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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第三章 体育祭の規模じゃない気がする
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事後処理

一旦家に帰って見た目だけ取り繕い、そして式神達+秋奈に怒られた俺は、深夜の夜空が綺麗に見える道を歩いていた。



腕は見た目を両腕骨折に見せかける処置を施している。これで怪しまれることは少なくなるだろう。目立つけど。



そのリスクを背負ってまで俺がこうして深夜に一人きりで歩いている理由は、理事長に事のあらましを説明するためである。こんな時間になったのは、理事長の方で都合が付かなかったからだ。こちらとしても好都合ではあるが。こんなの見られたら大変だし。



電話で話を聞いたところ、学園側としては保護者説明会を開くことになったそうだ。そして今は夜通しその準備が進められている。この分だと明日の午後には出来そうな感じだと言っていた。



けれど情報を精査する必要があるため、事態を解決した当事者である俺からも事の顛末を聞かなければいけないらしい。



だからこうして満天の星々が輝く夜道を一人で歩いている。《三千世界》を使える余裕は残念ながらなかった。



当事者と言うことならば、式神達も連れてこなければいけない。



だが流石に式神達をこんな時間まで付き合わせたくないので、内緒で一人きりで行くことにした。言ったら絶対ついてくる。



そうして、静かな夜風を浴びながら歩くと学校の正門に到着。



そこには、雨宮さんが一人で立っていた。



「お待たせしました」



「お待ちしていました。どうぞ」



 雨宮さんの先導で敷地に入る。この時間に入ることはできないのだが、雨宮さんの秘書特権があれ

ば守衛室を素通りできる。



警備員さんに軽く会釈して敷地内を歩く。静寂の暗闇の中、舗装された道を歩く。普段とは違う学校の雰囲気に緊張しながらも、理事長室に到着した。



「どうぞ」



 雨宮さんが理事長室のドアを開ける。この腕じゃ開けられなかったから助かったな。



「ありがとうございます」



 お礼を言って中に入る。次いで雨宮さんも入る。



「……理事長、大変そうだな」



 そこには理事長室でパソコンと格闘している理事長の姿があった。恐らく保護者に対しての配布物

を作成しているのだろう。理事長は忙しいようで俺が入室したことに気づかずキーボードを打ってい

る。



 仕事の邪魔をするのは気が引けるが必要なことだしな。ここは勇気を持って話しかけよう。



「理事長、来たぜ」



「……ああ、鳴神君」



 パソコンの画面から目を離した理事長の表情には疲れが浮かんでいた。



 無理もない。あれほどの大事件の後始末をしているのだ。



「早速で悪いが仕事の話だ」



「そうね、お願いするわ」



 理事長に促され、前山との戦闘について語る。



 内容は出来るだけ要点を話し、分かりやすく伝える。



「──これで以上だ」



「そう、ありがとう。お疲れさま。十分に休んで」



「そうさせてもらうよ」



これで報告義務を果たした。後はもう帰るだけだ。



 ……なのだが、どうにも心配になってしまう。理事長なら大丈夫だと思うのだが。



「綾乃」



「! ……何かしら」



 一瞬驚いた様子になったが、すぐに元に戻った。



「困ったことがあれば相談してくれよ」



 式神達の気持ちを無視した俺が言えたことじゃないが、だからこそ言わなきゃいけない。綾乃なら

言われずとも分かっているだろうけどな。



それでも綾乃には俺や前山のように相談しないことで失敗して欲しくないし。



「それだけ、じゃあな」



「待って、鳴神君!」



「…………」



 喋らず、振り返り綾乃の目を見る。



「貴方の目から見て、私は教育者として間違ってたのかしら」



 真摯な視線を送る綾乃。あんなことがあったんだ。不安になるのも頷ける。



「間違ってないだろ」



 即答する。そんな不安は無意味だ。



「少なくとも教育方針はな。だからいじめられた側は感情に任せた報復じゃなく根本的解決を望んだ。だから大丈夫だよ。綾乃は間違ってない」



「でもいじめた側は……」



「あれは学校側よりも家庭側の教育問題だろ。社会問題にもなってるし、全責任が学校側にあるとは思えない」



 いつか見たニュースで《特権国民》とか言われてたしな。ああいう旧家名家の異能者一族は昔から各分野に影響力強いから分かるんだけど……本当の《特権国民》は俺のような現人神や未だ会ったことない即身仏だぞ。存在するのか知らんが。



