ぎだと思う。
勿論、説教もされた。翡翠や光明、紫苑が中心となって二時間ぐらい説教された。おかげでもう陽が沈みそうになっている。
あとは心配してくれた秋奈、夜鶴、翔鷹、銀華、黒鋼。そして無関心を貫いた金鈴。特に夜鶴は泣かせてしまったし、秋奈は見た目こそ変わらないもののすごく悲しそうだった。
反省には十分すぎて罪悪感を覚えた。翔鷹、銀華、黒鋼の三人は仕方ないなという雰囲気ではあったが、心配していることは伝わった。
さて、そんな俺が何をしているかと言うと、金鈴と展開し庭にある物置の前に立っている。
この一見ホームセンターに売っているような物置(実際ホームセンターで買った)だ。
実は、俺なりの魔改造を施してある。
それは、鍵を開ける際に二回鍵を回すと、別の空間に切り替わるのだ。
そして、この物置を開けられるのは管理者たる金鈴だけ。
ガチャ、ガチャ。
「開けたよ」
「ありがとう」
金鈴は鍵を開け、軽く錆び付き重くなった扉を開ける。
そこにあったのは雑に置かれた用具ではなく、地下へと続く階段。
まるで秘密基地のようだろう。
しかし、この先にあるものは秘密基地よりもすごいもの。
俺が物置の中に入ると金鈴が扉を閉めた。そして一瞬だけ暗闇に包まれると、センサーが働き、暗闇から一変して明るくなる。その明度は地下階段の奥まで見える程だ。
「いってらっしゃーい」
「行ってくる」
扉越しに聞こえてくる金鈴の声に返事をして俺は地下階段を下りる。そして辿り着いたのは閉ざされた扉。
ここは秋奈も知らない秘密の領域。神殿。
神殿とは、現人神の領地で、身近なもので例えると神社のようなものだ。ここでは現人神の力が最大限発揮できる。この中であれば失った腕の再生が通常の何倍もの速さで行える。そしてこの神殿こそが俺の異能《異能工房》でもある。
元々《異能工房》という異能は《呪力を物質に変換する空間》なのだ。発動には密室であることが条件で、自室で展開するのが当たり前だった。
……現人神になるまでは。
現人神になったことで神殿が出現。そして何故か《異能工房》が神殿と同化したことにより、《異能工房》で造られた物質や呪具が神殿に保管されることになった。おそらく能力の親和性が高かったせいだろうけど……。
勿論神殿以外でも《異能工房》は使える。ただし保管されるのは神殿で《異能工房》を使って呪具を召喚する際は神殿にある呪具が召喚されるシステムだ。
神殿と融合したこともあって《異能工房》の能力が強化され、神殿内部に限り《神格武装》を創れるようになったのだが……メリットだけではない。
元々《異能工房》は異空間だ。現人神になる以前は呪具を召喚する際、その異空間から召喚していたから盗まれる可能性は余程の空間支配系能力者でない限り可能性は無かった。
しかし、神殿と同化することによって造った物は神殿に保管される。神殿は基本的に誰でも入れるため、盗まれる可能性が出てきた。
創造神が造った数々の呪具や貴重な資源が眠っているこの神殿に盗みを働こうと考える輩が出てくるのは想像に難くない。
そこで考えたのは警備システム。先程の物置も簡単に神殿へ侵入できないようにするためのもの。金鈴しか開けられないのはそのためだ。
そして、この扉の先には更なる警備システムがある。
その扉を、腕がないので足で押し開く。
ズゴゴゴゴゴゴゴッ。
重い扉を開けると、中は一面真っ白な空間が広がっており、奥には更なる階段がある。
中に入ると、扉が勝手に閉じる。
「──ッ!」
鋭い殺気を感じ、防御態勢に入ろうとしたが腕がないのですることができない。
「二人とも、俺だ!」
咄嗟に声を上げ、目を閉じる。
すると待てども何も起きない。
目を開けると、そこには二人のメイドがいた。
「申し訳ありませんご主人様。処罰は如何様にでも」
深々と頭を下げた褐色長身のクラシカルメイドの名は地黒。黒のミディアム姫カットに金の瞳を持つ俺の式神だ。
「すすす、すみませんご主人様! 罰なら何でも受けますから許してください!」
そして今にも泣きだしそうな小柄で胸元が空いているミニスカメイドの名は天白。白のミディアム姫カットに銀の瞳を持つ。こちらも俺の式神。
この二人が、神殿を守る管理者である。
「いや罰は無いけど。二人は仕事を全うしているだけだしな」
連絡入れてなかった俺の責任だからなあ。
「まあとりあえず、それ片付けて」
侵入者を排除するために地黒は《融緋》、天白は《紫電》を使ったようだ。
というか殺意高すぎじゃないか? 俺の声に反応して止めてくれなかったら確実に斬られていたぞ。
「了解致しました」
「すぐに片付けますね!」
地黒と天白は《融緋》と《紫電》を、神殿の最奥にある《異能工房》に戻した。
二人の異能《双星の輝きは守護者となり、光は神秘へ変生する(クストステンプルム・ステルラフルゴル)》は俺の神殿内でしか発動できない異能だ。
その能力は、俺が使える異能や呪具を全て使用可能にし、さらには俺が契約している式神達の異能も使えるという、限定的だが破格の異能。しかもそれを使うために必要な能力値さえも自在に変動できる。
俺の呪具を使えていたのはそれが要因だ。
「って、ご主人様どうしたんですかその腕!」
俺の状態に気づいた天白が手を乱雑に動かし動揺している。
「ととと、とりあえず止血!? いやでも血は出てないし……」
「落ち着いて天白」
「は、はいっ! 落ち着きます!」
ビシッと背筋を伸ばしたけど、目がグルグル回っている。全然落ち着いてないな。
「地黒、天白を連れて三階に行くぞ」
「承知致しました」
今までマネキンのように不動を貫いてた地黒が天白の首根っこを掴んで引っ張っていく。
「行きますよ天白」
「わ、分かりましたから手を離して下さい」
そんなやり取りを見て少し微笑ましくなった俺は、二人の後をついて行く