それはともかく、教育とは学校、家庭、社会が一体となって行うもの。必ずしも学校が悪いという訳ではない。少なくとも、全責任を学校に押し付けるのはナンセンスだ。



「大丈夫だ。綾乃は間違ってない」



「……ありがとう。すっきりしたわ」



「それは何より。……あ、そうだ」



 立ち去る前に言い忘れていたことを思い出す。



「腕の完治に一週間かかりそうだから、その間仕事はできそうにない」



 腕が使えなくても何とかなるっちゃなるけど、念のため万全の状態にしておきたい。



「学校は来れるの?」



「無理そうだな。この腕じゃ鉛筆すら握れないし」



《絶対王制》や《金剛千手》で代役するという手もあるが、呪力消費半端じゃないし目立つ。学校生活で使うのは無理だな。



「そう、連絡は私の方からしておくわ」



「いや良いって。それぐらい自分でやる」



 綾乃には綾乃の仕事がある。その邪魔をする訳にはいかない。



「そう、分かったわ」



 すぐに引いた綾乃。今のはからかいだったのか? 余裕出てきたようで何よりだ。



「それじゃもう帰るな」



「ごめんなさい引き留めて」



「気にすんなって。じゃあな」



 雨宮さんが空けたドアを通って理事長室を後にする。



 そして少し廊下を歩く。



「用事は終わった?」



 暗がりから声がした。



「まあな。けど珍しいな、校内で話しかけてくるなんて」



 姿は見えないが声で誰か分かる。



 同じクラスの氷室綾。いや、その表現は正しくない。



 同じ十二神将の氷室綾、だ。



「人気が無いから。バレることはないでしょう?」



 普段の子どもっぽい口調は演技。こっちが本来の氷室だ。



「それで、どうしたんだ? 何か用か」



「異能者認定証明書の昇級試験の件よ」



「もうそんな時期だったか」



 異能者認定証明書とは異能庁が発行する資格で、検査を受け異能者と分かれば発行される証明書。それに記載されているのが異能者ランク。昇級試験とはそのランクにまつわるものだ。



毎年七月下旬に行われる認定試験に合格するとランクが上がり、異能者としての格が上がる。



それだけではなく、保障局で受けられる依頼はこのランクで制限されるため単純にできる依頼が増える他、Cランク以上はランクが公表されているために上位になると指名されやすくなる。依頼で生計を立てている異能者にとっては是が非でも合格したい試験だ。



 受験資格は証明書を所持していること。ランクD以上であれば依頼達成数も条件に入る。



 基本的に一段階ずつランクアップしていくが、ずば抜けた実力を持っていれば二段階ランクアップもできる。



「七月四日に誰を試験官として派遣するか会議あるから」



「了解」 



 忘れずに来いということか。



 異能者認定証明書システムは異能庁と保障局の合同運営なので、両者の関係者が試験官として立ち

会うことになっている。それをすっぽかしたら信用に関わる。



「……その連絡、電話じゃダメだったのか?」



「かけたけど出なかったから直接家に行ったのよ。そしたら学校に行ったって言うじゃない」



「ああ、追ってきた訳ね」



「そういうこと。感謝しなさい。……それと家の人、すごく怒ってたわよ」



 その言葉を最後に氷室の気配はなくなった。



 ……帰宅中に謝罪の言葉考えておかないとなー……。



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